第2話 ドラゴンライダー・スディー

異世界冒険始まる(はじまる!)


くじ引きでチーム内で最初に名前を呼ばれたスディーを基準にして、彼らの臨時パーティーの5人はスディーチームと名付けられた。彼らは互いに挨拶と簡単な自己紹介をした。


「スディー・アーム。ドラゴンライダーだ。今回の仕事はどれを選んでもらっても構わない。すぐに終わらせられる」

スディーは自信満々に言った。


「ドミール・ベタムですわ。冒険の経験はありませんの。今日が初めてですの。こちらは私の家の使用人の三衛門さんえいもんですわ。以後お見知りおきを」

「三衛門でさあ」

ドミールは臆することなく挨拶をし、三衛門はドミールのかたわらに立って軽く会釈をした。


「俺の名はムパーだ、傭兵をやっている」

ムパーと名乗った中年の男は椅子に座ったまま挨拶をした。


「僕はノイフェだよ。勇者だよ」

ノイフェは元気よく自己紹介をした。

「勇者ね、そんなに小さくてモンスターが倒せるか? 剣だって持てないだろう」

ムパーはノイフェの脚から頭まで眺めて子供扱いをした。


「心配ないよ。何度も倒しているから、剣だってもちろん持てるさ」

「そうかよ」

ノイフェの返答をムパーは信じていなかった。


「挨拶も終わったことだし、どの仕事をするのかを決めよう」とスディー。


「なら一番稼げるのがいいですわ」

「一番簡単なのにしやしょう」

ドミールと三衛門は別々の意見を言った。


「私はどれでも構わないが、試験の内容だけでは大して稼げない。試験ということでなければ私も断る仕事だ。私にとってはどれも簡単すぎる」とスディーが言った。


「ならサッとやってサッと終わらせちまおう。探すのに時間がかかるペガサスは無しだ」とムパーは会話よりも顔を掻くのに忙しそうだった。


「同感だな、初心者もいることだし、簡単なゴブリンにしよう。一時間あれば私一人でも終わらせられる。他は移動や探索に時間がかかりそうだしな。ゴブリンならちょっと街を離れればどこにでもいる。受ける試験内容はゴブリンでいいか?」とスディーだ。


ノイフェはうなずいた。ドミールと三衛門も初心者という言葉がスディーから出たので配慮をしてもらっているのなら簡単だろうと思って同意した。


「いいが、あんた一人でやるつもりかい?」とムパーはスディーに問いかけた。


「それでもいい」

「そりゃ、ダメだな、何もできないと判断はされたくねえ。人数割りの分はやらせてもらう。それにチームで達成できなかったとなれば俺も失格になるかもしれねえ。初心者の分も少しは手伝ってやるが、各々でやるべき仕事は最低限果たすべきだ」


「わかったそうしよう」


ドミールは言葉に出さなかったが不安げな表情だった。三衛門はそれを見てドミールを励まそうとしていた。


「このパーティーは素人ばかりだ、パーティーを組めとは言われたが一緒に行動しろとはいわれてない。別行動にしよう。三人分も割を食っちまった」


「三人って誰のこと? 僕はゴブリンなんかに負けないよ」とノイフェが口を挟んだ。


「そうかよ、だが足手まといには違いないだろう」


「そんなことないさ、一時間あればゴブリン100匹なんて簡単に倒せるよ」


「多少腕に自信があったって、そんなに多くまとまっているところはそう多くない。探すのに時間をかければ、100匹なんて一時間では倒しきれない。そういうことがわからないから素人だってんだよ」


ムパーは言葉をつづけた。懐から時計のようなものを取り出してノイフェに見せた。


「これはゴブリンレーダーだ、半径5km以内のゴブリンの位置がわかる。俺はゴブリンの多い所に行って効率的に倒せる。買えば20万はする代物だ。もしお前が俺よりも多くのゴブリンを倒せたなら。これをやるよ。実力があるというなら行動で示してみな」


「いいよ」ノイフェは自信ありげに簡潔に答えた。


「では別行動でいいのだな。自信のないものはここで待機していればいいぞ。私は咎めない。特に初心者の二人だ。今日初めて武器を持つ人間には、ゴブリンといえども、強敵だぞ。では出発しよう」


社内の転移門があるところへやってきたスディーチームに、ゲートの門番が話しかけた。

「こんにちは、初にお目にかかります。拙者はこの転移門の門番です」ゲートの門番はかしこまって挨拶をした。

「それでは、行き先を教えてくだされ。この会社に登録している方なら誰でもタダで使えまする」


侍めいたしゃべり方をする門番に行き先を伝えてスディーチームは転移門からそれぞれゴブリンのいそうな場所に飛んだ。

ムパーは西の谷へ、スディーは出身地のバス世界へと向かったようだった。


スディーとムパーが出発した後、ドミールはやはり何もしないわけにはいかないとノイフェと一緒に行動することにした。三衛門もこれに続いた。




「緑の大地へ」

ノイフェは緑の大地へと旅立った。



”本日は晴天、所により悪天候、ゴブリン指数は100です”



スディーは自分の生まれた世界であるバス世界へと帰ると、すぐさま乗り物の黒い嵐の竜ブラックストームを呼び寄せると、ゴブリンの居住地を目指して飛びたった。


少数のゴブリンを探すのは上空からでも難しくはない、さらに、大した武装も魔法も使ってこないゴブリンなら低空を飛んでも、攻撃を受けても恐れる必要な無いのだ。スディーは、時折見える少数のゴブリンを、黒い嵐の竜ブラックストームの口から出す稲妻で焼き払い。さらにまとまっている場所を探した。


「このレベルになってゴブリン退治をすることになるとは。いつもは見たくなくてもそこら中にいるのにわざわざ探すことになるとはな」


しばらくスディーは竜に乗って飛び、ゴブリンの集落を見つけた。ブラックストームドラゴンのばたきでゴブリンの家屋かおくとも言えないようなテントごと空中高く吹き飛ばした。

「ギャギャー」


「サンダーブレス」

空中に上がったゴブリンたちめがけてスディーの掛け声とともに、ドラゴンから稲妻のブレスが吐き出された。


「ギャー」「ギャオー」「ワギャギャー」

ゴブリンたちは一瞬で黒焦げになって砕け散った。


「次だ」

スディーは集落の残ったゴブリンたちを次々と倒していった。竜のブレス、爪、牙で、次々と倒れるゴブリン。そしてドラゴンに乗っているスディーの「刺突の槍」は一突きするごとに、突きの斬撃が飛び実際の槍よりもかなり長い所まで攻撃できた。その長さなんと20m(スゴイ)


戦闘と移動を繰り返しながら5~6の集落を潰すと倒したゴブリンの数はちょうど百になっていた。


「これだけ倒せばよかろう、戻るぞ、ブラックストーム」

「ギャシャー」ブラックストームドラゴンはその咆哮で返事をした。


ゴブリンを倒した帰り道、スディーは故郷のことを思い出してた。バス世界のほとんどが荒廃して、現在人の住めるところはほとんど無くなってしまっている。



バス世界が地上界とつながるより前、長年スディーたちの一族は人間界と魔王の領土通称魔界との領土を取り合って衝突し、長く人類の最前線として均衡を保ってきた。スディーの父であるエディース率いるブラックストーム竜騎兵団の攻勢により、ついに魔王をあと一歩のところまで追いつめた。


しかし


「観念しろ、魔王」

かつてのスディーが魔王にトドメの一撃を放ったまさにその時


魔王は闇の力を放出して、まだ魔王場内にあった封印を破壊した。石碑からは魔王の部下とである数多あまたの厄災が解放されてしまう。


魔王は倒したものの、解放された厄災は闇の力を吸収して、それぞれが人類へ襲い掛かる。


魔王を倒すために疲弊していたブラックストーム竜騎兵団にはもはや余裕はなかった。

ブラックストーム竜騎兵団の命を捨てた活躍により、何とか大部分の厄災を再度封印することには成功する。

しかし、封印に時間がかかったことと、ブラックストーム竜騎兵団はスディーを残して壊滅したことにより、人間界と魔界の均衡が破られた。徐々に魔界側に押されてバス世界は荒廃した。多くの人間は死に絶え、生き残った人間もほとんどが他の世界へと脱出した。



スディーは普段は別の世界に身を置きながら、修行のために時折バス世界へと足を運び、モンスターを倒したりもしていた。


「必ず…故郷を…バス世界を人類に取り戻す」

スディーは早く故郷を何とかしたいという気持ちと、一人ではどうにもできないことを理解して今はともにバス世界を奪還してくれる仲間を探すためにこらえる時であるという歯がゆい思いに苦悩した。



緑の大地へとやってきたノイフェたち。ドミールと三衛門ははじめて見るゴブリンとその数に驚愕していた。


「何ですのあの生き物は?」

ゴブリンを知らない? うっそだろー?


「ゴブリンだよ」

ノイフェは当たり前だという顔をして答えた。三衛門はまだ遠くにいるゴブリンを興味ありげに眺めていた。


「ゴブリンは、体の小さいモンスターで他の色のもいるけどほとんど緑の皮膚をしているよ。ちょっと捕まえてくるからここで待ってて」


ノイフェは向こうに見えるゴブリンのところに素早くかけ寄ると、後ろから両腕をつかんで持ち帰った。


「ギャーギャー」

ゴブリンは人間と比べると知能は低いが動物と比べれば知能は高い。ただの獣を侮ると思わぬ怪我をするので注意が必要だ。普段片言の人語を話すゴブリンもいるが、興奮したゴブリンはギャーギャーと喚き声をあげるだけだ。


「これだよ」

ノイフェは捕まえてきたゴブリンをドミールに見せた。


「ギャ、ギャー」

緑の生き物は目を血走らせて唾を盛大に飛ばしながら騒いでいる。歯並びもとても悪いし、あと臭い。

一見人間に似ているようで、よく見れば見るほど人間には似つかない根源的な恐怖と気持ち悪さが沸き立ってくる。


ドミールも三衛門もどうしていいかわからずにたじろいでいた。


「ゴブリンは人間の子供くらいの大きさと力しかないから、一匹なら簡単に倒せるよ。僕が捕まえてるからその剣で刺して」


ドミールは貸し出された剣を持ったがその手は震えていた。ドミールは剣など持ったこともないし、家が落ちぶれた前も後も、家のことは使用人がやってくれていた。生き物に刃物を向けるなど、到底あるはずがない。


「ギャ、ギャッ」

ゴブリンがとても恨みがましい目でドミールを見つめた。これから自分がどうなるかくらいはゴブリンにでもわかるらしい。


「ゴブリンは、すごく弱いモンスターだけど、とてもずる賢いのがたまにいるんだ。死にそうになると急に人間の言葉で、謝ったり、タスケテなんて言うんだよ。うっかり倒しそこなうと後ろから刺されたりもするんだよ。だから絶対に、死にかけたゴブリンを助けたりしちゃいけないよ。それから、僕は平気だけど、群れているゴブリンはもう少し知能が高いよ。罠を張ったりもしてくるんだ。」

ノイフェは暴れるゴブリンを気にも留めず、難無く掴んで話を続けている。


「ゴブリンは武器に毒を塗っていることが多いから、ゴブリンと戦う時は毒の対策や毒消しの用意はした方がいいよ。僕も昔ゴブリンの毒でやられて死にそうになったよ。今はもう、対策なしでもこんな弱い毒僕には効かないけどね」


「ギャーギャギャー」


ドミールの手はやはり震えている。ゴブリンに剣を向けたまま一向に動く気配がない。


「ゴブリンはモンスターの中でもとても弱いんだけど、魔法を使ってくるゴブリンは初心者の内は気を付けたほうがいいよ。魔法の対策をしらないで戦うと思わぬ強敵に早変わりさ。そういうゴブリンはだいたい他のゴブリンに守られているしね」


ノイフェは話をつづけ、ドミールは固まり続けた。


「やっぱりできませんわ」

ドミールは剣をおろしてしまった。


「タスケテ、タスケテ」

ゴブリンは人語を話始めた。しかしそれは先ほども言ったどおり人間に助けを請うふりでしかない。結局の口から出る話など嘘だけだ。


「えっと、ノイフェさん、これを離してあげては?」

ドミールは生き物を殺すのに向いていない。そしてゴブリンに騙されて背中を刺される冒険者とまったく同じ判断をしてしまった。これではダメだ。


「ダメだよ。ゴブリンは見つけたらできるだけ殺さないと。生きて捕まえるクエストもたまにはあるけどそれ以外は、勝てるゴブリンはちゃんと殺しておかないと」


「ゴブリンは増えると危ないんだよ。毒も使うし村を襲って人を殺すし、火をつけるし、みんなひどい目に合うんだよ。だから数を減らさなきゃいけないし、ゴブリンも人間に危険を感じているうちは村を襲ってはこないからね。旅人や冒険者を道端で襲うことはあっても、単独で村を襲うゴブリンはまずいないんだ」


「そ、そうなのですか、勇者への道は険しいのですね」とドミール

「うーん、冒険者になるにしてもこれくらいはできなきゃだよ。勇者に成るのはやめた方がいいんじゃない? ゴブリンなんかよりももっとずっと強くて、危険なモンスターを沢山倒さなきゃならないし、いずれは魔王や竜王と戦うとなれば、本当に死んでしまうかもしれないよ。勇者は普通の冒険者よりも危ないことも危険なモンスターと戦うことも進んでやるものなんだよ」


「タスケテ、タスケテ」ゴブリンはまだなんか言ってた。


「お嬢、俺がやります」

三衛門がドミールを軽く押しのけ自らが捕まっているゴブリンの前に立った。

「三衛門私が」

「いえ、お嬢には無理です」


剣を構える三衛門の手も震えていた。

現代では冒険者か料理人かでもなければ、ある程度の大きさの生き物を殺すことなどなかなか無い。三衛門もまた、この大きさの生き物を殺したことなどは無いのだ。


実際には気絶や捕獲をして持ち帰れば、クエスト達成になるのは一般的だが、結局モンスターを倒せない実力ならば、安全に気絶や捕獲をすることもできない。


ドミールも三衛門もこれから勇者どころか冒険者としてやっていこうというのであれば、今日のゴブリン退治くらいはできなくてはならないのだ。


「ギャー、ギャ、ギャ」


ドミールから三衛門に変わったことでゴブリンはまた怒りをあらわにした。そうゴブリンは時に狡猾で、命乞いをするときも女性がいればそちらにすることが多いのだ。


まぁ、ズルイ(ずるい)


三衛門も握る剣に手汗がたくさん出ていた。


「ふー、ふー」


三衛門も緊張して呼吸が荒くなっていた。


「さぁ、いつでもいいよ」

ノイフェは全く平気な顔をして待っている。


「いきやすぜ、アァーー、ヤーーーー」


ザグー


三衛門の剣はゴブリンを切り裂いた。

「グギャー」ゴブリンは死んだ。三衛門はLv2になった。


「やったね。これでまず一匹だ」

三衛門もドミールもやったねという気分ではなかった。地面に倒れたゴブリンの体を見てひどく気分を悪くしていた。


「うぅ、うーん、うぅ--ん」

三衛門は何かを我慢するようにうなっていた。


ギャギャッギャー ギャー ギャー


いつの間にか集まっていたゴブリンに周囲を囲まれていた。仲間をやられてゴブリンも怒っているようだった。だが、仲間を助けようとはしなかったあたりはとてもゴブリンらしい。


ドミールと三衛門は恐怖に震えあがり、ノイフェは当然という顔をしていた。


「二人と動かないでね、すぐに片づけるから」

ノイフェはそういうやいなや、剣を抜くと疾風はやてのごとくゴブリンに切りかかり次々と倒していった。


ゴブリンの首、首、首、首、胴体、頭、首、腕、足、首、胴体、縦に両断。そして剣を鞘に納めた。


ドミールと三衛門は瞬きをする暇もなかった。あっという間に12体のゴブリンを倒してしまったのだ。


「あ、ああ、あなたいったい何者ですの?」

ドミールは何とか声を出すことができた。


「僕はノイフェ、勇者だよ」


「勇者だといってもそんな子供がこんなに強いなんて…」

ドミールは冒険者の常識を何も知らなかった。

「子供じゃないよ。それに勇者に年齢なんて関係ないよ。それに、これくらいレベルをあげれば誰でもできるよ。相手は弱いゴブリンだからね」


「レベル? レベルって一体何なんですの?」ドミールはどうやら腰を抜かしたようだ。その場に座り込んでしまった。


おやおやレベルをご存じない? これは重症ですね。


「レベルっていうのはモンスターを倒して経験値を積むと強くなるってことだよ」


「へぇ?」

三衛門はよくわかっていない返事をした。ドミールも何も言わなかったが険しい顔をして首をかしげていた。


回復薬であるポーションは腰を抜かした時には効くのだろうか? 永遠の謎である。なぜなら、もったいないから誰も試してみないからだ。



「ドミールが動けなくなったなら、危ないから早めに引き上げよう」

ドミールが腰を抜かしたのを見てノイフェは言った。


「わ、わたくしはまだやれます」

しかし、立ち上がることができず、結局三衛門に背負われることとなった。


「ちょっと待ってて、今日のクエストを終わらせちゃうから」

ノイフェはドミールと三衛門に背を向けると剣を抜いて東に走り出した。あっという間に米粒よりも小さく見えるところまで行ってしまった。


次の瞬間


ノイフェの行った方向からギャーギャーという悲鳴や怒号が飛び交い。なんか地面が土煙をあげて破裂したり吹っ飛んだり、たまに見えるノイフェらしき人物が、次々とゴブリンを切り倒していく様が見えたような見えないような。見ている者にも何が起きたのかよくわからない状況が続いた。次第に、東から南に向かい西、北、東と一周すると、ノイフェは3本の剣と1個の鎧を持って戻ってきた。


ゴブリンには簡単な石器を作るくらいしか技術がない。様々な方法で人間から奪った武器や防具を使っているのだ。もちろん手入れなどはしないので大抵ボロボロなのだが、まだ比較的新しい武器と鎧を見つけてノイフェは拾ってきたのだ。


「使えそうな武器があったから後でこれを売ろう。クエストはクリアしたはずだよ。さあ、帰ろう」

ドミールと三衛門はあっけにとられていた。



「よう、生きてたようだな」

ムパーは戻ってきたノイフェたちに声をかけた。スディーもすでに戻ってきているようだ。


「うん、生きているよ」

ノイフェはドミールと三衛門の話かと思って答えた。


「無事で何よりだ」とスディー。彼も無駄に犠牲を出したくはないのだ。


「お帰りなさい、一時間でクエスト完了とはお早いですね。スディーさん達が一番乗りですよ。それでは、討伐数の確認と報酬のお支払いをいたします。」

ミーユはれた口調で話を進めようとした。


「ちょいとまちな」

ムパーがミーユの話をとめた。

「報酬についてだが、働きに応じて俺の取り分を分配してくれ。足手まといが何もしないで金だけもらおうってのはむしのいい話だ。まったく稼ぎにならない仕事だったが、さらに足手まといの分まで減っちまったらたまったもんじゃねえぜ」


「私はどちらでも構わないが、彼の言い分もわかる」スディーは働きに応じた報酬を得ることも大切なことだと理解を示した。


「僕のはパーティーで分けるよ」とノイフェ

「そんなこと言って他人の取り分をむしり取るつもりだろう。お前も自分で倒した分だけ受け取れよ」

ムパーはなかば喧嘩腰だ。

「僕はむしり取ったりなんてしないよ」ノイフェはただただ答えた。

「そうかよ、それなら自分の分だけで足りるだろう? とにかく俺は自分の仕事分の取り分をもらうぜ」

ムパーはかたくなだった。


「では、そのように報酬をお支払いしますがよろしいですか」


「当然だ」とムパー

「かまわん」とスディー

「そうですね」とがっかりしながらドミール

「仕方ありやせん」と三衛門

「いいよ」とスディーだ


「ではお一人ずつ討伐記録を確認しますね。ではまずムパーさんからゴブリン33匹討伐で5万9千400円です。一時間足らずで33はすごいですね」

ムパーは無言で金を受け取った。どうだという顔をしていた。


「続いてスディーさん、ちょうど100匹討伐で18万円です。」

「ああ」スディーも報酬を受け取った


「100だと、これはこれは大したもんだ。さすがはドラゴンライダーってやつだ。俺もドラゴンが欲しいねえ」とムパー


「この時点で、チームとしてのお仕事クエストは成功となります。やっぱりドラゴンの力ですか短時間で100は相当なものですよ」

「大したことではない。もちろんドラゴンの力もあるが、ゴブリンが沢山いる場所に心あたりがあってな。探す手間をかけなければこれくらいは容易いことだ」


「続いてドミールさん、0ですね」

「ゼロだと!?」ムパーはいくら何でもそれはないという驚きの表情だった。

「残念ながら、これだと報酬は無しですね」

「仕方ありませんことよ」ドミールはがっかりした表情だ。


「三衛門さんは1匹ですか」

「イチ?」

ムパーはまた不思議そうな顔をした


冒険の初心者といっても、探せばどこにでもいるゴブリンを2~3匹くらいは倒せそうなものだろう。詳しい年齢など知らないが、成人してそうな男性がゴブリン相手にたったの一匹しか倒せなかったのか? いや、そもそもゴブリンの探し方すら知らないのかもしれない。ドラゴンライダーの男が他の三人よりも先に帰ってきたところを見ると、どうやら素人3人で行動を共にしたらしい。それならゴブリンを見つけられないのも納得だ。


「三衛門さんの報酬は千八百円です」

「へぇっ」

三衛門は恥ずかしそうに報酬を受け取った。他の二人は知らないが、ノイフェが捕まえてきた逃げない反撃もできないゴブリン一匹を倒すのがやっとだったからだ。


「次はノイフェ君ですね」ミーユは計測器を知らべだした。

「うそっ!? 356? 本当に?」これは驚くべき数字だ。

「報奨金はえっと50万9千4百円です」ミーユは報奨金をノイフェに手渡した、。


「おい、機材の故障じゃないのか」とムパー

「いえ、故障はしてないみたいです」ミーユは機材の故障がないかしっかりと確かめた。


ドミールと三衛門はゴブリンを倒した数がすごいのかどうかはわからなかったが、報奨金の金額には驚いていた。


「やるなぁ、少年、ノイフェと言ったか? 一体どこでそんなに倒したんだ?」

「ノイフェだよ。緑の大地だよ」

「緑の大地か、それなら納得だな」


「おい、あんた驚かないのか? こんな小さな子供が300を超えるゴブリンを一時間足らずで倒したってんだぞ、それも緑の大地で」とムパーはスディーに言った。


「ムパーだったな、まだこの子を子供と侮っているのか? 私も彼くらいの年にはいくらでもモンスターを倒していたさ。私も見つけられさえすれあの頃でも1時間に300のゴブリンを倒すことができたかもしれないな。ノイフェ少年は少し多いがそれでもそれほど驚くことじゃないさ。緑の大地はゴブリンの群生地帯だがそこで戦えるだけの実力があれば数は稼げるのは納得だ」

スディーはノイフェの実力を認めての発言だ。


「あんたにはドラゴンがいたんだろう?」ムパーは興奮冷めやらぬ。


「いたが。あんたは勘違いをしている。ドラゴンに乗れるのはドラゴンに力を認められたものだけだ。結局ドラゴンを自力で倒せない者はドラゴンには乗れない。ドラゴンに乗ることでもっと強くなるのは間違いないが、ドラゴンライダーはドラゴンなしでもドラゴンより強いのだ」

スディーはドラゴンとドラゴンライダーの力関係を丁寧に説明してあげた。


「それで、例の件はどうするつもりだ?」スディーはムパーにうた。

「例の件ってなんだ?」ムパーは何のことかわからない様子だ。

「ゴブリンレーダーの件だ」スディーはすこし面白そうに頬を緩めた。


「本当に計測機に間違いはないんだな? ちっ、仕方ねえ。ほらよ」

ミーユのうなずきを確認するとにムパーは懐からゴブリンレーダーを取り出すとノイフェの方に差し出した。

「本当にいいの?」

ノイフェは手を差し出した。

ムパーはゴブリンレーダーを軽くノイフェの掌に押し付けた。


「へぇ、案外いさぎいいんだな」スディーはノイフェからムパーの方へと視線を移した。

「子供と侮ったのは自分の落ち度だ。これ以上恥をかくわけにはいかない」


「これで、このパーティーの清算は終わりですね」ミーユは話を終わらせようとしたが、ノイフェにはまだ話があった。

「まって、まだゴブリンから取ってきた武器と鎧があるよ」


「俺はそんなものはいらないぞ、売っても大した金にはならないだろう」とムパー


「俺も同意見だ」とスディーもゴブリンの武器や防具はいらないという意思表示をした。

「それにそれはお前が取ってきたもんだろう。お前のすきにするといい。まさかそちらのお二人さんが文句があるというわけでもあるまい」


「ええ、ありませんわ」

「へぇ、俺もありませんぜ」

ドミールと三衛門もお金は欲しかったがそこまで恥知らずではなかった。


「ノイフェ、それじゃこれあげるよ。ドミールと三衛門は仲間なんでしょう? 鎧は一つしかないけど、これから冒険するならしばらくは使えるはずだよ」


「それとお金も、僕のもらった分を3人で分けよう」

「よろしいのですか」ドミールは戸惑った。

「いいよ、僕は前にスケルトンを倒したとに武器はたくさん拾ったし、この鎧は大きさが合わないからいらないよ」


「お嬢どうしやしょう」

「ええ、三衛門せっかくの厚意ですしいただいておきましょう。私たちは日々の暮らしにも困っていますし、これから勇者は無理でも冒険者を続けていく以上道具も必要でしょう」

「へぇ」

三衛門はノイフェからゴブリンの装備とお金を受け取った。


「それから、最初はゴブリンとか弱いモンスターを倒すといいよ。レベルが上がれば強いモンスターを倒してたくさんお金を稼げるようになるから。あと、これもあげる」

ノイフェはドミールにゴブリンレーダーを手渡した。


「おい、やっちまうのかよ」ムパーは驚いたようだ。


「モンスターの場所は気配でわかるし、ゴブリンだったら寝てるところを襲われても負けないよ。だから僕はいらない」


「これって売ればお金になりますの?」ドミールはゴブリンレーダーの売値が気になったようだ。


「やめておきなよ、ドミールお嬢さん、初心者が買うにはちょっと値の張る代物しろものだが、初心者にこそ必要なものだ。自分たちで使った方がいい。ノイフェの言うとおり、ゴブリンでも倒してまずはレベルを上げることだな。ゆっくりあせらずやることだ。それが一番安全で確実な方法だからな。しかしゴブリン退治0のお嬢さんは冒険者には向かないな。命が惜しければやめておいた方がいい」

スディーはドミールが冒険者になることは反対のようだ。


「わたくしはあきらめませんわ」ドミールは意地を張った。ついでに両手を腰に当てて胸も張った。


「ゴブリンと戦う時は毒耐性のアクセサリーや解毒剤を多めに用意していった方がいいよ。もちろん回復剤もね」ノイフェは冒険初心者に必要なことを教えてあげた。


「いろいろとお世話になりますわ。ノイフェ、いえ勇者でしたわね」

「そうだよ、僕は勇者ノイフェだよ」


「それでは勇者様と今後は呼ばせていただきますわ。三衛門もそのように。よろしいわね」

「へぇ」

「とりあえず三衛門、せっかく頂いた装備を付けてごらんなさい」

「へぇ」


三衛門はゴブリンの鎧とゴブリンの剣を装備した。


先ほどよりもずいぶんと強そうになった。


「それでは試験は一応皆様合格ということにはなりますが、お仕事は今日の成果をもとに、難易度の合ったものを後日紹介させていただきたいと思います。それでは今日はスディーチームの皆さん、お疲れさまでした。解散してください」

ミーユが今日の話をまとめて皆を解散させた。


スディーチームの皆が部屋をでて、最後にノイフェが荷物をまとめて部屋を出ようとしたとき嵐のように勢いよく女の子が入ってきた。


「いっちばん乗り―」


「ん、君さっき説明を受けた部屋にいた子よね。まだ出発してなかったの?」

クラスアはノイフェがまだクエストに出発する前だと思ったらしい。


「もう、終わったよ」とノイフェ

「あらら~私が一番じゃなかったか~」


「お帰りなさいませ、クラスアさん。クエスト完了ですか」ミーユは仕事に戻った。

「もちろんよ。ミノタウロスを倒してきたわよ」

「この短時間でですか? それはすごいですね」

「討伐の確認よろしくね。」

「はい、ミノタウロス8匹にキングミノタウロス1匹!? すごい」


ノイフェは2人のやり取りをただ見ていた。


「この短時間に本当ですか?」

「間違いないわよ。ミノ8匹キング1 どうだー、少年。すごいでしょう」クラスアは片手を腰に当て、もう片方の手でノイフェを指さし自慢げに勝ち誇った。

「うん、すごいよ」ノイフェは素直に褒めたたえた。


「クラスアさん他の皆さんはどうしたんですか?」ミーユはクラスアに尋ねた。


「私がどんどんミノタウロスを倒してる間は喜んでついてきてたんだけど、キングに出会ったらビビッて逃げちゃったわ。私がそれを倒したあとに追いかけて話をしたんだけど、みんな気分が悪いから先に帰るって。報酬もいらないってさ。まぁ、敵を倒したのも私一人だったし、初心者も多かったみたいだし怖くて逃げだしちゃうのはしかたないわよね」

クラスアは先に帰った冒険者たちを特にとがめることはなかった。


「それで、報酬はいくらかしら、キングを倒したんだから当然ボーナスはでるわよね」クラスアはミーユのいるテーブルに両肘をつき、ウキウキ気分で聞いた。


「はいもちろんです、ミノタウロス1匹18万円で8匹ですので144万円とキングミノタウロス1匹討伐で680万円、合わせて824万円です」


「すごいですね、私も冒険者に転職したいくらいです」ミーユは冗談を言った。

「いいんじゃな~い、私と同じくらい強くなればいっぱい稼げるわよ。ただし、装備はもっとお金かかるけどね。それに冒険者じゃなくて勇者よ。そんじょそこらの冒険者とは違うわよ」クラスアは冗談にのった。もちろん企業の受付係が冒険者になったところでこれほど稼げるわけがない。


「クラスアさんレベルはおいくつですか?」


「ふふーん、聞いておどろくな、Lvはなんと176だ」


「クラスアすごいよ、僕よりも高いよ」


「そりゃ私だって、勇者歴も長いからね。世の中すぐ死んじゃう勇者も多いんだけど、私はそれとは違うってわけよ。キングミノタウロスを倒した私の雄姿を君たちにも見せてあげたかったよ」


「どんな風に戦ったの?」ノイフェはただ好奇心で聞いてみた。


「うーん、本当は同業者には企業秘密にしときたいんだけど、いいわ少しだけ教えてあげるわ」

「うん」

クラスアは自分の長斧を構えた。

「こう、やってくるミノタウロスをバサー、グワーっと倒してね」

「ミノタウロスはグワーなんて鳴かないよ」ノイフェはクラスアの話につっこんだ。

「うるさいわねー、そこは気分なんだからいいでしょ。とにかくグワーよ、グワー」

「ふうん?」ノイフェはわからないといった表情だ。


「そしてまたやってくるミノタウロスを今度はよこからバサー、その次をグシャ―、ドンドン、グイーン、ズドンとそんな感じで倒してたのよ」


「ミノタウロスはなんて言ってたの?」

「まだ納得がいってないようね、あんなの全部グワーでいいのよグワーで」なんというかクラスアの説明は雑だった。ノイフェは何とか理解していた。


「そしてついに」

「そしてついに…」ゴクリ。ミーユはクラスアの意味ありげな言い回しに唾を飲んだ。

「キングミノタウロスが現れたわ、そしたらあいつなんと斧を持っていたのよ。だいたいミノタウロスは斧を持っているのは知っているわよね?」


「ええ」

「うん知ってるよ」


「キングミノタウロスも斧を持っていてね。私も斧を持っているどうしこれはどちらが真の斧使いか決着をつけなくちゃいけないと思ったわけ」クラスアの話に勢いが増してきた。


「だけど周りのみんなはキングミノタウロスを見て逃げ出しちゃったわけ」


うんうんとミーユとノイフェはうなずいた。


「キングミノタウロスは大きく斧を振りかぶって来たわ、ちょうど斜めに振って来たわね。それで私も、正面から向かい合って逆方向から斧を振って相手の斧に刃と刃をぶつけて、そのまま斧のついでにキングミノタウロスの体を真っ二つに切ってやったわ」


うーん豪快!! ほんとならすごい


ミーユは話の意味が最後だけよくわからなかった。

ノイフェはなんかすごかったという感想だけを持った。


「そんなわけで、私は報酬ももらったし、もう帰るわよ。試験結果は当然合格よね? 次の討伐に行かなくちゃ」


「はいもちろんです、クラスアさんにふさわしい難易度のお仕事を用意 でき次第連絡いたしますね」


「わかったわー。そんじゃソユコトデよろしくね」


クラスアは去っていった。


「それじゃあ僕も帰るよ」

「はいそれじゃあ、お気をつけて」


ノイフェは帰路についた。



残りの勇者候補たちも期限内に試験を終えた。ほとんどが時間をかけてゴブリンを倒す中、どうやらメーラムのチームだけはメデューサの討伐に成功したようである。中には初心者ばかりが集まって試験を突破できなかったチームもあったようだ。



次回予告「土系斧ガール、クラスア」

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