第6話 鍛冶屋ハーミン
今日ハーミンの店にやってきたのは、ノイフェ、クラスア、Rin・Feeの三人町田美樹、関口かおり、幡ゆり子だ。
「今日は私の店にようこそ」ハーミンは歓迎のあいさつをした。
「こんにちは、ハーミン」クラスアははにかんだ様子で挨拶をした。
「やあ」とノイフェはフレンドリーに挨拶をした。
他の三人はこんにちはと普通に挨拶をしていた。
「今日はお客さんが大勢ね。それでどんなご用命かしら?」バニーガールの格好をしたハーミンは両手を腰に当てて胸を張っていた。
「その前に、質問いいですか」クラスアはどうしても聞いておきたいという
「何かしら」
「何でバニーガールなんですか?」
「いくつか理由があるけど、一番重要なのは炎耐性が高いからよ」なるほど、バニーガールは炎耐性が高いと。なるほどわからん。
「それだったら他の装備でもいいんじゃないですか?」クラスアは率直な疑問をぶつけた。
「炎耐性がある装備の中でこれが一番かわいいからよ。そして筋力補正が炎耐性がある中では一番高いのよ。実用性と可愛さを兼ね備えるのはとても重要なのことなのよ」
ガチ勢は実用性と可愛さを両立させるのだ。ハーミンはガチ勢だった。
「他にも耐性は盛れるだけもってあるけど、炎耐性だけでいえば、炎耐性100%、炎ダメージ無効。耐熱温度5億℃、炎ダメージ減少100%、炎ダメージで回復。このスーツだけでマグマの中を水泳できるわよ。どれかの耐性にデバフがかけられたときでも、炎相手には絶対無敵になるように5重くらいは、耐熱、対炎耐性はかけてあるの」
皆は特に耐熱温度のところでもう訳が分からないという顔をしてハーミンを見ていた。
「でも女の子なのに、ごっつい鎧とか、防火服みたいなダサい服を着て街を歩きたくはないでしょう。だからカワイイ服を作ったのよ」
クラスアはバニーガールの格好をして街を歩くよりはごっつい鎧の方がいいなと思った。
「それから、まぁバニーガールなんてのは宣伝用でもあるわけ。バニーガールの鍛冶屋なんて私以外にはいないでしょうね。それと私なら可愛くて実用性のある装備を作れるわよって宣伝にもなるのよ。とまぁいろいろ理由はあるけど、一番重要なのは誰でも好きな服を着るってことなのよ」
「そ、そうなんですね」クラスアはあまり関心が無さそうだった。
「あなただって勇者でしょう。伝説の装備が鍋の蓋にボロの服じゃ、魔王を倒してもかっこがつかないでしょう?」
「僕はどんな装備でも魔王を倒してみせるよ」
ノイフェの発言をハーミンは挑戦と受け取ったようだ。
「あら、それはすごいわね。でもね。あなたも勇者でしょう。勇者なら自分がただ強いだけじゃだめよ。勇者は人類の希望となる存在なんだから、周りの人が見てもはっきりと勇者だってわかる格好をしてなくっちゃ。それも勇者の仕事よ」
(鍛冶屋は一目で鍛冶屋だとわかる格好をしなくてもいいのかな)とクラスアは思った。
「そうなの? その話はラムジ婆さんもマータムもしてなかったよ。ヌテリアもしてなかった」ノイフェは自分の知っている範囲の勇者について話をしてくれた人たちの名を出した。
「あなたってどこの出身?」ハーミンはノイフェに聞いた。
「バッヘン界のカラッサ村だよ」
「聞いたこと無いわね」とクラスア
Rin・Feeの三人はもうずっと話が分からないという顔をしている。
「私も聞いたことが無いわ、ずいぶんと田舎みたいね」ハーミンは首を
「そうだよ。カラッサ村には僕以外に3人しか住んでないんだ」
「それならやっぱり、勇者としての知識も偏っているようね」とハーミン
「そうそう、私みたいに都会派の勇者を目指せば」実際クラスアは言うほど都会派ではない。
「都会派の勇者ってどんなの?」ノイフェは不思議そうな顔でクラスアに聞いた。
「おしゃれってことよ」
オノノユウシャ、ハイオシャレデスオシャレ
しかしクラスアへの世間の風当たりは強い。
「私の作った斧をもっておしゃれな勇者と言い張るその心意気は気に入ったわ。あなたには飛び切り可愛い服を作ってあげようかしら」ハーミンはいたずらっぽく言った。
「いえ、可愛さはいいですから、カッコいい鎧を作ってください」クラスアは身の危険を感じてはっきりと鎧といった。クラスアは街中でバニーガールの格好をして平気な女の子ではないのだし、クラスアは重鎧の方がカッコいいと思うセンスの人間なのだ。
「僕も、可愛いのよりカッコいいのがいいよ」ノイフェもクラスアに続いた。
「あら残念ね。あなたたちには飛び切り可愛いのを作ってあげようかと思ったのに。まぁいいわ。着たい服や装備をするのが一番大切だものね。性能は大事だけどそこは保証するわよ」
「私は可愛いのがいいです」
「私も」
「私も、ただ露出は少ないのでお願いしますね」
町田美樹、関口かおり、幡ゆり子は可愛いのがお望みのようだ。
「わかったわ。ただし私の特注品を買うには一つ条件を出しているの」
「なんですか?」関口かおりは身構えた。
「武器や防具の材料を自分で取ってくることよ」
「そんなのって」幡ゆり子は不可能だという顔をした。
「まぁ、あなた達にはまだ早いわね。これは身の丈に合わない装備を付けておごらないためでもあるし、それで無茶な狩場に行って命を落とさないためでもあるのよ。人間が武器や防具を選ぶのと同じく、武器や防具にもふさわしい人間にだけ特注品の注文を受け付けているのよ。それとそれに見合うだけのお金ももらっているわ」
ハーミンは話を続けた。
「ハーミン堂の特注品を身に着けらえるのは、危険なモンスターの素材を自分で取りに行ける実力者で、大金を稼げるだけの腕前か才覚がある人だけよ」
「ハーミン堂の装備をしているだけでそれなりの名声を得られるわ。私の特注品を身に着けるということはそういうことなのよ」
それでは注文を聞いておくわねとハーミン
「まずはあなた達三人ね。今はまだ早いけど将来的にうちで特注品を作れるようになるかもしれないから希望だけ聞いておくわ」
ハーミンは3人からそれぞれの希望を聞いた。
「実際に作る時までに気が変わったら言ってちょうだい。いつでも変更できるようにしておくわ」
「あなた達3人はまだ、ただの冒険者といったところね。職業はアイドルらしいけど戦い方も定まっていないでしょう? 全員でモンスターを切ったり叩いたりするだけっていうのは、ものすごい達人でなけれな初心者のままね。死亡率も高いわよ」
「どうすれば死ない戦い方ができるですか?」と町田美樹が尋ねた。
「レベルに見合わない挑戦をしないこと、モンスターの知識をしっかりと持って対策をして戦うこと、状況が悪いと思ったらすぐに逃げることよ。初心者の内はこれでまず死なないわよ」
「あとはそうねえ、慣れるまでは自分たちより少ない数のモンスターとだけ戦うといいわよ」ハーミンは丁寧に戦い方を教えた。
「ほー」
関口かおりはハーミンの話を感心しながらノートにメモしていた。
「私たち3人でチームで戦いたいんですけどどういうのがいいですか」と町田美樹だ。
「壁役、攻撃役、支援役をしっかりと分けることね。自分の役割を理解してそれに徹すれば、すぐに中級者になれるわよ」とハーミン
「壁役は勇敢であることとできれば機敏な方がいいわね」
「そうそう」とクラスア
「攻撃役はどんな職業でもなれるけれど、おすすめは魔法使いか弓使いよ。壁役がしっかりしていればモンスターに近づく必要が少なくなるわ。無駄な怪我を負わないためにも初心者なら遠距離攻撃がいいわ。魔法使いは最も機敏さのいらない職業よ。逆に弓使いは判断力と機敏さが重要よ。初心者が戦えるモンスターで強力な遠距離攻撃をしてくるモンスターもほとんどいないのも理由よ。初心者の内は遠距離は安全という考え方でいいわ。油断さえしなければね」
「私、魔法使いに成りたい。私アイドルだけど魔法使いにもあこがれてたの」と関口かおりだ。
「わかった。じゃあかおりちゃんは魔法使いだ」と町田美樹は納得だという風だった。
「かおりちゃん運動苦手だもんね」と幡ゆり子。
「もーそれは言わないでよ」関口かおりは頬を赤らめた。
「最後は支援職ね。まぁほとんど回復役と思っていいわ。他のどんな支援よりも回復することが重要な職業よ。初心者の頃はなおさらやる仕事はそれにつきるはずよ」
「うんうん」とクラスアは頷いた。初心者のころからほとんど一人だったクラスアにとって回復役に求めることはもちろん回復なのだ。
「回復役は最も責任感の強い人間が向いているわ。他が崩れてもパーティーの立て直しは効くけど、回復役が一人の場合それが崩れれば初心者のパーティーはまず壊滅するわね。何があっても判断をミスしない冷静さが必要よ。そして攻撃はしなくてもチームを支える柱なのよ」
「それならゆりちゃんだよ」町田美樹は幡ゆり子に話を振った。
「私にできるかな?」
「だって私すぐ熱くなっちゃうし、冷静さなんて無理だよ。私が壁役をやるからゆり子ちゃんは回復役をやって」
「わかった。私頑張ってみる」ここで引き受けてしまうあたりやはり、幡ゆり子には責任感というものが多少はあるとみて間違いないだろう。
「役割が決まったなら次は装備ね」
「うちで扱っている初心者用の入門セットがおススメよ。値段もお手頃価格だしね。
それと今なら壁役の子に中級者用装備の透明ヘルムをつけてあげるわよ。アイドルなら見た目も大切でしょう?」
「かおりちゃん、ゆりちゃん、これにしよう。私たちを助けてくれた人だし、親切に冒険のことを教えてくれるし割引もしてくれるし、ね?」
「私もいいと思うよ美樹ちゃん」と関口かおり。
「うん、この人にお願いしよう。後で可愛いのも作ってもらおうね」と幡ゆり子
三人はハーミン堂の初心者用セットを買うことにした。
「お値段は、一人3万円よ。割引してこの値段よ。さすがにお金がないってことは無いわよね」
「それくらいなら平気です。私たち冒険者としては初心者ですけど、アイドルなんですよ」と幡ゆり子
「そういえばそうだったわね。最初から中級者用をすすめておけばよかったかしら?」
「お金が足りるならそっちの方がいいのかな?」と関口かおり
「冗談よ。身の丈に合わない装備をする人は、おごって対処不能なモンスターに突っ込んでいって死にやすいわ。基本ができるまでは初心者用で我慢しなさい」ハーミンは親切で言ってあげた。
「わかりました。ちなみに中級者用っていくらですか?」と幡ゆり子。
「中級者用のセットは一人400万よ。あなたたちが冒険でこれだけのお金を稼げるようになったら、その時は適正な中級者として売ってあげるわよ。今はまだ早いわ」
「そうなんだー、ちょっと残念」と町田美樹。
「お金ならちょっと頑張れば足りるのにね」関口かおりも残念そうだ。
「そんな気はしたわ。だからお金だけで売るかどうか決めなかったのよ」ハーミンはアイドルならお金を本人かあるいは事務所が払ってしまえるかもしれないと予想していた。それは本人のためにならない。先ほども言ったが、冒険で死亡しやすいという意味でだ。
「体の大きさを測って大きさに合うものを用意するわ」
町田美樹、関口かおり、幡ゆり子、クラスア、ノイフェの順で体の大きさをはかった。
「ベテランの二人の装備を作るのは時間がかかるから後回しね。先に初心者の方の装備のチェックまで終わらせるわよ」
「わかったよ」とノイフェ
「わかったわ」とクラスア
町田美樹は初心者用鎧セットを装備した。
関口かおりは初心者用ローブセット(黒)を装備した。
幡ゆり子は初心者用ローブセット(白)を装備した。
「武器は持ったわね、それじゃ初心者用の訓練場に行きましょう」ハーミンに導かれて皆はネオ人材派遣会社田中マックスの地下にある訓練場へと向かった。
訓練場へとやってきたハーミンはRin・Feeのメンバーに戦う前の準備をさせた。
「まずは魔法使いね。魔法が使えないことには魔法使いも何も無いわ。あなた魔法使える?」ハーミンは魔法が使えるかを問いただした。
「使えないです」と関口かおりは悲し気に答えた。
「そうでしょうね」ハーミンはやっぱりなという顔をした。
「魔法を使う方法はいくつかあるわ。誰かに教えてもらう方法、自分で使えるようになる方法。魔導書や魔法の巻物から学ぶ方法、マジックアイテムを使うとか他もろもろよ。今回は一番手っ取り早い方法を魔法の巻物を使いましょう」
「魔法の巻物ってなんですか」
「魔力が込められた
「へーすっごいんだぁ」町田美樹は驚きと関心した様子だ。
「その二つはどう違うんですか」と関口かおり
幡ゆり子は不思議そうに用意された魔法の巻物を眺めていた。
「魔力が込められた巻物は読めば誰でも魔法が使えるわ。でも1回使いすてでコスパも悪いし、輸送、流通、あらゆる面でもう古い方法ね。たまに古代のダンジョンから発掘されるくらいしか使っている人はいないわ」
「ふむふむ」
「なるほど、なるほど」
町田美樹はわかった顔をしてうなずき、関口かおりはノートにメモしていた。
「使い捨ての魔法は初心者用の安いものでも、3万~5万はするわよ。一回の戦闘で大量に使うから結局初心者は赤字がかさむだけね」
「もう片方は一度読んだらずっと魔法が使えるようになるわ。魔法の習得を魔法で補助してくれるものなの」
「でもお高いんですか」
「どうなんですか」
「ですか」
Rin・Feeの三人は前のめりで聞いた。
「習得用のスクロールは初心者用に大量に作られているからそれほど高くは無いわよ」とクラスア
「そうね、初心者が使いそうな魔法なら3万から10万程度で売っているわ。この会社でも売っているのもを用意してもらったわ」
「それじゃ、いっぱい買おうよかおりちゃん、これでいきなりすっごい魔法を使ってバーンとやれるね」町田美樹は興奮気味に言った。
「そういう訳にはいいかないのよ」とハーミン
「なんでですか」と関口かおり
「すっごい魔法、つまり中級から上級の魔法の習得書はめったに出回らないからここには無いわ。それと、魔法にも適性があって、例えば火属性の適性があれば初心者用の一番低級な火の魔法でも、手りゅう弾くらいの威力が出るけど、火属性の適性がなければ、爆竹程度とかもっとひどければライター程度の火力しか出ないってこともあるのよ。一応魔法は使えるようになるけれど、冒険で使うには威力が足りないってことね」
ハーミンは右手にライターを取り出して火をつけ、左手の指の先から炎を出して見せた。
「まぁ冒険者は安いスクロールはだいたい全部読んでいるわよ。レベルが上がればある程度は適性が無くても使えるようになるけど、まぁ適性が最も重要でその次が熟練よ。使っていれば強くなるわ。ただし相応の時間はかかるけどね」
「あとは魔力量の話をしておきましょう。人が持っている魔力だったり、自然界の魔力を使う方法だったりいろいろあるけど、普通は体内の魔力を使って魔法を使うわ」
ハーミンは話を続けた。
「魔力が切れると気絶するわよ。時間がたったり寝てれば回復するし、レベルをあげたり装備によって増やすこともできるけどね。魔力が切れても気絶しない方法もあるけど初心者には無理なので説明は省くわ」
「モンスターと戦っている最中に気絶してしまったら危ないじゃないですか」と幡ゆり子
「そのとおり、だから限界を事前に調べて置いて、その範囲で使うのよ。足りない時は回復剤でも使うといいわよ。まぁ初心者の内は回復剤で赤字が出ないように、こまめに休憩をとるなりした方がいいわね」
「ふむふむ」町田美樹は頷いた。
「パーティーで前衛、つまり壁役が気絶したらパーティーが決壊するわ。だから前衛は魔力を使い切るような戦い方はしてはいけないわ。支援職がいなければ肉体強化や速度増加や硬化くらい使ってもいいけど、このパーティーには支援職がいるから、基本は何も魔法は使わなくていいはずよ」ハーミンはパーティーでの壁役と魔法の使い方について説明した。
「パーティーの後衛つまりは火力役ね。この人はどんどん魔法を使って敵をせん滅するのよ、魔力切れを起こさないように回復剤でも持っておくべきね。この人は敵を倒して数を減らすことがパーティーの負担を減らせるんだという考えで戦うのよ」
「なるほど」関口かおりはノートにメモしている。
「最後は支援役ね、回復を担当するわ。この人は絶対に倒れてはいけないわ。他の誰かが倒れても自分だけは倒れてはいけないという心づもりで戦闘することね。危険を冒さない行動が何より大切よ。どうしても自分を犠牲にして仲間を救うことも上級者になればあることはあるけど、初心者には必要ないわ。初心者でその状況なら適正レベルを超えて冒険をしているということなの。狩場のレベルを下げるべきね」
「そういうものですか?」幡ゆり子はいまいち納得して無さそうだった。
「支援役は支援やヒールに魔力の消費が多いから、やはり緊急用に回復役は持っておいた方がいいわ」
「はい。ハーミン先生、前衛は魔法は全くいらないんですか?」と町田美樹。
「前衛が自分で強化できれば支援役の負担が減るわ。中級者くらいなら使える戦法ね。上級者になればステータス増加量にかなり差が出てるはずだからやっぱり支援職に任せることになるけど、支援職の魔力量も増えてるはずだから支援職に任せてしまっていいわよ。それくらいできなければその支援職の人間は上級者とは言えないわ」
「なるほどー」と町田美樹
「なるほどです」と幡ゆり子
関口かおりはノートにメモを取っている。
「とりあえず回復魔法以外はいろいろあるわよ。どれを買って使うか決まったかしら?」
「回復魔法は無いんですか?」と幡ゆり子は聞いた。
「回復魔法は後で説明するわ。一旦後回しね。ちなみにそっちは値段は心配しなくていいわよ」
「どうしようかおりちゃん、ゆりちゃん」
「私は、買えるのは全部買うのがいいと思う」
「全部? 買えない金額じゃないけどそんなにいる?」
町田美樹、関口かおり、幡ゆり子は相談した。
「せっかく魔法を覚えるんだからいろいろ使えたほうがいいと思うの」関口かおりの強めの押しで3人はとりあえずそこにある習得用スクロールを一人一個ずつ全種類買って使うことにした。
「なになに、この魔法書は初級の炎魔法習得ができます。まずは手をかざして、炎を撃つために詠唱の呪文を決めましょう。詠唱に続けて体の中から魔力を掌に集めて火を放つイメージです。そして、ファイアーと言いましょう。これで炎の魔法が使えるはずです。だって」町田美樹は魔法書を読んだ。すると魔法書が光その光が町田美樹の体内に入って行った。
「うわぁ、すごい、これって魔法かな?」町田美樹は自分の掌をクルクルと翻して、自分の体に変化がないかを確かめた。
「この魔法書を読んで魔法が使えるようになったってことだよ」とノイフェが言った。
「詠唱の呪文ってなんですか」
「魔力を引き出すための作業よ。後は安全装置ね。簡単な魔法か高度な技術があれば魔法に詠唱は必要ないけど、深く集中して強い魔法を放つには初心者は詠唱をした方がいいわね。その詠唱をしたときはどんな魔法をつかうか決めおくのよ」
「なるほどー」町田美樹は深く関心したようだった。
「じゃあまずは訓練用の
「詠唱呪文は何にしようか、3人でお揃いの方がいいよね」関口かおりは、二人に確かめるように聞いた。
「それいい!」
「じゃあかおりちゃん考えて」
二人は関口かおりに同意した。
「じゃあ、炎の魔法だし、”炎よ敵を焼き払え”でどうかな」
「いいと思うよ」
「うん、かっこいいね」
三人の話はまとまったようだ。
「じゃあ行くよ、みんなでやろう」
「炎よ敵を焼き払え」
「炎よ敵を焼き払え」
「炎よ敵を焼き払え」
三人は掌を
「ファイヤー」
「ファイヤー」
「ファイヤー」
町田美樹の掌からは3cmくらいの火の玉が、関口かおりかおりからは20cmくらいの火の玉が、幡ゆり子からは10cmくらいの火の玉が飛び出して5m先にある
案山子は高度な魔法のコーティングがされており、見た目の割に頑丈なので破損の心配はありません。安心ですね。
「本当に魔法出た」と町田美樹は大喜びだ。
「やった当たった」関口かおりも喜んでいる。
「出た出た、本当に出たよ」幡ゆり子も興奮している。
「次、水のやってみよう」
「うん」
「そうしよう」
こうして次々魔法のスクロールを読んでは詠唱呪文を決めて使ってみた結果。
町田美樹は肉体強化と風に適正あり、氷にやや適正あり。
関口かおりは、炎、雷、氷に適正あり、風、土にやや適正あり。
幡ゆり子は、魔法障壁、水、光に適正あり、炎、風、肉体強化にやや適正あり。
という結果だった。
「魔法は使っていれば強くなるけれど、攻撃魔法は最初は一つの魔法に絞って使った方がいいわ。その方が効率がいいし、有利不利を考えて戦うから無茶をする可能性が減るわ。
すべての魔法を使えたとしても練度が低ければすべての魔法で相手の弱点を突いたとしても有効打になるとは限らないからよ」ハーミンは説明した。
「そうなんだー」とクラスアもうなずいていた。魔法については独学で学んできたクラスアにとっても、まじめに話を聞いていれば学ぶこともあるのだ。何しろクラスアさんは相手の弱点関係なしに、土、石、岩の
「そうなんですか? 私は風かな」と町田美樹
「私はどれにしたら…」関口かおりはアドバイスを求めた。
「どれがいいと思いますか?」と幡ゆり子
「美樹ちゃんは風で決まりね。肉体強化は攻撃魔法じゃないけれど使いこなせるようにしておくと役に立つわ」
「かおりちゃんにおススメなのは雷ね。理由は弾速が早くて当てやすいし、炎が弱点のモンスターにもだいたい有効よ。中級くらいの狩場では雷が弱点のモンスターが結構いるのよ。氷はレベルや熟練度が高くなるまでは殺傷能力が低いわ」とハーミンは説明を続けた。
「ゆり子ちゃんは回復や支援魔法が優先だけど、いざという時のために攻撃も一つは持っていた方がいいわね。炎のモンスターを多く狩りたいなら水、悪魔やアンデットと戦うなら光がいいわね」
「私は雷に決めました」関口かおりの心は決まったようだ。
「私は光にします。光ってなんかかっこいいから」と幡ゆり子
「それじゃ、攻撃魔法についてはこれで決まりね。次は回復魔法よ。場所を移しましょう」ハーミンは皆を連れて場所を移した。
「回復魔法は宗教関係者や病院の管轄だから、習得用スクロールが出回らないのよ。何か特定の宗教に属している人はいるかしら?」
「無いです」と三人。
「そ。教会系、神社系、病院系他諸々あるけれど何か希望はあるかしら?」
また、無いですと三人。ハーミンは日本人ならそんなものかという顔をした。
「おすすめを教えてください」
「おすすめは冒険者用の簡易的な教会ね。一応教会の形はとっているけど、入会金を一度払えば施設は自由に使えるし、それ以上お布施を求められることもないから面倒がなくていいわよ。特にこだわりの無い冒険者はみんなここに所属して回復魔法を教えてもらうわ」
「じゃそれにしましょー」町田美樹はノリノリだ。
「そんなんでいいの? 美樹ちゃん」関口かおりはあきれ顔で笑っていた。
「お布施のいらない教会なんて、そんないい教会他に無いよ。無いよね?」
「美樹ちゃんは現金だなぁ」幡ゆり子も笑っていた。
皆は冒険者協会にやってきた。
「汝冒険者協会の信徒とならん。入会金は10万円です」冒険者教会の教会員が言った。
「初心者にとっては高いのか安いのかわからない金額ね」とクラスアが言った。
「もっと安い教会もあるけどそっちの方がよかったかしら?」とハーミン。
「いいえ、こっちでいいです。面倒がないんですよね?」と町田美樹だ。
「ええそうよ」ハーミンは答えた。
「じゃあ、入会します。いいよね? かおりちゃん、ゆりちゃん」
「うん」
「いいよ」
「はい、じゃあ入会金3人で30万円受け取りましたので、あなたたちは冒険者教会員です。こちらにお名前の記入だけお願いします…はい。ありがとうございました」
「教会員になると何かしなきゃいけないんですか?」関口かおりは教会員に聞いた。
「いえ、特に何もすることはありません。入会金をもらったらそれで終わりです。皆さん回復魔法が目的ですよね。今からお教えしますね」
「回復魔法って誰でも使えるものなの?」と幡ゆり子
「覚えれば誰でも使えますよー」と教会員。
「それじゃ、この習得用スクロールを読んでくださいねー」
「このスクロールを読んでまず対象に手をかざし魔力を掌に集中させるイメージをもちます、その魔力を対象に当てて傷を治すイメージを持ってください。そしてこう言いましょう”ヒール”と。終わり」
「なんか軽い感じですね。ですね」関口かおりもなんだか軽い感じになった。
「読んだけどこれもう使えるのかな」と町田美樹。
「ヒール」関口かおりの掌から町田美樹に向けて光が放たれた。町田美樹は光に包まれた。
「できたっ!? のかな?」
町田美樹は特に怪我をしていなかったので何も起きなかった。
「それでできてるわよ」とハーミン。
「これであなたもいつでもプリーストを名乗れますよ」と冒険者教会の教会員は言った。
町田美樹は少し考えてからこう言った。
「うーん、私たちの職業はきっと冒険者でもプリーストでもなくアイドルなんで!」
「それもそうだね」と幡ゆり子
「私たちはアイドルです」と関口かおり。
「そうですか、まぁ好きにしてください」と教会員。
「ここでの用件は済んだわ。訓練場へ戻りましょう」
訓練場へ戻ってきたハーミンに町田美樹が質問した。
「誰でも魔法が使えて回復魔法も使えるようになるなら、職業分けって必要無いんじゃないですか?」町田美樹は身もふたもないことを言った。
「魔法の攻撃にも適性があることは話したわね。回復魔法にも適性があるわ。これが一つ目の理由。適性の低い魔法でもレベルをあげれば威力が上がるわよ」
「それじゃやっぱり誰でもなんでもできるんじゃないですか?」
「問題は誰を相手にするかなのよ。高レベルになっても雑魚しか相手にしないなら、全属性”使える”わよ。高レベルになって高レベルの相手に使うには威力不足になるわ。まぁ賢い使い手なら目くらましくらいには使えるでしょうけどね」
関口かおりはノートをとっている。
「回復も同じよ、適性がなければかすり傷一つ直すのに10分もかかるわよ。休憩中や非戦闘時ならそれでいいけど戦闘中ならそんな遅くては役に立たないわ。回復剤でも使った方がいいわね」
「高レベルになった時も同じ現象が起きるわ。傷の深さに回復が追い付かないってね。それもあって、回復魔法だけに回復は頼らずに、回復役が回復できなくなった時のために、最低限の回復剤は持って行った方がいいわよ」
ハーミンは一息ついた。
「話がそれたわね、要するに回復役は適性があるに越したことがないというのが一つ、そして熟練度を稼ぐために、戦場や狩場以外では回復魔法を使い続けて回復量をあげておく必要があるのよ。人間の怪我だけでなく、植物なんかを直すといい練習になるわよ」
「回復役以外はその間に、剣を振ったり、攻撃魔法の熟練度をあげたりとやることがあるわ。結局のところ役割分担をした方が効率がいいのよ。全員中途半端よりも全員何かのエキスパートの方が当然死亡率も低いわよ」
「これがあなたの疑問に対する答えだけどこれでいいかしら」
「はい、わかりました。ありがとうございます」と町田美樹。関口かおりと幡ゆり子もお礼を言った。
ノイフェは終始静かに皆の様子を見守っていた。いたのかお前ぇ!?
「次はフォーメーションの訓練よ。私は鍛冶屋なんだから、こんなに初心者用の講義をすることなんてまずないんだからね。次からは会社やギルドにでも紹介してもらってちょうだい」
「はい」関口かおりは申し訳なさそうだった。
「初心者用に敵が1匹の場合で行きましょう。敵を見つけたら壁役は味方と敵の間に入る。後衛、支援は敵に近かったら離れる。壁役の後ろに隠れるように動くのよ」ハーミンは動き方の説明をした。
「訓練用のかかしは動かないから、代わりに誰かに敵役をやってもらおうかしら」
「僕がやるよ」とノイフェ。
「軽くでいいわよ。移動もゆっくりね」ハーミンはノイフェに指示を出した。
「わかったよ」
ノイフェは剣を構えたてゆっくりと動いて見せた。
町田美樹は言われた通り、ノイフェとかおりとゆり子の間あたりに位置どった。
ノイフェの動きに合わせて町田美樹は位置を変えて、常に後ろの2人を守る位置に向きを変えた。
後ろの2人も、ハーミンに言われた通り、町田美樹に隠れれるように動き続けた。
「オーケーよ。相手が一人の時はそれでいいわ。次は相手が複数の場合よ。クラスアお願いするわ」
「わかったわ」クラスアは斧を構えてRin・Feeを挟み撃ちにする位置に立った。
「この場合はどうしたらいいの?」と町田美樹は困ったようだ。
「方法は二つ、一つ目、これはやむを得ない場合の戦い方よ。できるならしないほうがいいわ。あなたたちは3人だから、魔法使いが後ろの敵の正面に立つ。回復役が二人の間に立つ。この場合は魔法使い側を正面とするわ。そして壁役が後ろを守る形になるわね。この場合はできるだけ早く魔法使いの正面の敵を倒してしまってから、壁役側のに向かい合うのよ。挟み撃ちの状態が終わるまでは回復役は耐久力の低い魔法使いを優先して回復しながら戦うわ」
「ふむふむ」と町田美樹
関口かおりはノートをとっている
「なるほど」と幡ゆり子だ。
「もう一つの方法は壁役が複数の敵をまとめて注意を引き付けるのよ。まずは場所移動、前後に挟まれた場合でも全員で横に移動すれば敵を一方向にまとめられるわ。まずはそれをやってみましょう」ハーミンはやるべきことを教えてくれた。
「クラスアとノイフェもそういう風に動いてね」
わかったとノイフェとクラスアは応じた。クラスアとノイフェは3人を前後で挟んだ。
「中級者なら無言でできて当然だけど、初心者の内は誰かが合図するといいわ」
「誰が合図しよう?」と町田美樹は二人と顔を見合わせた。
「美樹ちゃんお願い」幡ゆり子が町田美樹を指名した。
「わかった。いくよかおりちゃん、ゆりちゃん。せーの」
町田美樹と幡ゆり子は右に動き、関口かおりは左に動いた。ノイフェとクラスアはそれぞれを追い、3人を分断する形になった。
「あらら、失敗しちゃったわね。それにそんなに長くしゃべっている暇は無いわよ。「右」か「左」の一言でやってみましょう。誰が指示を出すのかも決めておいた方がいいわ」ハーミンは改善点を説明した。
「もう一度やってみよう」と町田美樹
「じゃあ、合図を出すのは美樹ちゃんね」と幡ゆり子
「美樹ちゃん、お願いね」と関口かおり
ノイフェとクラスアは3人を挟み撃ちにした。
「右」という町田美樹の声に合わせて3人は一斉に走った。
クラスアとノイフェはこれを追って壁役の町田美樹の前にノイフェとクラスア、後ろに関口かおりと幡ゆり子という形が出来上がった。
「うまくいったようね」ハーミンは頷いた。
「あとはいくつか細かい動きをやっておきましょうか? この訓練用の木盾と木の棒を使いましょう」ハーミンは木でできた盾と棒を町田美樹に渡した。
「盾で受け止めるだけでなく力を受け流す訓練よ。盾の強度に頼れないからいい練習になるわよ。そして盾で攻撃を受けたら剣で攻撃するわけだけど、狙うなら首がいいわ。
「僕がやるよ」とノイフェ
「それじゃノイフェ相手役をお願いね。木の盾はたくさんあるから木の盾がギリギリ割れるくらいの威力で盾に攻撃してちょうだい」
「お願いします」と町田美樹
ノイフェは攻撃を開始した。
ドーン
木の盾が割れた。
「次ね」
「ノイフェもう少しゆっくり、そう、それくらいでいいわ」
ノイフェは少し速度を落とし町田美樹と訓練を行った。
「こっちは別の訓練をしましょう。かおりちゃんは味方が邪魔で魔法が撃てない時に、味方を避けて魔法を撃つ練習。ゆり子ちゃんは最悪の事態になっても何とか踏みとどまれるように攻撃を避けれるようにする練習よ。ゆり子ちゃんが壁役の位置について、クラスアは立ってればいいわ。かおりちゃんはクラスアが見えない位置で詠唱を開始して、打つ瞬間に射線が通るように移動しながら魔法を撃つのよ」ハーミンは関口かおりと幡ゆり子のための訓練メニューを指示した。
「これってクラスアさんに魔法を当てるんですか?」と関口かおりは心配そうだった。
「大丈夫よ、当たってもこれくらいなら平気だし、何なら避ける練習でもするわよ」とクラスアはとても強気だった。
「いきますよ」
「はいどうぞ、こっちも行くわよ」クラスアは斧を持ち上げてゆっくりと幡ゆり子に攻撃を開始した。
「少しずつ速度を上げていくわよ」
「稲妻よ敵を撃て、サンダー」
「稲妻よ敵を撃て、サンダー」
「稲妻よ敵を撃て、サンダー」
最初の一発だけは斧で受け止めたがその後はクラスアは本当に避ける練習をしていた。
30分ほど練習は続いた。それぞれそれなりの成果が出ていたようだ。
「それじゃ最後ね。前衛が敵に密着して戦う方法よ。敵に遠距離攻撃があった場合なんかは特に有効ね。相手に密着することによって射角をとれなくするわ。接近戦の場合でも相手に腕を振る距離さえ取らせない方法よ。相手がナイフなど密着状態でも使える武器を持っている場合にはかえって危険になるからやらない方がいいわ」
「相手は私がするわ、私がハンマーを振るからそうさせないように盾で押し込んでみて」ハーミンは長槌を構えた。
「はい」
ハーミンがゆっくりと長槌を振ろうとするところへ、町田美樹は盾を持って突進し、ハーミンが身動きできないように押し込んだ。ハーミンもそれを避けてハンマーを振ろうとするが町田美樹はさらに盾で動きを制する。
しばらくそれを繰り返して、訓練は終わった。
「今日はこのくらいにしておきましょう。訓練もやっておくことは大切だけどそれ以上にモンスターを討伐してレベルを上げることが大切よ」
「はい、ありがとうございました」Rin・Feeの三人はお礼を言って帰って行った。
ハーミンはようやく、クラスアとノイフェの依頼の本題に入ることにした。
「待たせたわね」
「待ってました」クラスアは待ちくたびれたという表情だ。
「いいよ」とノイフェは特に気にしていない様子だ。
「それじゃ、どんな装備品が欲しいのか聞いて行きましょう」
「私はまず鎧が欲しいです。どんな攻撃にもびくともしないような丈夫なやつがいいです」クラスアは興奮して言った。
「それは値段次第よ」とハーミンは言った。
「お金はこれだけあります。とクラスアはあるだけの金貨の入った袋をテーブルの上に置いた」
「確認するわね」ハーミンは袋の中のお金を確かめた。
「足りないわね」
「えっ?」そんな結構あるはずです。
「ええ、かなりの金額よ、並みの冒険者なら稼げない金額でしょうね。それでもうちの量産品の鎧を買ってちょっとおつりが出る程度よ。でも安心して、量産品の中では一番グレードが高いものだから。今のあなたの装備よりはよほどいいものになるわよ」
クラスアは悩んだ。
「うーん、うーん? うーん、うん?」
「それでアクセサリー以外はハーミン堂ので
「ちなみに特注するならどれくらいいるの?」
「これの三倍はいるわね」ハーミンは答えた
「なんでそんなに高いのよー」クラスアは両手で頭を押さえて首を左右に振った。
「量産品でも材料はレアな素材をさらに選りすぐって作っているわ」
「それ以上となると、ほとんど魔王級か竜王級に近いレベルのモンスターを倒さないと素材が手に入らないわ。討伐隊を組むにしてもかなりの手練れをものすごい大人数雇わくっちゃならないからよ」
「もちろんそんな素材が簡単に流通してるわけもないわ」
「そりゃそうね。うーん、納得」クラスアは納得したようだった。
「必要な素材を全部用意できるのなら、だいぶ安くなるわよ」
「それはいいわね。あとで必要な素材を教えてちょうだい。自分で取りに行くわよ」とクラスアはやる気を出したようだ。
「いいけど、あなたパーティーはいるの? いくら腕が立つは言っても一人では無理よ」ハーミンはたしなめた。
「う、パーティーはまだいないわ」
「私が手伝ってもいいけど高いわよ。逆に私の仕事の時に手伝ってくれるなら割引きするわよ」
「それもありね。うんうん。そうなるとやっぱり今よりいい装備が欲しいわけだけど、仕方ないわね。今は量産品に買い替えで我慢しておくわ。特注品を頼むのはまた今度にするわね」クラスアは今回、特注品の鎧を頼むのをあきらめてハーミン製の量産品、至高の鎧を買うことにした。
「まぁ世界一の鍛冶屋の装備ならこれくらいの値段でも仕方ないわね」クラスアは気分を切り替えた。
「お褒めに預かり光栄だわ。あなたの装備を作るときはとびっきりいいのを作ってあげるわよ」ハーミンは褒められて素直に喜んだ。
「特別割引で?」
「割引は並よ」
「あらら」
「それでそっちはどんなのが欲しいの?」ハーミンはノイフェに聞いた。
「?」ノイフェは首を
ハーミンもそれを見て首を
「僕は剣や鎧はたくさん持ってるよ。前にスケルトンと戦った時にたくさん拾ったんだ」
「それで?」
「でもスケルトンの装備は勇者らしくないんでしょう? 僕は勇者だよ。勇者っぽいのってどんなのか教えてよ」ノイフェには勇者らしい装備などはよくわかっていなかった。
「そうねえ」ハーミンはしばらく考えてから答えた。
「すっごい性能の装備に、すっごいかっこよくて、魔王や竜王を簡単に倒せるような装備かしら?」
「光の斧なんていいんじゃない」クラスアは何気なしに言ってみただけだった。
「すっごい装備はいいけど、斧は使えないよ。他のは無い? 魔王を簡単に倒せるのがいいよ」
「それなら剣はどう? 光の剣なら魔王相手ならかなり効果的な武器よ。アンデットなんかも倒せるわよ」
「いいね、アンデットもたくさん倒すからあると便利そうだよ」ノイフェは興奮していた。
「すっごい装備ってのはお金しだいだけど、光の剣ならうちで売ってるわよ。値段はそれなりだけど量産品だから、べらぼうに高いわけではないわね。とりあえず、どんな装備をしてもその鉄の装備よりはマシでしょう」
「僕は敵の攻撃を避けるから、強い防具は必要無いよ。それよりもモンスターを倒せる装備がいい」
「あんたこないだモンスターの攻撃に当たってたじゃない。レベル相応の装備くらいしなさいよ。それに、防具だって加護が沢山かかったのなら攻撃だって強くなるでしょ」クラスアはアイドル救出作戦の時のノイフェの被弾について指摘した。
しかしノイフェにとってはあれはアイドル達をかばいながら戦った結果であって、そうでなければあの相手に傷など負わないというのも事実であった。
「それでお金はいくら持ってるの?」とハーミン
「持ってないよ」
「はぁ!? 持ってない? ここ最近の仕事でも結構稼いでたでしょう? そのお金はどこへやったのよ」クラスアはとても驚いたという風だ。
「ヌテリアにあげた」ノイフェは答えた。
「ヌテリアって誰よ、それにどういう話なのか説明してみてよ」とクラスアは説明を求めた。
「ヌテリアは魔法使いだよ。僕のパーティーメンバーだよ。ヌテリアが仲間になるときに、ヌテリアは高いって、それでその時持っていたお金を全部渡したけど、それじゃ足りないって。だからその後も稼いだお金は全部ヌテリアに渡してる」
「へー」クラスアは心底どうでもよいという反応だった。
「その人は実力は確かなの?」ハーミンは悪い人に騙されているのではないかという心配をした。
「ヌテリアはすごいよ。僕の知らないことを沢山知っていて教えてくれるんだ。それに魔法もすごいんだよ。世界一の魔法使いだって言ってた」ノイフェは自慢げに話をした。
それは大丈夫なのかますますわからなかったが、ハーミンはそれ以上深くは追及しないことにした。
「それじゃいつまでたっても、装備は買えないわよ」とハーミンは言った。
「そうだね」とノイフェは答えた。そしてノイフェは首をかしげていた。
「お金は無いけどモンスターなら倒せるよ。僕がハーミンの代わりに素材を取ってくるよ。それでお金の代わりにしてよ」とノイフェは提案した。
「それならそれで構わないけど、うちの装備を買えるだけのモンスターの素材を取ってくるとなると、かなり強いモンスターをかなりの数倒さなきゃならないわよ。大型のドラゴンだって倒さなきゃならないわよ」
「平気さ。僕は勇者だからね。ドラゴンだって何度も倒しているよ」自慢げに言っているがお金がないことはかっこよくはなかった。
「それで、素材の鑑定はできるわけ?」とハーミン
「できないよ」ノイフェは当然のように答えた。
「やっぱね」ハーミンはやれやれといった顔だ。
「仕方ないわね。私が素材集めに行くときに、手伝ってちょうだい。それで数をこなせばそれを支払いにあててあげるわ」
「ありがとう、ハーミン。僕一生懸命モンスターを倒すよ」とノイフェ。
「え? それってありなの」クラスアはそれなら私もといいそうだった。
「あなたもそっちがいいならそれでいいわよ。勇者の二人には期待しているわよ。注文はうちの量産品の至高の鎧と光の剣ってことでいいのね」
「ええ、いいわ」
「うんいいよ」
「話はまとまったわね」
「至高の鎧は体に合わせるから今日体のサイズは図ったけど完成まで数日かかるから、近いうちに取りに来て。その時に買うか、彼のように素材集めに同行するか決めてちょうだい」
「ノイフェは、まぁそうね。君の所属している会社にもいくつかクエスト依頼を出すから、できそうなのがあったら参加してくれたらいいわ」
「勇者が本当に勇者として、魔王なり竜王なり倒してくれるなら、それはうちにとっても大きな宣伝になるわ。それはお金の価値としても交換できるものよ」
「ふーん」ノイフェはいまいち宣伝効果についてはわかっていなかった。
「それじゃあハーミンまた数日後にね」
「じゃあねハーミン」
「ええ。またね」
こうしてクラスアとノイフェは装備の注文の約束をして家へと帰って行った。
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