第21話 スディーとポイホイサン

マッカサス王国の西側にある魔王軍の占領地域は、遂次冒険者の投入によって人間側の占領地へと変わっていた。


人類側の奪還地には魔物よけの結界が張られ魔物は近づけない。もうすぐ奪還地はマッカサス王国の西側の国だった、元フェナッテン国の首都、フェナッテン城跡地に到達することができそうなところまで迫っていた。


しかし、一つだけ懸念があった。先日ヌテリアや、スディーたちが魔王軍の幹部を倒して以来、魔人や幹部に出会ってはいないのだ。


人間側としては、少しずづ戦力を削って、やがて魔王と対峙したいのだが、魔人や幹部が多く残ったまま魔王との最終決戦を行うことになれば、想像以上に苦労をするだろう。


だからこそ今のうちに、魔人や幹部を削っておきたいのだが、めぐり合わせはそううまくいかない。


もっとも、うっかり魔人や幹部に出会っても必ず勝てるとは限らないのだから、冒険者も、エルエが調べた情報をもとに、強敵がいないところを積極的に狙っていたという事情もある。



今日は、フェナッテン城攻略と銘打って、冒険者や戦士たちが集められた。


ドラゴンライダースディー、対魔王軍の反攻作戦に積極的に参加。実力は確かで、魔人か幹部でも出てこなければ、モンスターをほとんど一人で倒している強者つわもの


ジョバン、エイダンやステンドと並ぶマッカサス王国の三剣士の一人。高身長筋肉質の体を青い鎧に包みこれも凄腕の剣士


ポイホイサン、ピガリアの王子。ピガリアの王室工院という鍛冶屋の商品を、自らが使って宣伝している。


エルエ、人類友好プログラムのAI、魔王や魔人、幹部の情報を解析してその位置を把握することに成功した。魔王軍関係の調査では妹のイロロンと交代で参加している。



「やあ、諸君、今日はフェナッテン奪還のために強者が集まったと聞いたが違いないか?」

スディーは元気よく他のメンバーに聞いた。


「そうだとも、強者と言えばこの勇者ポイホイサンを除いて他にはいまい」

ポイホイサンはいつもこんな調子なのだろか?

「今日はこのポイホイサンが参加するからには、フェナッテン城奪還は確実なものとなろう」


「にぎやかなやつだな。俺はジョバン。はじめて顔を見るやつもいるだろう。よろしく頼む」

ジョバンはポイホイサンを見て片目をを細めて苦笑しながら挨拶をした。


「私はエルエと申します。魔王軍の調査や解析を担当しています」

エルエは今日もお使い型マスコットデバイスに入っている。


エルエを初めて見たジョバンは不思議なものを見たという顔をしていた。


4人はネオ人材派遣会社田中マックスで人材が揃うのを待っていた。




そしてそこへ5人目がやって来た。


バニーガールの格好をした鍛冶屋ハーミンだ。


ハーミンは部屋に入るなり、これはしまったという顔をした。


「あなたがいるなんて聞いてないわよ」

ハーミンはポイホイサンに言った。


「こちらも、そなたがいるとは聞いていない」

ポイホイサンもハーミンには会いたくないという顔で答えた。


「お知り合いですか?」

エルエは浮遊して二人の間に入って聞いた。


「知ってはいるわね」

とハーミン。


「そうだな。商売敵しょうばいがたきというやつだ」

ポイホイサンは立ち上がってハーミンをまっすぐ見据えて言った。


「よくそんなダサい恰好で町を歩けるわね。装備品の性能もたかが知れているわ」

ハーミンはポイホイサンを見下げて言った。いかにも王族然とした格好をしているポイホイサンは控えめに言ってダサい。


「装備品と衣装のセンスは関係がないだろう。それにこれは我がピガリア王国の王位継承者としての正当な衣装だぞ。装備品は世界一の性能を誇る王室工院の物だぞ。たかが知れているとは、侮辱が過ぎるな。それにそちらこそ、そんな恰好で町を歩いている狂人だろう」

ポイホイサンは辛辣しんらつな意見を述べた。


「関係大ありよ、装備品はおしゃれじゃないとだめなの。好きな格好をして冒険してこそ冒険者なのよ」

ハーミンは持論を展開した。


「性能がすべてだ」

とポイホイサンは反論した。


「性能があってのおしゃれよ。性能もうちのは天下一よ」

ハーミンは絶対に譲らない。


「それは、我が王室工院に対する挑戦か?」

ポイホイサンは少しいらだって話始めた。



「挑戦なんて必要ないわよ。うちのが一番だもの」


「いいや、我が王室工院の物だ」


二人は一歩も引かない。


「そこまで言うならどちらの武具が優れているのか勝負だ」

ポイホイサンはハーミンに勝負を挑んだ。


「いいわよ。勝負の方法が決まったら教えて頂戴。日程を調整するわ」

ハーミンは余裕だ。


「いいだろう」


「それじゃ、私は今日は帰らせてもらうわ」

ハーミンはドアに向かって歩きはじめた。


「おいおい、お嬢さん帰るのかい?」

ジョバンはあきれ顔でハーミンに聞いた。


「そうよ。そこのと一緒に仕事はできないわ。事情は今聞いた通りよ」


「そう言うことだ」

とポイホイサン。


「それじゃ。他の人は機会があればまたあいましょう」

ハーミンはポイホイサン以外に別れの挨拶をしてドアを出た。

この後ハーミンはどうやらミーユに違約金を支払ったようだった。


「人手が減るということは戦力の低下につながるのだがな」

スディーは困ったなという顔をした。


「なに心配するな。この私がいるからには、あの女の働きの倍、いや3倍は活躍して見せるぞ。それならば問題あるまい」

ポイホイサンは仰々しく言った。


「今日はフェナッテン攻略と銘打っていますが、フェナッテンにもその周囲にも強力な魔族の反応はありませんから、通常のモンスターを倒すだけになりそうです。そこまで大きな戦力は必要無いかもしれません」

とエルエは言った。


「まぁ、そう言うことだな、手練れの戦士がこれだけいるのだ、これで不足ということはあるまい。強敵が出てこないならなおさらだ」

ジョバンは先日のエイダンが死にかけた戦いを見ていなかったので、敵の幹部や魔人が出てこなければ戦力は十分だと判断していた。


スディーは油断はしないにこしたことは無いのだがなと内心思ったが、確かにエルエの言う通り、幹部か魔人か、もしくは魔王でも出てこない限りは、正直に言ってスディー一人でも事足りるのだ。


「まぁいい、時間も惜しい、このメンバーで行こう。異論のあるものはいるか?」


「我に異論はない」

ポイホイサンは雄々しく言った。


「ないぜ」

とジョバン。


「ございません」

とエルエも答えた。



4人は転移門の部屋にくると今日の転移門の当番は扉政影だった。顔見知りの人間はやぁと挨拶をして転移門をくぐってマッカサスを中継し、そこから西の旧フェナッテンへと向かった。



フェナッテンの手前までは順調にやって来た。たまに現れるモンスターもほとんどスディーとその相棒ブラックストームの活躍で難なく倒した。


ヌテリアがいた前回とは違い、スディーは一人でブラックストームに乗って空を飛び、ジョバンとポイホイサンは自分で地面を走ってスディーを追いかてきた。エルエは飛行はできるモノのそれほど速度がでないので、スディーの肩につかまっての移動になった。


「フェナッテン城、手前にモンスターの反応があります」

エルエは他にもモンスターがいないか左右を見て確認してから言った。


「わかった…近くにモンスターがいるらしい!」

スディーはエルエに返事をした後、下を走っているポイホイサンとジョバンにも大きな声で伝えた。


「承知した」  「了解だ」


ポイホイサンと、ジョバンからの返事があった。


「いたぞ、ファルガンティオだ」


ファルガンティオは鋭い爪をもち尾ひれの無いクジラのような体に巨大な犬の足がついたモンスターだ。


黒い嵐の竜ブラックストームドラゴンを空中で旋回させ、スディーはファルガンティオを正面に捉えた。


ブラックストームを加速させ、ファルガンティオに向かって突進した。


ブラックストームとスディーが攻撃を仕掛ける前に、ポイホイサンが、飛ぶ斬撃を放ち、ジョバンがフォルガンティオの足に斬りかかった。


「はっ」  「うぉりゃー」



ザク ドス


フェシャーー


フォルガンティオは悲鳴とともに体制を崩した。そこにスディーの刺突の槍の連続突きが刺さる


ドス ドス ドス ドス


フェシャーーー  フェシャー


怒り狂ったフォルガンティオは口から溶解液を吐いた。


ブベラッ ブベッ ブベッ


ブラックストームをあやつりロールをしながら地上スレスレを飛んで溶解液を回避した。


「ふん」

スディーは逆さまになりながらも、そんな遅い溶解液には当たるはずがないといった顔だ。


溶解液は地面に落ちて地面を溶かす。地面にはあっという間に1mほどのくぼみができた。


シュゴー


ブラックストームがフォルガンティオの横を通りすぎる


ブラックストームを顔で追って、そのまま向きを変えたフォルガンティオの死角になるいちからジョバンが斬りかかる。


「うおぉー-」


ザク―


横腹を見事に切り裂いた。


そしてポイホイサンはモンスターの正面から魔法の剣を使って一刀両断にしてみせた。


「はぁあああ」


グシャアアーー



フェシャーーー


フォルガンティオは断末魔を上げて死んだ。


スディーのブラックストームが旋回して戻ってくる。


スディーは念のためフォルガンティオの頭部をもう一突きした。


ドス


モンスターはすでに動かない。


「楽勝だったな」

とジョバン。


「うまく連携が取れたおかげだ」

とスディー


「このシャギート十三世・ウインドがあればこの程度のモンスターなどいくらでも斬り刻んでくれよう」

ポイホイサンは自らの剣を掲げて賞賛を待った。


「ああ、確かに名剣のようだな。私も一本欲しいくらいだ」

スディーはお世辞交じりにそう言ったがポイホイサンは本気ととたえらようだ。


「では、今度我が王室工院に来てくれ、そなた用の剣をこしらえようぞ」



「ああ、そうさせてもらう」



「皆様お疲れ様です。フェナッテン城はもうすぐです。まいりましょう」

エルエはスディーの肩から離れて皆を促した。


「そうだな。しかしお疲れ様というにはまだ早いぞ」

どジョバン


「そうですね。訂正いたします」

エルエはそう言うと丁寧にお辞儀をした。



4人はフェナッテン城の正門から場内へと入った。もはや門は焼け落ち開ける必要すらない。スディーはブラックストームを門の外で待たせた。


あちこち焼け焦げ崩れ落ちている。人の姿はない。魔物は人間を食べるので人間の死体も持って行ったのだろう。


「ひどい有様だな」

とジョバンは顔をしかめて言った。


「この様子では生存者はいないだろうな」

とポイホイサンも顔をしかめて言った。


「そうだろうな、フェナッテンが落ちてからずいぶんと時間がたっている。その間生き残れるほどの者なら、とっくに脱出しているだろうしな」


スディーは焼け落ちた家屋の炭になった木を足で押してみた。


ガラッ


炭になった木は簡単に折れてすでに潰れている家屋もさらにもう一段崩れ落ちた。


「これだから魔族は嫌いです」

エルエは怒っていた。


「さあ、早く魔物よけの結界を張って帰ろう」

もう何度もこんな光景を目にしてきたスディーはもはや慣れっこのはずだったが、今回は不思議と薄気味悪さを感じて早く帰りたい衝動にかられた。


「わかりました。すぐに結界を張りますね」

エルエがそうゆうとちょうど城の真ん中あたりの上空目指して飛んでいった。


エルエは両手を広げると何やら呪文のようなものを唱えて結界を張った。

そしてエルエは急いで3人のところへ戻って来た。


「大変です。おそらく魔王が近づいています」

エルエのお使い用マスコットデバイス顔色は変わらないがもしエルエの顔色が変わるのなら真っ青になっていただろう。


「なんだとっ!」

ジョバンは驚愕した。


「おそらくというのはどうゆうことだ?」

ポイホイサンはエルエに尋ねた。


「強力な魔力反応があるのですが、以前にデータの取れていない魔王と思われます」


焦っているエルエは続けて言った。


「それも2つ」


「ばかなっ! 2体の魔王だと!? そんなものを相手にはしていられないぞ」

とジョバン。


「すでに緊急信号は送りましたが、急いでここを離れたほうがいいでしょう。近づいてくる速度はそれほど早くはないようです。しかしまっすぐにこちらに向かっています」


「となると狙いは我々ということか、ちょうどいい。魔王を倒して我が名声のいしずえとしてくれよう」


ポイホイサンは剣を抜いた。やる気だ。


「バカを言うな、魔人相手にバッファーをつけて私と同格の剣士が一人が死にかけながらようやく倒したんだぞ。魔王を相手にするにはあまりにも準備が無さすぎる。しかも2体だぞ。今は急いで引くべきだ」


「それはその者が実力以上の働きをしようとして、へまをしただけだけのことだろう?私なら勝てる。いや勝って見せるさ。そうでなければ勇者とは言えん」

ポイホイサンは自分を奮い立たせた。


「何だと、エイダンは俺と同格の剣士だ。それが弱いって言うのか」

ジョバンは怒って一歩前に出た。


「おいおい、今はそんな争いをしている時ではないだろう。エルエ殿、魔王の解析はどの程度できているか?」

スディーはエルエに聞いた。


「魔力の性質はもうわかりました。しかし、通信が遮断されています」


「そうなるとどうなるのだ?」


「魔王の情報を持ち帰るには私が直接戻るしかありません」


「なるほど、確かにここで我らが全滅しては、貴重な魔王の情報を失うことになるな」

とスディーは頬に手を当てて言った。


「ならば倒せばよかろう」

とポイホイサン。


「倒せればよいが、魔王に逃げられたとなればやはり情報が欲しかったとなるな。それに、エルエ殿にさっきまで見つからなかったら理由も知りたい。事前に魔王がいるとわかっていれば、我らとてもっと準備をしてからここに来た」


ならばどうする?とジョバンとポイホイサンは無言の表情で言っていた。


「エルエ殿の情報を持ち帰るのが第一だが、何もせずただで逃がしてくれるということはあるまい」


一当ひとあてして、退却の時間を稼ぐ」


「ふん、ここで倒してしまえばよいものを。ずいぶんと皆は弱気だな。もっと私に頼ってもよいのだぞ。しかしそれが作戦とあらばそれ以上の異論は無粋だな。私がその役目を果たそう」

とポイホイサンは自信満々に言った。


「いや、それは私がやる。殿しんがりは私だ」

スディーは言った。


「いい恰好をしようとするなよ」

ポイホイサンは威厳を持って言った。


「私には、ブラックストームがいる。いざとなれば逃げきれる。だから私が殿しんがりだ。皆は無駄に命を危険にさらす必要はない」

スディーはブラックストームの方に歩きながらそう言った。


「速度が出るのなら、エルエ殿を連れて退却すべきだ」

ポイホイサンはまだ食ってかかる。


「エルエ殿ではありません。私のことはエルエとお呼びください」

エルエは二人の間を浮遊しながら話にも割って入った。


「承知」

ポイホイサンは今はそれはいいだろうと思いつつ承諾することで話がそれるのを避けた。


殿しんがりとは古来より一番強い者がやるものだ。私がそれをやれば諸君らはエルエとともに逃げ切れるであろう?」


「いい恰好をしようとするなよ」

今度はスディーがポイホイサンに言った。


「何!?」

ポイホイサンは頭に来たようだ。


これも魔王ストレスによるものなのか。魔王に近づくと誰しもがストレスによって感情を大きく揺さぶられる。今彼らに必要なことは団結であっても、対立ではない。


「魔王ストレス値が増大しています。敵に飲まれてはダメです。気を確かに持ってください」

とエルエ。


「確かにその通りだ」ジョバンは言った。


「それでも我も残る。殿しんがりが二人というのはおかしな話だが、二人で協力するということなら文句はあるまい。ちょうど敵も二人いることだしな」

とポイホイサンは言った


「それではポイホイサンが逃げ遅れるだろう」

とスディーは言った


「まだ言うか、我は勇者ポイホイサン。勇者は逃げない。まして、魔王が目の前にいるなど、絶好の好機。これを逃して勇者は語れぬ。我が魔王を倒すのだから逃げる必要もなし」


スディーは正直に言ってポイホイサンが邪魔になると思っていた。


「客観的に見て…一番多くモンスターを倒しているのはスディー殿だろう?」

ジョバンはポイホイサンをたしなめる様に言った。

「本人が逃げ足も速いと言っているのだから、彼に任せては?」


「それもあるが勇者というものは、いつでも魔王と戦える準備をしているものだ。魔王から逃げるという選択肢だけは無い」


「わかった。二人で殿をやろう」

スディーはこのままではらちが明かないと仕方なく言った。


「だが、命を落としてもしらんぞ。そちらを助ける余裕などないかもしれぬ」



「もとよりいらぬ心配だ」

ポイホイサンはまだ腹を立てている。


「ではジョバン殿はエルエを連れて退却してくれ。我らが殿をこなす。魔王から逃げきるだけの時間を稼いで見せるさ」



「そうはいかぬな」

突如現れたそいつは、巨大な馬に乗った鎧姿の骸骨で禍々しい魔力を放っていた。


そしてもう一人、漆黒のローブをまとい王冠を被った、これまた禍々しい魔力を放つ骸骨が現れた。


ジョバンは嘔吐した


死の王はそれを見た人間が即死するという能力がある。エルエはお使い型マスコットデバイスに入っていたからよかったが、通常の人型であれば死んでいた。


他の面々も即死耐性の装備をつけているから死なずには済んだが、そのプレッシャーとストレスはジョバンににダメージを与えるほどだ。


ジョバンには口を拭うとすぐさま剣を構えた。


スディーは槍を、ポイホイサンも剣を構えた。


「人間でここまで来れるということは、勇者に違いない」

そう言ったのは、先ほど話しかけてきた、馬に乗った方の骸骨だ。


「我は死の王、そなたらを冥府へと導く者なり」

黒いローブを着た骸骨は死の王と名乗った。


「我は不死の王、お前らを殺すものだ」

馬に乗った骸骨は不死の王を名乗った。


「私のセンサーは正常に作動していたのに、どうして?」

エルエは驚愕して言った。



「魔王とて勇者を待たせては悪かろう? 急いで来てやったのだ」

黒いローブの死の魔王はふざけていた。


しかし、魔王と言えば高レベル高ステータスなのは当たり前、まさか魔王が走ってくるとは思うまい。魔王はその素早さで驚くべき速さで移動ができるのだった。


「勇者を殺すために罠を張って待ち構えていたのだ…」

馬に乗った不死の魔王はこれが勇者を誘い込むための罠であることを明かした。


「我は、勇者ポイホイサン、お前らを倒すものなり!」

ポイホイサンは剣を掲げてそう言った。


「俺の名はスディー、勇者として、お前らを討つ!」

スディーもポイホイサンに続いて大きな声で名を名乗った。


「俺はマッカサスの剣士、ジョバンだ」


大きい声を出すのは怖気を払う意味もあった。


ジョバンは魔王たちの負の効果で、頭の中がグルんグルん回っている。まともに戦える状態ではない。ジョバンは魔王と戦うには、状態異常耐性の装備が足りないようだ。


「勇者が二人もいるのか。これは運がいい」

黒いローブの死の王は嬉しそうに言った。


「勇者は殺す、他もついでに殺してやる」

馬に乗った不死の王はゆっくりとそう言った。


スディーはジョバンが戦える状態ではないと見抜いていた。


「ジョバン、エルエを連れて逃げろ」


スディーはエルエをつかむとジョバンの前に押し付けた。


そして


ピィィィ


スディーは口笛でブラックストームを呼んだ。スディーのその動きを皮切りに、戦闘が始まった。


「そこの小さいのが結界を張っていたやつだな、邪魔なやつだ。ここで死んでもらおう」

死の魔王はエルエを持ったジョバンの方に手をかざした。


ドン


ジャキン


「そうはさせん」


死の魔王の手から衝撃波が放たれる瞬間、ポイホイサンが死の魔王の骨しかない手首を払って方向を変えさせた。


続けて2、3度剣を振るが腕の骨で受け止められた、ポイホイサンの剣から出た風の斬撃はそのまま死の魔王の胴体に当たっているが死の魔王にはまるでこたえていないようだ。


死の魔王の無いはずの眼球のくぼみの奥から赤い光が輝いた。死の魔王の魔力が増大する。これは危険な兆候だとポイホイサンは感じ取った。



スディーの方はというと、戦闘が始まってから馬に乗って突進してくる不死の魔王の攻撃をよけたり躱したりしながら、ようやくやって来たブラックストームに飛び乗った所だった。


馬に乗った不死の魔王とスディーは互いに距離を取り合い、騎兵戦を繰り広げた。不死の魔王も剣で戦う。不死の魔王は騎士でもある。なんでも卑怯なことをするばかりが魔王でも無いようだ。

一対一の騎兵戦は騎士のこだわりなのだろうか、不死の魔王は楽しそうに笑った。


クカカカカ


そしてやはり、無いはずの不死の魔王の瞳のくぼみから青い光が放たれた。


ゴワー ゴワー


不死の魔王は馬を巧みに操ってブラックストームのサンダーブレスをよけながら近づいてくる。


スディーの刺突の槍の射程が長い、先にスデイ―の攻撃が不死の魔王の胴体をとらえた、2発、3発。


しかし不死の魔王は気にも留めない。そのまままっすぐ突進してくる。


ガチーン


ガチーン


スディーの槍と不死の魔王の剣がぶつかり合う。



ジョバンは走った。今にも倒れそうなめまいの中、気力で。渡されたエルエを両手でしっかりと握って。


その間もエルエは、魔王たちの情報を集めていた。死の魔王、と不死の魔王。二人も魔王が同時に出てくるなんて空前絶後の出来事だ。


歴史を振り返ってみても二人の魔王が同時に現れるなんてことはめったになかったはずだ。


スディーとポイホイサンが魔王たちと戦っているおかげで、ジョバンは魔王たちから離れることができて、徐々に気分も回復していった。


エルエはまだ自分の身も危険なのにも関わらず、スディーとポイホイサンの身を案じた。

「お二人とも、どうかご無事で」



ポイホイサンは死の魔王から放たれる魔法をなんとか避けては、剣でいなしていた。

やはり魔王、手を抜いているようだが強い。


「く、やる」


次々と繰り出される強力な魔法にポイホイサンは徐々に押され始めた。


しかしポイホイサンは、あきらめない。衝撃波、右手から炎、左手から雷、目からビームが飛んできても何とか躱しづづけ、チャンスをうかがう。


「無駄な抵抗を…、いずれ朽ち果てる命なれば、ここで苦しまずに終わらせてやろうぞ」


死の魔王は嘘をついた。魔族にとって人間が苦しむ姿は快楽でしかない。それも勇者が苦しんで死ぬとなれば最上の喜びよ。ポイホイサンを殺すとて、苦しまずに終わらせる気など毛頭ない。


「風の太刀、12連」


ポイホイサンは飛んできた炎やら雷やらの混じった黒い魔法を風の斬撃で弾き飛ばした。その斬撃はそのまま死の魔王の頭に命中して頭部を砕いた。





「やったか?」










しかし、何事もなかったかのように死の魔王の頭蓋骨の破片は空中に集まり、また元の形を取り戻すと、死の魔王の首へとつながった。


「バカな。頭部を砕いても死なないアンデットだと?」

ポイホイサンは驚愕した。


通常アンデットであれば頭部を破壊するか、全身を粉々にすれば倒せるのだが、上位のアンデットとなるとそうやっても倒せないものがいる。まさにこの死の魔王と、横で戦っている不死の魔王はそのような方法では倒せない上位のアンデットだったのだ。


「ならばこれならどうだっ!」


ポイホイサンは持っていた聖水をまとめて死の王にぶっかけた。



ジューー



死の魔王の体からは蒸発するような音がした。ダメージはあったようだ。


「やるな。しかしこの程度蚊に刺されたほどでしかないわ」

死の魔王はポイホイサンの腕前を認めた。しかしそのうえでダメージがほとんどないことを知らしめた。


死の魔王は魔力のひもでポイホイサンの足を縛った。


「わっ、くそっ、何をする?」


ポイホイサンは釣り上げられて死の魔王の方に引き寄せられた。その間もポイホイサンは剣を振って、魔力のひもを切ろうとするが魔力のひもは切っても切っても次々と伸びてきてポイホイサンの体をとらえた。


ポイホイサンは死の魔王の前にその身を連れ出されてしまった。


「これでも逃げられまい」


ドスッ


死の魔王は魔力で作った刃でポイホイサンの腹を貫いた。


ゴフッ


死の魔王は魔力のひもでポイホイサンを叩きつけるように投げ飛ばした。


ポイホイサンは何とかポーションを使うことができた。しかし、傷がほとんど塞がらない。


「魔王の持つ魔力で受けた傷は魔傷となって治りにくいぞ。フハハ」


死の魔王は、すぐにはポイホイサンに留めは刺さず、まだ立ち向かってくるポイホイサンが苦しむ様子を楽しむことにした。


それでもポイホイサンはあるだけのポーションを使い切って、まだ死の魔王へと立ち向かうのだった。





スディーと不死の魔王の一騎打ちはまだ続いている。互いに天を駆ける馬とドラゴンを操り、通り過ぎるたびに剣と槍をぶつけ合う。


ガチーン


ガチーン



相手の一瞬の隙をついて必殺の一撃を狙うスディーであったが、なかなかその隙は無い。


隙があったと思っても相手の剣に受け止められてしまう有様だ。



ガチーン


ガチーン


ブラックストームもサンダーブレスを吐いて敵を攻撃する。


ビシャー


ビシャー


「さすがは勇者と言ったところか、やる」

不死の魔王は気迫を込めて剣を突き出した。


「しかし、人間にしては、だ。この不死の魔王を相手にするには力不足だ」


ドス―


不死の魔王の剣がスディーの左の肩口に当たった。


「ぐわっー」


しかし、スディーのただでは転ばない。スディー渾身の突きが不死の魔王の頭部を貫いた。


不死の魔王の頭部は砕けて動かなくなった。



スディーはポーションを取り出して使おうとした時、驚きのあまりポーションを落としてしまった。


ガシャン


不死の魔王の頭部の破片が宙に浮いて集まり再びどくろの形に戻ると不死の魔王の頭部に戻って来たのだ。


ドス


スディーは胸を刺された。


「惜しかったな。命ある魔王であれば倒せたかもしれん」

不死の魔王はそう言った。

スディーの体は力なくブラックストームの上に倒れ込んで横たわっていた。



「まったく運の無い勇者たちじゃ、よりにもよって、死なない魔王を二人も同時に相手にすることになるとのう。気の毒なことだ。フハハハハハハ」

死の魔王は不死の魔王の方はもう終わったものとして、ポイポイサンの次の動きを待っていた。


ブラックストームは主人の危機を感じ取り不死の魔王から逃れるように飛ぼうとした。しかし、それを見逃す不死の魔王ではなかった。


「また次、相まみえることを期待して逃がしてやってもいいのだがな、どうせ主人は助かるまい。ならばせめてこの場で消してやる」


不死の魔王はブラックストームを馬で追いかけて追いつくと、その翼を切って地面に落とした。


グギャー


スディーの体が転がった。


「勇者は殺す。その仲間もだ」


不死の魔王はブラックストームの首を刎ねた。ブラックストームは死んだ。



「次はそちらの勇者だな」


不死の魔王はスディーへと近づいた。



「どぅおおりゃー-」


ジョバンが不死の魔王へと斬りかかった。


不死の魔王は即座に反応して、剣で受け止めた。


ジョバンは剣を押し返された勢いで不死の魔王から離れるとスディーを担いで城の中に逃げ込んだ。さすが高レベルだけあってジョバンも素早い。



「勇者は逃がさぬ」


不死の王はフェナッテン城周辺には魔法のバリアを張って逃げられないようにしておいたのでゆっくりとジョバンを追った。


「戦いに勝てぬとわかって逃げようとするのは賢明だな。しかし逃げられはせんぞ」



ジョバンは入り組んだ通路を通ってできるだけ追いつかれないように建物の中に隠れた。


「この城ごと壊してしまってもいいのだがな、魔王というものはなかなか退屈でな。赤子や幼子ばかりと戦うのもつまらんのだ。たまには骨のあるやつと戦いのたいのだ」




ジョバンはスディーを寝かせて鎧を脱がせた。ありったけのポーションをかけたが、すでに心臓は止まっている。蘇生できる時間は短いはずだ。急がなければ。


ジョバンは今は魔王に見つかればとにかくスディーは助からないだろうと悟っていた。


「スディー君はこんなところでは死んではいけない。まだ若い。未来もある。力をつけて魔王を討つ機会もあるだろう。こういうところで死ぬのは老人の役目だ」


ジョバンは自分の鎧を脱いでスディーから脱がせた鎧を着た。そして不死の魔王を探すと再びその前に立ちはだかったのだ。


「ほう、さっきのやつ、どうやったか知らんが、まだ立ち上がったのか? 面白い相手をしてやる」


どうやらうまく騙せたようだ。スディーは安全なところで隠してある。エルエが助けを呼んでくるまで逃げればいい。


ジョバンは声をスディー似せて一声かけてから、不死の魔王からスディーがいる方向とは別方向に全力で逃げ出した。

「こっちだ」


「なんだ、恐れをなしたのか。それでも勇者か? 興覚めだぞ。それとももう一人のところに誘い込もうというのか?」


不死の魔王は馬を使ってスディーにふんしたジョバンを追った。



不死の魔王の剣をジョバンが剣で受ける。


ガチン


何てパワーだ。スディーはこんなのとやりあっていたのか。


まともにやりあえば長くは持たない。


ジョバンは2、3度剣を受けて、2、3度剣を振ると、また逃げ出した。そしてそれを繰り返して時間を稼いだ。


しかし、あまり長くは続かない。


「うおぉおりゃー」


「そぉりゃー」


ジョバンの連続する剣を軽くいなしながら不死の魔王は言った。


「なんだ、剣の腕はいまいちだな。先ほどの槍の方が面白かったぞ。それとも怪我の影響で弱くなっているのか?」

不死の魔王は余裕だった。

「甘いっ、そこっ」

不死の王はジョバンの隙をついた。


「うっ」


不死の魔王の剣をぎりぎりで躱したつもりだったがかすっている。

ジョバンも体中に小さい切り傷が増えてきた。とっさのところで致命傷は避けているものの、やはり不死の魔王との力量差は大きいようだ。


そしてついに


グサー


不死の魔王の剣はジョバンの腹を突き刺した。


「うぐぅ」


ジョバンはまだ倒れていない。気力だけで立っているのだ。



ポイホイサンはさらに手傷を負っていた。何度か立ち上がっては、死の魔王の魔法の攻撃を受けたのだ。幸い装備品の性能のおかげでまだ死んではいないが、それはもはや時間の問題だった。


「我は…勇者ポイ…ホイサン。魔…王を討つ者…なり」


今立っているのは不思議なくらいだった。それほどまでに傷はひどい。



「ハハハハ、なかなか楽しませてくれたな。勇者よ。ポイホイサンとか言ったか。人間にしてはできる方だったな。この死の魔王からこんなにも長く生きながらえたこと褒めてやろう」


「フハハハハ。これで終わりだ。死ねぇい」


死の魔王は魔力をためてとどめの一撃を放とうとした。



その時



突如空間が虹色に避けてそこから何者かの腕が伸びてきた。その腕はポイホイサンの首の後ろの襟をつかむと虹の中に引き込んだ。あっという間に空間の裂け目は閉じてしまった。



ジョバンの方にも突如虹の裂け目が現れてそこから何本もの虹色の魔法のひもが不死の魔王へと伸びる。


しかし、不死の魔王は簡単にそれらを切り払った。


続いて虹の裂け目から5本の矢が飛んできた。


不死の魔王はそれも簡単に切り払った。



「でやぁぁぁぁぁあ」


不死の魔王の上から虹の裂け目を通って扉政影が斬り掛かる。そして不死の魔王の首を飛ばした。


そして扉政景は着地と同時にジョバンの方へと跳び、ジョバンの体をつかむと虹の裂け目に飛び込んだ。


不死の魔王の首がもとに戻った。


裂け目は閉じる寸前だ。


不死の魔王は虹の裂け目に向かって剣を投げた。


「ハァァッ」


しかし間一髪、虹の裂け目は閉じて不死の魔王の投げた剣は壁に刺さった。


ガチン


その音はむなしく響いた。


「逃げられたか」

不死の魔王は残念そうに言った。



マッカサス王国へと戻って来たジョバンはすぐに治療を受けた。隣にはポイホイサンとスディーもいた。


エルエからの緊急信号を受けて扉政影がエルエを救助し、事情を聞いた扉政影がゲートを使って敵のバリアを突破しすぐに他の3人も助けたのだった。


スディーはまだ息を吹き返してはいない。


3人とも魔傷のせいでポーションの効果がほとんどない。


隣では必死にスディーの蘇生を試みている。


プリーストが聖水を持ってやって来た。聖水をかけたばしょはわずかではあるが魔傷が治って行く。


そしてプリーストの解呪の力でも少しづつ魔傷が治って行った。


「いてて」

ジョバンは体を起こしてあたりを見た。そこにはマッカサスの残りの3剣士や軍師それに国王もいた。


「国王よ。急ぎ人を…戦力を集めてください。やつらが来ます」


それだけ言ってジョバンは気絶した。


詳しい話はエルエからなされたが、いまだスディーの心臓は止まったままだ。

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