第16話 若竹道場の日常
「ほれ、走り込みじゃ」
「ほれ、素振りじゃ」
「ほれ、打ち込み練習じゃ」
「ほれ、組手じゃ」
「ほれ、モンスターを倒すぞ」
「ほれ、もう一度走り込みじゃ」
若竹源二は練習メニューを次々と命じた。毎日ヘトヘトになりながら三衛門たちはこんな日々を何日か過ごして、レベルアップしていた。
茂助Lv8
グラムド(モヒカン)Lv12
三衛門Lv18
三衛門は道場通いの無い日にはゴブリンレーダーを使ってゴブリンを探し、自力で倒してレベルを上げていた。
ゴブリンの討伐はいつでもお金になるし、何とか日銭を稼いでいる三衛門にとってはゴブリン退治の収入はバカにはできなかった。
「いつも同じ練習では飽きるのう」
若竹源二はそう言うと、今日はネオ人材派遣会社田中マックスの討伐クエストと受けようと言い出した。
「へぇ、師匠それでも一体何を倒すんでさぁ? ゴブリンならほぼ毎日倒してますよ」
三衛門は若竹源二に質問した。
「それは行ってのお楽しみじゃ。ちょうどよいクエストがあるとええんじゃが」
ネオ人材派遣会社田中マックスに向かう若竹源二一行はどんな討伐クエストがあるのか楽しみにしていた。
「たのもー」
若竹源二は受付係のミーユに元気よく挨拶をした。
「よ、お師匠様、元気がいいねえ」
なぜか茂助はその挨拶を囃し立てた。
「師匠、その挨拶は道場破りのものですよ」
三衛門は社交辞令として突っ込んだ。
「ヒャッハー、俺だー邪魔するぜーい」
ああ、もう最初の一言で誰だかわかる。面倒なのが来たなと心の中で思うミーユであった。
「いらっしゃいませ、本日のご用命はどのようなものでしょうか?」
ミーユはプロの笑顔を崩さずに言った。
「ふむ、今日は討伐クエストを探しに来た。どんなのがあるかの?」
若竹源二は顎のひげをいじりながらミーユに
「そちらの3名もご一緒ですか?」
「そうじゃ、この者たちの修行用じゃ、初心者用かちょこっと上くらいがいいのう」
若竹源二は後ろに並ぶ三人を振り返りながら事情を説明した。
「それではゴブリン退治と、コボルド退治と、スライム退治あたりですかね」
ミーユは初心者用の討伐クエストをすすめてくれた。
「いやぁ、それはええ、もうその雑魚どもは飽きたわい。弟子たちも簡単に倒せる相手ばかりじゃ物足りないじゃやろう」
若竹源二は勝手に物足りないと決めつけていた。弟子たちはそれで十分だったのに。
「なんか変わったのは無いかのう?」
若竹源二はウキウキして聞いた。
そうですね最近岩手県でゾンビが多く確認されています。その調査と討伐でしたら、少し難易度は上がると思いますが、ご紹介できそうです。
「岩手県? それではそれにするかのう」
若竹源二ははて、岩手県には特別ゾンビと所縁があっただろうかと思ったが、まぁゾンビくらいならどうとでもなるからまあいいかと思った。
「はい、それではお仕事をご依頼いたしますね」
「ところでミーユさんや、この会社には聖水は置いてあるかの?」
「はい、ございますよ」
「それでは30個ほどいただこうかのう」
「おひとつ3800円で30個ですと、11万4千円です」
貧乏道場には手痛い出費だ。
「結構するのぉ、みーゆさんや
じじいは気軽に値切れないか聞いた。
「負かりませんね」
ミーユは凛とした態度で答えた。
「それは残念」
若竹源二は金を払って聖水を受け取った。
「ほれ、行くぞい。ゾンビ退治じゃ」
若竹源二は弟子たちを引き連れて、転移門のところへと向かった。
「へぇ、師匠」
「お師匠様待ってください」
「ヒャッハー、ゾンビ退治だろー。皆殺しだぜ―」
ミーユはゾンビはすでに死んでいるのに、あの調子で大丈夫かなと少しだけ心配になった。
転移門の門番は今日は扉正影が担当していた。
「行き先はどちらですか?」
「岩手県じゃ」
「承知しました」
そう答えると扉正影は転移門を開いた。
3人は転移門を通って岩手県へと向かった。
「さぁ、やって来たぞい」
「すー-はー-」
茂助は深呼吸をした。空気がきれいだ。
「師匠、今日は何をするんですかい?」
三衛門は若竹源二に尋ねた。
「そうじゃな、まずはランニングじゃな」
「岩手まで来てランニングかよー」
グラムドは不満を述べた。
「なあに、ちょいとばかし走り回ってゾンビを見つけるだけじゃ」
「ほれ、後ろ向きな発言をしてないでほれ走るぞい」
「へえ」
「へえ」
「ヒャーハー」
若竹源二に続いて、3人も走り始めた。
「ゾーンビ、ゾーンビッ」
「あ、いやした、変な鳴き声のゾンビを見つけました」
三衛門はゾンビを発見した。ちょうど近くに3匹いた。
「おお、あれは普通のゾンビじゃな。早速倒すぞい。しかし修行を兼ねて今日は素手でやるのじゃ」
若竹源二は荷物を置くと他の皆にも武器を置くように言った。
「はー、おめえモンスター相手に素手で戦えとか、頭沸いてんのかよ」
グラムドはそんなことはできないという主張だ。
「まぁ手本を見せてやる」
若竹源二はゾンビの方に近寄った。
「まずゾンビの見極めじゃ、このゾンビはゾンビになってから時間が経っておる。全身腐っておるので力が弱い。足も遅いので、簡単に間合いを取れる」
「自分から攻める時は、まず足を狙え」
若竹源二のローキックが炸裂した。ゾンビは倒れた。
「足さえやってしまえば、本当の危機になった時も逃げきれる。骨は硬いままじゃが関節も弱いので、膝を側面から狙うローキックは特に有効じゃ」
「へーっ!」
と茂助は声をあげた。
三衛門も感心した顔でその様子を眺めている。
「片足だけでもまず倒れるじゃろうが、それでも倒れん奴は、逆の脚も壊せば必ず倒れる。相手が倒れたらもはや勝ったも同然じゃ」
「両腕を潰してもいいが、捕まれる可能性もあるので少し危険じゃ」
若竹源二は足を捕まれる素振りをしてみせた。
「うつ伏せのゾンビ相手には足の方に回り込んで背中から踏みつぶせば勝ちじゃ。背骨が折れて自由に動ける生物はいないぞい」
「敵が仰向けに転んだ時は、捕まれんように気を付けながら戦うのじゃ。その場合は頭の方から攻めたり、足の方から攻めたりな、横からでもええぞ。とにかく捕まらないように気を付ければOKじゃ」
「さて、やってみよう」
若竹源二は意気揚々と実戦を勧めた。
「噛まれるとゾンビになるから気を付けるのじゃぞ」
「ヒャッハー、皆殺しだぜ―」
グラムドは勢いよくゾンビに走って行ってゾンビに飛び蹴りを食らわせた。
ゾンビは倒れた。
「ヒィィィイイ、ヤァァァァー」
倒れたゾンビの頭を勢いよく蹴り飛ばした。
ゾンビは死んだ。
「教えたこととは違うが、まぁいいか、ゾンビを転ばせる方法を思いついて実践できるのは筋がいい」
若竹源二は納得の顔をしていた。
「今回は普通の飛び蹴りであったが、ドロップキックはやめた方がいいぞい。ゾンビが複数いた場合には、自分から転ぶのは危険じゃからな」
なるほど、と三衛門と茂助はうなずいた。
「では三衛門くん。今度は君がやってみようか」
「へぇ」
三衛門はゾンビの前に身構えたそしてもう少し間合いを詰めてからの、ローキック。
倒れかかったゾンビは三衛門にのしかかる。
「うおっ!?」
三衛門は地面に押し倒されてしまった。
なんとかもがいて脱出を試みるが、意外と力が強い。力が弱いんじゃなかったのか。
三衛門の戦ったゾンビはゾンビになりたてのまだ腐ってないゾンビだった。
ウガー
今にもゾンビに噛まれそうである。そして、あ、噛まれた。
「うぐぅ」
哀れ三衛門はゾンビになることが決定してしまったのだ。
それを見ていた若竹源二は茂助に指示を出した。
「茂助君、そこのゾンビにこの聖水をかけて」
「へえ」
茂助は何が起きるんだろうという顔でゾンビに聖水をかけた。
グワー
見る見るうちにゾンビの皮膚は焼けてゾンビは死んだ。
茂助はレベルアップした。
「茂助君余った聖水を三衛門君にかけて」
「へえ」
茂助は三衛門に残った聖水をかけた。
「ぶはっ」
三衛門はゾンビにはならず、人間に戻った。
「このように、敵を倒すときに、倒れかかられると危険だから、注意しましょうね。それと成りたてゾンビは力が強いから油断しないようにのう」
若竹源二は今さら言った。
「師匠、先に言ってくださいよ」
「いやぁ、悪い悪い」
「それにしても、あっしは何でレベルが上がったんでやしょう?」
「聖水はゾンビやアンデットを浄化してダメージを当たえられるんじゃよ。あとはいつもどうりじゃ、モンスターを倒したから経験値が入ったんじゃ」
三衛門と茂助はほーという顔をしていた。
「ヒャッハー、これさえあればゾンビなんて怖くねえぜ―」
両手に聖水を持ち他のゾンビはいないかとグラムドは探した。
「それは、あくまでも緊急用じゃよ。今日はゾンビを素手で倒す練習じゃ。それにもしもゾンビに噛まれた時に、聖水が無くなっておれば本当にゾンビになってしまうぞい。わかったら素手でゾンビに挑むんじゃ。
「チッしゃーねーな」
グラムドは聖水をもとの位置に戻してゾンビを探し始めた。
皆でゾンビを探した。見つけた。いっぱいいた。
「ゾーンビ、ゾーンビッ」
やはりゾンビの鳴き声がおかしい。
「細かいことは気にするな」
若竹源二は言った。
「今度はゾンビを投げる技じゃ、ただし、集団に囲まれた時はやらないほうがいいぞい」
若竹源二は歩いてゾンビに近づいていくと、ゾンビは手を伸ばして襲い掛かってきた。若竹源二はその腕をつかむと背負い投げをして地面にゾンビを叩きつけた。
ゾンビは首の骨を折られた。
「不死者などと言われておるが、人間の骨格と体を使って動いておるのじゃ。壊すときも人間の体と同じで壊れる。骨を折れば折れる。関節を外せば動かなくなる。ただ痛みを感じないから、痛みで動けなくなるということがないだけで、根本的に不死者と呼ぶほど大層なものではない。何より有名になりすぎた。炎だろうが、光だろうが聖水だろうが、弱点が多すぎる。けっきょっく動きの遅いゾンビは初心者に狩られるだけの雑魚モンスターという訳じゃな」
背負い投げの次は、足払いで倒してからとどめを刺していた。そしてわざと押し倒されるふりをして巴投げをして遊んでいたりもした。
「せいっ」
若竹源二が見本を見せ、弟子たちはそれを真似することで、ドンドン新しい投げ技を覚えていった。
「ジュード、ジュード」
また変な鳴き声のゾンビが現れた。
「ヒャーハー、ぶん投げてやるぜ―」
グラムドはハイテンションでゾンビを投げるために近づいて行った。
「いかん、そいつは…」
グラムドはゾンビの腕をつかもうとすると逆にゾンビに腕を捕まれて投げられてしまった。
ぐへっ
そして気絶したグラムドは噛まれてしまった。
慌てて若竹源二はそのゾンビを投げて倒すととどめを刺した。
「ポーションと聖水じゃ」
地面にたたきつけられたグラムドは骨にひびが入っていた。そして噛まれたことによって、ゾンビ化が始まっていた。
「へぇっ」
急いで、茂助はポーションと聖水を持ってきた。
「先に聖水じゃ」
若竹源二は聖水をグラムドにかけて、ゾンビ化の解除に成功した。
その後ポーションを飲ませてグラムドの骨を治した。
「痛てー、さっきのは一体何だったんだっ」
グラムドは背中をさすりながら起き上がった
「あれは柔道ゾンビじゃ」
柔道ゾンビ? それはいったい? 弟子たちは不思議そうに首を傾げた。
「腕の力が強く組技を使ってくる。さらに寝技も使ってくるゾンビじゃ。審判はおらんが、一本取られると噛まれるぞ。逆にチャンスがあっても一本取るまでは噛みついてはこない」
そんなことを話していると辺りにゾンビが集まってきていた。
「ジュード、ジューード」
「柔道ゾンビでやす」
柔道ゾンビ降臨 なお、服装は様々だ。べつに柔道着を着ているわけではない。
「ちょうどいいのう。こいつら相手に体術の訓練じゃ」
「訓練ってバカなのかよぉ」
グラムドは柔道ゾンビの数が多いことを気にした。
大丈夫じゃ柔道ゾンビは一度には襲っては来ない。
柔道ゾンビはある程度柔道のルールにのっとって動く。まぁある程度というのは、ルール改定前の古いルールで動いておるので、現在では反則技に相当することもやってくるということじゃ、油断の無いようにな」
若竹源二は早く始めろとでも言いたげだった。
そんなこと言っても柔道のルールなんてしらないし、三衛門はそんな風に思っていると、グラムドは柔道ゾンビに襲い掛かった。
「普通のゾンビよりも動きは早いでな、注意するのだぞ」
若竹源二のアドバイスだ。
「ヒィーヤー」
グラムドは柔道ゾンビに組み付いた。
「さっきはよくもやってくれたな」
それはさっきのとは別の柔道ゾンビなのだがグラムドにとってはゾンビは全部同じだった。
グラムドは力任せにゾンビを投げようとするがうまくいかない。
「こいつ、力が強ええぜぇ」
柔道ゾンビの小外刈り!
グラムドはお尻をついてしまった。そしてゾンビに噛みつかれた。
「聖水じゃ」
茂助は聖水を柔道ぞんびに投げつけた。聖水は柔道ゾンビに命中し柔道ゾンビを浄化して倒した、ついでにこぼれた聖水がグラムドにもかかってグラムドはゾンビ化から元に戻った。茂助はレベルが上がった。
「クソ―、なんでだよー」
「柔道ゾンビ相手に柔道はせんでええんじゃぞ」
それもそうかと三衛門は、次の柔道ゾンビと組合いはせずローキックで倒してからの背中踏みつけで倒そうを決めていた。
「ジュードー、ジュード」
次の柔道ゾンビがやってきた。今度は三衛門が前に出た。
ローキックの間合いと足払いの間合いは大きくは違わない。柔道ゾンビが大きく上げた両手はなかなか威圧感があるものだ。
「一撃で倒そうとは思わんでええ。相手の攻撃を回避することを優先するのじゃ。さすればいずれ隙が見える」
三衛門は柔道ゾンビの腹を狙ったサイドキックで柔道ゾンビには近寄られないように距離を取りながら戦った。
「相手の状況をよく見るのじゃ」
相手の状況をよく見る!
このゾンビは腐っているな。ならば防御力が低いはず。相手の腕が邪魔ならその腕を使えなくすればいい。
三衛門は相手の腕をつかむと脇固め風に肘関節を決めながら倒れ込んだ。地面に倒れ込む衝撃で柔道ゾンビの腕は折れた。痛みを感じない柔道ゾンビはそのまま襲い掛かってくる。
三衛門は素早く転がってもう片方の肘をとり関節を折った。
「ジュード、ジュード」
ゾンビには痛みが無いので悲鳴もない。ただジュードと繰り返すだけである。
三衛門は急いで立ち上がって柔道ゾンビの背骨を踏みつけた。
ボキり
柔道ゾンビは動かなくなった。三衛門は一生懸命柔道ゾンビの体を踏んだ。そして柔道ゾンビを殺した。三衛門はレベルアップした。
次の柔道ゾンビが前に出てきた。
「今度こそ
グラムドは再び柔道ゾンビに組み付いた。グラムドは持ち前のパワーで押していく作戦だ。
柔道ゾンビの小外刈りっ!
しかし今度はグラムドはそれを躱した。
「同じ手に2度もかかるかよー」
今度は柔道ゾンビの内股だ。
グラムドは投げ飛ばされ見事に背中をついてしまった。柔道ゾンビはグラムドに噛みついた。
「聖水じゃ」
若竹源二の指示を聞いて茂助は急いで聖水を投げた。柔道ゾンビは浄化されて死んだ。グラムドは人間に戻った。
「なかなかうまくいかんようじゃのぅ、グラムド君」
若竹源二はさあこういう時は師匠に頼ってほしいとでも言いたげにグラムドに近寄った。
「うるせー、これからだよこれから、ゾンビなんざ柔道だろうが何だろうが、すぐだよ、すぐっ」
グラムドは起き上がると、次の柔道ゾンビに挑んでいった。
「ヒィイイー、ヤーーー」
グラムドは柔道ゾンビに組み付いた。また力で押し込もうとしている。しかし、グラムドも力押し一辺倒ではなかった。
柔道ゾンビの出足払いを躱し、体落としをこらえ、今こそ投げてやろうと意気込んだそのとき。
大外刈りで転ばされた。見事に決まった。
グラムドは柔道ゾンビに噛まれた。
「聖水じゃ」
「へぇ」
いつものやり取りをして、また茂助のレベルがあがった。低レベルの時はモンスターを倒すとどんどんレベルが上がって気分がいい。
「痛てて」
グラムドはまだあきらめていない。起き上がるとまた次の柔道ゾンビに向かって行った。
「ヒーーーヤアーーー」
グラムドはまた力任せに押し込もうとする。そして柔道ゾンビに組み付いた。
「オラオラー」
柔道ゾンビの小外刈りを躱した。大腰をこらえた。小外刈り、小外刈り、躱す躱す。
グラムドの
すかさず柔道ゾンビはグラムドを
締め上げられたグラムドは気絶した。そしてまた柔道ゾンビに噛まれたのであった。
「聖水じゃ」
グラムドは何度も柔道ゾンビに挑みそのたびに噛まれてゾンビになりかけて、それを止める茂助のレベルがどんどん上がった。
三衛門は順調に柔道ゾンビを倒しレベルを上げていった。特に、相手の掴みかかってくる手を避ける動作がどんどんうまくなっていった。
グラムドは目を覚ました。
「ヒィィィイ、ヤーーーー突撃だぜ―」
グラムドはまた柔道ゾンビに挑んでいった。勢いよく走って行った。
そのまま突進でもすればいいのに、柔道ゾンビの前で勢い止め両手を上げて組み付いた。
この柔道ゾンビはやたら小外刈りばかり狙ってくる小外刈り偏重型であった。
「そんなもんを、何度も何度も食らう訳がねーぜー」
小外刈り、小外刈り、それでも小外刈り。
「ヒー、ヤー」
グラムドは柔道ゾンビを激しく
柔道ゾンビはグラムドに内股をしかけた。
しかし、グラムドは内股すかし返す。
グラムドの内股すかしが見事に決まった。これは一本。
グラムドは素早く起き上がると、柔道ゾンビに連続蹴りを入れた。
「オラァ、オラァ」
やがて柔道ゾンビは動かなくなり、グラムドはついに柔道ゾンビを倒したのだ。
グラムドはレベルがあがった。
「やったな」
と若竹源二は親指を立てた。
茂助もへーと感心した顔だ。
三衛門は別の柔道ゾンビと戦っていて見てなかった。
「よっゃー、どんどん行くぜ―、オラー」
グラムドは、次の柔道ゾンビに向かって行った。そしてあっという間に投げられて噛まれてしまった。
「聖水じゃ」
その後もグラムドは柔道ゾンビに勝ったり負けたりしながら、戦いを続けていった。
三衛門も一度だけ噛まれたが、それ以外は安定して柔道ゾンビを素手で倒せるようになっていった。
茂助は聖水係が板についてきた。なんだかんだで結構レベルが上がっている。
皆が成長しながら聖水も残りわずかとなったところで、ついにクロオビ柔道ゾンビが現れた。
こいつは柔道をやっている人間が噛まれて柔道ゾンビになったエリートだ。そしてまだ腐っていない健康的なゾンビなのだ。
今日、ようやく、柔道ゾンビたちと戦えるようになってきた弟子たちには荷が重い相手であった。
「どれ、このクロオビ柔道ゾンビはわしが、相手をしよう。おぬしらよく見ておくのだぞ」
「へえ、師匠」 「へえお師匠様」 「見ててやるぜ―」
クロオビ柔道ゾンビの前に若竹源二が立ちはだかった。
「いざ、ゆくぞ」
「ジュードー」
クロオビ柔道ゾンビと若竹源二は激しい襟や袖の取り合いだ。
クロオビ柔道ゾンビは果敢に小外刈りを仕掛けてくる。
からの大外刈り。
若竹源二はそれらを見事に躱しつづける。
今だっ! と言わんばかりにクロオビ柔道ゾンビの渾身の一本背負い。
若竹源二の体きれいに宙に持ち上げられた。
これは決まったか!?
しかし若竹源二はアクロバットに見事な着地を決める。腕を捕まれた状態から出足払いでクロオビ柔道ゾンビを転ばせる。
そこから
そこからでんぐり返しで位置を変え三角締めに持ち込んだ。
ゾンビに絞め技は効くのか?
三衛門がそう思ったが、若竹源二は三衛門の予想を超えていた。
三角締めから締め切って腕や首が取れた。まるで鋏のように強力な締め技だったのだ。
「おわりじゃな」
若竹源二は苦労もなく勝ったという風だった。
「へえ…へえ」
三衛門は驚きのあまり言葉が出てこなかった。
「よぉ、さすがお師匠さま。人間ゾンビ切りバサミとはこのことよっ」
茂助は三衛門の活躍を褒めたたえた。
「あんだぁ? どうなってんだぁ」
グラムドは理解ができないという風だった。
「これもレベルを上げればできるようになるぞい」
と若竹源二は言ったが、三衛門は絶対嘘だろうと強く思った。
「もう少し聖水が残っておるから、聖水を使い切ったら帰ろうかのう」
「へえ」
この後しばらく柔道ゾンビ退治をして、グラムドと茂助が聖水を使い切ったところネオ人材派遣会社田中マックスに帰還することにした。
「お疲れ様です」
ミーユがそう言って迎えた。
「本日の成果はいかがでしたか?」
「まぁまぁ、じゃな」
若竹源二はにっこりスマイルで答えた。
「討伐数をチェックしてくれ」
「はい、それではチェックいたしますね」
「三衛門さん、ゾンビ6、柔道ゾンビ16」
「グラムドさん、ゾンビ3、柔道ゾンビ8」
「茂助さん、ゾンビ1、柔道ゾンビ29」
「若竹さん、ゾンビ3、クロオビ柔道ゾンビ1です」
「報酬は均等に分けてくれ」
若竹源二はそう言った。
「わかりました。そうしますと。ゾンビ×13で2万6000円と柔道ゾンビ×53で13万7800円とクロオビ柔道ゾンビが3万8000円で合計で20万1800円ですね。これを4人でわりますので、5万450円ずつのお渡しとなります」
4人は報酬を受け取った。
聖水の購入代金を払ったのは若竹源二であった。ポーションも若竹源二の持ち出しである。若竹源二は赤字だった。
なんだか若竹道場が貧乏なのは理由がわかったような気がする。
「それでは皆様お疲れさまでした」
こうして若竹道場の皆は道場へと帰って行った。その後でまだ走り込みが待っていた。
今日、三衛門は、レベル26になり、茂助はレベル24になり、グラムドはレベル20になった。なかなかの成果であった。
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