第5話 ノイフェの旅立ち
さらさらと流れる小川に魚たちが漂うように泳いでいる。
シュッ グサッ ガチン
少年が投げた剣は水中の魚を貫き浅い川底に刺さった。今日の分はもうこれで十分だろう。少年は狩りを終えて捕まえた魚のたくさん入った桶をもって家へと帰った。
カラッサ村へと帰った少年に遠くから声をかける中年の男性。
「おーい! ノイフェ、今日なんだろう?」
「そうだよ」
ノイフェは勇者として今日から旅に出るのだ。
近づいてきた中年の男性はノイフェと話をした。
「ラムジ婆さんが、出かける前に、水
「わかったよ」
「しっかしまぁ、本当に今日旅に出るんだな。こんな田舎の村から勇者が出れば俺たちも鼻が高いってもんだぜ」
「うん、ずっと剣の訓練をしてきたからね。他にも狩りのついでに弓矢や槍や石投げの練習もしたよ」
ノイフェは中年の男と並んでラムジ婆さあんの家の方へと向かった。
「それじゃあな、出かける前には声をかけろよ」
ラムジ婆さんの家に着いたので中年の男は一旦の別れの挨拶をした。
「うん、そうするよ。じゃ後でね」
ノイフェは村に三軒しかない家の一つ、ラムジ婆さんの家の中へと入って行った。
「やあ、ラムジ婆さん、来たよ。取った魚もここへ半分置いておくね」
「ありがとうよ、ノイフェ」
ノイフェは台所から水汲み用の桶を手に取った。
「今日で最後だから水も薪もいっぱいにしておくよ」
ノイフェは家を出ると近くの小川まで走って行き、水汲みを始めた。ノイフェの歩く姿も元気いっぱいでとても楽しそうだ。それもノイフェがとうとう今日旅に出られるからだ。
ノイフェは幼いころ、ラムジ婆さんに勇者の話を聞いた時から勇者を目指して修行をしていた、勇者は旅に出て魔王を倒すんだって聞いた。今日旅にでるノイフェは今日から、本当に勇者なのだ。
勇者に成れると思うと、わくわくがとまらない。それが今日のノイフェの一挙手一投足に現れていた。
小川で水を汲んでラムジ婆さんの家の水がめに水を入れて5往復で水汲みを終えた。
今度は薪割だ。森の中から適当な大きさの木を切っては運ぶこと5本。5本の木の幹を剣でスパスパと切っていく。これも勇者に成るための修行だし、修行になるような切り方をしていた。
薪割を終えた後はラムジ婆さんの家の裏に薪を切れに並べておいた。これで薪割も終わりだ。
家の中へ入るとラムジ婆さんに近くに来るように言われた。
「ノイフェ、新しいサンダルを持っていきなさい」
そういってラムジ婆さんはノイフェの脚に藁で作ったサンダルをはかせてくれた。
「ノイフェにはずっと助けてもらったね。こんなことくらいしかできないけど、どうか無事に旅をしておくれ。それといつでも帰ってきていいんだよ」
「わかったよ。でも、僕は勇者だからね。すぐには帰ってこれないと思う」
「ああ、ああ、わかっているよ」ラムジ婆さんはしみじみと言った。
ノイフェが水汲みと薪割をしている間に、ラムジ婆さんはさっきノイフェが捕まえてきた魚を調理していた。
ノイフェはラムジ婆さんと一緒に乾いたパンと、焼いた魚と、山羊のミルクで朝食をとった。
朝食のあとはラムジ婆さんの山羊に餌をやってから、自分の家に帰ると、ノイフェは用意しておいた旅の荷物の最後の点検をした。
剣、大人用のでノイフェには長い代物だ。保存食のパン5個、保存食の肉2個、薬草ロープ1個、ボロ布、わずかなお金。
とうとう出発する時が来た。先ほどの中年の男マータムにも挨拶をしてノイフェは、ついにカラッサ村を出た。
「行ってくるよ」
ノイフェにとってまだ見知らぬ土地ということはない、隣村やその隣の町くらいまではモンスターや獣からとれた素材や、藁のサンダルなんかを売りに言ったことがあるからだ。
しかし今日ノイフェが見る景色はいつもとは違っていた。いつもの、山や森や小川も、目新しくなんだかキラキラ輝いて見えるのだ。それもノイフェの気持ちが高揚しているからに他ならない。
昼食後に村を出たノイフェは隣村の手前まで夕方にはやってきた。もうすぐ村に着くというところでノイフェは獣の気配に気づいた。
(狼だ。数は4)
ノイフェは背負っていた剣を抜き鞘を捨てると、村の手前に向かってゆっくりと歩いた。
グルル
茂みに隠れつつ狼たちは距離を詰めてきた。
ノイフェも足を止めてこれを待つ。
ゆっくりと近づいてくる狼たちは腹を空かせている。ノイフェはその4匹の位置を目で確認した。
そして狼に囲まれた。
ノイフェは正面の1匹に目線を向けて互いににらみ合った。
前に2匹と右と後ろだ。
狼はノイフェの周りを近づきながら包囲を狭め、一っ飛びでノイフェに噛みつける距離まで近づこうとしている。
すでにノイフェの間合いに入った。しかしノイフェはまだ動かない。狼はさらにゆっくりとノイフェに近づいてくる。
グルル
それでもノイフェはまだ動かない。正面の狼にまっすぐ剣を構えたまま。狼の更なる接近を待っているのだ。
ノイフェの剣先から半歩踏み込めば剣が届くというところまで狼が来たところで、とうとう狼が襲い掛かった。
ガウッ
ガウゥ
まず右側の狼がノイフェに飛びかかり続いて他の3匹も飛びかかってきた。
ノイフェは最初に動いた右側の狼を一刺し。
前から来る狼の攻撃をかわした。
後ろからやってきた狼は足を噛みつこうとしたところを足を逃がして躱し反撃の勢いで切る。
ノイフェが踏み込んで前にいた狼もバッサと切りつける。
逃げようとした最後の一匹に剣を投げて仕留めた。
「ふー」
こうして戦いは終わった。ノイフェは狼から使えそうな素材を剥ぎ取り、剣をボロ布でふいて鞘を拾って剣を鞘へと納めた。
旅に出てから半日もせず隣村に着いたノイフェ。これがノイフェにとって勇者としての最初の冒険となった。
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