第4話 アイドル救出作戦
「
異世界アイドルが転移に失敗して行方不明になりました。
ネオ人材派遣会社田中マックスから帰宅しようとしていたクラスアとドミールはただならぬ空気に緊張を走らせた。
「どういうことです? 詳しく話してください」ミーユは落ち着いた態度で、走り込んできた従業員に話を聞いた。
「三日後に行われる予定の異世界ライブの出場予定のアイドルが異世界への転移に失敗して、行方不明になりました。大至急捜索隊を結成してアイドルの救助をお願いしたい」
「それはお仕事の依頼ということでよろしいのね」とミーユ
「はい、大至急の案件によりそれなりの金額を支払うとのことです」
異世界に転移して仕事をすることは普通なことになっている現在だが、時折転移失敗というのはある。転移門の記録をたどることができれば1~2時間もしないうちに見つかるが、転移門の記録をたどることができなければ3日以内というのはかなり厳しい、運が悪ければ1カ月たっても見つからない。もちろんその間に死亡していることもある。
「転移門の記録はなかったのですか」ミーユは捜索と仕事の値段の決定に必要な情報を集めようとした。
「いえ、記録は残っていました」
三日後のライブならばまだ時間はある。それで大至急というのであればよほどのアイドルなのだろうか?
「そうでしたか、それで一体誰がどこに飛ばされたのですか」
「ここに、転移失敗したアイドルの出る予定だったライブのパンフレットがあります。名前と顔が書いてあります。グループは…
(グループ? 一人ではなかったのか)とミーユは思った。
Las for you
マイクートン
ShaverS
ラスエ
モーハ・ワーズ
ペピティナ
アツドル5
パーティーストーム
To☆
ルダレス
ムード・ド・メーカー
eパワフル
サクヤナヒメ
Rin・Fee
0カロリー
の全部です。総勢54名です」
全部!? 多いよ多い多すぎるんだよ どうなってるのこれ?
「転移先もバラバラで地上、地下、天上、バッヘン界がほとんどですが、数人がベル世界に転移したとのこと」
「何ですって。ベル世界!? あんな荒廃してモンスターだらけの世界、冒険者でも危険すぎて滅多に近寄らないというのに」ミーユの顔にもはっきりと焦りの色が見えた。
「なるほど、それは大至急ですね。それなりの冒険者を急いで集めなくては、中級以上で今すぐ連絡のつく冒険者を集めます」
「私が行ってあげるわよ」横で聞いていたクラスアは名乗りを上げた。
「それは助かります」とミーユ
「私もですわよ」ドミールも? 無知とは恐ろしいものですね。
「やめておいた方がいいわよ」クラスアはドミールを止めた。
「いいえ、人の危機とあらば立たねばなりませんわ。戦闘はまだうまくできませんけど荷物持ちでもなんでもやりましてよ」ドミールは止まらない。
「私は止めたわよ。それ以上はあなたの責任よ。それにまぁいいか、本当の冒険ってのを早めに見ておいた方がいいかもね」クラスアはそれ以上止めなかった。
大至急連絡のつく冒険者が集められた、ドミールを除けばそれなりの実力があると思われるものが集まったが、それでもベル世界は危険なのだ。
集まったのは
「クラスアよ、職業は見ての通りよ、よろしくね」
皆はクラスアの斧を見てアックスファイターだと思った。
「オーディースだ。プリーストをやっている。支援は任せてくれ」オーディースと名乗ったのはスータン姿の高身長の男だった。
なぜかバニーガールの格好の女性がいた。美人でスタイルもよい。
「私はハーミン。鍛冶屋をやっているわ鍛冶屋だけど戦えるわよ」
赤いバニースーツに網タイツでしっかりとウサギ耳のカチューシャをつけている。
「あなたがハーミン? バニーの格好しているし、本物なの?」
クラスアは興奮気味に聞いた。
「鍛冶屋ハーミン堂のハーミンと言えば私のことよ。私以外に有名なハーミンなんて聞いたことが無いから、あなたのいう本物というのはきっと私で間違いないわ」
ハーミンは長い金槌の頭を地面につけて柄にもたれかかっていた。
「ドミール・ベタムです。まだ初心者ですが、勇者を目指しておりますわ」
勇者という言葉に皆が反応した。そしてハーミンが口を開いた。
「ベル世界は初心者が来るところではないわよ。それに勇者という言葉を名乗ることがどういうことなのか知っているの?」
ハーミンはドミールの参加には反対のようだ。
「勇者を名乗るってのがどういうのか知るために参加するのよ」
クラスアはドミールの参加理由を説明した。
「それでいいのね?」ハーミンはドミールというよりはクラスアに聞いた。
「ええ私はいいわよ」クラスアは答えた。
「ならいいわ」ハーミンも納得した。
「僕はノイフェ。勇者だよ」
ノイフェは自己紹介をした。クラスアは疑いの眼差しでノイフェを見た。
「この子大丈夫なの?」
「先日の試験でゴブリンを一番多く倒した子ですよ。実力は中級以上で間違いないかと」
ミーユは先日のノイフェの成果を説明した。
「ふうん、ここから行くところはゴブリンをいくら倒しても手に負えないほど強力なモンスターがいるわよ。やめるなら今の内よ」とクラスア
「止めないよ。勇者は人助けをするものなんだよ」とノイフェ
「また勇者か、勇者ってのは実力があっての勇者なのよ。私みたいにね。モンスターがいても逃げないで恐れず戦うのよ。それが勇者よ」
クラスアは自身の勇者象を語った。
「あんたみたいな子供が勇者を名乗るのはおこがましいわよ」
クラスアはあきれ顔だ。
「僕は逃げないし恐れず戦うよ。子供じゃない僕は勇者だよ。それにクラスアは斧を持ってる。そんな勇者はいないよ?」とノイフェは不思議そうに答えた。
「何をー? 私がその斧を持ってる勇者でしょうが…いいわ、このクエストで私の実力を見せてあげるわよ。それで勇者かどうかわかるわよ…あんたも、ねっ…」
クラスアは人差し指でノイフェの
クラスアはそれ以上は話はしないことにした。
「私は自己紹介をしていいのかな」
メーラムは自分の番を待っていた。
「私の名はメーラム、踊り子だ。勇者を目指しているが実力は、私もクエストで見せよう」
「男の踊り子って何なの?」とクラスアは思ったことがつい口から出てしまった。
メーラムは冷静に答えた。
「冒険者に性別など関係ない。どんな性別でもモンスターにやられれば死ぬ。男でも踊りは踊れる。それだけだ。時間が惜しい、救出の話を進めよう」
「そうね、それには同意するわ」とハーミン
「私たちが行くのは当然ベル世界よね。他の世界は他の冒険者に行ってもらいましょう」
ハーミンの発言に皆がうなずいた。ドミールもよくわかっていなかったが周りをみて続いてうなずいた。
「場所は」と簡潔にメーラム
「ベル世界の三天門付近の転移門から西に200km付近です」とミーユはベル世界の一部が書かれた地図を持って話した。
「私たちが探しに行く子はどんな子なの?」
クラスアはアイドルグループのパンフレットを持ち上げながら聞いた。
「アイドルグループ、
と、サクヤナヒメの
「承知した」とメーラム他のメンバーも救助者の顔と名前を覚えたようだ。
クラスアはもらったパンフレットの写真に〇をつけた。
最近のアイドルは冒険者の訓練も積んでいる者が多い。
「散り散りになったアイドル達も最低限の冒険者としての知識と経験はあります。ベル世界の魔物に挑んで命を落とすようなことはないでしょう。あとは救助隊が到着までどこかに隠れたりして無事でいてくれるといいのですが」
ミーユは心配そうに話した。
「急いで出発しよう」ノイフェは出発をせかした。
「本日はどちらへ参られますか?」
急ぎ転移門へとやってきたクラスアチームにゲートの門番が声をかけた。
「ベル世界の三天門へ、急ぎで頼むわ」クラスアは門番をせかした。
「承知!」
異世界のゲートが開き、パーティーメンバーは光の渦でできたゲートをくぐってベル世界へと向かった。
ベル世界の三天門へとやってきたクラスアチームはそこから西へと向かう方法について話あっていた。
「西に200キロ、どうやって移動しますの?」ドミールが荒れ果てた大地を見回してみても、そのあたりに馬車などはない…。
「本当は転移魔法でも使えればいいんだけど、都合よくその辺に転移できる人っている?」とハーミンがパーティー全体に聞いた。
「無いな」
「同じく」
「できないよ」
オーディースに続いて、メーラムとノイフェも否定した。
「私もそんなのできないわよ」とクラスア。そんな気はしてた。
…となると残る方法はただ一つ…
「徒歩で行くわよ」クラスアは準備運動を始めた。
「それが一番早いわね」ハーミンもその気だ。
「徒歩ですの? 200キロともなれば5日はかかりますわよ」
ドミールはそんなに歩けるだろうかと不安げな表情だ。
「そんな暇は無いわ。私が持ち上げていくわ。他にも走るのに自信の無い人はいる?」クラスアは準備運動を終えてドミールに言った。
「俺だ」
オーディースだ。
「走れなくはないが、しょせんはプリーストレベルだ」
「それなら僕が背負っていくよ」とノイフェ。
「ああ、自信があるなら頼む」
「まかせてよ」
「他は?」
「私は大丈夫よ」
「私も問題ない」
クラスアの問いかけにハーミンとメーラムが答えた。
「それじゃ急ぎましょう」
「全体スピードアップ、全体肉体強化、全体体力消費減少」
オーディースは皆に次々と支援魔法をかけた。
「これでいいだろう」
ノイフェはオーディースを背負って矢のような速度で走り出した。ハーミンとメーラムもこれに続いた。
「おぶってもいいんだけど気絶されて頭でも打たれると困るわ」クラスアはドミールを脇に抱えた。
「これは何ですの」
何をやっているのかとドミールは問いただしたい思いだ。
「舌噛まないようにね。行っくわよー」クラスアは走り出した。
ヒューン
「きゃああああああああ」
あまりの速さにドミールは悲鳴を上げた。
走り出した皆は野を超え川を越え小高い丘をひとっとびだ。一歩一歩の跳躍距離もすごいし何よりスゴイハヤイ
走りながら新路上にゴブリンの集落を見つけた。ベル世界でもゴブリンはゴブリンだ。彼らにとってはしょせん雑魚キャラだ。
オーディースはノイフェの背中から分裂する光魔法を放ってゴブリンを貫いた。
メーラムは走りながらの跳躍のついでに両手のバジュラを投げてゴブリンを倒すと、着地後からの前転側転側転でバジュラを拾うとそのまま走り抜けた。
ノイフェは着地のついでに地面を蹴って、飛び散った土や小石がショットガンめいてゴブリンたちを貫いた。そしてそのまま走り去った。
クラスアはゴブリンに着地して踏みつぶすとそのまま飛んだ。空中では道具の力で岩を隆起させて複数のゴブリンを貫いていた。
ハーミンは長槌を大きく振りかぶり着地のついでに地面をたたくとハーミンを中心になんかいろんな属性の魔法が吹き出した。当然ゴブリンは死んだ。
こうしてゴブリンの集落の一つが壊滅した。
三天門から西に約200km地点に到達した。
「このあたりにいるのなら俺の探知魔法で見つけられるはずだ」オーディースは早速探知魔法を使いはじめた。発生した光の輪が広がって行く。
「人間らしい反応があったぞ。近くにモンスターもいるようだ。急ごう」
「ええ」
ハーミンを先頭に皆は反応があった方へと向かった。
「行ったみたい」
声を押し殺して話しかけたのは山崎慶子だった。アイドルになって初めて大きなフェスに参加できると喜んだのもつかの間、冒険アイドルとかいう訳のわからない括りにされて、異世界のことはともかく、冒険者としての基礎知識を学ばされたり実際にクエストを受けたりとなぜかアイドルらしからぬことになっている。
さらに悪いことに、天上界に転移しての会場への前入りのはずが、なぜか会場とは全く関係ない所に来てしまった。
ごくまれに転移に失敗することもあるとは聞いていたものの、まさか自分たちがそんな目に合うなんて思ってもみなかった。
転移失敗後にすぐ近くにモンスターがいなかったことが幸いではあったが、彼女たちが転移したのは運悪くバス世界と並んで危険なベル世界だ。
冒険者としても未熟な彼女たちがこの世界の魔物に見つかればそう長くは生きられないだろう。
「お願い早く誰か来て」と震えながら小さい声を出したのは赤松結城だ。
すでに廃墟と化している建物の陰に隠れてモンスターをやり過ごしたところだ。
運よく廃墟に隠れはしたものの十数メートル先には危険なモンスターがウヨウヨいる。飛び出した目玉に、大きな口と大きな牙、4足歩行に緑色の皮膚で長いしっぽの生えたとげとげしたモンスターだ。その体長は5~6mといったところだ。確か教本で見たトワフェンというモンスターだ。
ベテランの冒険者にとっては慣れた大きさというかむしろ小型の部類だが、冒険初心者の彼女たちにとっては素手で象に挑む以上の恐怖がある。まして温厚な象とは違い危険で獰猛なモンスターなのだから。
「こっちもダメみたいです」
この状況下で何とか脱出ルートを探そうとしているのはこの中では最も年上な関口かおりだった。未熟な新米冒険者にできることはなく、ただ隠れているだけだった。もしも逃げ道を探して脱出を試みたとしても、近くに安全な場所はない。人間の住処などこの世界にはほとんど残っていない。もっとも近い転移門まで200kmほどあるのだから、その道中にモンスターに襲われて命を落としたことだろう。
「空でも飛べればいいんですけどね」
と幡ゆり子が言った。
脱出にはそれくらいできなければ不可能という判断はしっかりできている。
「今は救助を待ちましょう」
自分たちが転移に失敗したことはすぐにわかるはず、そう初心者用の冒険者の教本に書いてあった。どのくらいで救助が来るのかなんてわからないが、とにかくいつかは助けが来ると信じるしかない。
幸いだったのは、彼女たち自身がどの世界に迷い込んだのかを知らなかったことだ。もしバス世界に落ちたとわかっていたらパニックをおこして動き回りモンスターに見つかっていたかもしれない。
ここにおとなしくしてればすぐに危険になるはずはない。
そう思っていた。
グルゥアアア
人間のにおいを感知してトワフェンとは別のモンスターがやってきたのだ。
「うそ」
目の前に現れたのは、三つ首に獅子の頭、山羊の頭、竜の頭、山羊の胴体、ヘビのしっぽとドラゴンの翼を持つ怪物、つまりキマイラだ。体長は7mはあろう。
グルゥアアア
「逃げて」関口かおりはそう言うと急いで走りだした。
「え、なに?」
「うそうそうそ」
赤松結城と山崎慶子も急いで走り出した。
グルゥアアア ギャーギャー ガルルル
背を向けて逃げ去る3人の横で幡ゆり子は腰を抜かして転んでしまった。
「あ…あ…」
声にならない恐怖が身の内から湧き上がってくる。
何か危険を探るようにゆっくり、ゆっくりと近づいてくるキマイラはもう体一つ分というところでもう一度獲物を狙う咆哮を浴びせた。
グルゥアアア ギャーギャー ガルルル
振り上げた前足が降り下ろされる、なんだかゆっくりに見えるなぁ。
中学校のころの思い出とか、アイドルになった時とか、誰かを幸せにしたくってアイドルになったんだった。レッスン大変だったなぁとか、走馬灯っていうのかな。ああ…ああ、もうダメだ。
誰か…あ
ガチン
降り下ろされた前足をノイフェが剣で止めていた。
「あ」
思考停止した脳は状況が理解できなかった。
「来たよ。大丈夫?」受け止めた前足をノイフェは力で押しとどめつつそこの女の子に聞いた。
「せっ」ハーミンが降り下ろしたハンマーをキマイラは飛びのいて避けた。
ドスン
「やるわね」
「とりあえず、まだ生きてるわね」クラスアは彼女たちの生存を問いただした。
オーディースはアイドル達の中で一番キマイラから離れた場所にいた関口かおりの横に降り立った。ノイフェはゆり子を抱えてオーディースのところへ跳んだ。同じくメーラムも赤松結城と山崎慶子の背中をつかんでオーディースのところへと跳んだ。
「全体硬化、全体防御力アップ、魔法障壁、ヒール」
オーディースはアイドル達にも素早く防御魔法をかけ関口かおりが転んだた時の怪我を直した。メーラムは彼女たちを守る位置に構えた。ノイフェもその少し前に構えた。
「全体攻撃力アップ」オーディースは次の支援魔法をかけた。
クラスアはドミールをアイドル達の横に落とすと、キマイラの右前に位置取った。それを見てハーミンは左前へ場所を移した。
クラスアとハーミンがキマイラの前の左右に展開し、ノイフェ、メーラムはそれ以外の皆を守る形となった。
「どっせい」
クラスアが大きく斧を振り上げてキマイラに飛びかかった。
が
キマイラはこれを避けた。しかし地中から尖った石柱が伸びてキマイラに刺さった。キマイラも急所を避けている。かすった程度だ。
「やるわね」
クラスアは斧だけでなく石柱の方もほとんどよけられたことに驚いた。並みのモンスターならクラスアの斧なんて避けられないし、避けたとしても、第二の攻撃まで避けられることなんてめったにないからだ。
「速度低下、防御力低下、攻撃力低下」
オーディースは立て続けにキマイラに
すかさずハーミンが槌を振って魔法を放つがこれも躱す。
キマイラは間合いを取って獅子の頭から火を吹いた。
ヒュゴッ
ハーミンとクラスアはこれを躱し、ノイフェとメーラムがアイドル達の前に出て盾になろうとした。
「魔法障壁っ」
オーディースは素早くノイフェとメーラムの前に魔法障壁を張った。
つづいてヘビのしっぽは毒霧を吐いた。
「防毒障壁、全体解毒」
初心者以外で毒耐性の用意をしてない奴なんていない。オーディース以外のパーティーメンバーは毒霧が放たれた時も誰一人として
「やぁっ」
「せいっ」
クラスアとハーミンが次々と襲い掛かるしかしまたキマイラはこれを躱す。キマイラが回避して着地した場所はぬかるみになった。そして次の瞬間土が盛り上がりキマイラを包むとその泥は石になった。
「これで逃げられないわね」とクラスアの仕業だ。
動けなくなったキマイラは、ジタバタと身動きを取ろうとしている。そして竜の頭からは魔法弾を、山羊の頭からは雷を吐いたが、回避と魔法障壁によってすべて防がれた。
「いくわよ…やぁっ」クラスアは動けなくなったキマイラのドラゴンの首めがけて斧を降り下ろした。
ザクー
ギョアアー
「せぇぇえっ、ハーミンスペシャル」
ドブシャー
スペシャルなハーミンの一撃がキマイラの背中に命中した。キマイラは水圧で切り刻まれ、感電し燃え上がり、風の刃で切り刻まれて、凍結し、光属性魔法が撃ち放たれ、闇魔法が撃ち放たれ、再び水、雷、炎、風、氷、光、闇に襲われて動かなくなった。
ギャウラー
戦いは終わった。
念のためノイフェは残った山羊の頭と竜の頭の首をはねた。メーラムはヘビのしっぽを切り落とした。
ドミールはあまりの光景に言葉を失っていた。これが戦いか。あまりの速さにドミールにはほとんど見えてはいなかっただろう、しかし、攻撃を食らえば死ぬ相手を前に根源的な恐怖を体験したのだった。今までのゴブリンやコボルトとは違う、間違っても運よく勝ってしまえるような相手ではないのだ。ドミールは恐怖に震えた。
「お、終わりましたの?」
「まだだよ」ノイフェは答えた。
先ほどのキマイラとの戦闘の音に気付いて、トワフェンたちが集まってきたのだ。その数12。クラスアチームをぐるっと囲んでトワフェンに包囲されていた。
ビャシャー グオ グオ
アイドル達は恐怖におののいた。
「心配しなくていいわ。必ず私たちが無事に帰してあげるわよ」とクラスアはアイドル達に言った。
「ちょっと数が多いわね。位置も悪いわ」とハーミン。しかし怖気づいてはいなかった。
「逃げることもできるけど、どうするの?」ハーミンは誰となく聞いてみた。
「勇者は逃げないよ」とノイフェが力強く答えて剣を正面のトワフェンに構えてみせた。
「そのとーり」とクラスア
「そういうことだ、倒すとしよう」メーラムだ。
「了解」オーディースも身構えた。
「広域速度低下、広域防御低下、広域攻撃力低下」
すべてのトワフェンは弱体化にかかった。
こうゆう時に迷わず支援を行うプリーストはできるプリーストだ。
体長12mはあろうかといううえに凶悪なモンスターだ。簡単に勝てるとはいかないだろう。
ノイフェは正面のトワフェンに切りかかった。
ザク
浅い
そこから3連撃。
ビギャー
追加で7連撃
ビギャーギャー
しかし反撃の爪がノイフェの脇腹をかすめる。
サク
「ヒール」素早くオーディースが回復魔法を放った。
2匹目のトワフェンがノイフェに襲い掛かる。避けるスペースもあまりない。
ドグウッ
トワフェンの体当たりでノイフェは吹き飛ばされるが、手をついて着地して構えなおした。
「ヒール」
オーディースのヒールだ。
オーディースを中心に正面はノイフェ、右側にクラスア、左側にハーミン、後ろにメーラムが位置取った。
トワフェンはじりじりと包囲の輪を狭めてくる。
ビャシャー ビャシャー
トワフェンの威嚇にアイドル達は恐れおののいた。
「フッ、やぁぁぁあ」
クラスアはトワフェンに石弾を発射してから飛びかかった。石弾はトワフェンに命中して敵はわずかに怯んだ。その隙をついてトワフェンの肩口に切りかかる。斧が刺さった傷口からさらに石柱が飛び出した。しかしトワフェンはまだ死んでいなかった尻尾で強烈な一撃を放った。クラスアはこれを寸でのところでかわした。別のトワフェンからもう一発。
グウ
クラスアはこれにあたってしまった。
「ヒール」
オーディースは素早くクラスアを回復した。
クラスアは空中で体制を立て直し着地までの間にトワフェンの肩口に刺さった岩から更なる岩を発生させて首あたりを貫いた。
ビギャー
まず1匹そして着地位置に石柱を勢いよく発生させてその勢いで跳んだ。2匹目の脳天に斧で一撃。横からの石柱、連続で石柱を発生させてその上を飛び回るクラスア。
ノイフェは正面にいる1匹に狙いを定めて間合いをつめた。そして相手の噛みつきを躱してジャンプ、武器硬化の魔法を使って剣を額へと突き刺した。
ビギャー
次のトワフェンの爪が来たがこれを躱す。ノイフェはその振りかざされた前足を足場にしてトワフェンの首元まで行き、三連撃を放ってこれを仕留めた。これで5匹目。
ビギャー
敵の攻撃を2度3度回避して間合いを詰めるたハーミンは
「ハーミンスペシャル」「ハーミンスペシャル」「ハーミンスペシャル」
スペシャルな技であっとゆう間に3匹を仕留めた。
メーラムはモンスターの前で踊り始めた。後ろ側の4匹はメーラムの踊りにひかれてメーラムに食いついた。メーラムは踊りながら華麗に躱してカウンターを放つ。
メーラムの踊りの効果でチームの攻撃力アップ。
メーラムは踊り続けて敵の攻撃を敵の攻撃を寸前で避けてカウンターを繰り返した。メーラムはこうしてじわじわとトワフェンの体力を削っていく作戦だ。
またメーラムのカウンターが決まった。一匹のトワフェンが倒れた。
ノイフェはトワフェンの両手の爪攻撃の下を潜り抜けてトワフェンの喉元へと迫った。
「やぁっ」
そして下からの突き刺しでトワフェンを声もなく仕留めた。
メーラムが引き付けている2匹のトワフェンの連続攻撃、爪、爪、爪、尻尾、牙、爪。これらを連続回避してカウンターを放つ。
ドス
そして怯んだトワフェンにハーミンが襲い掛かる。
「ハーミンスペシャル」
ドスン
ビギャー
残った一匹は破れかぶれにアイドル達のいる方へと突進した。クラスアはこれの前に立ちはだかって道を塞ぎ、全力で振りかぶって斧を振った。
「やぁー--」
グシャー
ビギャー
最後のトワフェンもこれで倒れた。
「これでおしまいね」クラスアは斧の頭を地面に降ろしてながら言った。
アイドル達と、ドミールは怪我をしなかった。大勢を、守りながら戦うのは大変だったが、他のメンバーの怪我もオーディースが瞬時に直してしまった。
「やっぱりちゃんとしたプリーストがいるといいわね」
クラスアは今まで一人で冒険していたので怪我の治療にポーションを使うのだが、戦闘中にポーションを取り出すのは少しばかり苦労するし、隙にもなる。
「それはチームあってのことだ。一人では大したことなどできない」
オーディースはおごらなかった。
「けが人もいないようだし帰るとしよう」
戦闘のできるメンバーはドミールとアイドル達を背負って帰路についた。
ネオ人材派遣会社田中マックスに到着してから、他のアイドル達もすでに救助されたとのこと。報酬の準備ができるまで別室で待たされることになった。
最初に飛び込んできたのは、町田美樹だった。
「うわーん、かおりちゃん、ゆりちゃん、無事でよかったよー」と勢いよく二人に抱きついた。
「先に行ってるはずの2人も他のみんなも転移に失敗したって聞いて心配してたのー」
町田美樹、関口かおり、幡ゆり子は3人で抱き合って互いの無事を喜んだ。
「美樹ちゃん、心配かけてごめんね」と関口かおり。
「私怖かったよー」と幡ゆり子。
「あんたたち知り合いだったの? そういえばアイドルとか言ってたわね」
クラスアは町田美樹に尋ねた。
「はい、私たち3人
「へえー」
クラスアは自分で聞いておいてすでに興味が無さそうだった。
「そうだ。私たち助けていただいてありがとうございました」と町田美樹だ。
「もう死ぬって思った時に男の子が攻撃を受け止めてくれて、そのすごくかっこよかったです」幡ゆり子は死にそうだったという顔をした。
「そうそう、あれはかっこよかったよねー」関口かおり。横にいる赤松結城と、山咲慶子もうなずいた。
「男の子じゃないよ、僕はノイフェ。勇者だよ」ノイフェは自己紹介をした。
「うんうん。あれは勇者だったね。私を助けてくれた後もすっごく強くって、モンスターを倒してたし、あれってすっごく強いモンスターなんでしょ?」と幡ゆり子はノイフェに
「一匹なら倒せない相手じゃないよ」ノイフェは過大評価無しに答えた。
「ねえ、どうやったら強い冒険者に成れるの」と町田美樹はノイフェに聞いた。
ノイフェは首をかしげて少し考えてから答えた。
「強いモンスターを倒すとすぐに強くなれるけど、最初の内は弱いモンスターを沢山倒すといいよ。その方が安全だし、探すのも楽だから」
「そっかぁ、雑魚をいっぱいかぁ、そうしたら私たちも強くなれるのかな」と関口かおり。
「私たちも強くなれば今回みたいなことがあっても自分たちで切り抜けられますね」と幡ゆり子は次回はもっとうまくやるとでも言いたげだ。
「あんたたちこんなことがあってもまだ冒険が足りないわけ?」赤松結城はRin・Feeのメンバーの考えがまったくわからないふうだ。山咲慶子もこれに同意した。
「そうだよ。私はいなかったけど、更なる冒険アイドルとして人々に夢と勇気を与えるんだよ。ね、かおりちゃん、ゆり子ちゃん」
町田美樹は両手で握りこぶしを作って自分の前でブンブン振った。
「今回すごく怖かったけど、無事に帰ってくることができたし、アイドルだもん、トラブルにあったってくじけないよ」と関口かおりも拳を握った。
「みんなで頑張ろうね」幡ゆり子も同意してRin・Feeのメンバーは互いに手を握りあった。
「すごいですわね。わたくしは恐ろしかったですわ。正直もう二度とあんなところへは行きたくはありませんわ」
「あなたたち、あれだけの目にあってまだ冒険者をやろうなんて、なかなか根性あるわね。装備が欲しかったらうちに来るといいわよ。初心者用のセットを割引してあげるわ。そこのあなたもまだ冒険者をつづけるつもりなら、うちで買うといいわ」
ハーミンはRin・Feeに感心して営業も忘れなかった。こういう積み重ねが有名な鍛冶屋になるためには必要なのだろうかと思いながらクラスアはハーミンとRin・Feeのやり取りを眺めていた。
「私も。いつもハーミン堂の装備を使っているわ。今度私の鎧を作ってもらいたいの」クラスアは少女のようにはしゃいでいた。
「お仕事の依頼なら、また今度ね。今日は冒険者として来たのよ。もちろん私に依頼があれば武器でも防具でも作ってあげるけど、特注品はすっごく高いわよ」
とハーミン
「わかってます。そのためにお金も貯めてるので、大丈夫です」
クラスアは勢いよく話した。
「そうそれはいい心掛けね。依頼を楽しみにしているわ」
ハーミンは楽しみに待っているという顔をした。
「ハーミン堂は量産品もたくさんあるけど、特注品もの制作も受け付けているわよ。値段は張るけどね。今回一緒だった人たちには、これも縁ね、割引するわよ。冒険をやっていない時は店で制作をやっているからそっちに顔を出してね。そこで注文をうかがうわ」
「明日行きます」とクラスアは興奮気味に言った。
「わかったわ。それと、少年…ノイフェだったわね。君の武器も防具も安物過ぎるわ。ちゃんとしたものを買いなさい。できれば私の店でね。冒険者としての実力の割には装備がおざなりすぎるわよ。一体どこで買ったのかしら」とハーミン。
「僕の装備はスケルトンを倒した時に拾ったものだよ」
「どうりでね、なまくらなわけだわ。今日の報酬も結構な金額になるだろうし、それで買うといいわよ。うちが嫌なら他でもいいわ。でも実力にふさわしいだけの装備をそろえることも冒険者として必要なことよ。
「わかったよ」とノイフェ。
「私も機会があれば装備をお願いすることにしよう」とメーラムはいつものように表情を変えずに言った。
「俺は教会の物をつかうので遠慮させてもらう」オーディースは申し訳なさそうだった。
「皆さんお話が終わったようですので、本日の報酬をお渡ししますね」
「待ってましたー」クラスアは元気いっぱいだ。
ミーユは報酬の計算を始めた。
「アイドル4名の救出に、ベル世界での危険手当に緊急割り増しが乗りまして、それを6名で割りますと…」
「お待ちになって」話に割り込んだのはドミールだ。
「わたくしは何もしていませんわ。わたくしはただ守られていただけです。わたくしは報酬を受け取るわけにはまいりませんことよ」
ドミールは冒険の危険さを身をもって知った。前回のように簡単にできる(ドミールはできなかったが)ことではない。ドミールは冒険者がどれだけ苦労をして報酬を得ているのかを知り自分の働きはそれにふさわしくないとわかったのだ。
「では5名で割るということでよろしでしょうか」とミーユ。
ドミールからの申し出は誰も反対はしなかった。
「では5で割りますとお一人当たり、300万円です」
アイドル救出の報酬はドミール以外の5人で分けられたわけだが、冒険者にとって危険な仕事を受けるかどうかは本来自己責任であり、緊急手当ても大したことはなかった。これが企業で仕事を受けるデメリットでもある。高難易度の討伐クエストでもした方がよほど儲かるのだから。今回はあくまでも救出任務だったため敵の討伐は0でも構わない。したがってモンスターをいくら倒そうがお金にはならない。
「結構危なかったんだけどね、並列世界になってからは、人の命は安いもんよね。特に冒険者のは」とハーミン。
「しかたないでしょ。こうゆう仕事でしょ」
クラスアは割り切っていた。
「勇者に大切なのは金より名声だ。それで金を得られるのだから文句は無いだろう」とメーラムはたしなめるように言った。
「まぁ勇者だからね」とクラスアが自慢げに言った。
「それにしても、できる人間と組むのはやりやすいわね。…ねえ、オーディース私と組まない?」
クラスアはオーディースをパーティーに誘った。
「俺は布教のために冒険をしているから、今までは特定のパーティーを組むことはなかったが、それもいいかもしれない。考えておこう」
できるヒーラーはどこのパーティーでも引っ張りだこだ。
「今日のパーティーは上級者が多くて楽だったわ。一人を除いてだけど。今度私の素材集めを手伝ってもらおうかしら」ハーミンもドミール以外のメンバーの実力を認めたようだ。
「縁あればそれもよかろう」メーラムは前向きな返答をした。
この後冒険者たちは、ひとしきり雑談で盛り上がったあと帰宅していった。
今日のパーティーはそこで解散した。
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