第24話 魔王決戦

ゴゴゴゴゴゴゴ


モンスターの群れの彼方にひときわ邪悪なオーラを放つ存在が現れた。そして急にモンスターも強くなった。


「来たな」

エイダンは目視はできないものの、魔王の登場を感じ取った。


魔王のバフ効果でモンスターが強化されたからだ。


しかし魔王は近づいては来なかった。こちらの結界からははるかに遠い位置で止まった。


遠目にはまだその姿はよく見えない、しかし、魔王ストレスは確かに発揮され始めた。


魔王の方を見ているだけで焦りやいら立ちが増すのだ。まだ大きな被害は出ていないが、気分も徐々に悪くなっているように思う。それが物見の兵の感想だった。


「報告っ、東のモンスターの群れの奥に、魔王らしきもの発見」


その報を受けてラッセンソンはついに来たかと身構えた。ラッセンソンやタイボーのいる塔からは魔王の姿は見えない。


「ノイフェ、クラスア、来たわよ。準備をして」

ヌテリアは城壁の上からそう言うと魔法の詠唱を始めた。


「いつでもいいよ」とノイフェ

「私もよ」とクラスア


見た者を死に追いやる死の王。

決して死ない不死の王。

それらの魔王を同時に相手にしなくてはならない。勝ち目はあるのだろうか?



いつもよりも長めの詠唱を終えたヌテリアは、魔王が来た方向に腕を掲げた。


「ヘルファイア・ロード」


ゴオオオオオフウウウウウウ


モンスターの群れをかき分けて、一本の太い火の魔法が発射される。直径50mはある。そしてそれは途中にいるモンスターたちを焼き殺しながら魔王めがけて一直線に走った。


「いくわよ」

ヌテリアが城壁から跳んだ。


ノイフェとクラスアも大群が割れた道を通って走り出した。


まだ遠くに見える魔王にヌテリアの魔法が当たるかという時に不思議とその炎は消えた。


「これは…」

ヌテリアは何かに気づいたようだった。


三人はモンスターの群れの間を走った。


たまに襲い掛かってくるモンスターをノイフェとクラスアは難なく倒しながら魔王に向かって一直線だ。


「見えた。魔王だ。骸骨だよ」

とノイフェが言った時、魔王の方からレーザーが飛んできた。


死の王の無いはずの瞳から赤い光が放たれた。


魔王レーザーだ。


ギリギリのところでノイフェとクラスアは回避した。ヌテリアが走っている位置とはズレていたのでヌテリアは特に何もしなかった。


後方に飛んでいったレーザーは城に当たる直前にオーディースの張った結界に止められた。


ついにノイフェたちは魔王の前に立った。


魔王とノイフェたちをぐるりとモンスターたちが取り囲んだ。ノイフェたちが走って来た道はもう閉じてしまった。


「よくぞ来たな、人間。お前らが最精鋭という訳か。ならば城が落ちるのも時間の問題よのう?」

死の魔王は目を赤く光らせてそう言った。


黒いローブの死の魔王と馬に乗った不死の魔王は本物で間違いない。



魔王はわざと不安をあおることを言ってくる。そんな言葉で動揺するノイフェ達ではない。


魔王軍のモンスターたちは城を取り囲み攻撃を開始した。


魔王のバフ効果によって先ほどよりもモンスターは格段に強くなっている。


ノイフェは城の守りに着く者たちを信じた。クラスアもだ。


「あんたが魔王ね? この斧で斬り倒してやるわよ」

クラスアは二人の魔王を前にそう言って見せた。


続いてノイフェは無言で剣を構えた。


魔王に近づいたことで魔王ストレスもかなりのものになるはずだが、そこは、精神が強靭で、状態異常耐性の装備もばっちりな三人は何ともない。


「我は死の王」


「我は不死の王」


「「お前らを殺す者だ」」


二体の魔王の言葉を合図に戦いが始まった。


魔王クラスになると詠唱なんて必要なはずもなく、死の魔王は無言で闇の魔法弾を連発して来た。


ドムムーン ドムムーン  ドムムムーン


ノイフェとクラスアはこれを躱した。しかし連続で飛んでくる。魔法弾の数はかなり多い。回避一辺倒になっていたら魔王を倒すことはできない。


ヌテリアは魔法でバリアーを張ってこれを防いだ。


「ファイアー」


ヌテリアのバリアーの内側からヌテリアのファイアーが放たれた。


そこに斬りかかる不死の魔王。


ガチン


不死の魔王の剣をノイフェの光の剣が受け止めた。


ヌテリアが放った炎は、不死の魔王に避けられ死の魔王にあたる直前で消えた。


キュル



ガチン ガチン


ノイフェと不死の魔王の剣が激突する。


「どぉっせーい」


クラスアの斧が不死の魔王を襲う。不死の魔王はこれを避けてすぐさま次の攻撃に移る。


クラスアはこれを躱す。相手が魔王なら避けられても驚きはしない。すぐに次の行動に移る。


そこに飛んでくる闇の魔法弾


ドムムーン ドムムーン


クラスアはのけぞり回避からのバク転回避でこれを避けた。


「サンダー」


ヌテリアは不死の魔王に弱いサンダーを放った。


「ふん、無駄だ」


不死の魔王は無視してノイフェに襲いかかった。


ヌテリアが放ったサンダーは不死の魔王に当たる直前にはね返ってクラスアの方へ飛んだ。


「わっ」


「危ないじゃない。何これ?」

クラスアは戦いながらもまだしゃべる余裕があった。しかしそれは相手も同じこと。とても相手がすでに全力を出しているとは思えなかった。


「やっぱりね」

とヌテリア。


「何なの」

クラスアは聞いた。


ノイフェも戦いながら不思議そうな顔をしていた。


「こいつらに魔法は効かないわ」

ヌテリアは涼しい顔でそう言った。


「え?」

クラスアは驚いたようだ。


「そっちの死の魔王は、魔法を吸収しているわ。私が攻撃するほど魔力を吸収して強くなるわよ。こっちの不死の魔王は魔法を反射するのよ」


ノイフェは不死の魔王と戦いながらこの話を聞いた。

「どうするのヌテリア」


「魔法攻撃は使っちゃだめよ。そっちの斧のお嬢さんもね。おそらくあいつらが付けている指輪よ。壊すか外すかしてちょうだい。そうすれば魔法を使えるわ」

ヌテリアは冷静に分析して言った。しかしそれまではヌテリアは火力役には成れない。


わかったとノイフェとクラスアは答えた。


ドムムーン ドムムーン


また闇の魔法弾が飛んできた。


「はっ」

ヌテリアはバリアーをノイフェとクラスアに張った。


ビジューン ビジューン


闇の魔法弾はバリアに当たって消滅した。


「あの、黒い玉は私に任せていいわよ」

ヌテリアはがそう言ったのならそうに違いない。


ノイフェは死の魔王が放つ闇の魔法弾のことは回避しないことにした。


タタッ


「やっ」


ノイフェは死の魔王に斬りかかる。


ブワン


死の魔王は闇の結界を張ってノイフェの接近を阻んだ。


「下がれ小僧」


ドワッ


衝撃波でノイフェは吹っ飛ばされた。


「ぐわ」


ノイフェは空中で体を丸めて、手をついて着地した。


ズサー


クラスアは斧を振りかぶって不死の魔王に斬りかかった。


「やぁー-」


ガチン


不死の魔王は剣でこれを受け止めた。


「私の相手はお前か?」

不死の魔王はクラスアに聞いた。表情の無いはずの骸骨が笑ったような気がした。

そして不死の魔王の無い瞳の奥が青く光った。


魔王レーザー


不死の魔王は両目から青いレーザーを発射した。


クラスアはヌテリアの張ったバリアをあてにして攻撃を続けようとした。


「ダメよ!」


ヌテリアの慌てた声を聞いてクラスアはその身をかわした。その直後バリアは破れて魔王レーザーはクラスアの顔のすぐ横を通った。


「あっぶな」

クラスアは体勢を立て直した。


「むうん」

不死の魔王の剣が連続で来る。


ガチン ガチン ガチン


クラスアは斧で受けて反撃の機会を待つ。クラスアの目は魔王の隙を見つけようと必死に不死の魔王の動きを追う。


「やっ」 「はぁぁあー-」


今度はクラスアが上に横にと連続で斧を振る。


不死の魔王はその剣で斧の刃を止める。いなす、カウンター!


「おっと」

クラスアは不死の魔王のカウンターを身をかわして避けた。


そこに不死の魔王の口から怪光線が発射された。


ドウゥ ブベラッ


バリアを貫通してくるそれをクラスアは斧の側面を盾のようにして受けた。


「丈夫な斧だな。普通ならばそれで壊れている…それにしても愚かなる人間どもだ。魔王に勝てるつもりか」


ガチン ガチン


「もちろんよ」

クラスアに迷いはない。彼女の性格は魔王討伐向きなのかもしれない。


不死の魔王とクラスアの打ち合いは続いている。



ヌテリアは、少し離れたところから、ノイフェとクラスアのバリアが破られるたびに新しくバリアを張りなおしていた。



「はっ」

「ふっ」

ノイフェの方は死の魔王の攻撃を避ける防戦が続いていた。


死の魔王に近づこうにも闇の魔法弾、魔王レーザー、口から怪光線、そして、炎だの氷だの雷だのと様々な魔法がとんで来るのだ。


ヌテリアのバリアーを信じて相手の懐に飛び込む方法もあるのだが、さすが魔王。強力な魔法はヌテリアのバリアーでも2、3度しか持たない。そしてノイフェが飛び込もうとするたびに、一発でバリアーが割れる魔王レーザーや口から怪光線を放ってくるのだ。


「闇の鎌」


おどろおどろしい声で死の魔王がそう言うと、魔力でできた大きな鎌が空中に現れた。


ノイフェはその隙に死の魔王に飛びかかろうとした。


しかし、鎌がノイフェを阻む。この鎌は宙に浮いたままノイフェが近づくと斬りかかってきたのだ。


「チッ」


バリアを斬るその鎌をノイフェは空中で受け止め攻撃の力を受け流しながら着地した。



城の方はと言うと、迫りくるモンスターの数に押されながらも、扉政影、エイダン、ステンド、ジョバンが右に左にとアンデットの頭部を破壊していく。


城の城壁から放たれる。炎も敵を食い止める一因になっていた。

しかし、すでに矢はつき、弓兵隊は武器を槍や剣に持ち替えて、城壁を上がってくるスケルトンを落としていた。


アンデットは落下死などはしないが、城壁から落とすだけでも時間は稼げる。ラッセンソンやオーディースも魔法でモンスターを次々と倒していた。


「そりゃ、うぉりゃー」


エイダンの声がガチャガチャとうるさいスケルトンの音の中でもひときわ大きく聞こえている。


「はっ、せや」


ステンドも健在だ。


「ふっ、ハァッ、たりゃぁー」


扉政影も順調に西門前を守っている。



「むぬん…ハァ…ハァ」

ジョバンの方はまだ全快ではない。塞がりきっていない傷をかばいながら痛みをこらえて戦っている。

東側の門を守るジョバンは徐々に押され始めた。


「東門が…いえジョバン殿が危ういようだ。救援に行きます」

タイボーは全体を見渡せる塔にラッセンソンが残った方がいいという判断をした。


ラッセンソンはその意図を理解して、口では魔法の詠唱を続けながら、首で頷いた。



タイボーは走った。グラムドもそれに続いた。


「東門へ」

タイボーの言葉を聞いてグラムドは行き先だけは理解した。



「城の予備隊は僕に続いてっ」

タイボーは走りながら兵士たちに声をかけた。そして予備隊はタイボーに続いた。


「今から東の城門を開け跳ね橋を下ろします」


「なんですって」

横にいた兵士は驚いた。


「ジョバン殿を救出します」

タイボーは肩で息をしながらも作戦を説明した。


「門を開けジョバン殿の周りのモンスターを片づけます。その後門をくぐって場内へと避難します」


「そこで跳ね橋を上げて門を閉じるんですね」

と横の兵士は言った。


「違います。それでは、他の門へモンスターが流れて他を圧迫するでしょう。ですので跳ね橋も門もそのままにします。門を抜けた空間で皆で待ち構えて戦います」


「そんなことをすれば敵が大勢流れこんできますよ」

兵士は不安が爆発しそうだ。これも魔王ストレスの影響かもしれない。


「いえ、大勢は流れ込んでは来ません。門という狭い通路に敵が殺到するので敵同士が動きを阻んでほとんど動けなくなるでしょう。それが狙いです」


門をくぐるとそのまま狭い通路が5mほどつづく、タイバーはその狭い通路に敵のモンスターを詰まらせようと言うのだ。


「しかし」


「危険ですがやりますよ。さあ準備はいいですか? 門を開けてください」


ガラガラガラガラ


「跳ね橋もおろして」


ジャラジャラジャラジャラ


門を開ける音と、跳ね橋を下す鎖の音が闇夜に響き渡る。


「さぁ、槍隊、出て、ジョバン殿の援護にっ」


ドスン


跳ね橋が降りると同時に、援護の槍隊はジョバンに向かって行った。


「ジョバン殿、援護いたします。場内にお下がりください」


援護の兵士の槍がスケルトンの頭部を貫く。


ガチャン


ガス  ガス


「承知」


ジョバンはここで意地を張らず退却を決めた。ジョバンは参謀や軍師がどういうつもりで兵を動かしているのかを考えて行動できる人間なのだ。だからこそマッカサスが誇る3剣士にまで登りつめることができた。


ジョバンは敵のアンデット達をの頭部を破壊しながら徐々に後退した。援護の槍兵たちもジョバンに合わせて後退した。



タイボーはさすがに自らが城の外に出るという愚かを犯したりはしない。自分の実力をわかって足手まといになると判断したからだ。


タイボーは城にの残った方の予備隊に話しかけた。


「もうすぐジョバン殿が来ます。そうしたら周りを皆で取り囲み、入り口から入ってくるモンスターを倒してください」


「了解しましたー」

兵士たちは了解した。


「わかったぜー。敵を皆殺しにすりゃいいんだろーがよー」

わかったのかわかってないのかよくわかないグラムドの返事にタイボーは不安を覚えたが、根本的にはあっているので、あまり深くは考えないことにした。



ジョバンは門の入り口に到達すると槍隊と力を合わせて敵を倒しながらゆっくりと後退していった。


ジョバンたちは門を通って通路の出口にたどり着いた。敵のモンスターは開いた東口に殺到した。そしてタイボーの思惑どうり、狭い通路に大量のモンスターが来たことによって門の奥の通路は詰まってしまった。これではモンスターもわずかずつしか通路を抜けることができない。

ほとんど身動きが取れないモンスターをジョバンや兵士が倒していく。


「よっしゃー。行くぜぇー」

グラムドもスケルトンの頭部を攻撃しはじめた。


ラッセンソン、タイボー、オーディースの支援効果ももあって敵の頭蓋骨は普段よりは少しだけ簡単に壊せた。魔王2体分のバフ効果よりも三人のバフ効果の方が少し上回っているということだ。


「ふぅ、ひとまずここは安泰ですね。ですが油断はできません。私はここに残って戦況を見定めます」

タイボーは塔の上には戻らずその場にい続けることを選んだ。


他の3門の戦士たちは順調に敵を倒しているからだ。




ピシャー ゴウゥウウ


ブゥン ドムムーン


ズビー


死の王の魔法は次々と繰り出された。ノイフェはそれを身をくねらせ、跳ね飛び、地面を転がってよけて、光の剣でいなしながら躱していた。

そこに闇の鎌まで飛んでくるのだからノイフェからの攻撃は至難だった。


それでもノイフェは敵に攻撃をされ続けていく中で徐々にその攻撃にも慣れていった。


だんだん見えてきた。


死の魔王の雷の魔法。

ノイフェはそれを光の剣で斬ってはじいた。


前へ


死の魔王の炎の魔法。

ノイフェは水勢の太刀で斬って消した。


前へ


闇の魔法弾二発をヌテリアを信じてそのままバリアで受け止め


前へ


バリアを貫いてくる魔王レーザーを剣でいなした


前へ


闇の鎌がノイフェの首を狙う。それの下に潜り込んで。


前へ


ついにノイフェの剣が届くところにたどり着いた。


「ヤァアアー」


ノイフェは死の魔王の手首を切った。そのままもう一撃っ!


しかし


それはならず、魔王の衝撃波で吹き飛ばされてしまった。


「魔王レーザー」


「ぐあ」


ノイフェは魔王レーザーで肩を貫かれた。


死の魔王の手首が転がった。


「無駄なことを」


死の魔王の手首は浮き上がって死の魔王の方へ向かって行く。




ゴウゥウウウ


死の魔王が炎に包まれた。ヌテリアの炎の魔法だ。


グガァァー


「よくやったわ、ノイフェ」


魔王の手首が再び地面に落っこちた。


「ノイフェ、その手首を戻させちゃダメよ」

炎の魔法の威力を強めながらヌテリアが言った。



ノイフェは持っていたポーションを肩にかけると瓶をすてて、急いで落ちている手首を拾った。そして燃えている死の魔王に向かって行った。


「ヤァアアー」


「魔王レーザー」


「わっ」


魔王レーザーはノイフェの顔面に当たりそうだったところをノイフェはぎりぎりで躱した。


ノイフェが体勢を崩したところに闇の鎌が襲い掛かる。


ザクー


ノイフェは腕を刺された。


「ぐわっ」



「この程度」

死の魔王は闇の衝撃波で炎を振り払った。

「ほれ」


ノイフェの持っている手首は急に動き出してノイフェの首を握り締めた。


「ぐえ」


ノイフェは死の魔王の手首を引っぱるがビクともしない。


ヌテリアはすでにノイフェのバリアを張りなおしているが、そこに闇の魔法弾が連続して飛んできた。


ノイフェは首を絞められたままそれを躱す。一発がバリアに当たった。


ビシュィー


ノイフェは光の剣を自分の首の方に向けて魔王の手首を突き刺した。自分の首を刺さないように寸止めをやってのけた。


魔王の手首が地面に落ちる。ノイフェは指のところを剣で斬った。

跳ね上がった指輪をノイフェは空中でキャッチした。


「う」


腕に痛みが走る。危うく指輪を落としそうになった。


ノイフェはまた浮き上がって本体のところに戻ろうとする死の魔王の手首を地面に突きさした。


死の魔王の体と言えども、光の剣で斬れば浄化されて消滅する。死の魔王の手首もこれによって消滅した。


「小癪な」

死の魔王にもいら立ちはあるようだ



死の魔王から怒りの雷が放たれる。


ビシャー ビシャー


ノイフェはそれを躱しながらポーションを使った。肩の傷も腕の傷もやはり治りが悪い。魔王の闇の力のせいだ。



「魔王でも魔法使いなら、私が負けるわけにはいかないわね。強力な魔法でも倒せないのならもっと強力な魔法を使うしかないわね。ノイフェ、そいつを仕留める魔法を使うわ。時間を稼いでちょうだい」


「わかったよ」

うなずいてノイフェはヌテリア前に立った。


「黒き力の集束に、敵を討つ万重ばんじゅうの雷、天を割り赤くとどろけ!」

ヌテリアは両腕を上げて魔力を終結させる。


「ラシャード・エル・ライトニング」

ヌテリアの手から赤と黒の稲妻が放たれる。


「ふん、魔王レーザー」

死の魔王の無い瞳から赤いレーザーが発射される。


ドウゥウゥゥウ バチバチ


ヌテリアの魔法と魔王レーザーは撃ち合いになった。


「はぁぁぁあああ」

ヌテリアは魔力を強める。


徐々にヌテリアの魔法が押し込んでいく。


ドドドドドゥ




「隙ありっ」



「無いわっ」


ガチン


不死の魔王はヌテリアを狙って高速な剣を振った。しかしヌテリアは余裕で答える。

なぜならそこにクラスアが割り込んでくるとわかっていたからだ。


「やらせない」

クラスアは不死の魔王の剣を押し返した。


死の魔王もまだ終わらない。

口から怪光線を吐こうとし、闇の魔法弾をヌテリアにぶつけようとしている。


ブベラ


ブワン


「水勢の太刀」

ノイフェは見事に怪光線と闇の魔法弾を切り払った。そしてさらに死の魔王へと跳び込む。


「ハァァァーー」

ヌテリアの気迫の掛け声とともについに魔王レーザーをヌテリアの魔法が押し切る。


グォワーーー

死の魔王の断末魔が鳴り響いた。なんの備えもなければ人々は死の魔王の断末魔で命を落としただろう。


ノイフェの光の剣が闇の鎌を斬って、そしてその先にある死の魔王の頭部を割って破壊した。


ザクー


「やった」

ノイフェは確かな手ごたえを感じた。



「何だと?」

不死の魔王は死の魔王が負けることなど考えていなかった。人間たちの力に今さらながらに驚愕した。


そして一瞬の隙ができた。


「どぉぉおせっぇええい」


クラスアの斧は不死の魔王の頭部をめがけて降り下ろされた。


「しかしっ」

不死の魔王もさすがの強者である。その斧を剣で受け止める動作に入った。


クラスアの斧の全力攻撃だ。不死の王の剣ごと斬って不死の王を袈裟切りにした。


「グワーー」


袈裟切りになった不死の王の上半分は地面に落ちた。遅れて下半分も馬の上か地面へと落ちた。


「頭部を破壊しなきゃ」


クラスアは急いで、不死の魔王の頭部を斧で砕いた。





これで戦いは終わった。







のか?




死の魔王の死体と不死の魔王の死体がバラバラと崩れた骨になって宙に浮かぶ。


「フハハハハ、惜しかったな人間どもよ」

死の魔王の声だ。


「よもや、我らをここまで追いつめることができるとは思わななんだぞ」

不死の魔王の声だ。

「しかし、それでもなお」


「死なないからこその不死の王だ」

不死の魔王の破片が闇の馬の上に集まって行く。


「そして、死なないのは不死の王だけではない。死の王、我も死なず」

砕けた破片が集まって再び死の魔王の形をとろうとしたその時



「そんなことは最初から織り込み済みよ」

ヌテリアは自信満々に言った。

「闇を吸い込み封印せよ」

「ブラック・ホール」



「バカな、封印だと? 一体いつの間にこれほどの封印を準備したというのだ?」

不死の魔王は困惑した。


「城にいた時よ」

ヌテリアは親切にも答えを教えてあげた。


「バカな、バカな、バカなー---」

死の魔王は封印に再生した頭部だけで抵抗した。


しかしそれも無駄な抵抗であった。


ヌテリアは本を開くとそこに死の魔王と、不死の魔王を吸い込んで、そしてパタンとページを閉じて封印した。


古来より魔王というものはよく封印されるものである。今代もそれがなされた。


「これでおわりね」

とヌテリア。


その言葉を聞いてノイフェとクラスアはようやく力を抜いた。


「やったぁ」

とクラスアは嬉しそうに笑った。


「うん」

とノイフェは傷を痛そうにしながら笑った。


「これ、どうしよう」

クラスアは、不死の魔王が死んだ後に残った魔法を反射する指輪を拾って言った。


「一旦私が預かるわ。呪いがあるかどうか確かめるわよ。それでいいわね」

とヌテリア


「うん、わかった」

クラスアは素直に同意した。


「魔王級の呪いなんて、即死効果でもかかってるんじゃないかしらね?」

ヌテリアはいたずらっぽく言った。


「うわっ、指輪はめなくてよかった」

クラスアは危なかったという顔をした。


「あとは城の方だけね。ノイフェは怪我してるんだし休んでていいわよ。闇の傷が広がる前にあのプリーストに見てもらいなさい」

ヌテリアは本を帽子の中の異次元にしまうと、右手を腰に当ててそう言った。


「これくらい平気だよ」

ノイフェはそう答えた。


「そう、じゃあそれでもいいけど、戦いが終わったらちゃんと見てもらうのよ」

とヌテリア。


「わかったよ」

とノイフェが答えた。


「さぁ城の方に行くわよ」


三人は城に向かった。


魔王がいなくなって、バフを失ったモンスターたち。ラッセンソン、タイボー、オーディースのバフや、デバフ、支援効果でもはやスケルトンの頭部など、豆腐を割るのと同じくらい柔らかかった。


城の人間たちも、ノイフェたちも残ったモンスターたちを掃討した。雑魚がいくら集まろうとも物の数ではなかった。ヌテリアは疲れたと言って掃討には参加しなかった。


1時間もしないうちにすべてのモンスターを倒しきった。


そのころちょうど日の出が訪れた。


戦った者たちはそれぞれに歓喜の声をあげた。


「やったぜー」


「ついに魔王を倒したぞ」


「ヒャッハー」



ラッセンソンや、タイボーの全員の経験値増加こうかと、軍団指揮によるパーティー判定によって全員が大きくレべレアップした。


高レベルなクラスアやノイフェでさえ、3レベル以上上がった。低レベルの者など30レべル以上も上がった者もいた。グラムドなんかがそうだ。それだけ魔王の経験値が大きかったし、雑魚のモンスターの数も半端ではなかったということだ。



ノイフェたちは当然勇者として称えられた。クラスアも今日は大いに調子に乗っていた。


「私がこう、不死の魔王をズバーとやったのよ。ズバーッと」


ヌテリアも勇者と呼ばれそうになったが、

「止めてちょうだい、勇者なんてガラじゃないわ」

と言って、ヌテリアのことを勇者とは言わないように注意していた。


「マッカサスの全兵民を代表して、お礼を言わせていただけいます。本当にありがとう」

ラッセンソンは討伐隊の三人にお礼を言った。

3人は当然のことをしたまでと言った。



その日から3日ほどマッカサス城はお祭り騒ぎになった。


戦いが終わったが、戦いの後処理は山のように残っている。それもお祭り騒ぎの後に先送りされたが、こんなにめでたいことなど一生のうちにそうあることではない。誰しもが問題視はしなかった。


お祭り騒ぎが終わった次の日すでに魔王たちの処遇など決めているヌテリアはいたずらっぽく言った。

「さて、魔王たちの処遇を決めましょう」

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