第17話 ハーミンと材料集め

そうノイフェとクラスアはハーミンのところへやってきていた。


「今日は、材料集めを手伝ってもらうわ。それであなた達の装備代にあてるわ。装備1個分を稼ぐのにあなたたちの力量なら何回かで終わるでしょう。二桁は行かないわね。最もそれくらいの力量が無ければ、材料集めの話で誘ったりはしないけれどね」


バニーガールの鍛冶屋ハーミンは、クラスアの防具を作るための材料を集めるつもりだ。もちろんそれ以外にも使うつもりだが、貴重な材料は多く手に入るほどいい。


「ランダガを一人で倒したそうね。ノイフェ」

ハーミンは首を傾けながら質問した。


「そうだよ」


「ランダガの材料は必要だったから、うちに持ってくればもっと高く買ってあげたのに。ネオ人材派遣会社田中マックスにランダガが持ち込まれたと聞いて急いで素材を買ったけど、私が買いに行った時には3分の1ほどしか残っていなかったわ」


「そうなの?」

ノイフェはよくわかっていなかった。


「まぁランダガを一人で倒せる実力なら、文句ないわよ」

ハーミンは言った。


「私だってランダガに出会えば一人で倒せるわよ」

クラスアは自分の実力を主張した。


「あなたの実力は疑っていないわ」


「それを聞いて安心したわ」

クラスアはエヘヘと笑った。


「それで今日は何を倒しにいくの?」

クラスアは話を切り替えた。


「そうねえ。おそらくドワーフとゴーレムと、二本足シャーク当たりかしら。他にも魔物がでてくれば倒してもらうわ」



「ドワーフも倒すの?」

ノイフェは不思議そうに聞いた。


ドワーフは分類的には人間の亜種に近い妖精と言ったくくりで、人間に危害を加えたり悪さをするという話は聞いたことがない。つまるところモンスターではないのだ。


「ドワーフが管理している山に鉱石を取りに行くんだけれど、入り口のドワーフに勝たないと中には入れてもらえないのよ」


「ふーん」

ノイフェは理解した。


「べつにドワーフだってなんだって、私の斧で真っ二つにしてやるわよ」

クラスアはいつものようにやる気満々だ。


「真っ二つにしてはダメなのよ。多少の怪我はポーションで治るからいいけど、人間に友好的なドワーフを殺してしまったら、もう鉱山に入れてもらえなくなるわ。まぁ門番のようなことをしている彼は強い戦士が好きだから、結構強めに殴っても友好的に接してくれるだろうけど」


「全部まとめて倒しちゃえばいいじゃない。ドワーフから鉱山をもらっちゃえばいいのよ」

とクラスア


「それは山賊の発想よ。長くなるから割愛するけど、鉱山をドワーフが管理していてくれた方が都合のいいことが沢山あるのよ」

ハーミンはドワーフから山を奪うことには当然賛成しない。


「戦って勝てば中に入れるのだから、今のところ私に不都合はないわ」

ハーミンは説明を続けた


「広大な山を管理しているドワーフがいるおかげで盗掘がほぼ、いいえほぼでもないわね。不可能なのよ」


「私が鉱山を貰っても管理しきれないわ。貴重な鉱石が盗掘され放題になってしまうわ。それか人を雇って守るにしても余計な手間とお金がかかるのよ」




「ふうーん」

クラスアは話を理解したが話の内容自体にはあまり興味がなかった。



「そんなことより、移動するわよ」


3人はネオ人材派遣会社田中マックスの転移門のある部屋へと移動した。


「行き先はどちらに?」

扉政影は質問した。


「バス世界のリュピール山脈へ」

ハーミンがそう言うと扉政影は異世界への扉を開いた。



ハーミン達三人はゲートをくぐってバス世界へと飛んだ。


リピュール山脈のふもとにやってきた三人は山二つ越えてドワーフのねぐらへと向かうことにした。


「遅れないでついてきてね」

ハーミンはそう言うと二人に背を向けて走り出した。


「もちろん」

クラスアも一っ跳ひとっとびにハーミンに追いついて後を追った。


ノイフェもこれに続いた。


一歩一歩がものすごい距離を跳躍しながら走っている三人だが、進行方向にゴブリンを見つけた。



ゴブリンの運命は決まった。


「ギャ、ギャー」


「本日の天気は晴れまたは悪天候、ゴブリン指数は100ですっっと」

クラスアは天気予報のお姉さんの真似をしてからゴブリンに襲い掛かった。


ハーミンのハンマーの範囲攻撃とクラスアの斧の範囲攻撃でほとんど死滅した。最後に残った一匹もノイフェの剣によって刺されて死んだ。



走っていたハーミンが足を止めて集落の入り口の前に降り立った。

クラスアとノイフェもそこで足を止めた。


「ついたわ、ここよ」

まさにそこは鉱山街といった雰囲気だった。民家らしき建物も20軒近くはあるだろうか。


「へえ、こんなところにねえ」

クラスアは珍しそうにあたりを見回して言った。


ノイフェは1,2歩ハーミンに近寄った。

「どのドワーフを倒せばいいの?」



すると向こうから背の高い筋肉質の男がやってきた。


「ドワーフを倒すとは言うじゃねえか坊主。倒せるもんなら倒してもらおうじゃねえか」


ノイフェは男の方を向いて剣を抜きかけた。しかし殺気がなかったのでやめておいた。


「あら、ガムッタイこの子を侮っていると痛い目を見るわよ」

ハーミンはハンマーを担ぎながら言った。


「よお、ウサギのお嬢ちゃんじゃねえか、今日は一人じゃねえんだな。珍しいな」

ガムッタイと呼ばれた大男はひげモジャで見えているところはどこも毛深い。身長は 190センチはあるだろう。


「これがドワーフなの?」

クラスアが聞いた。こんな大きなドワーフなど見たことも聞いたこともなかった。


「そうよ」

ハーミンは頷いた。


「ふうん」

ノイフェはドワーフというものを初めて見た。こんなに筋肉質で背も大きいものなのかと思った。


しかしガムッタイは否定した。


「俺がドワーフかって? 違うね?」

どういうことだろう?

ノイフェ首を傾げた。


「違うね。俺はパワードドワーフのガムッタイ ドワーフ1の強者つわものよ」


ドワーフ1とはずいぶん話を持ち上げたものだ。


多分世界初、パワードドワーフがここに登場した。


クラスアはやっぱりドワーフなんじゃないかと思った。


「ウサギのお嬢ちゃん今日は負けないぞ。残念ながらここで帰ってもらうことになる」


「あら、それは私に勝ってからいうセリフじゃないかしら?」

ハーミンはガムッタイを少しあおった。


しかし、バス世界で生き延びているだけあって強者であることは間違いない。


「今日は勝つさ」

ガムッタイは今まで負けたことなどないかのように鼻息を荒げた。



「私たちはどうするの?」

クラスアは斧の頭を地面に突いて斧の首のあたりを持つように座り込んだ。


「私の後で、一人ずつ戦ってもらうわ」

ハーミンは答えた。



「ウサギのお嬢ちゃんまだ俺に勝つ気でいるようだな」


「そのつもりよ」




ガムッタイは置いてあった斧をもって構えた。


ハーミンも長槌を構えた。



「いくぞっ」


ガムッタイは斧を降り下ろす。

受けるハーミン。

次は横から、逆横から連続で斧が降りまわされる。


ハーミンはバックステップでこれらを躱した。


「はっ」


ハーミンのハンマーで薙ぎ払いを今度はガムッタイが後ろに避ける。

すぐさま連続でハーミンがハンマーを振る。


避ける、受ける、避ける、受ける。


カウンター


ハーミンはのけぞって回避する。


今度はハーミンがカウンター


肩に命中


ガムッタイはわずかに怯んだ。



ハーミンに攻勢は渡さない、連続で斧での切りつけ


ハーミンは長槌の柄で次々と受け止める。


「うおぉりやー、おりゃ、おりゃ、おりゃー」



「どー-っせい」


ガムッタイの強力な降り下ろし、ハーミンの長槌の柄に切れ目が入った。


「なんてバカちから…」


ハーミンは驚いたが戦闘中に隙を見せるようなことはしない。



「はっ」


今度はハーミンの攻撃だ。


長槌を振って足を狙う、腕を狙う、肩を狙う。



うまく斧で防いでダメージには至らない。



「どー-っせっ」


ガムッタイはハーミンの長槌を跳ね返すように斧を振った。


ハーミンの上体が開いた!


ガムッタイの斧が勢いよく降り下ろされた。


しかし


その時を待っていたかのようにハーミンは攻撃を繰り出した。


「アッパー・ハーミンスぺシャル」


ハーミンの長槌はガムッタイの斧を吹き飛ばしそのままガムッタイのあごに直撃した。


「ぐへ」


ハーミンのハンマーが当たった所に7属性が2順する。ガムッタイは2メートル上に吹っ飛び仰向けになって倒れ気絶した。


「私の勝ちね」

とハーミンは勝ち誇っていた。


ハーミンはポーションを取り出すとガムッタイにかけてあげた。


ドボドボ


「うーん、冷たいわいっ」


ガムッタイは目を覚ました。寝転がっていたところから上半身を起こし後頭部を押さえながら首の様子を確かめている。


「また、負けちまったなぁ」


「楽に勝ったわけではなかったわ」

とハーミンは謙遜なしで言った。


「がはは、つぎは勝つぞー。今日はウサギのお嬢ちゃんの勝ちだ、山に入っていい」

ハーミンは山に入ることを許された。


「さぁ、次はどっちだ?」


「斧のお嬢ちゃんか? 坊主の方か?」

ガムッタイは立ち上がって斧を構えなおした。


「私よ」

クラスアは立ち上がってガムッタイの前へとやってきた。


「おじさん、斧を使ってるなんて、いいセンスしてるわね」


「お嬢ちゃんもな」


クラスアは当然という顔をした。


「でも、相手が斧使いとあらば負けるわけにはいかないわね。どっちが真の斧使いか勝負よ!!」


「いいだろう。その意気いき気に入ったぞ」

ガムッタイはガハハと笑った。



「それじゃ行くわよ」


「来いっ」


「やぁーっ」


クラスアはガムッタイに向かっていった。

クラスアの連続で降り下ろす斧を、ガムッタイは斧で受け止める。


ガチン ガチン  ガンギ


「せいやっ」


クラスアは横に一回転しながらのなぎ払いの強烈な一撃。


「ふんぬ」 ガチン


ガムッタイは力いっぱい斧でそれを受け止めた。


「やるじゃねえか、お嬢ちゃん」


「おじさんもね」


「こいつはどうだぁ?」


ガムッタイは斧を振り回して連続攻撃を仕掛けてきた。


クラスアはそれを2、3度回避してから斧の柄で力づくで受け止めた。


「どう?」


クラスアは自身ありげに首を傾げた。


「がははー、いいぞ、嬢ちゃん、おもしれえ」


「そいじゃこの一撃を受けてみろ! アックススマッシュ」


「えぃやぁあー-」


クラスアはガムッタイから降り下ろされる斧めがけてフルスイングをした。


刃と刃がぶつかりあう。


ガッチッン


「うりゃー-」


クラスアはぶつかりあった斧の刃をそのまま押し切った。


ガムッタイの斧の刃は切れて上下に二つになり、クラスアの斧の刃はそのままガムッタイの首に迫る。


クラスアの斧の刃は、ガムッタイの首の皮一枚を切ったところで止まった。


「私の勝ちでいいわね」


「ああ、これは文句の言いようもない。やるなぁ斧のお嬢ちゃん、ガハハハ」


「私の名前はクラスアよ、斧のお嬢ちゃんでもいいけど、どうせなら斧のクラスアって呼んで」


「そうかい、クラスア、斧のクラスア。お前の勝ちだ、ガハハ、ガハハー


ガムッタイはポーションを取り出すと自分の首にかけた。傷は治った。


「最後は坊主か」


「武器が壊れちまった。代わりのを取ってきてもいいが、めんどくせえ。素手で相手をしてやる。そっちは武器を使っていいぞ」


「わかった」


ノイフェは剣を抜いて、鞘を下した。


「それはまた、ずいぶんと弱い剣だな、手入れは行き届いているようだが、そんなものでは俺は切れんぞ」


ガムッタイはノイフェの剣が安い物だとすぐに見破った。


「強い装備をそろえるのも強さの証だ。武器が弱いからといって手加減はせんからな。ガハハ」


「いいよ」

ノイフェは遠慮はいらないとでも言いたげであった。



ノイフェとガムッタイは近づいてから構えた。


「行くよ」


「おお」


ノイフェの合図にガムッタイが答えて戦いは始まった。


ガムッタイとノイフェはともに攻撃を仕掛ける。ノイフェの剣はガムッタイの拳にぶつかった。


ゴイン


しかしガムッタイは切れない。


「そら、そら、そら」


ガムッタイのパンチが右に、左にとノイフェを襲う。


剣で受ける、躱す躱す、ノイフェは攻撃を受けないように反撃のチャンスを待った。


「やぁー」


ノイフェは斬りかかる。しかしガムッタイの手甲を付けた腕に止められてしまった。



「やっ、はぁー-」


続けてノイフェは首、脚、腹と狙いどころを変えて切りつける。



ガムッタイはそれらをすべて受け止めた。


「ガハハハ、少年やるなぁ、しかしそれでは俺には勝てんぞ」


ノイフェは答えなかった。戦闘中にしゃべるのは苦手だ。


代わりに剣で答えた。


しかしガムッタイにはそれを捕まれてしまった。


「んん」

ノイフェは剣を引いた。それと同時鋭いパンチが付いてきた。


首を傾げパンチを躱そうとしたがかすってしまった。


「っ」


ガムッタイはさらに攻勢を強める。強烈なハンマーのような威力のパンチをノイフェは剣でいなしながら防ぐ。


「やぁー-」


ノイフェは飛びかかって上から全力で切りつけた。


ガムッタイはその剣に合わせてパンチした。


ガギョン  


剣は拳とぶつかり合い剣が折れた。


パキーーーーン


ガムッタイはやったという顔をした。そう一瞬気が抜けたのだ。


しかしノイフェは着地して折れた剣の残った刃のかどでガムッタイの腹を刺した。


もし剣に刃が残っていればこれで決着がついただろう。



しかし浅い。


ガムッタイも痛みをこらえて反撃に転じる。うなるるパンチがノイフェを襲う。


グイーン グイーーン


ノイフェは剣を捨てて、素手での戦いにチェンジした。


ガムッタイのパンチをかいくぐって、ノイフェはガムッタイに近づいた。


「や」


ノイフェのキックでガムッタイの膝の側面を狙った。


ガムッタイはこれを堪えて代わりのパンチをお見舞いした。


「おりゃ」


ノイフェは腕でガードしたものの、その威力に3メートル吹っ飛ばされてしまった。腕の骨にひびが入った。


しかしノイフェもそんなことは気にしない。痛みをこらえて前に出る。



ノイフェのパンチがガムッタイの頬をとらえた。


ガムッタイは殴られたまま首に力を入れて押し返す。


ガムッタイの鋭いパンチ


「ぜぇい」


今度は見切って最小限の動きで躱したノイフェはお礼に腹に一発パンチをくらわした。


ドン


「ぐえ」


ガムッタイが怯んだ。


ノイフェの連続パンチ


「いやぁー-」


腹に三発、顎に一発そして頭に飛び蹴りを食らわせた。


ガムッタイは5メートル吹っ飛んでしりもちをついた。


すかさず、ノイフェは追撃して、起き上がろうとするガムッタイに全体重と勢いに乗った渾身の拳を顎に食らわせた。


ガムッタイは気絶した。


勝負はついた。



ノイフェの息が上がっていた。それほどの相手だったということだ。


ノイフェはポーションで自分の腕を治した。


ハーミンはポーションを取り出すとガムッタイにかけた。ついでに腹の傷も治った。



「冷てっ」


ガムッタイは目を覚ました。頬を掌でさすりながらゆっくりと起き上がった。


「この俺を殴り飛ばすとは大したやつだ」


実際には蹴りで吹っ飛んでいたが細かいことは気にしないのがガムッタイなのだ。


「お前さんの勝ちだぁ、山へ入っていいぞ」


「うん、ありがとう」


「武器を壊しちまってわるかったなぁ。しかしお前さんなんだってあんななまくらを持ってんだ、およそ腕前に不釣り合いなボロだろう」


「スケルトンを倒した時に拾ったやつだよ。いつもはこれで大丈夫だったんだけど、今日は折られちゃったね。おじさん強いね」


「ガハハハ、俺が強いのは当然よ。なんたってパワードドワーフだからな、ただでかいだけのドワーフだとは思うなよ。まだ変身を3回残しているんだぞ」


ガムッタイは冗談なのか本気なのかわからない発言をした。


「スケルトンの剣なんてボロじゃなくて、ちゃんとした剣があれば俺にはもっと楽に勝てたろうに。そこのウサギのお嬢ちゃんは鍛冶屋だろう。武器を作ってもらったらどうだ?」

ガムッタイはハーミンの方を見て言った。


「いずれはそうなるでしょうね。今はこの子に光の剣をあげる約束をしているわ。ちょうど今代金の代わりに働いてもらっているところよ」


「なるほど、そういうことかぁ。しかしこれだけの実力があれば、いくらハーミン堂の武器が高いといっても、もうちっとましなもんはすぐに買えるだろうに」


「この子は稼いだお金は全部人にあげちゃってるみたいなのよ。だから実力の割にお金なんて持ってないのよ」


「なんだ、お前さん、女にでも金をやっているのか?」


「そうだよ」


「そうか、そうかー、ガハハー」


ガムッタイはその答えを聞くとなぜか嬉しそうに笑った。ガムッタイはそれ以上は聞かなかった。


「あなたが素手でも戦えるなんて初耳よ。まぁ驚きもしないけどね」


ハーミンはそう言うと鋼の剣を取り出した。


「せっかくの勇者には格闘家になんてなってほしくは無いわね。うちの武器を使ってもらった方が宣伝にもなるしね…これあげるわよ」


「いいの?」

ノイフェはハーミンを見つめた。


「いいわよ」


「ありがとう」


「どういたしまして」

ハーミンはこれくらいどうってことないという顔をしていた。


「それじゃ、山に入るわよ」


ハーミンに続いてノイフェとクラスアは鉱山の内部へと入って行った。

ガムッタイはこれを見送った。




鉱山の内部は最初は狭い通路で、曲がりくねった道を進んでいくと広い空間に出た。


そこにはとてもきらびやかな鉱石があちこちにあった。



「ここよ」

ハーミンは目的地への到着を知らせた。


「ここ?」

クラスアはここで何をすればいいのだろうという顔をしていた。今日、倒せと言われたドワーフもゴーレムも、二本足シャークもここにはいない。


ノイフェも不思議そうな顔をしている。


「ここのカルーマン鉱石が武器や防具の材料になるわ。とても硬いのよ。今からこの鉱石を採掘するから、採掘する間敵を近づかせないようにして頂戴」


「敵って?」

ノイフェが聞いた。


「採掘を始めたらすぐにゴーレムが来るわ。それを倒してくれればいいわ」


「わかったよ」 「わかったわ」


二人は承諾した。


「それじゃ開始するわね」


「うん」「ええ」


ハーミンはハンマーを振り上げ鉱石の横の壁に降り下ろした。


カキーン カキーン 


天井まで2、30メートルはあるだろう空洞内にハーミンのハンマーの音が鳴り響いた。


カキーン カキーン 



ゴゴゴ ズシン ズシン


空洞につながる通路のいろんな方向からゴーレムの歩行音が聞こえてきた。


ズシン ズシン ゴゴゴ


ついにゴーレムはハーミン達のいる大きな空洞の部屋へとやってきた。



「来たわね」


クラスアは斧を構えた。ノイフェは剣を抜いた。


「それじゃ、よろしくね」

ハーミンは二人に戦闘を任せた。


全長5mの茶色いゴーレムに向かってノイフェは切りかかった。


「やぁー!」


ガチン


「硬いっ!」


ゴーレムはノイフェの一撃では倒れなかった。痛みも感じないゴーレムは構わずノイフェとクラスアに襲い掛かった。


ゴゴ ゴゴゴ ゴウーン ゴウーン


「いっくわよー!」


クラスアの斧がゴーレムに降り下ろされる。


「アースクラッシュ」

クラスアは最初からアクセル全開だ。


ゴーレムの体の一部が崩壊した。


「それそれそれそれー」


クラスアは次々と斧を降り下ろし、硬いゴーレムを少しずつ削っていく。


ノイフェもそれを見て手数を増やした戦い方に切り替えた。


一撃のダメージは大きくないが、少しずつゴーレムの体が削れていく。


レベルが高いのか、普通のゴーレムよりはだいぶ早いのだが、ノイフェとクラスアの速度についてくるほどではない。


ノイフェもクラスアも難なくゴーレムの攻撃を避けて戦い続けた。


ゴゴゴ ズシン ズシン ゴゴゴ ズシン ズシン ズシンズシン


さらに3体のゴーレムがやってきた。


ゴウーン ゴウーン ゴゴ ゴーウン ゴウーン


一体のゴーレムがハーミンの方に近づいた。ノイフェはそのゴーレムを背後から斬りかかって注意を引いた。


「やっ、はっ」


「ええーい、やっ」


ノイフェの素早い連続切り、クラスアも同じくらいの速度で連続でゴーレムを斬る。


ゴーレムのパンチ。


むなしく空を切って、ノイフェは腕の下に潜り込む。


「やぁぁあー」


カキン カキン カキン


ドゥス


ノイフェの剣がゴーレムの腹に刺さる。


それでもゴーレムは死なない。もともと生きていないゴーレムには致命傷というものがない。


反対側のパンチが降り下ろされる。


ノイフェは跳んでゴーレムの肩の上に降りた。


ノイフェの渾身の一撃が、ゴーレムの頭部を割る。


ズバー


ゴーレムは動かなくなった。



「なんだそうやればいいのか」

クラスアはノイフェの戦い方を見て真似ることにした。


「どぉおせー--い」


クラスアの力任せの一撃がゴーレムの頭部から勢いよく胴体を割った。


ズババーン


ゴーレムを撃破した。


ノイフェは次のゴーレムに向かった。向かってくるパンチをかいくぐりゴーレムの膝を踏み台にして再び肩まで登った。

そしてまた渾身の一撃を放つ。


「やぁー--」


ズバー


ゴーレムの頭部は割れてそのままゴーレムは倒れた。



クラスアの方も残った一匹でむしろ遊んでいるようだった。


「アースクラッシュ、アースクラッシュ、アースクラァーーーッシュッ!!」



ゴーレムを削り切って倒したのだった。



その後もやってくるゴーレムをノイフェとクラスアは次々と倒した。およそ1時間ほどだった。


「これくらいでいいわね」


カルーマン鉱石を集め終わったハーミンがそう言うとノイフェとクラスアは力を抜いた。


「あれ? もう終わり?」

クラスアはまだまだやれると言いたげだった。


「ゴーレムもだいぶ倒せたわね。このゴーレムたちは、ドワーフたちが盗掘防止用に作ってはなったものなのよ。それでそのゴーレムを倒すと…」


ハーミンは真っ二つに割れているゴーレムの中心からきれいな石を取り出した。


「中から、市場には流通しない代物、ドワーフたちの秘蔵の魔法石が手に入るってわけよ。とても純度の高い魔法石よ。これも装備品の材料になるわ。胴体の中心あたりにあるから、取り出すのを手伝って」


「わかったよ」

「わかったわ」


ノイフェは倒されたゴーレムを持ち上げて集め、クラスアはゴーレムを割って魔法石を取り出した。


「魔法石も十分集まったわ。次に行きましょう」


ハーミン達は、移動しながら会話をした。


「次はどこへ行くの?」


クラスアは優雅に歩くハーミンの後ろを後頭部に手を乗せて器用に斧を持ちながら歩いた。


「山を下りるわ、転移門まで戻ってから、ラオ島の南の海岸に飛ぶわよ」


わかったとノイフェとクラスアは頷いた。



帰り道は途中で再びガムッタイに出会った。


「あら、ガムッタイ。怪我は大丈夫かしら?」



「ガハハ、そんなもんポーションをかけたらすぐ直るわい」


ガムッタイは両腕を持ち上げて筋肉モリモリポーズをしてアピールしてみせた。


「カルーマン鉱石を貰っていくわ。それとゴーレムを結構倒したわよ。もちろん魔法石ももらっていくわ」


「おいおい、ゴーレムの魔法石はドワーフの秘蔵の品だぞ」

ガムッタイはそれは困ったなという顔で言った。


「でも倒したら貰っていっていいんでしょ?」

ハーミンは当然だという顔をしていた。


「まぁ、そういうことだな。しかし、ゴーレムを倒したといっても2、3体だろう」



「今日は連れがいるのよ。もっとたくさん倒したわよ。この二人がね」


「ふぅむ、こりゃゴーレムを強化せにゃならんか」


「それかあなたが負けなけばドワーフの秘蔵の魔法石を私に取られることもないわよ」


「俺のところに挑みに来る奴は少ないんだ。ウサギのお嬢ちゃんと戦う楽しみをやめるわけにはいかないね。負けっぱなしってのもよくねえ」


「はいはい。それじゃまたね」

ハーミンはそう言うと歩きだした。ノイフェとクラスアもまたねとあいさつして手を上げた。


「おうよ、お前さんたちまた来いよ。次は俺が勝って見せるからな」


「また私が勝つわ」とクラスアは言っていた。




転移門まで戻った3人はゲートをくぐってバス世界のラオ島の南の海岸に移動した。



「来たわよ」

ハーミンは海を眺めながら言った


「来たわね」

クラスアも海を見ながら言った。


「うん」


「それじゃあ、二足歩行シャークを探しましょう。運が良ければ出会えるかもしれないわ」


「二足歩行シャークってどんなの?」


ノイフェはハーミンに聞いた。


「あの有名な二足歩行シャークを知らないの?」

クラスアは驚いたようだ。


「うん、知らない」

ノイフェは素直に答えた。


「サメに人間の足が生えてるやつよ。とっても強くってとっても素早いのよ」

ハーミンはノイフェに二足歩行シャークがどんなものか教えてあげた。


「それに背中のひれが高く売れるのよ」

クラスアはつけ加えた。


「ふぅん?」


「私たちが狙うのもそれよ。二足歩行シャークの背中のひれよ」

ハーミンはあたりを見回しながらしゃべった。



「あれってとっても美味しいんでしょう?」

クラスアは食材を狙うハンターのような顔をしてみせた。


「今回は食べられないわよ。背中のひれからとれる雫はドワーフの魔法石と反応させて、武器に魔法を付与するのに使うのよ。雫は全部ひれからしぼっちゃうから食べれるところは無いわ」

ハーミンはクラスアを諭した。


「なーんだ。残念」

クラスアは斧を持ったまま両手で後頭部に手を置くポーズでそう言った。


「そんなに残念がることは無いわ。この材料はあなた達の装備を作るのにも使うわ。手に入ればそれだけ早く、装備がもらえるわよ」


「それなら頑張らなきゃね」

クラスアは美味しい食材よりも強い装備品の方を喜ぶ女の子なのだ。


「そういう訳だから、二足歩行シャークを見つけても背中のひれは傷つけないでね」


「わかった…」

「いたわ。あれよ」

わかったよと言いかけたノイフェを遮ってハーミンが叫んだ。


二足歩行シャークを見つけた。滅多にお目にかかれないレアモンスターだ。逃がしてはならない。


「運よくこっちに向かってくるわ」


ノイフェは剣を抜いて鞘を手放した。


シャカシャカシャカシャカ


「走るの速っ、そしてキモ」

クラスアは怯んだ。


「行くわよ」

とハーミン


ノイフェは剣で、クラスアは斧で斬りかかる。そしてハーミンもハンマーを振るう。


シャカシャカシャカ


ジョワー ジョワー


二足歩行シャークは三人の攻撃をかわした。


ジョワー ジョワー


「速いわね」

とハーミン



二足歩行シャークは口から高水圧の水を吐き出した


ボベラッ


三人はこれを躱した。かわりに後ろにあった岩に穴が開いていた。


二足歩行シャークのジャンピングモンゴリアンチョップがノイフェを襲う


ジョワー


ノイフェは横に転がってこれを回避した。二足歩行シャークの攻撃は地面に命中してノイフェがいた場所は2メートルえぐれた。


「やぁぁー」


クラスアは二足歩行シャークに上から襲い掛かる。二足歩行シャークはこれを見切って反撃に手びれパンチ


ドス


ジョワー


クラスアの脇腹に当たった。クラスアの肋骨が2本折れた。クラスアは素早く、ポーションを取り出す動きに入った。


しかし二足歩行シャークはそれをさせまいと次々と攻撃を繰り出し、クラスアはよけながらなんとか斧の柄で攻撃を防いでいた。


「はぁ」


横からハーミンがハンマーを降り下ろし、そのままシャークとクラスアの間に入った。クラスアがポーションを使う時間を稼ぐためだ。


ノイフェも反対側から斬りかかる。


サク


わずかにかすった。


しかしシャークの反撃の後ろ回し蹴りだ。


ノイフェはそれを剣で受ける。


そこをハーミンが叩きに行く。


ポーションを使い終わったクラスアも同時に斬りかかった。


三人の攻撃が二足歩行シャークの頭をとらえた。


ザク ガシ ドス


ジョワワ


ダメージがあったようだ。


ノイフェは素早く斬って二足歩行シャークの足を傷つけた。


ザク


シャークは慌てて距離を取った。しかし、素早さはだいぶ下がっているようだ。


その時、二足歩行シャークの足元がぬかるみになり、シャークの足をとらえると、次の瞬間泥は石化した。


「どっせーい」


クラスアの強力な一撃が二足歩行シャークの頭部に命中!!


したかと思ったが、両手ひれで防御。なんて硬い皮膚だ。


ノイフェはすかさず横から腹を刺した。


グサーー


二足歩行シャークは怯んだ。


「ハーミンスペシャル」


ドズン


ハーミンの長槌が二足歩行シャークの頭をとらえた。


二足歩行シャークは死んだ。


三人ともレベルが上がった。


「手ごわい相手だったわね」


ハーミンは疲れた様子でそう言った。


「久々に骨まで行ったわ」

クラスアはあばらを撫でている。


ノイフェは鞘を拾ってきて剣を収めた。


「かなり強かったね」

ノイフェも疲れたという顔をしていた。



「さあて、それじゃ素材を取るとしましょうか?」

ハーミンは楽しそうに二足歩行シャークに近づいた。


背中のひれはもちろん、二足歩行シャークからとれる素材は全部取った。


「今日はこれで十分ね。帰りましょう」

ハーミンはそう言ういって帰宅を促した。


3人はネオ人材派遣会社田中マックスへと帰って行った。




「おかえりなさいませ」

ミーユが3人を出迎えた。


「お仕事は順調だったようですね」

ミーユは3人の表情を見て悟ったようだ。


「そうでもないわよ、強敵だったわ」

クラスアはで答えた。


「貴重な材料が沢山取れたわ。二人のおかげよ」

ハーミンは素直に感謝した。


「二人とも撃破数を確認してもらって」

ハーミンはノイフェとクラスアに撃破数の確認を促した。


「ノイフェ君、ゴーレム11体、クラスアさんゴーレム13体です」

ミーユは二人の撃破数を確認してそう伝えた。


「やった私の勝ちね」

クラスアは勝ち誇った。


「競争だったの?」

ノイフェはそんな話は聞いていないという風だ。


「それから、二足歩行シャークについては3人で討伐ってことでいいわね」

ハーミンは二人に確認した。


「いいよ」 「いいわ」


「二足歩行シャークも倒したんですか? すごい。 運もよかったですね」


普通二足歩行シャークに会おうと思ったら、それなりの高レベルの狩場に行っても、10日に1回会えるかどうかというのが一般的な話として伝わっているのだ。


「そうね、1回であえてラッキーだったわ」


「今回のお仕事はハーミンさんからの依頼ということですが、報酬の方はどういたしましょう」

とミーユは聞いた。


「そっちの話はついているわ。二人の装備代に充てる約束で手伝ってもらっているのよ。だから報酬は私が受け取るわ。特に材料はね」


「そう言うことでしたか、わかりました」


「ゴーレムは討伐依頼が出ていないので報酬はありません。二足歩行シャークの方は危険生物として、いつでも討伐すると報酬が出ます。その報酬額は3億4000万円です」


「ありがとう。確かに受け取ったわ」

ハーミンは普通に受け取った。その金額のやり取りには慣れっこだった。


「なんだ、そんなもんか」

とクラスアはがっかりそうに言った。


「あなたたちの働きの分はちゃんと上乗せして計算してあるから安心してちょうだい。今日一回でかなり稼げたから、ノイフェには光の剣を渡すわね」


ハーミンは異次元袋から光の剣を取り出してノイフェに渡した。


ノイフェは光の剣を手に入れた。


「もういいの?」


「光の剣の代金は足りたわ。他にも私のところで装備を揃えるなら、続けてもいいわよ」


「続けるよ」

ノイフェは即答した。


「私のは?」

クラスアは自分の装備はいつできるのかと気になっていた。


「そうね、今日はかなり稼げたから、あと2,3回で一つ分にはなるんじゃないかしら」


「それなら楽勝ね」

とクラスアは言った。


「精算も終わったことだし今日は解散しましょう。あなた達今日はありがとうね」

ハーミンはそう言って解散を促した。


「じゃあねハーミン、クラスア」

ノイフェは片手をあげて別れの挨拶をした。


「それじゃまたね」

クラスアも別れの挨拶をした。


「皆様お疲れさまでした」

ミーユがそう言うとこの日のクエストは終わった。

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