第13話 ダンジョンに宝箱を置くアルバイト募集

ネオ人材派遣会社田中マックスの休憩所でRin・Feeりんふぃーの三人が話していた。


「そろそろダンジョンに行こうよ」と町田美樹は提案した。


「ダンジョンって何をするところなの」と幡ゆり子は聞いた。


「ダンジョンは、モンスターを倒したり、宝箱を探すところだよ」と関口かおりが答えた。


「モンスターならダンジョンじゃなくてもいるよ」と幡ゆり子はできれば危ないモンスターには会いたくないという風だ。


「じゃあダンジョンって宝箱を探すところだね」と町田美樹と嬉しそうに言った。


「人が入ってるダンジョンってもう宝箱なんてないんじゃないの?」と関口かおりは疑わしげに言った。



「じゃあ、宝箱を置きに行こうよ。ほらこれ、ダンジョンに宝箱を置くアルバイト募集だって」


町田美樹は”ダンジョンに宝箱を置くアルバイト募集”のチラシをひらひらと振ってみせた。



「それって危なくないのかな?」と関口かおり。



「ハーミンさんは最初は雑魚モンスターをとにかく倒せって言ってたよ」と幡ゆり子。


「ダンジョンに宝箱を置くだけだからきっと安全だよ」と町田美樹は安易な予想をした。


「美樹ちゃん裏側に何か書いてあるよ」関口かおり。


「裏側なんてあったんだ、見てなかった」

町田美樹ははじめて知ったという顔をした。


「こういうのは大切なことは裏側に小さく書いてあったりするんだからちゃんと読まないとだめだよ」と幡ゆり子はたしなめる様に言った。


「えっとなになに、ダンジョンに宝箱を置くお仕事は自力でダンジョンを突破できる方に限ります。様々なダンジョンがあるので様々なランクの冒険者を募集します。当然のことながら、ランクに合わない高難度ダンジョンの仕事は受けられませんのでご注意ください。だって」

文章を読んだ町田美樹はいけるという顔をしていた。


「美樹ちゃん、私たちはまだダンジョンに入ったことは無いよ。自力でダンジョンを突破できる方じゃないから、そのお仕事は受けられないよ」と関口かおり。


「そっかー、かおりちゃんがいうならそうだねー。残念またの機会にこれは取っておこう」と町田美樹


「みきちゃん冒険者にはこういう格言があるんだよ。”成長を近道したがるやつはすぐに死ぬ”」幡ゆり子はこの界隈で有名な格言を教えてあげた。


「死ぬのはやだねー。地道にモンスター退治でもやろうか。今日はゴブリンとコボルドとスライムどれがいーい?」

町田美樹は二人に今日の獲物を聞いてみた。


「私はどれでもいいかな」と関口かおり


「でもそろそろゴブリン以外も倒してみたいよね」と幡ゆり子


Rin・Feeの三人はアイドルの仕事の合間を見つけては、ちょっとずつゴブリンを退治して、全員がレベル4になっていた。


「それじゃあ、じゃんけんで決めようか」と町田美樹は握りしめた拳を見せながらそう言った。


「私が勝ったらゴブリンで、かおりちゃんが勝ったらスライムで、ゆりちゃんが勝ったらコボルドね」


わかったと二人はうなづいた。


「いくよ、じゃん、けん、ぽん」


町田美樹と幡ゆり子はチョキを出して、関口かおりはグーを出した。行き先はスライムに決まった。


「よーし今日はスライム狩りだね」町田美樹は張り切った。



「スライムのいるところを調べなくっちゃ。それとスライムが本当に初心者向けのモンスターかどうかもね」

関口かおりは現代型の携帯電話で調べ始めた。


「毒とかあるなら解毒剤も用意しなきゃだね」

幡ゆり子は鞄の中の毒消しの数が少なくなっていることに気がついた。


「スライムは初心者でも大丈夫だって。でもスライムの変異種は初心者には危険だってさ。見分け方は色だって」と関口かおりは今調べた情報を伝えた。


「それからそれから」町田美樹はせかすように言った。


「口や鼻をふさがれると危険だけど洞窟や森なんかで上から落ちてこないかよく注意するようにって。それから毒のあるスライムもいる場合があるが初心者が行ける場所ではまずいないんだって」


「うんうん」と幡ゆり子。


「あとは足が遅いから危険なら逃げればいいって。備考:一部例外もあります」

「刃物で戦うには強い相手ですが、炎で蒸発させるか、電気分解などで簡単に倒せるので、初心者の魔法使いの相手に向いてますって書いてあるよ」


関口かおりが説明を終えると町田美樹はどうしようか考えた。

「いるのは松明かなぁ。剣が効かないなら私は何をすればいいんだろう?」


「それでいいんじゃない?」と幡ゆり子は気軽に言った。


「スライムがいる場所で私たちが行けそうなのは、初心者用のダンジョンだって。いろんなところにあるみたい」

と関口かおり


「結局ダンジョンに行くことになるんだね」と幡ゆり子


「どこにしようか」

関口かおりは二人に問いかけた。


「とりあえず一番近い所でいいんじゃない?」

と町田美樹


そうだねと二人が同意して行き先は決まった。





「ありがとうございました。またの機会をお待ちしております」


ミーユは業界全体でちょうど100万人目、今月に入って136人目の自称織田信長の転生者に転生チェッカーを使って信長の転生者ではないことを伝えて帰ってもらったところだった。


有名歴史人物の転生者や転移者もこの業界にはいるにはいるが本人の数が1しかないなら転生者か転移者の数も当然1しかいない。

普通に歴史的に名の通った転生者や転移者はレアな存在なのだが、なぜだか織田信長の転生者と名乗るものは後を絶たない。


ちょうど100万人目なら何かプレゼンとでもあげればよかったかなと後でちょっとだけ後悔した。


ミーユは疲れたなと思って一息つこうとした時、ドアの外に冒険者の気配を感じた。


トントン


ドアがノックされた。


どうぞとミーユは招き入れた。


「やぁ」

やってきたのはノイフェだった。


「こんにちはノイフェ君、今日は何の御用ですか?」


「この前のひな祭りでクラスアに勝てなかったからもっとレベルを上げて強くなりたいんだ。強いモンスターの討伐クエストは無い?」


「今は無いですね。一番難易度の高そうなクエストならダンジョンに住み着いたモンスターをお掃除してもらって宝箱を置いてくるお仕事ならあります」


「どんなモンスターを倒せばいいの?」


「わかりません、出会ったモンスターすべて倒しちゃっていいです。危険かもしれないし、簡単に終わるかもしれません。危険なモンスターがいる可能性を考慮して、それなりの冒険者を募集しています」


「わかった。それをやるよ」

ノイフェはクエストを承諾した。


「それでどこに行けばいいの?」

ノイフェは一人でやる気だったが、ミーユに止められてすぐには出発しなかった。


「ノイフェ君、クエストはパーティーでやらないと危険かもしれません」


しばらくノイフェが待っているとミーユはラールスゥを連れてやってきた。


「やあ、少年よろしく頼む、私の名はラールスゥという」

ラールスゥはノイフェに挨拶をした。


「やあ、僕はノイフェだよ」

ノイフェは挨拶に答えた。


まだ人数が少ないのですし、今日集まるとも限りませんから今日は帰ってもいいですよとミーユは言っていたが、ノイフェたちはその場で待つことにした。


受けたいクエストにいつも人手が集まるとは限らない。集まりが悪ければその日は解散するということも結構あるのだ。


ラールスゥはノイフェに話しかけた。

「やあノイフェ君、君は何故今日の仕事を受けようと思ったのかな?」


「僕は勇者なんだ。魔王を倒すために強くなきゃいけないんだけど、こないだのイベントでクラスアに勝てなかったんだよ」

ノイフェは悔しい出来事を思い出した。


「だから僕はもっと強くなるためにモンスター討伐のクエストを受けようと思ったんだけど、討伐のはすぐには無いって。それで代わりにこのクエストをすすめられたんだ」


「なるほど、魔王を倒すためか…。昔は私もそう息巻いていたこともあったなあ」

ラールスゥは遠い過去を懐かしむようにゆっくりと顎を上げた。


「おじいさんは強いの?」


「昔はまぁまぁ強かったぞ」

ラールスゥはつい笑みがこぼれてしまった。


「どんなのを倒したの?」


「そうさな、昔は魔王を何度か倒したことがある」



「へぇ、すごいね。どうやったの?」

ノイフェはラールスゥの過去に興味を持った。


ラールスゥは世界が重なる前から魔王のいる世界で冒険者をやっていたようだ。

それも魔王が沢山いる世界で。


「そうだな、魔王はただ強ければ倒せるというものでもない」

ラールスゥは自分のあごを撫でながら思い出した。


「強さはもちろん必要だが、それ以外にももっと重要なものがある」


「それは何?」

ノイフェは食い入るように顔を見た。


「それは……」

ラールスゥはひどくもったいぶって言った。

「心だ」


「心?」

ノイフェにはわけがわからなかった。


「魔王は人の心の弱い部分につけこんでくる。これは周知の事実じゃな。しかし強い心を持つことだけではまだ足りぬ」

ラールスゥの話は核心にせまる。


「魔王は人間の苦しみ、怒り、憎しみ、悲しみ…人間の負の感情を己の力に変える。それらを持ったままでは魔王を倒すことはできぬ。魔王をもっと力づけるだけとなろう」


「じゃあどうすればいいの?」

ノイフェは頭を悩ませた。


「無我の境地だ。何事にも動じない心を持てば、魔王に付け入られることはなくなる。そして魔王に力を与えることもない」

ラールスゥはついに核心に触れた。


「心に希望を持っている者も魔王と戦うことはできるが、魔王はそういう者により大きな絶望を与えて希望を挫く。それは魔王の前で最も不利になる感情だ。無我の境地であればそのようなことはない」

ラールスゥはノイフェに諭すように話した。ノイフェは理解した。


「どうやれば、無我の境地の心を持てるの?」

ノイフェはそれさえあればという顔をしていた。


「修行だ」

ラールスゥは簡潔に答えた。


「その修行のやり方を教えてよ」

ノイフェはラールスゥにお願いした。


「それは…」

ラールスゥが言いかけたとき、部屋に赤い服と魔女帽子のすごい美人で黒髪ロングでハイヒールの女性が入ってきた。


「ノイフェ、ここにいたの? 探したわよ」

女性は両手を腰に当てて胸を張っている。(とても大きい)


「ヌテリア、何か用?」


ヌテリアと呼ばれた女性はノイフェに答えた。


「何か用? じゃないわよ。ノイフェがこの会社に登録して、いつ誘ってくれるのかと待っていたらいつまでたっても誘ってくれないじゃない。傷ついたわ」

ヌテリアは全く傷ついていなかった。ヌテリアのおふざけだ。


「この会社で募集してたのは勇者だよ。ヌテリアは勇者じゃないから呼ばなかったんだ」


「それはその日だけでしょ。他の日は冒険者を募集してたわよ」


「そうだったの? ごめん」

ノイフェは申し訳なさそうにヌテリアにあやまった。



「いいわ許してあげる」


「うん」



「それでこの人は誰なの?」


「ラールスゥだよ」


「名前を聞いているわけじゃないんだけど。まぁいいわ。それでそのラールスゥとパーティーを組んでどこへ行くつもりなのかしら?」


「ダンジョンに宝箱を置くアルバイトだって」


「なんでそんなことをやってるのかしら? ノイフェの実力ならモンスターでも倒した方がよほど稼げるでしょう。お金でも、経験値でも」

ヌテリアは不思議で仕方ないという風だった。


「討伐クエストが今は無いって言われた。このクエストなら強いモンスターが出るかもしれないんだって」


「そう、そういうことなら、ま、いいわ。ノイフェの好きにしなさい。特別に私もついて行ってあげるわ」


「ありがとう」

ノイフェは感謝の言葉を述べた。


「こちらの方は冒険者なのかい、少年」

ラールスゥは普通に聞いた。


「僕はノイフェだよ。ヌテリアは魔法使いだよ」


「なるほど戦えるようだな。後の人間が来るかどうかわからないが、その人も一緒に待つのかい?」


「私は待たないわよ。私がいれば他の人間なんていらないわ。それどころかそのくらいのクエストなんてノイフェ一人で十分なくらいよ。さ、ノイフェすぐ出発するわよ。そちらさんもご一緒するならもう行くわよ」

ヌテリアはいつでも自信満々だった。


「わかったよヌテリア」

ノイフェは立ち上がってヌテリアと部屋を出て、転移門がある部屋に向かった。


ラールスゥはこれに続いた。



「本日は、どっ…」

なんだこの美人は。転移門の門番は言葉を失った。


「何かしら?」


「どどどどちらに?」

転移門の門番はしどろもどろだ


「ダンジョンならどこでもいいわ」

ヌテリアはやや前屈み右手の人差し指を口の横に当て、左手を腰に当てるポーズで話した。


「どどどどこでも? どこでもと言われましても」


「強いモンスターがいるダンジョンよ」


「そそそそれはいいったいどちらに?」


「ダメね。気が利かないわね。女性がに行き先を任されたらすぐに案内できなくっちゃ」


「もういいわ…。ノイフェ」

ヌテリアは話題をノイフェに振った。


「バッヘン界の”北のダンジョン”」

ノイフェはすぐに答えた。


「いいわね、まずはそこから行きましょう。あなたもそれでいいわね」


ああ、とラールスゥもそれに同意した。


「ででででは、バッフェン…バッヘン界の北のんダンジョンにつ、つなぎます」


三人は宝箱を預かって転移門をくぐってバッヘン界へと向かった。


門番がうまくしゃべれなかったのはヌテリアが美人過ぎたせいだ。仕方ないね。



バッヘン界の”北のダンジョン”にやってきた3人はそこに入る前に話し合いを始めた。


「ノイフェ、今日はいくつのダンジョンを回るつもり?」

ヌテリアはノイフェにそう聞いた。


「できるだけ、回るつもりだよ」

ノイフェは剣を抜いてその剣を確かめながら答えた。


「いくつと聞かれた時には具体的な数を答えるものよ」とヌテリア


「じゃあ10」


「私がいるんだから20は行けるわね。今日の目標は20か所以上のダンジョンよ。いいわね」

ヌテリアはいつも自身満々だった。


「わかったよ」

ノイフェは納得して承諾した。


「1日で20のダンジョンを回るとな? こりゃあなかなか忙しいことになりそうだ」


ラールスゥは片方の眉毛を上げて驚いてみせた。


ヌテリアはダンジョンの入り口の前に立った。


ヌテリアがダンジョンの入り口に手をかざすとダンジョンの中めがけて強烈な炎が噴き出した。


ゴゥ


ヌテリアの炎はダンジョン奥深くまで入り込み、モンスターを焼いた。そしてヌテリアはその炎によって、ダンジョンの形を覚えたのだった。


「ここのダンジョンはノイフェがわざわざ戦う意味のありそうなのは一匹だけよ。それは殺さずに残して置いたわ」

それ以外のモンスターは全滅した。ダンジョンの外から丸ごと焼き払うのがヌテリア流のダンジョン攻略法だ。いつもそうやってる。


「入りましょう」

ヌテリアたちはノイフェを先頭にダンジョンへと入って行った。



しばらく歩いてラールスゥはノイフェに声をかけた。

「少年、そこに罠があるぞ」


「うん、わかった」

ノイフェは答えた。


「二人ともちょっと下がってて」


ヌテリアとラールスゥは少し下がった。


ノイフェは罠を起動した。


ヒュヒュン


壁から日本の矢が飛んできてノイフェはそれを切り払って落とした。


「何をやっておるのだ」

ラールスゥは心底わからなかったので質問した。


「罠から身を守る訓練だよ。罠が発動しないと訓練にならないからね。ダンジョンの罠はできるだけ引っかかりながら進んだ方がいいんだ」


こんなこと言う人間ははじめて見た。


「人間はスリルを求めるモノよ。ダンジョンに人が集まるのもそれが理由よ」

これがヌテリアの言い分だった。


ラールスゥはこいつらはわけがわからないなと思ったが、ジェットコースターやお化け屋敷に喜んで行く人間たちのようなものかと一応の納得はした。


「おじいさん、他にも罠があったら全部教えて」

ノイフェはそういったがヌテリアはそれには反対のようだった。


「ノイフェ、罠の場所なら私が全部わかっているわ。だけどわかって罠にかかったらわからずに罠にかかった時より訓練にはならないわよ」

ヌテリアの教育方針はスパルタなようだ。


「うーんでも、僕は沢山の罠から身を守りたいし…それじゃあ、僕が見落とした罠だけ教えてよ」

ノイフェは困った末に答えを出した。


「だめよ。全部の罠にかかっている時間は無いわ。今日はダンジョンを20以上回るって言ったでしょう」

ノイフェの提案はだめだった。


「自分で罠を見つけられるようになりなさい。そうすれば好きなだけ罠にかかれるわよ。罠を見つけるのも訓練になるわ。今はまだノイフェが見つけられる罠は半分くらいよ」

とヌテリアは言った。


「わかったよ」

ノイフェは渋々承諾した。


「おじいさん、罠の場所は教えてなくっていいよ。僕が自分で見つけるから。おじいさんたちは危ないから罠は避けてね」

ノイフェはそう言うとまたダンジョンを進みだした。


次はノイフェは壁と床から槍の出てくる罠にかかった。


ジャンプして床の槍を切り、壁の槍を切り落とし安全に着地した。


その次の罠は大きな岩が落ちてきた。


「ふっ」


ノイフェは腹から息を吐くと一閃、岩を真っ二つにしてしまった。


ノイフェが罠にかかるたびにこのダンジョンの発動していない罠の数が減るわけだから、あとから来るであろう冒険者たちの安全のために多少なりとも貢献していると言えなくもない。


次の罠は毒ガスだった。皆は毒耐性など完璧なので何も心配はないが相手がガスではノイフェには特にやることもなかった。


このまま毒ガスを充満させておいては、未熟な冒険者が危険だと、ヌテリアがその毒を焼き払ってかき消した。



ダンジョンを進みながらところどころに宝箱を置いて行った。中身は空けてのお楽しみ。ノイフェたちも知らない。


ダンジョンに宝箱を置く仕事は、冒険者が中身を持って行ってしまわないように、信用の高い冒険者にしか受注をさせてくれない。あたりまえですね。



ダンジョンを奥に進みながら最奥近くまでやってきた。


「お待ちかねのモンスターよ」

ヌテリアは構えることもなくすべてをノイフェに任せるつもりだ。


ヌテリアが唯一殺さなかったモンスターがそこにはいた。


「ランダガだ。僕がやるよ。二人は手を出さないで」


ランダガは見た目は二首のラクダだが、背中のこぶは四つあり、右の首は火を吹き、左首はビームを吐くという、ただのラクダに見えて意外に強力なモンスターだ。動きも素早い。


「わかった」

ラールスゥは承諾した。ヌテリアは言うまでもなく当然という顔をしていた。


ノイフェは剣を抜いた。


フビー


ランダがの右の頭から火を吹いた。


フビー フビー


ふざけた見た目に反してランダガのレベルは高い。ただの炎ではない、当たれば大けがをする高レベルな炎だ。


フビー


ノイフェは左右に転がりながら炎を回避し、近づく隙をうかがっている。


しかし今度は左の頭からビームが飛んでくる。


ズビー ズビー ズビー


ノイフェはまた転がりながら攻撃を回避する。ランダガのビームは結構な連射速度だ。


「やぁっ」


ノイフェはランダガの首に切りかかるが、ランダガは素早く移動してこれを回避した。そしてまた炎とビームの攻撃だ。


フビー ズビー


「くっ」


ノイフェの顔ギリギリのところでビームを避けるっ。


ノイフェは右横に回り込むように動きながら背中を攻撃。


ザクー


今度は当たった。


ランダガもそちらに振り向きつつ首を回してビームを放つ


ズビー


ノイフェはそれを回避。


フビー


続けてきた炎攻撃にノイフェは少しかすってしまった。皮膚が焼ける。


ノイフェはひるまずランダガとの距離を詰めて後ろに回り込もうとする。


ランダガも後ろに回り込ませないようにクルクル回りながら火を吹きビームを放つ。


ノイフェは三度切りかかる


「やぁー」


ランダガの首を剣がかすめた。ランダガは素早く体重移動をして回避そして反撃の体当たり。


ドン


ノイフェは吹っ飛ばされつつも体を回転させて着地する。


一進一退の攻防だ。


ランダガが炎とビームを同時に放った。


フビー ズビー


「今だっ」


ノイフェはマントで二つの攻撃を遮りながら、ランダガに向かって跳んだ。


ノイフェのマントは以前にヌテリアからもらったものだ。魔法防御もすごく高い。


「やぁっ」


ノイフェの剣がランダガの右の首をとらえた。


ズバー


ランダガの右の首を斬り飛ばした。


「やっ」


ズバー


そしていわゆる返す刀でというふうに剣を戻す勢いでもう一つの首も斬り飛ばした。


戦いは終わった。ノイフェは勝利して剣を鞘へとしまった。ノイフェはレベルがアップした。



ヌテリアはノイフェの戦いを評価した。


「60点ね」


ノイフェは首を傾げた。


「敵の攻撃に当たったこと、マントに頼った勝利だったことよ。マントが無ければできない戦い方よ。マントが無い時はどうするのかしら? それが減点の理由よ」


「ヌテリアのマントはすごいんだよ。あるからできたんだ。無かったら他の方法でやったよ」

とノイフェは納得していないという対応だった。


「まぁ、勝ちは勝ちね。宝箱を置いたら早く次に行きましょう」


もちろんランダガの素材は取って行った。冒険者たるもの何も言わずともモンスターから素材を取るのは当然なのだ。だから清算の時に突然素材の話が出てきても、ド初心者以外は誰も驚いたりしない。


ラールスゥは持っている異次元袋から宝箱を取り出すと最奥の壁の前に置いた。



こんな調子でノイフェたちは本当に20以上のダンジョンを回った。


しかし上級者用のダンジョンなどは4つか5つくらいしかなくて、残りはノイフェたちには簡単すぎるダンジョンしかなかったが、ヌテリアが今日は20個回ると言ったからには初心者用のダンジョンだって回らなければならない。


それがヌテリアとチームを組むということだった。


ヌテリアはダンジョンの入り口で雑魚処理をする以外の戦闘はしなかった。

ラールスゥも戦闘せず、宝箱を置いて回るだけだったがラールスゥもそれでよかった。




22個目のダンジョンを回った時にノイフェチームの3人はRin・Feeりんふぃーの三人に出会った。


「やあ」

ノイフェは気軽に挨拶した。


ああ、ノイフェ君こんにちは、とRin・Feeりんふぃーの三人は答えた。


「ノイフェ君こんな初心者用のダンジョンに今日はどうしたの」と関口かおり。


「ノイフェ君初心者になったの?」とふざけて言うのは町田美樹だ。


「ていうかその美人の人は誰?」と幡ゆり子。


ヌテリアはなかなか分かっている子だと感心した。


ノイフェは一度に答えられない質問を浴びせられて少々戸惑った。


「ダンジョンに宝箱を置く仕事にきたんだ、これはヌテリアだよ。僕は初心者じゃないよ。勇者だよ」とノイフェは答えた。


「そうだね、ノイフェ君は勇者だね」と関口かおり


「その仕事の紙、私たちも見たよ。ダンジョンを攻略したこと無いからあきらめたけどね」と町田美樹。


「ノイフェの知り合いらしいけど、そちらは何をしているのかしら」


ノイフェの知り合いにしてはやけに低レベルなダンジョンにいるなとヌテリアは訝しんだ。


「そうだ、私たちRin・Feeりんふぃーっていう冒険アイドルグループで今日ははじめてのダンジョンにやってきてスライムを倒していたところなんです」

と町田美樹は説明した。


「冒険アイドル…」

それはなんだろうかとヌテリアは思ったが、名前からなんとなく察してそれ以上は深く追求しなかった。


「私は関口かおりって言います」


「私は幡ゆり子です」


「私は町田美樹です」


「私はヌテリア・ヴェルナリーよ」

ヌテリアも自己紹介に応じた。


「私はラールスゥだ」

正直誰も聞いていなかった。Rin・Feeの皆はノイフェとヌテリアに夢中だったからだ。


「ノイフェ君今日は忙しいの?」と町田美樹


「ここのダンジョンに最後の宝箱を置いたら終わりだよ」


「そっかぁ、それじゃあ、私たちがスライムをたおせるようになったところ見て行ってよ」町田美樹はそう提案した。


「わかったよ」とノイフェ


「やったー」町田美樹は嬉しさ爆発した。これが町田美樹の平常運転だった。




ノイフェたちは早々と宝箱を置き終わるとRin・Feeの三人のところへと戻ってきた。


「ほらいたよ、スライム」幡ゆり子はスライムを見つけたようだった。


「じゃあやるからね、ノイフェ君」


「うん」


「まずはタゲ取りからだね。いくよ」町田美樹は松明を使ってスライムをあぶった。


弱いスライムはすでに死にそうだ。スライムはネートリ町田美樹の盾の方へ伸びてきた。


練習どうり3人はしっかりとフォーメーションを意識して動いている。


「稲妻よ敵を撃て、サンダー」

関口かおりは雷の魔法を放った。スライムは電気分解されて死んだ。


「今日みんなでスライムを倒し続けて、たまにゴブリンもいたけど、みんなレベル6になったんだよ」と町田美樹。


「へえ、ヒーラーもちゃんとレベルが上がっているようね。よいパーティーだわ」

ヌテリアはRin・Feeのパーティーを評価した。


「ハーミンさんに言われた通り、戦闘の無い時は持ってきた枝を治療してるの。そしたらレベル上がりました」

と幡ゆりこ。


「真面目なパーティーは死亡率が低くていいわ。レベルが上がったら私たちともご一緒させてあげようかしら」

ヌテリアはそういった。


はい、お願いしますとRin・Feeの三人は迷うことなく言った。


これにはヌテリアも好感をもったようだ。


「あなた達、困ったことがあったら言いなさい。少しくらいなら力になってあげるわよ」

ヌテリアの親切心が発揮された。


「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします」とRin・Feeの三人は答えた。こういうやり取りにはやっぱりアイドルだから慣れているのかもしれない。



「ところで、さっきの置いたっていう宝箱、私たちが見つけたら開けてもいいんですか?」と町田美樹。


「もちろんいいわよ」とヌテリアは答えた。


「かおりちゃん、ゆりちゃん探しに行こう。ノイフェ君たちが戻ってきたのは向こうだからきっとあっちにあるよ」

町田美樹は先頭をきって走り始めた。


「待ってよ、美樹ちゃん」

関口かおりは追いかけた。


「そうそう」幡ゆり子も追いかけた。



しかし町田美樹の行く先にはトラップが仕掛けられていた。ノイフェたちはこのトラップを当然発見したが低レベルすぎてノイフェは無視したものだ。


暗がりの中で足元にはロープが張ってあった。町田美樹はそのロープに足を取られて転んでしまった。

すぐ後ろを走っていた関口かおりと幡ゆり子も連なって転んでしまった。


「ぐぇ」

町田美樹はつぶれた蛙のような声を出した。


転んだ拍子に自分の盾に顔をぶつけてしまったようだ。顔から血が出ている。


「うーん、痛い」


「美樹ちゃん血が出てるよ」


「美樹ちゃん今な直すね。ヒール」


ホワー


町田美樹の傷は治った。


「本当に傷が治ったよ美樹ちゃん」

幡ゆり子ははじめて人間の怪我を直したことで大はしゃぎだ。


「本当だよ。治ったねゆりちゃん」

と関口かおりも興奮気味だ。


「ありがとうゆりちゃん」

町田美樹は幡ゆり子にお礼を言った。



後ろの方から声がした。

「その辺はトラップがあるから気を付けたほうがいいわよ」


歩いてきたヌテリアは彼女たちを見て遅かったかという顔をした。


「もう罠にはかかったようね。ダンジョンの中を走り回る危険性を身をもって知ったでしょう。あなた達ダンジョンにこれからも潜るつもりがあるなら、罠の見つけ方を学ぶか、罠を見つけられるパーティーメンバーを入れたほうがいいわよ」

とヌテリアはやれやれという顔で言った。


その後ろからノイフェがついてきた。

「大丈夫?」


「怪我したけどもう治ったから大丈夫」と町田美樹は元気いっぱいアピールをした。


「それよりも…」

町田美樹は目の前の宝箱が気になった。


「あったよ。宝箱だ」と町田美樹。


「本当にあるんだぁ」と関口かおり


「あったね」と幡ゆり子


「この宝箱にもトラップがあるかもしれないよ」と関口かおり


「大丈夫だ、その宝箱には罠はない。保障しよう。私たちが置いたものだからな」

そういいながらラールスゥは後ろからやってきた。


「そもそも初心者用のダンジョンの宝箱にトラップなんて仕掛けないわよ」とヌテリアは世の中の常識を教えてくれた。


「それじゃ安心して宝箱を開けれるね。私の人生初宝箱だよ」と町田美樹。


「私も」 「私も」


関口かおりと幡ゆり子も同じだった。


「それじゃ3人でせーので開けよう」と町田美樹。


「うん」

「わかった」


「いくよ。せーの」


パカ


宝箱は開かれた。


「中身は…ポーションだぁ」と町田美樹


「消耗品だね」と関口かおり


「記念に取っておきたかったけど消耗品ならしょうがないね。アハハ」


三人は他には何か入っていないかと宝箱をよく確認したり。初宝箱からポーションがでましたと、現代型の携帯電話で写真を撮ったりしていた。



こうして今日の冒険は終わった。Rin・Feeの三人と別れネオ人材派遣会社田中マックスの事務所に帰りノイフェたちは報酬をもらうことにした。




「本日のお仕事ご苦労様でした。22ものダンジョンを回るなんてすごいですね」

ミーユは素直に感心していた。しかしノイフェがいるのだから驚きはしなかった。


「クエスト報酬は3で割る、でよろしいでしょうか?」


「ああ」

「いいわよ」


「おひとり当たり86万円です」


「僕の分はヌテリアに渡してよ」とノイフェは言った。


「この人がうわさのヌテリアさんですか。すごい美人ですねえ」

ミーユは思わず関係のない感想を漏らしてしまった。


「あら、よくわかってるじゃない。どんな噂なのかはきになるのだけれど」


「ノイフェ君からはとても強いと聞いています」

ミーユはノイフェから聞いたままの話をした。


「間違いじゃないわね」

ヌテリアはそれならまあいいという態度をとった。


ヌテリアはノイフェのと合わせて二人分受け取り、ラールスゥも自分の分のお金を受け取った。


「それとランダガの討伐もあったようですが、その素材の方はいかがいたしますか、よければこちらで買取ますが」

とミーユは丁寧に提案をした。


「倒したのは君だ、君の好きにするといい」

ラールスゥはそう言った。


「ヌテリア」

ノイフェはヌテリアにどうしようと相談する意味で名前を呼んだ。


「買い取ってもらうといいわよ」

ヌテリアはノイフェに答えた。


「じゃあ、そうして」

ノイフェはミーユの提案を受け入れた。


「ランダガなんて出るのなら討伐依頼があるときに出くわしたかったわねー」

ヌテリアは少し残念そうだった。


「無かったのはしょうがないよ」ノイフェは特にがっかりする様子もなくそう言った。


「ランダガの素材は全部で820万円です。よろしいでしょうか」


「いいよ」

「ええ、いいわ」


ノイフェはお金を受け取るとそれをヌテリアに渡した。


「はい、ヌテリア」

「ええ」


ヌテリアはさも当然というようにそれを受け取った。


ラールスゥとミーユはそのやり取りを不思議そうに見ていた。


「これで今日の清算も終わりだな、機会があればまたよろしく頼む」

ラールスゥは別れのあいさつのつもりでそういったが、ノイフェはそれを引き留めた。


「まってよ、おじいさん」


「なんじゃ、少年、どうした?」

ラールスゥは忘れ物でもしたかと振り返った。


「魔王を倒すための修行はどうすればいいの?」


「ああ、その話だったな。おぬしに実力があることがわかったし本当に勇者を目指すつもりなら…」


「もちろんだよ。僕は勇者だからね」


「ならばいいだろう。勇者に成るための修行があるがやってみるか」

ラールスゥは真剣に聞いた。


「うんやるよ」

ノイフェは意気込み強く答えた。


「まったくこの子は勇者とか魔王を倒す話には何でも信じてついて行ってしまうんだから」

ヌテリアはあきれたと言った顔だ。しかしそれ以上止めなかったのは、今日ただ宝箱を置いていただけのおじいさんの名を聞いて、それがあの有名な人物、本人であるとわかっていたからだ。


「では次回あった時にでも、その話をしようか」

ラールスゥは因果に身を任せようとした。


「次回っていつ? 僕はいつでもいいよ。でも早い方がいい」

ノイフェは自分の意志で予定の決定を望んだ。



「わかった。それでは明日の朝またこの会社で会おう」


「わかったよ」



「それじゃ、明日ね」ノイフェは明るく挨拶をした。


「さようなら」ヌテリアは一応の挨拶をした。


「ああ、またな」ラールスゥは再開の挨拶をしてこの日を終えた。


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