第3話 土系斧ガール・クラスア
我がネオ人材派遣会社ネオ田中マックスには臨時でパーティーを組みたい方のための臨時交流広場をご用意しておりまして弊社登録の方ならどなたでもご自由にお使いいただけます。そんなような話で今日のパーティーを組んだクラスアは後悔をしていた。
「よいしょ―。これで16匹目!」
クラスアの長斧はモンスターを真っ二つにした。
「よっ、すごいねー大統領!」
男はクラスアを褒めたたえた。なお、クラスアは大統領ではない。
「やったね」
本日初登場、冒険アイドル町田美樹、元気いっぱいです。
今日のパーティーは冒険初心者が多かったことから、比較的討伐難易度の低いコボルドの討伐にやってきたのだが、モンスターが少なすぎるのだ。おまけにどうも初心者が多すぎるというかクラスア以外は誰も戦おうとしない。どうなってるんだ。
「順調ですわね」
先日のゴブリン退治に
パーティーメンバーを振り返ってみよう。
クラスア・ハート 勇者。勇者じゃないとすればアックスファイターとでもいったところか。敵が少なすぎることを除けば順調にモンスターを倒すベテランで実力は確か。
ドミール・ベタム。ど初心者。貸し出された武器と防具でやる気がある割にはモンスターを倒せない。根本的に冒険者に向いていない。
先ほど、クラスアを褒めたたえていた男、最初の自己紹介で
町田美樹、元気いっぱいでよくしゃべる、モンスターを倒すたびにいちいち嬉しそうな顔をしている。一応ちゃんとついてくるがそれ以上のことはできていない。貸し出しの装備を見るにこれもど初心者で間違いないだろう。
今流行りの冒険アイドルらしい。冒険アイドルってなんだ? 最近のアイドルはいろんなことをやらされて大変だな。
他2名、名前は忘れた。モンスターが現れるたびに立ち位置を変えて、フォーメーションを意識して戦かおうとしているあたり中級者だが、構えたところでクラスアが一瞬で終わらせてしまうので、途中から何もしなくなった。なんかごめん。
勇者を自称してから様々な冒険を繰り広げてきたクラスアだが、単独で魔王や竜王に挑むほど馬鹿ではない。魔王や竜王はただ強いだけではなく、クセのある連中ばかりなのだ。それゆえに、企業に所属したりして、強いパーティーメンバーに巡り合わないかといろいろな人間と組んでみようという試みの最中なのだが、どうも今日のメンバーはクラスアにとってはハズレらしい。
そもそも、パーティーメンバーといってもクラスアと肩を並べて戦える人間自体が少ないのだ。だからこそクラスアはネオ人材派遣会社田中マックスに所属することを決めたのだが…。今日はハズレ。うんうん仕方ない。そういう日もあるさ。気を取り直して頑張ろう。今日は動き方の練習でもしながらクエストをこなすとしましょうかね。
クラスアはそんなことを考えながら次のコボルドを探していた。
ちなみにコボルドとは小型の犬人型のモンスターで身体能力や知能もゴブリンよりはマシという程度で初心者に狩られるモンスターだ。そして集落を作って生活しているし、武器や防具も人間の最低レベルくらいは作っているようだし、群れで狩りを行う知恵もあるのだが、いかんせん二足歩行なせいで足が遅い。短いんだよ足がさ。武装を持っていることを除けば犬の群れや狼の群れの方が危険といったやつらだ。
クラスアはパーティー戦闘の経験が少ないのでこういった経験も必要なものだと割り切っていた。
パーティーでは回復役や魔法使いなど動きの遅いメンバーをかばいながら戦うことも当然あるのだ。いきなり危険にさらすよりは、安全に慣れておいた方がよかったといえなくもない。
「あ、いました」
町田美樹がコボルドを発見した。
クラスアも気づいていたがもしかして何かが起きるかもと思って少しだけ待ってみた。特に何も起きなかった。奥の方に隠れてる他の4匹には気づいてないんだろうな。
「奥にも4匹いるわよ」
クラスアはもっと強いモンスターと戦うことを想定して油断なくパーティーに伝えた。
「さぁ、先生お願いします。先生の活躍をぜひ拝見させてください」と茂助。しっかりとクラスアの真後ろに移動した。
やっぱりこいつ調子がいいなぁと思いつつも、先生とか持ち上げられるのはちょっと楽しかったりする。
「行くわよー」クラスアが斧を振り上げた。
5匹の足元を泥に変えた。そして1匹目、自分の足元に石柱を斜めに伸ばしその勢いを跳躍に足して一瞬で間合いを詰めて真っ二つ、2匹目、まだ着地していない空中から掌をかざして石弾を発射して倒した。3匹目、砂を発射して目つぶしそのまま舞い上がった砂で周りを囲み、硬化させて動けなくしてからまた斧で真っ二つ。4匹目、わざとモンスターの手前の地面を斧で叩き、発生させた石柱と衝撃波でつぶす。5匹目、振りかぶった斧をコボルドの頭の手前で寸止め。そこから斧の刃から石柱をだしてコボルドを倒した。
瞬く間の出来事だった。
クラスアは雑魚相手でも一応の練習をしていた。
「よ、さすが先生、日本一」茂助はやっぱり
「すごいですー」と町田美樹。多分見えてない。
「本当にすごいですわ」とドミール。絶対見えてない。
「どうやったらそんなことができますの?」ドミールはただ5匹のモンスターを倒したことについて聞いたのだが、クラスアは丁寧に説明を始めた。
「この土操の腕輪と水源の指輪を使ってモンスターの足元を泥のぬかるみにかえて逃げられないようにしてから、この大地の斧の力で自分の足元に石柱を出してそれが隆起するのを踏み台にしてジャンプ力を足して勢いよく移動するの。そしてモンスターを斧で切るこれが一匹目」
クラスアは大地の斧の刃を地面に置いて柄に寄りかかるように前屈みに体重をかけて話をつづけた。
「ほぉ!」茂助はクラスアの話にいちいち驚いてみせた。
「2匹目はこの大地の斧の能力で石を発生させて飛ばしたわ」
「ほぉ!」
「3匹目はこの砂塵の指輪の力で目つぶしをして、その砂でモンスターを包んでから砂の塊にして動けなくしてから斧で切ったわ」
「ほぉ!」
「4匹目は、大地の斧で地面をたたいて岩を隆起させて岩を刺したり、衝撃波でつぶす技よ」
「ほお!」
「私はこれをアースクラッシュとよんでいるの。これで倒したわ」
「へぇ!」
「もちろん相手に直接アースクラッシュの斧を当ててもいいのだけれど今日は練習よ」
「ほぉお!」
「最後のは、この大地の斧の岩を発生させる能力を使って、斧の刃から大きい岩の棘を出して刺したのよ。斧の威力に加えて、尖った岩の突き出す威力が重なって。すごいことになるのよ」
「ほお」
「今日は練習用に寸止めして岩だけ出したけどね」
クラスアは斧を振り回して見せてから、柄の先を地面に着けて斧を立て右手でそれを支えた。
「さすがの大先生、わかりやすい。いよっ!」
「ふふん、もっとこの私と斧のことをほめてもいいのよ」
「よっ、日本一の斧使い、いや、並列世界一!」
「いやー、そこまで言われちゃうとさすがに照れちゃうな―。まぁ間違いではないけどね」
クラスアもだんだん乗ってきた。もともと斧使いの人気と地位向上のために冒険に出たのだから、斧使いとして褒められるのはとてもうれしい。
「私もいつか、クラスアさんのようになれるでしょうか?」とドミール。
「すっごく難しいけど、もしかしたらなれるんじゃない?」クラスアはお世辞を言った。
「わたくし、一族再興のために頑張って稼ぎますわ」
「それなら私ばっかりモンスターを倒しちゃっているけど、君たちもモンスター倒した方がいいんじゃないの? その方が早くレベル上がるわよ」クラスアは親切半分で言った。
「いやいや、危険なモンスターを倒せるのはクラスア先生だけでしょう。私たちはクラスア先生の経験値を取らないように隅っこに引っ込んでますよ」
茂助はまた調子のいいことを言っていた。まぁ先生と言われて悪い気はしないけどね。
正直なところ、たかがコボルドを1匹倒そうが100匹倒そうがクラスアの経験値にはほとんど関係がない。レベルが高いほど必要な経験値は多くなり、このような雑魚を数多く倒しても次のレベルアップまでは程遠いからだ。
「私も、モンスターを倒してみたいです」
「わたくしもですわ」
「あっしは遠慮しておきます」
町田美樹は好奇心旺盛にいい、ドミールは真剣にいい、茂助はこの話題から逃げた。やれやれ。初心者を守りながら冒険するのは大変だな。まぁモンスターが弱いので大変というほどではないが。
クラスア自身もパーティーでの冒険経験が少ないので、誰が何をすべきなのか適切な指示ができない。それに先日のノイフェのようにモンスターを捕まえて他の人間に倒させることなどは思いつかない。
やる気があるのはいいことだが、正直初心者過ぎてコボルドを倒すにはこの人たちはまだ力不足で危なっかしいなと思うところだ。
本日のクラスアチームは再びコボルド探しを開始した。こんなことなら餌でも持ってくればよかったかなと。
少しづつモンスターを見つけては倒して進んでいくわけだが、茂助はしっかりとモンスターから使えそうな装備を
ドミールはそれを見て感心していた。コボルドからとれる装備といっても鎧や靴は小さすぎで小人族でもない限り使えない
クラスアはふとこの人たちは何故冒険者を目指したのかが気になったので聞いてみることにした。
「ねえ、君たちは何で冒険者に成ろうと思ったの?」
「わたくしは一族再興のためですわ」
「お金がいるのはわかるんだけど、お金を稼ぐだけなら冒険しなくていいんじゃない?」
「もちろんお金もいりますわよ。実入りのいい仕事だというのはもちろんわかっています(高レベルの冒険者ならというのはまだわかっていないようだ)、しかしそれだけではないのです。一族を呼び戻そうにもどこにいるのかがわかりませんわ。ですので名誉や名声も必要になんですわ。私が名声をえれば一族にも伝え聞かれるかもしれません。そうなれば向こうから私を見つけて集まれるでしょう」
「ふーん、大変なんだねえ」
クラスアはドミールの話に少し興味があったが、長くなりそうなので話は掘り下げないほうがいいかなと思った。
「すごいです、ドミールさん、そんな深い考えがあったんですね。私頑張ってる人って応援したくなるんです。応援させてくださいっ」町田美樹はドミールの両手をまとめて強く握った。
「ありがとう美樹さん。私たち初心者ですけどこれから一緒に頑張りましょう」
「はい」
ドミールと町田美樹の間に友情が芽生えたようだ。
「あなたはなぜ冒険者ですの? 冒険アイドルっていうのは一体なんですの?」今度はドミールが町田美樹に質問した。
「私はアイドルなのですが、なぜか事務所の方に言われまして、今どきのアイドルは冒険者としての素養や教養も必要だということでした。まぁ異世界にアイドル活動を広げていくには最低限の安全確保のための知識や自衛力が必要とのことでしたので、一応納得はしているんですが…一応」
町田美樹は納得していなさそうな口ぶりだった。
「すごいですわ。教養のために身を危険にさらすなんてなかなかできないことですわ。高い
「うーんそうなのかなぁ」町田美樹とクラスアはそろって首を傾げた。
「私は冒険者としてはまだまだ駆け出しですけど、いつか強くなってクラスアさんみたいにパーティーを守れるような立派な冒険者になりたいです」
町田美樹はクラスアの飛びぬけた実力に憧れをいだいたようだ。
先は長い。がんばれ町田美樹。
「立派だなんて褒めすぎよー、エヘヘ」クラスアは照れくさそうに笑った。
実力の割に褒められることの少ないクラスア、いつもは女とか斧とか若いとか土属性とかおっさん趣味とかいろいろ笑われているのである。(おっとおっさん趣味の話題はまだ早かった)
褒められればクラスアも悪い気はしない。むしろわりと調子に乗るタイプである。
「それで君は?」
クラスアは話を茂助の方へ振った。
「へぇ? あっしですか? あっしの家は貧しくってですね、子供のころからろくな服も買えやせんでした」茂助は自分のボロの服を引っぱって見せた。
「モンスターに襲われても逃げるしかできやしません。それで大人になって力もついたことですし、モンスターに一泡吹かせてやろうとおもましてね。弱いモンスターなら倒せるだろうと。ええい、やあっと」大きな身振りと手振りだ。
「しかしそれが…なかなか、なかなか…どうもうまくいかないもんでして、へぇ、今ではお恥ずかしいながらパーティーを組んでは荷物持ちをやって稼がせてもらってます」
「荷物持ちだってのは初耳よ」クラスアはあきれた顔だ。こいつは初めから戦うつもりなんてなかった。
クラスアのような戦士タイプの脳みそには一番面白い戦闘をやらないことは理解できなかった。ヒーラーのように別の形で戦闘に参加したり、商人などが護衛をされることはあっても、わざわざ自分から荷物持ちを名乗る男の気持ちはまるで分らなかった。
「私も初耳でしてよ」ドミールはそんな職業があるのかと驚きの反応だった。戦いが苦手でもパーティーでお金を稼げる。なんていい職業なんだ。ただし実際の荷物持ちは、自衛用武器や防具を持つことよりも必要な荷物も持つことを求められる結構危ない職業なのだ。
「私も知りませんでした」
町田美樹も他の二人も知らなかったようだ。
クラスアは茂助に問いただしてみた。
「茂助君、そういうのは最初に言わなきゃダメでしょ」
「へぇ、申し訳ありやせん」
「それに君、本当は荷物持ちじゃないでしょう?」
「…へぇ、おわかりになるんで?」
「それに君初心者じゃやないだろう」
「…!」
「まぁ強く
「へえ、そいつはありがとうごぜーやす。さすがクラスア大先生はお心がお広い」
茂助はもみ手に猫背で精一杯へりくだった。
本当の荷物持ちであれば必要なものを確認するために先に荷物持ちであることを告げるはず、何より、パーティーに必要とされないことが多いので断られることを考慮して事前に申告することはとても重要なのだ。戦力一人分がなしで、一人の人間をかばう戦力を計算してパーティーを組まなくてはならないからだ。
冒険者はいつでも命がけ、油断は死につながる。こわい
クラスアチームはコボルドを探し回り少しづづではあるがクエストをこなしていった。
クラスアが敵の注意を引き付ける通称タゲ取りをして、貸し出された剣を使って何とか町田美樹は一匹のコボルドを倒すことができた。町田美樹はレベルが2になった。
その後も何度かクラスアが壁役になって他のメンバーにもモンスターを倒させようとしたのだが、ドミールはやっぱり駄目だったし、茂助もやりたがらなかったし、他の二人は実はヒーラーだったことが発覚する。
クラスアにとってパーティーでの壁役としての練習にもあまりならなかったが、町田美樹はその日のうちにレベル3になった。
この日の冒険の終わりころには運よく20匹近くのコボルドの集落を見つけられた。
「アースクラッシュ」
ドゴーン
戦いは一撃で終わった。クラスアが範囲攻撃をしてコボルドの集落は丸ごと潰れた。クラスアは1割程度の力しか出していなかったが、他のメンバーはあっけにとられていた。
「お帰りなさいませ」ネオ人材派遣会社田中マックスの受付のミーユ・ホレットだ。
「本日の討伐目標であるコボルド100匹完了ですね」ミーユは計測器から討伐数を確かめながら言った。
「クラスアさんが102匹、町田美樹さんが6匹で他の方はゼロですね。報酬の分配はどうなさいますか?」
通常パーティーでの分配は均等にするのが基本だが、あまりにも討伐数に差があったのでミーユは気を利かせて聞いたのだった。
「均等でいいわよ。パーティーってそういうものだしね」クラスアが言った。
「いよっ、クラスア
「君、女子に太っ腹はやめてよ。せめて気前がいいとかいろいろあるでしょ?」クラスアは太っ腹という表現はお気に召さなかったようだ。
「失礼しやした。気前がいいに訂正しやす。拾ったもんも買い取ってもらいやしょう」
「大した金額にならないと思うよ」クラスアはどうでもよさそうだった。
「いえいえ、小銭だって稼げばバカにはできませんよ。ではこちらの買取をお願いしやす」茂助は袋から小盾12個、フレイル7本。モーニングスター12本、短剣5本を取り出してテーブルの上へと置いた。
「全部で2万7千円になりますがよろしですか」
「へぇ」茂助は承諾しつつもクラスアの顔いろをうかがった。
「いいわよ、どうでも」
ではコボルド一匹2400円を108匹で25万9千200円に、装備品の買取学2万7千円を足しまして、28万6千200円を5人で割りましておひとり当たり5万7千240円になります。
今日一日朝から夕暮れまでクエストをこなしてこの稼ぎかと、稼ぎの少なさにクラスアは嘆いた。トホホ。
他のメンバーはそれなりに稼げたと喜んでいるようである。特に町田美樹は今日は楽しかったねと遠足気分だ。幸せそう。
みんなは分配金を受け取ると本日のパーティーは解散した。
茂助と他の二人はすぐに帰って行った。
「本日はお疲れさまでした」とミーユ。
「クラスアさん本日はありがとうございました。私これからも、冒険アイドルとして、たまに冒険者のお仕事をすることになるんですが、冒険者のおすすめ装備とか選ぶのを手伝ってもらえませんか?」
「いいわよ。じゃあまずは武器を選ばなくっちゃね。いい? 冒険者にあるのは、斧かそれ以外の武器よ。もちろん斧よね」クラスアは大まじめな顔をして言った。
「それ以外でお願いします」
町田美樹はあっさり答えた。
「うわーん、なんでよー。そこは普通斧を選ぶところでしょうが~」クラスアは悲しんだ。
「斧はその見た目が…、私は剣を持った勇者に
それならなんで私に言うのだろうとクラスアは思った。クラスアはやる気を失っていた。これがアイドルのデバフ効果か、侮れない。
「はいはいそれならハーミン堂の初心者入門セット買っときなさい。装備品はハーミン堂のを買えばまず間違いないわよ。初心者からベテラン冒険者まで満足のいく品質の
「こ、ころさないでください―」町田美樹はふざけて言った。
「殺さないわよ。いい加減な装備だと命を落とすって言ってるのよ。その点ハーミン堂なら間違いないわ。適正レベルを無視して無茶なモンスターにでも挑まなければまず死なないでしょ。それと。中古の安いやつでもいいから状態異常耐性のアクセサリーは買えるだけ買っておくといいわ。毒耐性アクセサリーは絶対いるわよ」
クラスアはまるでハーミン堂の宣伝員かのように説明したが、クラスアの装備も実際ほとんどがハーミン堂製のものだった。
「わたくしもそれにしたらいいかしら?」
ドミールも装備品の話を興味深々に聞いていたが、もっと根本的な問題があった。モンスターをいまだに倒せていないのだ。もちろんドミールはヒーラーでも商人でもない。
「あなたは、装備品よりも…なんというか…冒険者向いてないんじゃない? モンスターと戦えないならとっても危険よ」
「ええ、危険は承知の上ですわ、ですがまだあきらめるわけにはいきません。何度か冒険を繰り返しているうちにきっとできるようになるはずですわ」
ドミールは変なところで諦めが悪かった。というかむしろ意気込みがすごかった。
「クラスアさんにドミールさんも今度、異世界ライブっていうのがあるのでぜひ見に来てくださいよ。人気アイドルグループが沢山来ますよ。なかなかチケットも取れないんですよ。チケットは私が取りますから、あ、でもチケット代はいただきますけどね、へへ」町田美樹ははにかんだ。かわいい。
「自費かいっ!」クラスアは元気よく答えた。
「それなら私はパース、アイドルのコンサートを見に行くより、ダンジョンでモンスターを倒していた方が楽しいわ」
「申し訳ありませんがわたくしも、一族復興のために休んでいる暇はありませんわ。お断りさせていただきますわ」ドミールも町田美樹の誘いを断った。
「そうですか、それは残念ですねぇ、それなら冒険者としてはまた出会ったときはよろしくお願いしますね。それでは解散して帰りましょうか。私は、この後も事務所に戻って、異世界ライブに向けて移動です。それではさようなら」
「じゃあね」
「さようならですわ」
町田美樹が事務所に帰っていったあと、クラスアとドミールも荷物をまとめて帰ろうとしていたその時だった。
世界が重なりあいアイドルが異世界ライブをするのが当たりまえになった時代、ネオ人材派遣会社田中マックスは風雲急をつげる。
「
異世界アイドルが転移に失敗して行方不明になりました。
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