第14話 エイダンの勇姿

魔族は何故人間を襲うのか?

魔族は人間を殺すことに快楽を得ているからだ。

魔族は人間の痛みや苦しみを糧としているからだ。

魔族は人間を食うからだ。



およそ17年前のある日、マッカサスの町ソモドラで日常の風景があった。都市の周りは低いへいで囲われ街は人でにぎわっている。どこにでもある普通の街だ。



そこに一組の男女がいた。お腹の大きなもうすぐ臨月を迎える女性と、その配偶者の痩せていて、どこか細長い印象を与える男だ。

女はいつものように街を歩き、数日分の食糧と生まれてくれる赤ん坊のための品物を買うために、男と市場へと向かっていた。


空は雲一つないいい天気だった。


「今日はシチューにしましょう。材料をいっぱい買いましょう、らんらん♪」


女はとても上機嫌で今夜の夕食のシチューの材料を見て回った。


「かわいい。お芋さんを見つけたわー。捕獲ぅ」


その芋は今夜のシチューの具材として捕獲された。男はその様子をほほえましく見守っていた。


「クライス、あまり無理しないようにね」

男は女の身を気遣って言った。


「セナア平気よ。なんてことは無いわ」

クライスはセアナと呼ばれた男の言葉を真剣には受け止めなかった。


「牛乳も買いましょう、らんらん♪」


二人は市場で買い物をして回った。


「さー、新鮮なリンゴだよ」


「素敵なアクセサリーはいかがかな?」


「魚が安いよぉっ!」


「牛、牛だよー」


ブモー ブルルル


市場には活気があふれていた。



この町は平和そのものであった。



しかし、その街にリザードマンの群れが目前まで迫っていた。


リザードマンたちはへいを乗り越えると町の中へと次々と侵入していった

。全部で7匹だ。


このような低い塀では身体能力の高い魔物の侵入は防ぐことができない。


もとより、このあたりはモンスターなどめったに出ない地域だ。本来高い塀も必要無ければ、モンスターよけの結界もない。


「餌だ、食い尽くせ」


リザードマンの内一匹がそう言った。


リザードマンは人間を食う。殺した人間を持ち帰って丸焼きにする場合がほとんどだ。


「モンスターだ、モンスターがいるぞ!」

リザードマンを発見した男は大声で叫んだ。


ビュシ


リザードマンが投げた手斧はその男の頭に刺さった。男は血を流して死んだ。



男の死とモンスターの侵入に気づいた市民は、悲鳴を上げて逃げ惑う。


わぁぁあああ、きゃあああ


リザードマンは上半身だけ鎧を着て、手には手斧や剣や盾を持っている。そう言ったものが逃げ惑う人々を追いかけて背中から斬りつけていった。


ザクー


「ぐわぇっ」


グサー


「ギャッ」


ビシュッ グサー


「うっ…」



投げた手斧を拾うリザードマンのその手斧からは今殺した人間の血が滴り落ちている。



「やめろーそこまでだー」

町の衛兵が3人やってきた。


しかしリザードマンたちは人間の言葉など解さないと言わんばかりに衛兵たちに襲いかかった。


先頭に立った衛兵は剣を抜いて切りかかった。リザードマンはそれを盾で受け止め持っていた剣で反撃した。


手入れの行き届いていない、ボロの剣で鎧を刺されたのでまだ死んではいないが深い傷を負った。


「うぐ」


衛兵は血を流しその場に倒れ込んだ。


2番目の衛兵は槍を持っている、相手は手斧や剣だ。リーチに差がある。二番目の衛兵は倒れた衛兵をかばうように牽制しながら戦っている。相手もバカではないらしい、無理に突っ込んでくることはない。


「くそっ、数が多い」


3人目の衛兵も剣先でリザードマンたちに牽制しているが、リザードマンたちは7匹いる。徐々に包囲を狭められて衛兵たちは窮地に立たされた。


ビュシ


ザク


「ぐわぁぁぁぁ」


リザードマンが投げた手斧が槍を持った衛兵の胸に刺さった。そして飛びかかってきた次のリザードマンの剣に首を刺された。


ザク


「おまえで最後か?」


リザードマは流暢にことばを話し、最後の衛兵に尋ねた。


「死ねー」


やぶれかぶれでリザードマンに襲い掛かった最後の衛兵はリザードマンに届く前に横からの別のリザードマンから剣に刺されて絶命した。


ザクー


まだ生きている倒れた衛兵もとどめを刺された。



きゃぁぁぁあ


「逃げろ、逃げろ」


リザードマンたちは次々と町の人に襲い掛かり、人々を殺していった。


逃げ惑う人々が刺されて死んだとき、飯屋の鍋に倒れ込みその火がもとで町は燃えだした。




エイダンは休暇にマッカサス王都から離れて、鍛冶屋に新たな剣を受け取りに行く途中の道で燃え上がるソモドラを目撃した。


「火の手が上がっている。急がねば。はっ!」


エイダンは馬を駆けて町へと急いだ。


その間もリザードマンたちによる狩りは続いた。



エイダンが町に着いた時生き残っている人間は半分以下になっていた。



セアナとクライスも、リザードマンに襲われまいと町の端の方へと逃げていた。


しかしリザードマンたちは次々と人を殺め、こちらへと迫ってくる。


二人は道をまがってはっとした。行き止まりだ。


「ほら、早く逃げるんだよクライス」


セアナはクライスを壁を登るよう急かし自身もその後を追おうとした。


しかしクライスはうまく壁を登ることができない。


ビシュ


グサ


リザードマンが放った手斧がセアナの肩口に刺さった。



「ぐぁぁ」


大量の血が吹き出していた。


リザードマンたちが迫ってくる。


クライスはセアナの傷を押さえながらもうダメかと思った。


ゆっくりと近づいてくるリザードマンが残り1mに迫った。


リザードマンは剣を掲げてクライスとセアナに飛びかかった。


その時だった


ビシュッ


向こうからエイダンの投げた剣がそのリザードマンの胸を貫いた。


「ギョアーー」


リザードマンは怒りをあらわにして一斉にエイダンの方を振り返った。



「間に合ったようだな。そこでじっとしていろ」


エイダンはでかい声でクライスとセアナに話しかけた。しかしセアナはすでに返事などできる状態ではない。



「あいつを殺せー」

リザードマンはそう言ってエイダンの方に走った。他のリザードマンもそれに続いた。



エイダンは近くにあった薪割用の斧を拾うとリザードマンたちに向かって突進した。


「うおぉおおお」


「そいっやっ」

エイダンは飛びかかってきたリザードマンに斧を降り下ろす。


盾を構えたリザードマンの盾に斧が食い込みそのまま地面に打ち倒す。


斧の刃はリザードマンの盾を貫通しリザードマンを仕留めていた。


「残り5」


次々とやってくるリザードマンたちをエイダンは斧で切り倒していく。


飛びかかってきたヤツを横から。走り込んできたヤツを真っ縦に一撃。



「残り3」

ビシュ


飛んできた手斧を斧で打ち返した。しかしさすがに斧同士だ、変な方向に飛んでいった。


「うまく飛ばねえもんだな」

エイダンは剣があればうまく打ち返せたとでも言いたげた。


その隙をついて後ろからリザードマンが襲い掛かる。


しかし隙なんてなかった。


後ろから来たリザードマンの剣が降り下ろされるより早く、エイダンは振り向きざまに斧で一撃。


リザードマンは致命傷を受けてそのまま遠くへ吹っ飛んだ。


「残り2」


リザードマンはエイダンを挟み撃ちにしようと左右に展開した。そして最後の2匹はエイダンの左右から同時にかかった。


エイダンは身を屈め攻撃をかわしながら、伸びあがりながらの回転切りで、最後の2匹も真っ二つにした。




「こいつはなかなかいいな」


エイダンは斧が気に入ったようだ。


エイダンはクライスとセアナに近づいて行った。


「よぉ、あんたたち、まだ生きてるな」


「ひどい怪我だな、これを使え」


エイダンはクライスにポーションを渡した。


クライスはポーションの蓋を開けると、急いでセアナの傷口にかけた。


「う、ぐぐう」


セアナは立ち上がろうとしたがエイダンはそれを止めた。


「まだ、動くな」


そう言ってセアナを地面に寝かせた。


「ありがとうございます」


とクライスは涙ながらに言った。


「礼はいい。後だ。俺は他にもモンスターがいないか確かめてくる。安全な場所に隠れていろ」


エイダンは最初に投げた剣をリザードマンから引き抜くと。自らの鞘にしまった。


エイダンは他にもモンスターがいないか町を回ってみたが、幸い他のモンスターはいなかった。


戦いは終わった。



生き残った人間たちもいたが、町の半分以上は死んだ。


エイダンは悔やんだ。


「俺がもっと早く来ていれば」


しかし、それとて生き残った人間にとってはただの幸運だった。


たまたま、エイダンが通りかからなければ町の人間がすべて死んでいただろう。


「あなたのせいではないわ。あなたのおかげで助かったの、私も主人も、そしてこの子も」


エイダンは新しい命を助けられたことは少しだけ喜んだ。





「これが、エイダンとお母さんが出会ったときの話よ」


クラスアはそう話した。


「その後エイダンとお母さんは仲良くなって、よくエイダンはうちに遊びにきたわ。エイダンが斧を使い始めたのはこの事件がきっかけよ


「私にとってはよく知った仲なんだけど、父親ぶってくるところがたまにやっかいなの」


「本当のお父さんとお父さんみたいな人がいるってことがですか」

聞き役のミーユ質問をした。


「違うわ。本当のお父さんはその半年後くらいに病気で死んだの。だから私は本当のお父さんのことを覚えてないのよ」



「そうなんですか」

ミーユはちょっと申し訳ないことを聞いたかなという顔をした。


「エイダン、カッコいいよね」

クラスアは急にエイダンを褒めた。



「カッコイイ、ですか」

ミーユは困惑して聞いた。

「こないだ、死にかけていた人ですよね? おじさん趣味なんですか」


「ひょろっこい子供よりはいいわよ」

クラスアはむっとして答えた。


「はあ…」

ミーユはあいまいな返事をした。


「ところでエイダン達、そのうち登録に来るって言ってたんでしょ? いつ来るか聞いてる?」

クラスアは楽しそうに聞いた。


「いえ、聞いておりませんが」


「なーんだ、それは残念、エイダン達が来た時は教えてね、タイミングが合えば会って話をしたいの」


「はい、かしこまりました」


「それじゃ討伐に行ってくるね」


こうしてこの日のクラスアとミーユの会話は終わった。


今日わかったのはクラスアはおじさん趣味だということだった。

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