第23話 マッカサス防衛戦

ついに魔王軍がやって来た。遠くに見えるスケルトンの白色が地面を覆う。スケルトンは死の王の配下であり、死の王ならば無限に作り出すことができる。そのうえ、死んだ人間たちは、アンデットとして死の王に操られてしまう。


つまり人間が死ぬほど死の王の軍は強くなるのだ。


スケルトンの他にもゾンビがいる。ゾンビと言っても人間のゾンビだけではない。半獣人やモンスターなんかも死体であれば皆、死の魔王に操られて動いている。


そして不死の魔王の配下の者も死の魔王の配下と同じようにスケルトンがほとんどを占める。他には魔物やゴーストなんかもいるのだ。


皆は城の塔から魔王軍を眺めるとそれぞれに気合を入れた。


「あれかぁ」

とエイダンは遠くに見える魔物の群れを見て言った。


「かなりの数だな」

とステンドは真面目な顔で言った。


「雑魚がどれだけいようと大した問題じゃないわ」

ヌテリアは魔物の群れのもっと先を見ている。


「そうだぁぁぁ、敵は皆殺しだー」

グラムドはひときわ大きな声で言った。


「皆殺しにされるのがこちらじゃないといいんですけどね」

とタイボーは不安げに言った。


クラスアは城の周りを大規模に沼地に変えて言った。

「これでよーし、これで結構時間は稼げるでしょう」


「魔王軍が城を攻めあぐねていれば、魔王たちも顔を出すでしょう」

ラッセンソンはその狙いがうまく当たってくれと思っていた。


「その時が勝負ね」

というクラスアに不安の色は無い。


「そして僕たちが魔王を倒すんだ」

そう言ったのはノイフェだった。


「それまでは俺たちが、城を守る」

と扉政影は士気高く言った。


「ああ、そうだ」

とオーディース

「城の少し外まで結界を張る。結界の中なら敵は弱くなるし、飛んでくる敵の魔法も防げるはずだ。人間なら自由に結界を出入りできる」


「それではみな配置についてください」

ラッセンソンは皆に促した。


おう、と皆が塔を降りそれぞれの配置に向かった。


「あなた達、魔王が来たら合図を送るからそれまでは城の防衛でもやってるといいわ」

ヌテリアはノイフェとクラスアにそう言った



正門前、扉政影、ノイフェ、クラスア

北門前、エイダン

南門前、ステンド

東門前、ジョバン


兵士たちも城の城壁の上にヌテリアと弓隊、魔法隊と歩兵部隊もいくらか展開した。


ラッセンソン、タイボー、グラムド、オーディースは周りを見渡せる一番高いこの塔に待機した。


「射程内に入ったら魔法隊はこちらから先制攻撃です。魔王軍はゆっくりと迫ってきます、よく狙えば当たります。弓隊の攻撃開始の際はモンスターの頭部を狙うように」


ラッセンソンは城壁の部隊にそう言った。


魔王軍はアンデットが多い、移動速度が遅いことはこちらにとって有利ではあるが、いくら倒しても無限にわいてくるアンデットたちというのは、魔王を倒して終わらせなければやがて人間側が力尽きて敗北してしまうだろう。


魔王軍の一人一人のアンデットの姿が何とか視認できる距離まで来た時オーディースは結界を張った。


「結界展開。全体強化、全体速度アップ、全体呪い耐性アップ」

オーディースが天に掲げた杖の先から光が広がり、城を少し広めに周囲を囲んだ。


皆に緊張感が走る。


魔王軍も300m付近まで迫って来た。魔王軍が迫ってくる西側はまるで大地を埋め尽くすがごとしだ。


皆は軍師ラッセンソンと参謀のタイボーとプリーストのオーディースからのバフ効果でかなりパワーアップしている。一般の兵士でさえ侮れない強さになっているはずだ。


「魔法隊攻撃よーい」

ラッセンソンからの合図だ。左手の軍配を上げている。



ヌテリアは手を魔王軍の方へとかざした。他の魔法使い隊たちも、杖を魔王軍のモンスターたちに向けた。


「放てっ」

ラッセンソンの軍配が降り下ろされた。


「はぁっー-!!」

城の魔法使いたちは一斉に炎の魔法を放った。中には光の魔法も混じっている。


「いくわよ! ヘルファイア・ロード」


ゴウゥウウ


ヌテリアの掌から放たれた炎は、空を飛んで接近してきた魔人と思しきものに命中した。



魔人は悲鳴をあげるまもなく消滅した。


「やったわ」


言葉とは裏腹にヌテリアは特に喜んだ顔はしていなかった。


「次々来るわよ」



ガチャガチャガチャ


地面を歩くスケルトンもモンスターたちも波となって訪れた。


「弓隊、放てぇっ!」


シュバババババ


矢の雨がモンスターたちに降りかかる。


トス トス トス


魔法の雨、矢の雨にモンスターも倒れていく。


各門の守護者達は剣を抜いた。そしてやってくるモンスターを鋭く見据えていた。


西門前の敵と一番近い、ノイフェ、クラスア、扉政影もまだ動かない。結界にモンスターが近づくのを待っているからだ。


ヌテリアは、最初の一撃のあとは、攻撃をやめて何かを探しているようだった。

見つからないとわかるや、城壁の上に大きめの魔法陣を光る魔法でかきはじめた。


城壁からの魔法や矢の雨をかいくぐって、モンスターたちはついに結界の手前までやって来た。


扉政影の刀を握る手に力が入る。


「いざ」


最初のスケルトンは結界に入るか入らないかというところで扉政影に頭を切り崩された。


そして素早く5体のスケルトンを斬り倒した。


「我は扉政影なり、この門を通りたければこの俺を倒してみろっ!」


ノイフェとクラスアも動き出す。


「いくわよー、アースクラッシュ」


ドスン


クラスアの斧がスケルトンへと命中して、その下の地面から円形に地面から尖った岩が隆起する。そのすべてがスケルトンの頭部をとらえて、クラスアの一撃で23のスケルトンを倒した。


「アースクラッシュ、アースクラッシュ」


クラスアは一番効率のいい広範囲攻撃を連発した。まるでやってくるモンスターの群れを掘り進むがごとくクラスアは敵を倒した。



「はっ」「やっ」

迫りくるスケルトンやモンスターの攻撃をよけながら、いや避けるまでもなくノイフェの剣が速い。剣を降り下ろすスケルトンを見てからノイフェはスケルトンを斬り飛ばせる。


ノイフェもまた次々とモンスターを倒していった。



城壁からは炎と矢の雨、門の前は三人の戦士がどんどんモンスターを倒していく。



「おいおい、あの三人だけで終わるんじゃないのか?」


まだ敵が来ていない北門前から見ていたエイダンは独り言を漏らした。


ノイフェ、扉政影、クラスアの前に立ちはだかる者は次々と斬り倒されていった。



「ノイフェ、あまり結界から離れてはだめよ」

ヌテリアは城壁からノイフェに言った。


結界を離れてモンスターたちの奥地深くへ進んでいたノイフェは一度結界のところへと戻った。


それを見て扉政影と、クラスアも結界まで戻った。


「結界なんてなくったって、こんな雑魚相手じゃ負けないわ」

クラスアはそう言うと、ヌテリアが城壁の上から言った。


「当り前よ。この程度の雑魚がいくら来ようと遅れをとるようじゃ、魔王となんて戦えないわ。魔王と戦う前に魔王ストレスを受けて疲弊しないようにと言っているのよ」


「わかったー」

クラスアは目の前のリザードマンのゾンビを斬り倒したながら。大きな声で答えた。


ヌテリアはまた魔法陣をかく作業に戻った。




やがて大勢のモンスターは城を包囲するように動き出した。


城をぐるりと取り囲むと、モンスターたちはその包囲を狭めていった。西側以外はオーディースの張った結界の手前までモンスターであふれている。


北側のエイダン、南側のステンド、東側のジョバンも剣を抜いて戦闘を開始した。



「どぉりゃー」


「はぁああー」


「せいっ」


動きの遅いスケルトンに混じって、何体か素早いやつが混じっている。


戦士たちは遅れをとることなくその素早いやつらにも対応していた。



やはり雑魚がいくら来ようとも歴戦の勇士たちには全く問題がなかった。


マッカサス城が包囲されて15時間がたった。時折飛んでくるゴーストもオーディースの結界に引っかかっては、聖なる攻撃で浄化されていた。


バフ効果や支援効果のおかげで人間側に疲労は見えない。とっくに日は暮れて、闇の中にうごめくモンスターも遠くまではよく見えない。


そんな中、魔王軍の幹部が現れた。

モンスターの群れは道をあけ、その間を悠々と歩いてくるやつらが4体。

魔王軍の幹部が知能の無いアンデットを操っているのだろうか。そうでなければ、もう一つの意味を持つ、魔王がアンデットを操っているということになる。



「やるじゃないか人間ども」

全身黒い服を着た、魔族は言った。

「私は不死の魔王様の眷属にして、不死の魔王軍の幹部、バレスターだ」


黒い服のバレスターと他の3体の魔族が城に近づくと、モンスターの群れの中にできた通路は再びモンスターによって閉じられた。


「正直人間を侮っていたな」

隣のほとんど裸の紫色の皮膚をした魔族がそう言った。角も生えている。

「私は魔人エンドヨゥ」

紫色の皮膚で剣を持っている魔人エンドヨゥは首をぐるりと回してノイフェたちを見回した。



ノイフェとクラスアは今にも斬りかかりそうな雰囲気をかもし出した。



「そう焦るな人間。どうせ死ぬのだ。少しでも生き長らえたかろう?」

茶色のローブを被った緑色の魔族はそう言った。

「わしは死の魔王様の眷属にして幹部のベチェクバ。さてお前ら人間をどうやって殺してやろうか?」


ベチェクバの後ろの闇の中から1、2歩歩み出て次の魔族が喋り出した。


この間も城の南北と東では戦闘が続いていた。


「どう殺したって同じことだ。お前らはすぐに人間で遊びたがる。悪い癖だぞ、ベチェクバ」

そう言ったのは、全身真っ白な毛におおわれた魔族だった。角も生えている。

「俺の名はフーニ、。俺も魔人だ。今からお前らには死んでもらう。この城は10人にも満たない人間が活躍しているのだろう? 3~4人も殺せば、一気に崩れ落ちるさ」


何と魔人と魔王軍の幹部が2体ずつ、計4体も一度に現れたのだ。どいつも耳がとんがっている。そして、魔王ストレスが始まった。どうやら魔王も遠くの方に来たらしい。つまり、魔王軍もそしてこの4体も魔王バフの影響を受けるということだ。


「最初に来たラケッテの姿が見当たらんな」

と茶色に緑のベチェクバ


「どうせあいつは死んだのだろう。あいつは魔王軍幹部の中でも最弱だからな」

と黒い服のバレスターは言った。


「魔王様のバフもなかったしな」

と紫のエンドヨゥ


呑気に話している魔人と幹部をよそに、ノイフェとクラスアは襲い掛かった。


「ヤァァー」 「ハァァー」


ノイフェとクラスアの攻撃は避けられてしまった。


「まったく、せっかちなやつらじゃい」

とベチェクバは魔法を放つために力をためた。


「うぉおおお」

黒バレスターがその腕でノイフェにラリアットをかました。


ノイフェはこれを剣で受ける。



城壁の上からエンドヨゥたちにも攻撃が開始された。

ゴウ ゴウ


シュバババ


魔人たちは難なくその攻撃を避ける。


ベチェクバは闇の弾を放ってクラスアを攻撃した。


「う」


クラスアは斧の側面でそれを受け止めた。かなり強い攻撃だ。クラスアは地面に足をつけたまま、3mはノックバックしてしまった。



「いやぁぁああー」


扉政影はフーニに襲いかかった。


フーニは腕でそれを受け止める。なんて硬さだ。皮膚を切れないなんて。



ノイフェたちは一旦距離を取った。


「こいつら、強いよ」

ノイフェが言った。


「わかってるわ」

とクラスア


「一筋縄ではいかないようだな」

と扉政影は再び剣を構えて言った。



「まずはこいつらからだな」

と黒い服のバレスターは三人を眺めながら言った。


「どいつをやる?」

と言ったのは紫のエンドヨゥだった。


「小僧だ」

とバレスターは答えた。


「鎧武者は俺がやる」

とフーニは刃を受け止めた腕を反対の手で押さえながら言った。


「それじゃあ、俺は斧の女だ」

とエンドヨゥは言った。


「それではわしの獲物が無い。まぁいいだろう。わしが城の人間を殺してやる」

とベチェクバ


3体の魔物はそれぞれの獲物の前に立った。


ノイフェたち三人も改めて構えた。


ベチェクバは城壁に闇の魔法弾を撃ち込むために力を溜め始めた。


フォォオオオン




ノイフェはバレスターを見据えた。バレスターは話し始めた。


「私はヴァンパイアでね。そこいらのアンデットとは違うぞ。お前には俺をたおせるかな?」


バレスターは気持ちの悪い笑みを浮かべてノイフェに襲いかかった。


「切り刻んでやる」



バレスター両手に魔力の玉を発生させてノイフェの顔面へ攻撃。


避けるノイフェ、右へ左へ。そして光の剣で反撃。バレスターは胸元に横から斬りかかるノイフェの剣をのけ反って躱した。


ノイフェの剣がバレスターを追う。今度はバレスターが避ける右へ左へ。


横ではクラスアと扉政影もそれぞれの相手と戦っている。


バレスターは距離を取って口から怪光線を放った。


ヴォエラッ


ノイフェはそれを剣でいなした。


「この剣なら受けれる」

ノイフェは光の剣のすごさに気づいた。


「おかしな剣を持っているな。ピカピカ光って目障りだ。その剣を先に壊してやる」

バレスターは次々と怪光線を放つ。


ヴォエラッ ヴォエラッ


ノイフェは間合いを詰めながら剣でいなす、はじく。そして


「水勢の太刀」


ノイフェは怪光線を切ってかき消した。


「なんだと!?」


驚いたバレスターに一瞬の隙ができた。ノイフェはそれを見逃さない。


バレスターの方へと全力で跳び、バレスターの懐への入った。


ノイフェの剣が横から切り上げるように、バレスターの胴体を切り裂く。そして返す剣で首を切った。


グギャーーー


ノイフェはバレスターに勝った。そしてレベルが上がった。




クラスアの方はというと紫のエンドヨゥと斧と剣をぶつけ合い激しい。打ち合いが繰り広げていた。


ガチン


ガチン


ガチ ガチン


「うりゃー」 「そりゃー」 「どりゃー」


次々と斧を振るクラスア。エンドヨゥも負けじと剣を振る。


「ふっ」 「でやっ」 「ギャシャー」


ガチン ガチン ガチン


クラスアの振った斧をエンドヨゥがよけた。すかさずエンドヨゥの突き。クラスアは身をひねってそれを躱す。クラスアの斧が横からエンドヨゥの胴体を狙う。

エンドヨゥは剣で受けながら体を回転させて斧の刃から身を引いた。


クラスアは追撃の斧を縦に振る。エンドヨゥはそれを見切って反撃に転じる。


ガチン


再び二人の武器の刃がぶつかりあう。


「うぉお、りゃあああああー」


クラスアはぶつかった刃をそのまま押し込んでエンドヨゥの剣の刃ごとエンドヨゥの胴体を切った。


「グギャーーー」


エンドヨゥは油断していた。胴体など切られてもアンデットには致命傷にならないと思っていたのだ。しかし、クラスアにはヌテリアから借りた腕輪があった。聖なる属性の攻撃ならアンデットの胴体を切ってもダメージを与えられるのだ。


ついでに縦に振りぬいて、頭部を破壊した。


クラスアはエンドヨゥを倒した。クラスアはレベルが上がった。



扉政影とフーニの戦いは扉政影が一方的に攻めているように見えた。


ガチン


ガチン



扉政影が振るう刀はフーニの体を斬ることができないでいた。


「くそっ」


ガチン ガチン


「ほらほら、どうした。俺の体を切ってみろよ」


フーニは余裕の表情で扉政影に近づいていた。聖属性の攻撃ができれば、魔族にはダメージを与えることもできただろう。


フーニの鋭いパンチが扉政影を襲う。


扉政影は首を倒してパンチを躱す。すかさず、一太刀、二太刀攻撃をするが。


ガチンという音とともに分厚い体毛と皮膚に阻まれて、まるで効いていない。


フーニのパンチ、チョップ、キックと連続攻撃が続く。


扉政影は、首を躱し、体を躱し、剣で受け止め耐えしのぐ。


「くっ せやっ」


扉政影は反撃に転じて斬りかかる。


ガチン


扉政影はゲート力を使って5本の矢を召喚した。


カキン カキン


フーニの体を貫くことはできなかった。


「なんだぁ? こんなものか?」


ドムン


フーニのパンチが扉政影の腹に当たった。


ゴフッ


扉政影は口から血を吐いた。


フーニの左右の拳が次々と扉政影を襲う。


ドカ ドカ ドカ


扉政影はダメージを受けながら防戦一方になってしまった。


「うぐ」


扉政影が剣を振るうがむなしく空を切る。


「ほら行くぜ―、そらそらそら」


ドカ ドカ ドカ


扉政影は何とか攻撃を食らったり受け流したりしながら耐えている。

しかし扉政影のダメージは大きい。

それでも扉政影の目は闘志を捨ててはいない。


フーニは扉政影をいたぶって遊んでいる。


「オラッ! これで死ねっ」


フーニが扉政影にとどめを刺そうとした瞬間、扉政影はゲートをを開いて虹の風呂敷でフーニの胴体と腕を縛った。


「はぁぁぁあーっ!!」


ゲート力をまとった刀でフーニの首を斬り飛ばしたっ!!刀にゲート力を纏わせることで、斬った部分だけをゲートを通して異世界に送り込むことができる。切れないはずのものを斬る扉政影の必殺技だ。


扉政影はフーニを倒した。レベルが上がった。

そして片膝をついて倒れそうなところをポーションを使って何とかこらえることができた。




少し前、茶色のローブに緑色のべチェクバの方はというと闇の魔法弾を作っては城壁に向かって投げ続けていた。


フォォオオオン


ドムーン


フォォオオオン


ドムーン ドムーン



「クソッ、なんて威力だ」

魔法力を追加して結界を維持しているオーディースは必死だった。

「結界が破られちまう」


オーディースが怪我をした扉政影をヒールできなかったのは必死に城の結界に魔力を注ぎ込んでいたからだ。



フォォオオオン


ドムーン


フォォオオオン


ドムーン 


「いつまでもつか、見ものじゃな」


べチェクバは余裕の表情で次々と闇の魔法弾を飛ばし続けている。


ピシ


結界にヒビが入った。


ピシピシ


「ほれ、もうすぐ終わりじゃ」


パリーン


結界が割れた。


「結界展開」

オーディースはすぐさま結界を張りなおした。しかし防衛に手いっぱいで攻撃にまでは手が回らない。


「なんて威力なんだ。これが魔王軍の幹部の力か」


城で戦っている兵士たちも必死に炎の魔法や矢を放つが魔王軍の幹部相手では意味をなさない。


ベチェクバの薄い魔法障壁一枚を破ることができず、ただただ、障壁に当たるだけである。



「敵を焼き払え、炎よ」


ゴウ!


ボワン


塔の上から状況を見渡しているラッセンソンの炎の魔法もベチェクバの魔法障壁を破るには至らない。


ベチェクバはかなり高位の魔法使いのようだ。


「そら、そら、はぁぁぁぁー」


ドムーン ドムーン ドムムーン


連続してベチェクバの魔法が結界に当たる。


ピシ


もう結界にヒビが入り始めた。


「くっ」

オーディースは結界が破られた時のために次の結界を張る準備をしている。

しかし、このままでは防戦一方だ。


誰かやつに攻撃を、ダメージを与えらえるやつはいないのか?



「まったく、うるさいわね」

ヌテリアだ。


「魔王を倒すために準備をしていたのに、何度も結界を割ろうとするバカは誰なのかしら?」


ヌテリアは城壁から外の様子を確かめると、すぐに当てを付けた。下でノイフェたちが戦っている横で、一人余っているやつが城をめがけて攻撃していた。


「あいつね」


「邪魔よ」


ヌテリアはベチェクバに向けて伸ばした手から強力な炎の魔法を放った。

しかしベチェクバば魔法障壁を強化して耐えている。


「消えなさい!!」

ヌテリアは魔力を強化して一気にベチェクバを焼き払った。


ベチェクバは灰になって消え落ちた。




「やった」

城壁の兵たちから歓声が上がった。


「喜ぶにはまだ早いわよ」


下での戦いもちょうど三人が終わったころだった。



ゴゴゴゴゴゴゴ


ついにやつらが来た。


ヌテリアは遠くに見えるそれを見据えて、落ち着いた口調で言った。




「ノイフェ、来るわよ…魔王よ」




ついに魔王の登場である。












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