第7話 佐藤と鈴木part1

ここは岡山県の端の方にあるとある高校



キーンコーンカーンコーン



授業が終わり部活動の時間が始まった。その部室の一室には「異世界部」と書かれていた。



「よお、佐藤」

挨拶をしたのは鈴木だ。



「鈴木君、こんにちは」

佐藤と呼ばれた女子生徒は鈴木に挨拶を返した。



佐藤と鈴木はいつものように筋トレを始めた。しかしその様子はいつもとは違っていて、鈴木はとても素早く軽々筋トレををこなしていく。



「すごいね。鈴木君、急にどうしたの」驚いた表情で佐藤は鈴木に聞いた。



「これかっ。俺この前、人材派遣会社に、行ったんだ、よっ」鈴木は腹筋運動を繰り返しながら話をすすめた。



「鈴木君バイトするの?」佐藤は鈴木の脚を抑えながら話を聞いた。



「いや、異世界のやつ」



「ああ、そっちね」



「それでさ、最初に面接があってすっごい緊張したんだけど…」



「したんだけど? 合格しなかったの?」



「うーん合格というか、面接のあと試験があってさ、その試験で異世界に行ったんだよ。試験には一応合格した」



「うんうん、それで」



「面接も初めてだったからめちゃくちゃ緊張したよ。で、面接自体はなんか聞かれたことに答えただけだった感じ。交代」鈴木は腹筋運動を交代の申し出をした。



「うん」佐藤は鈴木に足首を押さえてもらい腹筋運動を開始した。



「面接で志望理由聞かれた」



「それで、なんて答えたの」



「なんか部活のこととか将来のためって言っといた」



「そしたらなんて?」



「ちゃんと指導してくれる人はいるのかみたいなことを聞かれたよ。田舎だから冒険者はこないって言っといた」



「ふ、うーん」佐藤は腹筋運動をしながら話を聞いている。



「やっぱり日本人て異世界デビュー遅いんだってさ。学生なのにえらいねーって言われたよ」



「なかなか、冒険者になろうって踏ん切りがつかないよね」



「へへへ、でも俺はもう冒険者になったぞ」



「すごいよね。鈴木君」



「冒険者になるだけなら案外簡単みたいだぞ。佐藤も冒険者一緒にやるか?」



「私はまだいいよ」



「そうか、わかった」



「なあ佐藤」



「なあに鈴木君」



「面接のあと、試験とかってゴブリンを倒したんだ」



「そうなんだ」



二人は腕立て伏せを始めた



「5日で100匹だってさ」



「一人でやるの?」



「いや、たまたまその日居合わせた人と一緒に100匹だったよ」



「鈴木君知らない人とパーティー組んだんだ、すごいね。私にはできないよ」



「いやいや、俺も知らない人に話かけてパーティーを組んでもらうなんてまだできないよ。くじ引きだった」



「くじ引きなんだ。ヒーラーだけだったらどうするんだろうね?」



「さあな。でもゴブリンならヒーラーでも倒せるから大丈夫だろう。たぶん」



「そーなんだ」



「それでゴブリンを初めて倒してさ、なんか気持ち悪かったけど案外あっけなかった」



「強かった?」



「うーん、弱かったかな」



「そうなんだ」



「それでさ、佐藤」



「なあに鈴木君」



「モンスターを倒したら本当にレベルが上がったぞ」



「すごいね鈴木君。すっごく強くなった?」



「すっごく強くなったぞ」



「本当に?」佐藤は驚いて言った。



「冗談だ。すっごくではないけど強くなった」



「それじゃ鈴木君レベル2なんだ」



「いやその後もゴブリンを倒して、最終的にレベル上がるのが面白くって三日で28匹倒したから、レベルは4になった」



「レベル4!? すごいね」



「すごいぞ、素早さなんてレベル1の時の3倍になったぞ」



「レベルが上がらなかった時代の100mの世界記録って9秒台だったんでしょ?」



「そうだな、今ならオリンピックで金メダルが取れるな」



「レベル上がったらレベル1の人のオリンピックには出れないよ鈴木君」



「知ってるさ、レベル上がる人のオリンピックってスローじゃなきゃ見えないもんな」



「鈴木君ならいつか金メダルが取れるよ」



「そうだな。って、レベル上がらないほうでも金メダルは取ってないけどな」



「そうだね。ハハハ」



「ハハハ」

二人は楽しく笑っていた。





佐藤と鈴木はランニングを始めた。鈴木はあっという間に一周差をつけてから佐藤の速度に合わせて走った。



「今なら100m4秒切れるぞ」



「すごいね鈴木君、超人だよ。オリンピックで金メダルが取れるよ」



「それはもう言った」



「そうだね。ハハハ」



「ハハハ」



「レベルアップってすごいよな、まだレベル4なのにこんなに今までの世界とかけ離れてる」



「達人でも素手ならレベル3相手に、ライフルを持ってもレベル6ならもう勝てないっていうもんね」



「一般的にそうだな」



「だって素早さだけじゃなくて力とかも上がっちゃうんだもん」



「でもまだ武術の達人には負ける気がするなぁ。今ならベンチプレス100キロは上りそうな気がしないこともない」



「どっちなの」



「やってみないとわかないななぁ。力は3倍になっても素早さの時ほど人間離れしないなぁ。力は10倍くらいからかな」



「私にはもう鈴木君は超人にしか見えないよ」



「みんな冒険者になってレベルをあげればいいのにな」



「一般的に冒険者って危ないイメージあるから」



「世の中が平和なのもレベルの高い警察や、レベルと関係ない仕事をしてる人たちの実績あってのことだよな。ありがたいなぁ」



「そうだね。ありがたいねぇ へへ」




「それで鈴木君はその筋肉でゴブリンをひねり殺したの?」



「佐藤、さすがに素手じゃないぞ。俺は格闘家志望でもないし」鈴木は少しだけあきれた顔をした。


「鈴木君は何志望なの」



「勇者だよ」



「鈴木君!? 勇者志望なの? それってすっごく大変なんでしょ?」



「そうらしい。なれるかわからないけど、理想は高い方がいいだろ?」



「鈴木君らしいね」



「そうかな?」



「そうだよ」





「それで鈴木君は武器は何を使うの?」



「ナイフか短剣、二刀流にしようかどうか迷ってる」



「へー、二刀流かー二刀流だと何かいいことあるの?」



「二刀流だとDPSが上がるし、一応防御にも使えるし、あとカッコいいから」



「へーそうなんだ。防御って盾の方がいいんじゃないの?」



「まぁ…そうだね」



「鈴木君盾は使わないの? 怪我すると危ないよ」



「まだそんな強い敵とも戦わないから大丈夫。それにな佐藤、短剣ならまだしもナイフと盾はかっこわるいだろ」



「ナイフと盾だとかっこ悪いの?」



「そうだよ」



「どういうのがかっこいいの?」



「やっぱかっこよさなら二刀流だろう、DPSも上がるし」




「鈴木君、それさっき聞いたよ」



「そうだな。ハハハ」



「そうだよ。ハハハ」





「それで鈴木君、どんな風にゴブリンを倒したの」



「うーん、どんな風にって言っても普通にかな」



「なるほど普通にだね。鈴木君それじゃわからないよ」



「それもそうだな」





「こうゴブリンを見つけてな」



「うんうん」



「今回は全部1匹づつ戦ったんだが」



「うんうん」



「正面に構えてだな」



「こうナイフでグサ―って切って倒した」



「なるほど、グサ―っとやったんだね鈴木君」



「そうだぞ佐藤。グサーっとだ」



「だいたいわかったよ鈴木君」



「おいおい、まだゴブリンは1匹目だぞ」



「他には何か特別な倒し方をしたの? ナイフ投げたりとか」



「ナイフ投げかぁ、今度やってみよ。特別な倒し方はしてない。正面に構えて相手が動くより先にナイフで倒しただけだったしな」



「普通だね」



「普通だろ」



「強かった?」



「一番最初だけまあまあ強くはなかった」



「どっちなの」



「まあまあかな。2匹目にはもう慣れたし、3匹目の時にはこっちはレベルが2になってたから余裕だった」



「やっぱ弱かったんだ」



「弱かったな。あとさっきゴブリンは弱かったって話したよ」



「そうだね鈴木君」



「そうだよ佐藤」



「ハハハ」



「ハハハ」



「ところで鈴木君」



「なんだ? 佐藤」



「モンスターを倒すときにナイフを投げたら危ないよ。武器がなくなっちゃうよ」



「その時はどうしよう。瞬時に格闘家にクラスチェンジして殴り倒すさ」



「そんなことできるの? 鈴木君」



「できないな」



「じゃあどうするの? 鈴木君」



「そうだなナイフを2本持っておこう。それなら一本は残る」



「大変だよ鈴木君」



「どうした?」



「ナイフを1本投げたら二刀流じゃなくなっちゃうよ」



「そうだな。DPSも落ちるしな」



「じゃあナイフを10本持てばいいんだよ。十刀流だねDPSもすごいよ」



「そんなことはできないよ」



「鈴木君ならできるよ」



「できるかな」



「できるよ」



「じゃあ十二刀流やってみるよ」



「増えたよ、鈴木君。本当にやるの?」



「やらないよ」



「やらないの?」



「やらないよ」



「ほんとうにやらないの?」



「じゃあ、やります」



「やらないよね」



「ああ、やらないぞ佐藤」



「投剣メインならともかく、投げない武器12本持っても弱くなるだけだしな。あとちょっと馬鹿っぽいし」



「鈴木君、ナイフを投げるんじゃないの?」



「普段は投げないぞ」



「いつ投げるの?」



「モンスターが最後の一匹で残りHP1とかかなぁ? あとは逃げるやつとか」



「モンスターが最後の一匹で残りHP1で逃げると投げるの?」



「投げる。かなぁ、多分。当たりそうだったら投げる。かも。」



「じゃあナイフをいっぱい持ってればたくさん投げれるね」



「佐藤、そのネタもさっき言ったぞ」



「そうだね。ハハハ」



「うーん、どういうスタイルで戦うかもちゃんと考えたほうがよさそうだな。佐藤も将来のために考えておこうぜ。今度の訓練で武器の扱いもやってみよう」



「本物の武器を使うの?」



「学校だと刃物は持ってこれないから、木の棒とかになるな」



「そうなんだー。鈴木君、私戦い方決まったよ」



「すごいな佐藤もう決まったのか。どんなのだ」



「十二刀流」



「おい」



「ハハハ」



「ハハハ」





「ところで鈴木君DPSって何?」



「DPSはDamage Per Secondダメージパーセカンドの略だぞ」



「それってどういう意味?」



「一秒間に与えるダメージのことだよ」



「鈴木君」



「なんだ佐藤」



「知ってた」



「俺も知ってるって知ってた」



「異世界部だもんね」



「しょっちゅう書物に出てくるもんな」



「むしろインターネットで出てくる。本だとあまり出てこないよ」



「それもそうだな。ハハハ」



「そうだよ。ハハハ」





「鈴木君これからどうするの」



「今日のことか」



「ううん、異世界の話」



「そうだな。まだ仕事を受ける自信はないから、当分は低レベルなモンスターを倒して、レベル上げだな。装備も欲しいし。20レベルになったら仕事をやってみようと思う」



「登録した会社はそれでいいの?」



「うん、無理されて死なれると困るから、自信がある仕事だけ受けてくれってさ。そんなようなことを言ってた気がする」



「案外ホワイトなんだね」



「そうみたいだな。労災はおりないけどな」



「そうだね。ハハハ」





「それじゃあ当分は土日とかは異世界に行くの?」



「基本的にはその予定だ」



「それじゃ鈴木君は遠い世界に行っちゃうんだね」



「いろんな意味でな」



「ハハハ」



「ハハハ」



「佐藤も、卒業した後は冒険者になるんだろ」



「そのつもりだよ」



「結構先だな」



「その時には鈴木君に壁してもらおう」



「そう壁のように直立不動でモンスターを引き付け敵を佐藤が倒すわけだな」



「そうそう」



「でも弱いモンスターならそんなの無しで簡単に倒せるぞ」



「でも鈴木君に頼ろう」



「わかったよ。でも気が変わったら、卒業より前に冒険者になってもいいからな」



「わかった。でも私にはまだ早いかな。部活でもっと訓練しなきゃ」



「案外やってみると簡単なんだけどなぁ」



「鈴木君、その油断が命取りだよってネットに書いてあったよ」



「そうだな。油断せず雑魚狩りをしよう」



「そしたら鈴木君は立派な雑魚狩りだね」



「うん。でも雑魚専みたいでかっこ悪いな」



「でも鈴木君。かっこよくなるんでしょ?」



「それを自分で答えさせるの?」



「そうだね。ハハハ」



「ハハハ」




「取り合えず、レベル稼ぎをしながらお金をためて、いい武器と防具を買いたいな」



「いい武器とか防具って高いんじゃないの?」



「初心者用の中ではいいやつって意味だよ」



「そうなんだ、鈴木君まだ初心者なの」



「そうだよ」



「4レベルなのに?」



「4レベルはバリバリ初心者だよ」



「鈴木君なら4レベルでも魔王とか倒せちゃうんでしょ?」



「普通に死ぬぞ、佐藤。佐藤は俺を殺したいのか?」



「殺したくないよ」



「そうだな」



「鈴木君死なないでね」



「大丈夫だ」



「本当に?」



「本当さ」



「なんで死なないの?」



「当分雑魚専だからな」



「そうだね、ハハハ」



「ハハハ」

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