第15話 スディーとヌテリア

最近、ネオ人材派遣会社田中マックスで魔王の居所をつかんだという噂が流れた。

その真偽を確かめたところ、どうやら噂は真実らしい。


今はまだ魔王軍に奪われた土地を取り戻す作戦を練っているところらしいが、いずれは魔王とも戦う日が来る。


しかし


「俺は弱い、まだまだ足りない」


スディーは鍛え抜かれた肉体で筋トレを終えてそう言った。


スディーは先日のひな祭りイベントでハーミンに勝てなかったことを気にしていた。


重りやハンデがあったにしろ、魔王軍の撲滅を目指すスディーにとっては看過できないものだった。


スデイ―は水と火の魔法で出したシャワーを浴びると、服を着替えて、スディーの相棒である黒い嵐の竜ぶらっくすとーむの世話をすると朝食をとった。


朝食はステータスが上がりやすい食材にプロテイン入りのドリンクとセットだ。


ごくごくごくごく、はー。


朝食を終えてスディーはネオ人材派遣会社田中マックスへと向かった。


いずれ魔王軍に対する反抗作戦をするために強者と出会うためだ。それはどの世界の魔王に対しても同じことだ。



「いらっしゃいませ、本日もお早いですね」

受付係のミーユはスディーに声をかけた。


スディーは登録してから毎日、ネオ人材派遣会社田中マックスが始業してすぐにやってきては何か討伐クエストは無いかと尋ねているのだ。


そして、難しい討伐クエストはあらかたスディーがやってしまうので、ここ最近はあまり難易度の高いクエストはスディーが受注した後には残ってはいなかったのだ。



「今日は討伐クエストはありませんが、天上界の魔王領を一部奪還するクエストがあります。熟練の冒険者の方にしかお声かけはしません。スディーさんにご参加いただけるとありがたいです」


「承知した。そのクエスト、受けよう」





昼前までにこのクエストに集まったのは、5人だった。


「我が名はポイホイサン、勇者たる我が力そなたらに貸そうぞ」


まるで王様然とした格好の男は高々とそう宣言した。


「私はヌテリアよ。魔法使いよ。一度くらいは他のパーティーに参加してみるのもいいかしらとおもって来たわ。私の魔法でなんでも焼いてあげるわよ」

ヌテリアはいつものように自信満々だった。


「おお、なんと美しい女性だ。ぜひ私の妃になってくれ」

ポイホイサンは魅了にかかったかのように急にヌテリアにそう言った。


ヌテリアが口を開こうとした時、横から別の男が口を挟んだ。


「王子、何を言っているのです。いやそれよりも私と結婚してくれ。美しいお嬢さん」

初老のおじいさんは勢いよくそう言った。


「いやあっしとでやしょう」

茂助はいやいや我こそはと前に出た。


「いや、俺とだ…」

スディーはなんとなく言ってしまった。


「はいはい、結婚の話はあとよ。私と結婚したかったら最低限魔王くらいは倒してね」

ヌテリアはいい気分で適当にあしらった。


「さぁ、自己紹介の続きをしたら?」

ヌテリアはそう言って自己紹介の続きを求めた。


「う、んんっ、私の名はシノップだ。ピガリア王国で軍人をやっている」

シノップは咳ばらいをしてから自己紹介をした。しかしシノップはまだヌテリアの方を見ている。


「へー、階級は?」とスディーが聞いた。


「大将だ」


「ほー、それは大したものだ」

スディーは素直に感心した。


「あっしは茂助でございやす。以後お見知りおきを」

なぜか茂助がこの場にいた。


本当に何故なんだ。謎であった。


「私の名はスディー・アームだ。ドラゴンライダーだ」


「へー、あなたがあのスディー・アームか」

シノップがそう言うとスディーは質問した。

「私の名を知っているのか?」



「ああ、バス世界の魔王を倒したブラックストーム竜騎兵団の生き残りだろう

?」


「その通りだ」

スディーは淡々と答えた。


「お目にかかれて光栄ですな」

シノップは社交辞令を言った。


「ほう、それほどの剛の者か、それならばぜひ我が国に召し抱えたい」

ポイホイサンはシノップの様子を見て、スディーはそれなりの実力者だろうと断定してスディーをスカウトした。


「ありがたい申し出だが、それは私の悲願である故郷を取り戻した後でだな。それまではどこにも士官するつもりはない。自由に身動きできるネオ人材派遣会社田中マックスを選んだのもそれが理由だ」


「そういうことなら致し方ない。気が変わったらいつでも我が国へ来てくれ」

ポイホイサンは国を守るために強者つわものを国へ集めるのに余念がなかった。



「話は終わったかしら? 本題の話を聞きましょう」

ヌテリアはミーユの方を見た。


ミーユはそれを受けて話始めた。

「本日の依頼は、先日魔王を探知した天上界のマッカサス王国の西側の調査になります。目的は、魔王軍に占領された地を一部奪還することです。ですので、ある程度の安全確保ができるように、かなりの数もしくは強力な魔物を倒していただくことになります」



みなはうんとうなづいた。茂助は誰よりも強くうなづいていた。


「今回は魔物の討伐に関する報酬が支払われます。討伐した魔物の強さや数によって支払われる報酬が決定されます。何か質問はありますでしょうか?」


ベテランの冒険者たちにはその説明で十分だった。


ポイホイサンたちは転移門のある部屋に移動してそこから天上界へと移動した。




マッカサス王国に移動してから西に移動する予定だったが、マッカサス王国で予想外のことが起きた。


「そこの美しいお方、私と結婚してください」


「いやいや、結婚なら私と」


「私と」



ヌテリアが行く先々で男性から求婚され続けた。


ヌテリアははいはいと適当にあしらっているが男たちが列をなしてついてきた。まるで大名行列だ。


「求婚されるのは悪くない気分だけど、私に見合うだけの男がいないのが残念よね」

とヌテリアは言っていた。ヌテリアはこの状況も面白がっているようだ。



「この国の男たちは頭がいかれておるのか? 身の程のわきまえずこんな美女に求婚するなんて」


クソダサファッションのポイホイサンが言った。


「王子、他国の民を悪くいうものではありませんぞ。身の程をわきまえないというのはいささか同意しますが」


シノップは、一応ポイホイサンをたしなめた。


「よ、世界一の美女だねえ。あっしと何かの間違いでも結婚してくれやしねえだろうか?」


茂助は、ヌテリアをほめちぎって、何とか結婚できないかと話を続けていた。


ヌテリアは涼しい顔で適当に聞き流していた。


「本人が魔王を倒したものとでなければ結婚しないと言っているのだから、結婚するにはまず魔王を倒してからだ。結婚したければ早急に魔王を倒す計画を立てなければならない」


とスディーは言った。スディーもいつもと違ってどこかおかしい。


「そうだ、魔王は滅ぼさねばならない、私と彼女の将来のためにも」

ポイホイサンの士気があがった。


「そうでやす、魔王はどんどん倒しやしょう。美女と結婚できるなら死すら怖くはありやせん」


茂助は死が怖くないそうだ。ヌテリアはその言葉に真実が無いことをすでに見破っていた。


「魔王を倒して、彼女と結婚するのはこの私」


シノップも士気が上がった。


なんだかんだでみんなの士気が上がっていた。


街の人々の間にも、魔王を倒せばそこの美女と結婚できるらしいという噂が広まり、とにかく魔王の情報を集めようとする冒険者や、急いでレベルを上げようとする冒険者、あわてて冒険者になろうとするものが大勢いた。


そんな血迷った冒険者たちの一人がヌテリアたちに突撃してきた。


「そんな男たちよりも、私と結婚を…」


うぉおおおお


他の男たちもなぜかそれに続いた。


「いや、俺と…」


「いやいや、私と…」


「いやいやいや、わしと…」


うぉおおおおおおお


遠からず、市民の男たちが迫ってきた。


「お嬢さん危ない」

シノップはヌテリアをかばって一歩前に出た。


ヌテリアは特に気にもしていない様子だ。


「なにいい恰好しようとしてるんだ、こんなの私一人で十分だ」

とスディーは槍を構えた。


「見苦しいぞ、控えていろ」

そうポイホイサンは言って剣を抜いた。


「なにおぅ?」


「なんだっ」


「何です」


スディー、ポイホイサン、シノップはまるで喧嘩でも始めそうに険悪なムードになった。


茂助はそれには関わらず、ヌテリアのそばに寄った。

「安心してくだせぇ、あっしが守りやさぁ」



「まぁいい、お前らは後だ、まずは彼女を守らねばならぬ」

ポイホイサンは今はパーティーで争うべきではないと判断した。


「お前からもな」

スディーはポイホイサンとは違う考えだった。


「王子、殺してはなりませぬぞ」

シノップはポイホイサンにそう言った。


「わかっている。お前たちもだぞ」

ポイホイサンはシノップのついでにスディーに言った。


「ふん」

スディーはまともには返事をしなかった。


うぉおおおお


迫ってくる男たちはもはや暴徒。


シノップは剣を抜いた。シノップのパッシブスキルでポイホイサンたちのパーティーメンバーは武器強化と士気高揚がかかった。


パーティーの士気は上がりに上がって頂点に達していた。


スディーは槍で次々と市民をなぎ倒す。


ポイホイサンも剣で次々と市民を吹っ飛ばす。


シノップも一応近くにきた市民を気絶させている。



茂助は当然戦わない。



こうして暴徒と化した町の住人を残らす打ち倒したのだった。


こうしてまだ立っている男は、スディー、ポイホイサン、シノップ、茂助だけとなった。


「いよいよ決着をつける時が来たようだな」

スディーはポイホイサンに言った。


ポイホイサンは剣を構えようとしたがシノップが間に割って入った。


「若いもんにはまだまだ負けませんぞ、王子と戦いたければこの私を倒してからにしていただこう。その力量もないとなれば、当然彼女の婿にもふさわしくはない」


「いいだろう、先にそのご老体を倒すとしよう」

スディーはシノップに槍を向けた。


シノップも抜いたサーベルをスディーに向けた。


二人は緊迫してにらみ合う。


「やあー」


スディーが動いた。シノップはスディーの動きに全然ついていけてない。


スディーの槍がシノップの胸をとらえた。


グサー


シノップの鎧が無ければ、シノップは死んでいただろう。


「なんか…すまない」

スディーはなんだか申し訳ない気持ちになった。



ポイホイサンは愚か者を見る目でシノップを見つめていた。

「我が国、ピガリアの大将はこんなにも愚かだったのか?」

あきれた様子のもの言いだった。


茂助は急いでシノップにポーションをかけて傷を治した。

「へぇ、ポーションでごぜえやす」



シノップは最後の言葉をスディーへと残した

「やるではないか、お若いの、このシノップを倒したこと誇るがいい」


バタリ


シノップはそれだけ言うと気絶した。


スディーはそれを誇りとは思わなかった。


「いよいよ真打登場というわけさ」

ポイホイサンはシノップから離れスディーの方へ歩みを寄せた。



「来るがいい、手加減は無しだ」

スディーは真剣な面持ちで言った。


「いいだろう」

ポイホイサンも真剣な面持ちだ…たぶん。衣装のせいでそうは見えないが…。



「行くぞぉ」


「おお」


スディーの気合の入った掛け声とともに、ポイホイサンもそれにこたえるように二人は間合いを詰めた。


そしてスディーの第一の突きをポイホイサンが躱したところで足を滑らせた。


「うっしまっ…」

そしてスディーの槍の石突での攻撃をポイホイサンは顔面にもらってしまった。


「ぶへっ」


ポイホイサンは7メートル吹っ飛び鼻から血を出して気絶していた。


戦いは終わった。


茂助は急いでポイホイサンにポーションをかけた。


「へえ、旦那、ポーションでやす」


ポイホイサンの傷は治った。



スディーは槍の先を茂助に向けて質問した。

「お前も私とやるのか?」


茂助は慌てて答えた。

「へぇ、めっそうもございません。あっしは戦いの方はからっきしでして、とてもとても、旦那にいどんで勝てるはずはありやせん」


「賢明だな」


スディーは槍を立てて茂助から離した。


「ということで私が勝ち残りましたよ。ヌテリアさん」


スディーは浮かれてヌテリアに話しかけた。


「そのようねぇ」


ヌテリアは彼らのやり取りをすべて見ていたが、一切それを止めることはなかった。


「それでは挙式はいつにしましょうか?」


「私は結婚するとは言ってないわよ。だいたい最低でも魔王くらいは倒してなきゃダメだって言ったでしょう?」

ヌテリアはなんか色っぽいポーズで話始めた。


「それなら問題ありません。魔王なら倒したことがありますから」


「あらそうなの? それならちゃんと相手してあげないとかわいそうよねぇ?」


「かわいそう…ですか」


「まぁ、頑張ったんだし実力もあるみたいだし、いいわ」


「そ、それじゃあ…」

スディーの顔が歓喜にゆるんだ。


「2番にしてあげるわ。今のところね」


スディーの顔が悲しみに打ちひしがれた。


「2番って? 一体1番はだれなんです?」


「さぁ、それは秘密よ。自分で見つけてごらんなさい。それができないというのならチャンスは無いわ」

ヌテリアは面白そうにそう言った。


「そんな」


「それ以上の泣き言は聞かないわ。私泣きごとを言う人間って好きじゃないの。いいわね?」


ヌテリアはそれ以上は何も言わせないという圧があった。スディーはしかたなく黙ったのだった。


話はそれで終わったかに思えた。


「待て」

ポイホイサンが起き上がってきた。まだ痛いのか鼻を押さえている。


「先ほどのは、足が滑っただけだ。私の実力ではない。もう一度だ」



「だめよ」


ヌテリアはピシャリと遮った。


「実力があってもそれを発揮できないのは意味がないわ。足を滑らせたのも実力、運も実力の内よ」


「しかしっ」


「そもそも、服のセンスが悪すぎるわ。ダサい恰好の人って好きじゃないのよね」


「服がダサいだと」

ポイホイサンは驚愕した。


「この装備は我が王室工院で作った非常に優れた防御力を持つ装備なのだぞ」

ポイホイサンは必死に説明した。


「今は防御力の話をしているわけじゃないのよ。服がダサいって言っているの。人の話を、いいえ…私の話を聞かないのは、嫌いよ」


ポイホイサンに稲妻めいた衝撃が走る。ダサいと言われたことと嫌いと言われたことの2重の衝撃であった。



ヌテリアはやれやれと言った顔だ。


「あなた達、何をしに来たのか忘れているんじゃないかしら?」



男たちは顔を見合わせた。


そして、あーっという顔をしてようやく思い出したようだ。


「魔王軍からの領土奪還だ。もちろん忘れてはいない」

スディーの声はうわずっていた。


他の男たちも最初から覚えていたという風に装った。



「遊びは終わりよ。魔王軍の討伐に行くわよ」

ヌテリアは先頭をきって歩きはじめ、男たちはそれに続いた。


街を出るとスディーはドラゴンを呼び寄せ、その背中に乗った。


「さぁ、ヌテリアさん、後ろに乗ってください。その方が早いでしょう」

スディーはヌテリアをドラゴンの背中へと誘った。


ヌテリアは異次元バックになっている帽子の中から箒を取り出して横からそれに腰かけた。

「いらないわ。私は自分で飛べるもの」


ヌテリアは空を飛ぶ魔法を使えた。世界中でも空を飛べる魔法を使えるものは非常に珍しい。


「それよりも、その人達を乗せてあげたら?」


スディーは男たちの顔を見合わせた。ポイホイサンと目が合った。ポイホイサンは先ほどの戦いにまだ納得がいっていないという顔をしていた。


「こいつらを…?」


「その方が早いんでしょう?」


「仕方ないな」


スディーはドラゴンに男たちを乗せてあげた。ポイホイサンやシノップは渋々という顔をしていた。


「案外しっとりしてやすね」

茂助はドラゴンの皮膚に触った感想を述べた。


「ドラゴンの皮膚というのはそういうものだ」

スディーはそう答えた。


スディーの黒き嵐の竜ブラックストームとヌテリアの箒は空を飛んで西へと向かった。



地上にモンスターの姿が見えた。


「あれは、オーガでやす」

茂助はいち早くモンスターを見つけて識別した。


20や30はいるだろう。


黒き嵐の竜ブラックストーム、サンダーブレスだ」


バチバチ ゴワッ ドォウ


ブラックストームのサンダーブレス一息でほとんどのオーガが黒焦げになった。


わずかに生き残ったオーガもスディーの刺突の槍で突かれたり、ポイホイサンの剣から出る風の魔法の斬撃で切られたりと、早々に倒されたのだった。


ほう、一応は戦えるようだな。スディーはポイホイサンのことをそう評価した。


「よぉっ、さすが旦那、この大将」


シノップは大将は私なのだがと心の中で思った。


空を飛べるモンスターは多くは無い。空を飛べるというのはそれだけで有利な戦い方ができるのだ。


見つけたゴブリンもヘルハウンドもサイクロップスも同じように倒された。いくら数がいようとも関係がない。


「よぉ、世界一のドラゴンライダー」



本来の定員よりも多くを乗せたブラックストームだったが、空を飛べない敵と戦うにあたって、定員オーバーは問題にもならなかった。ほとんどブラックストームの活躍と取りこぼしを丁寧に拾っていくスディーとポイホイサンのおかげで、ヌテリアの出番すらも全くなかった。


スディーたちは順調に魔王軍の領土からモンスターを駆逐していった。


かなりの領土でモンスターを倒したころスディーたちの進路上に黒い点が見えた。近づいてみるとそれは翼の生えた魔物だった。それとドラゴンもいた。スディーのブラックストームの5倍はあろうかという大型のファイアードラゴンだ。


「お前らだな。魔王様にたてついて、我らの眷属を殺しまくっているのは」


翼の生えた灰色の魔物は身を震わせ豚のような顔で憤慨しながら言った。


「だったらなにかしら?」

ヌテリアは何も問題ないだろうという風に聞き返した。



「殺す」


翼の生えた魔物は爪をむき出しにして襲いかかってきた。


グゥルウウガァアア


巨大なファイアードラゴンは咆哮を吐くとスディーたちの乗ったブラックストームに火を吐いた。


ヒュゴー


グワー


バチ ドォオン


とっさにブラックストームはサンダーブレスを吐いて巨竜の吐いた炎と相殺させた。



ヌテリアは翼の生えた魔物の攻撃をヒラリと箒で躱して言った。

「いきなり仕掛けてくるなんて無粋ね。名前くらい名乗ったらどうかしら」


翼の生えた魔物は空中で向きを変えて再びヌテリアに襲い掛かった。



「聞いて驚け、我は魔王軍幹部が一人、翼のネルギコス! お前らが最後に聞く名前だっー」


ネルギコスは再び勢いよくヌテリアに襲い掛かった。しかし再びヌテリアはその攻撃をヒラリとかわした。



グゥルウウガァアー


ヒュゴー


ヒュゴー


ブラックストームはファイアードラゴンから吐き出される炎を躱しながら高度を下げて行った。


「あのドラゴンは私がやる。皆は降りてくれ」


スディーのブラックストームが地上スレスレを飛んだとき、シノップとポイホイサンはブラックストームから飛び降りた。ポイホイサンは振り落とされそうになった茂助をキャッチして着地した。


ポイホイサンは手荒い着地のさせ方だと思った。


再び上昇したブラックストームはスディーを乗せたままファイアードラゴンの近くまで行った。


「今度はこちらの番だ」

スディーはブラックストームを操りながら機敏に攻めていく。


敵のドラゴンの吹く炎を躱し、代わりにブラックストームのサンダーブレスを浴びせた。


バチバチ ドゥオ ドォワー


グギャー


ファイアードラゴンは悲鳴を上げた。


「くらえっ」

スディーの刺突の槍でファイアードラゴンを突き刺した。


グギャー


しかしファイアードラゴンも反撃を試みる。再び火を吹いた。


ヒュゴー


「ぐ」


ブラックストームとスディーは炎に包まれたが、空中をひねりこんで炎から脱出する。


そこへファイアードラゴンの爪が襲い掛かる。


スディーはその爪を槍ではじいて攻撃をいなした。



バチバチ ドゥオ ドォワー


ヒュゴー ヒュゴー


ドラゴン同士の激しいブレスのぶつけ合いだ。


遠くから見ている茂助には、そのぶつかりあったブレスの爆発が花火のように見えていた。


茂助にはどちらが優勢なのかはわからなかった。



ヌテリアの方は次々と襲い来る爪攻撃をヒラリとかわし、羽を連射する攻撃には防壁を張り、ネルギコスの魔法攻撃は何故かヌテリアの前で消えていた。


ポイホイサンは地上から風の斬撃を飛ばしてネルギコスを狙った。


「はっ、せやっ、とうっ」


ネルギコスはポイホイサンの攻撃をかわした。


ポイホイサンはさらに地上から連続して斬撃を飛ばした。


ネルギコスはさらにその攻撃をかわし続ける。


「ちっ、邪魔なやつだ」


ネルギコスはヌテリアへの攻撃をやめ、ポイホイサンたちの方へ羽の攻撃をした。


「ひえー」

茂助は頭を抱えてその場にうずくまり、シノップは後ろへ飛びのいた。


ポイホイサンは渦巻状の風をネルギコスに向けて放ち、飛んできた羽攻撃をすべて吹き飛ばして見せた。


「ぬうん」



「小癪なぁ」

ネルギコスは怒ってポイホイサンの方へと向かった。


その後ろにいたヌテリアはネルギコスを逃がさなかった。

「私に背を向けるなんて、侮りすぎよ」


そう、ヌテリアはネルギコスにまだ攻撃をしていなかったのだ。ヌテリアが目立つためにスディーとドラゴンの決着を待っていたのだ。


しかし、ヌテリアを目の前にして、他の獲物へ襲い掛かる愚行をヌテリアは見逃さない。


「ヘルファイア・ロード」


ヌテリアの掌から放たれた地獄の炎がネルギコスを焼いた。


ギャーーーー


ネルギコスの断末魔とともにその身は消滅した。


「よぉ、世界一の魔法使い、ょょよおっ!」


茂助はヌテリアがネルギコスを倒すところを見逃してはおらず、一生懸命に囃し立てた。


ポイホイサンも、シノップも驚きの表情だ。魔王軍の幹部をこうも簡単に、それも一撃で仕留めるなんて。何かの間違いじゃないかと自らの目を疑った。


ヌテリアは、スディーには加勢をせずにポイホイサンたちのところへと降りてきた。


「まったく、私一人で相手をしているのだから、余計な手出しは無用だったわよ」

ヌテリアは不満げな意思をポイホイサンにぶつけた。


「いやぁ、それは…すまなかった」

ポイホイサンはどうしていいかわからずに、つい謝ってしまった。



「後はあの人だけね」


「すぐに助太刀を…」

ポイホイサンが剣を構えたところをヌテリアが遮った。

「だめよ。一人でやらせるのよ」


「しかし」


「今のところ特別不利というわけではないわ。本人が一人でやるといった以上他人の手出しは邪魔になるわ。それに、あの程度倒せないようでは、先は長くないわよ。それはあなたも同じではなくって?」

ヌテリアはポイホイサンたちを止めた。


ポイホイサンは理解して納得した。自分がやるといった相手に仲間からいらぬ助太刀をされれば、自信の誇りは傷つくだろう。手出しせず信じることもチームワークなのだとポイホイサンは悟った。



バチバチ ドゥオ ドゥオ


ブラックストームのサンダーブレスが何度か巨大なドラゴンに命中し、スディーの刺突の槍の攻撃も合って、敵のファイアードラゴンは徐々に弱ってきたようだった。


ヒュゴー ヒュゴー


巧みにブラックドラゴンは身をくねらせ、ファイアードラゴンの攻撃をかわしていく。


バチバチ ドゥオ ドゥオ


ギャーーォ


ヒュゴー


ドーーーン


「でかい的は不利でしかない」


スディーはブラックストームのアクロバット飛行で逆さまになりながら刺突の槍で、ファイアードラゴンの翼を突いた。


「はっ」 「せっ」


スディーは刺突の槍で胴体や頭といったところを次々と突いた。


「固いやつだ。でかいだけのことはある」


ヒュゴー 


ブラックストームはファイアードラゴンの炎をかわした。


ブオォ ドゥオ


ブラックストームのサンダーブレスがファイアードラゴンに直撃した。


ブラックストームは勢いを増してファイアードラゴンとすれ違った。


すれ違いざまにスディーはファイアードラゴンの右目をついてつぶした。


ギョアアーー


「もう一撃だ」


ブラックストームは勢いよく旋回すると、ファイアードラゴンに向かって突進した。


「行くぞっ」

スデイ―はブラックストームに話しかけた。


二匹のドラゴンは勢いを増してお互いに突進していく。


ヒュゴォオォ


「うぉおおお」


ブラックストームとスディーはファイアードラゴンの吹いた炎の中を突き進む。


「いやぁーー」


スディーの刺突の槍はとうとうファイアードラゴンの頭を貫いた


ギョォォオオアアアアア


ファイアードラゴンは断末魔を上げて死んだ。そして地面に向かって落ちて行った。


「よぉ、天下一のドラゴンライダー。スディーの旦那。よぉ、ブラックストーム、ドラゴンいち


茂助はパチパチと拍手を送りながらすスディーとブラックストームを褒めたたえた。


スディーはブラックストームをあやつり、地面に降り立った。


「よくやったわね」

ヌテリアはパチパチとスディーを褒めたたえた。


「あなたも達も一応はいいわ」


ヌテリアは戦ったポイホイサンとパッシブでバフ効果のあるシノップについては特に咎めなかった。


ヌテリアは茂助の方を向き直り、近づいて行った。

茂助はドキリとした。


「あなたは、本当に役に立たないわね。いっそ本当に太鼓でも持ってみたらどうかしら?」


ヌテリアは茂助にはお怒りのご様子だ。


「へぇ、申し訳ありやせん」


茂助は申しわけなさそうな素振りをした。



「魔王軍の幹部を討ち取るとは、大した腕前だ。やはり是非とも私の妃になっていただきたい」


ポイホイサンはまたその話だ。


「その話は、今日は終わりよ」


ヌテリアは結婚など興味ないと言いたげであった。



その後もスディーたちは雑魚のモンスターを見つけては駆逐していった。


この日スディーたちはかなりの数のモンスターを討伐した。そしてドラゴンと魔王軍の幹部を1匹倒したのであった。


大戦果である。


ネオ人材派遣会社田中マックスに帰ってからの清算ではかなりの額が期待できるはずだ。



「本日も皆さまお疲れさまです」

受付係のミーユはスディーたちにねぎらいの言葉をかけた。


「それでは本日の成果を確認いたしますね」



「まずはスディーさんモンスター876とファイアードラゴンですか、すごいですね」


「いょっ」

茂助は成果確認を盛り上げてきた。


「続いてポイホイサンさん92匹ですね」


「よぉっ」


「ほとんど討ち漏らしを拾うくらいしかやることがなかったからな」

ポイホイサンはうち漏らしを処理する係でなければもっとモンスターを倒せたと言いたげだった。


「ヌテリアさんは1、ですが、魔王軍の幹部を倒すなんてとんでもない大戦果ですよ」


「べつに大したことないわよ」

ヌテリアは普通に言った。


「またまたご謙遜を…」

ミーユはヌテリアが謙遜していると思った。


「でももっと褒めたたえていいのよ」

ヌテリアはいつも自信満々だ。


「よぉ、日本一、いや世界一」

茂助はここぞとばかりにヌテリアを褒めたたえた。



「シノップさん12匹」


「いよっ」


「囃し立てられるほどの数ではあるまい。いっそ飛び道具でも持ってみようか」


「まぁバッファーなんてこんなものね。討伐数があるだけ仕事はしてる方じゃない?それに」



モンスターを倒した場所に印をつけてモンスターよけの結界を張っていたのは実はこの男だったのだ。


「まぁ他にも仕事をしてたようだしいいんじゃないかしら?」


「茂助さん、0…ですね。何しに行ったんですか?」


ヌテリアどころかミーユにも言われてしまった。


「へぇ、へぇ、何しにいったんでやしょかね?」

茂助は自分でもわからないというもの言いだ。



「それでは報酬はどのようにお分けいたしましょうか」


「どのような方法でも構わないが、私の取り分は彼女に渡してくれ」

とポイホイサンは言った。


「王子小ずるいですぞ、それならば私の分も彼女に差し上げます」

シノップもこれに続いた。


ミーユはこいつら何言ってんだという顔でスディーの方を見た。スディーは無言で大きくうなずいてから口を開いた。

「むろん、私の分も彼女にだ」



「それじゃあっしの分も…」

「あなたの分なんて最初から無いでしょ」

ヌテリアはピシャリと言った。


「は…はあ、それでは皆様の分を全部ヌテリアさんにお渡しするということでよろしいですね」


皆はああとうなずいた。


「それではヌテリアさんへの報酬は、24億6538万3600円です。


「あら、みんなありがとうね」


ヌテリアは上機嫌だ。


ミーユは今日の様子を見て、ほんの少しだけ冒険者になってみようかなと思ったがすぐにやっぱりそれは無いと思った。


「まぁ、人間界の領土がいくらか戻って、魔王軍の幹部が一人減って、お金もまあまあ稼げたし、悪くはなかったわね」



茂助はヌテリアが受け取ったお金を物欲しそうに見ていた。


皆は解散してそれぞれのねぐらへと帰って行った。


スディーは故郷奪還のためにヌテリアという人材を見つけられたことを幸運に思った。ヌテリアに渡されたスディーの分の報酬もスディーの故郷を取り戻すための先行投資と思えば高くはない。


ポイホイサンは、はじめて自分の衣装について考え始めるきっかけとなった。


シノップは、大規模な集団戦以外ではあまり力を発揮できないとわかったし、茂助は戦闘員以外の新たな道を探し始めることとなった。


ヌテリアは当然お金を得た。


ネオ人材派遣会社田中マックスも魔王軍幹部の撃破を行える人材がいるという評判が広がり、魔王軍との戦いではさらに仕事が増えるだろう。


今日の冒険は皆にとって良い結果であった。




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