最終話 新たな旅立ち
「これから俺たちは真面目に歴史を勉強し、知識としてある手順通りに参拝し、信仰を忘れていないことを示す必要があるってことだ」
「えっ、じゃあ、日本全国津々浦々、霊場巡りをしろってことですか」
沙羅はそんな馬鹿なと驚いたが
「今、何月だと思う?」
横にいた朱雀、創作がタイミングが良すぎるんだよなあと頭を掻く。
「何月。あっ」
スマホを確認すると、今は七月。まさに夏休み直前だ。そして、沙羅がこのタイミングで総てを思い出したことこそ、この旅を実行に移せという天の采配なのだ。
「これだけの人数がいれば、二か月弱で周ることは可能だろうしね」
白虎、巴が困ったもんだよねと笑っている。
「前の世界のようにスサノオはおらず、案内役も一人もいない。そんな中で、たぶん、小さな霊場も残さずに回らなければならないというのが、このミッションの難しいところだな」
咲斗が大丈夫なのかよと王牙に突っかかる。それに王牙は肩を竦め
「俺は自由に動き回れないからな。この近辺しか無理だ。お前らが頑張れ」
と笑って返す。
「ちっ。でもまあ、またあんな苦労をするくらいならば、日本中を旅するくらいマシか」
咲斗のぼやくような結論に、その通りだと他は頷く。
「もう鬼だと差別されるのはごめんだからな。やるぜ」
礼暢はそう言うと、前回は九州だったから北海道がいいと言い出す。
「じゃあ、前回九州担当だった奴らは北海道出発の東北方面だな。電車が少ないから車移動中心だぞ。頑張れ」
それに対し、ラッキーと返すのは亜連だ。彼は前回、運転で大変な目に遭っている。今回は出来る限り運転したくないと思っているのだろう。
「免許持っている人数は、前回より多いよ。こうなるだろうと予測して、那岐先輩も取ってるし、他も持ってるよね」
瑠璃が交代でいけるってと励ます。
「じゃあ、俺は九州かな。鹿児島って行ったことないし、九州方面って面白そう」
咲斗がじゃあ俺は西だなと笑っている。
「那岐は自動的に前回と同じ、プラス京都よね」
そして天夏が、要となる部分はあなたたちが周らないと、と言って笑う。それに自由はむっとした顔をしたが
「お前たち、いいのか?」
反論するのならば今のうちだぞと、式神だった五人を見る。沙羅はどう思うと他の四人を見たが、自由に従うと決めているのは明らかだった。
「那岐様、はおかしいのか。那岐くんの考えに従うよ」
どう考えても同級生になってしまった自由に、沙羅は頑張って友達らしく言う。それに自由の顔はみるみる赤くなり
「きゃっ、先輩ったら本当に沙羅ちゃんのこと大好きなんだから」
すかさず瑠璃にからかわれている。それに、沙羅も顔が赤くなった。
「まあ、この時代では付き合おうが結婚しようが自由なんだ。好きにすればいいんじゃない?」
さらに王牙までそんなことを言い出す。
「そ、それよりも封じが先だ!」
これ以上は話がややこしくなると、自由が強引に話を戻した。それに、全員から笑い声が上がる。
「もう、那岐ったら」
「いいじゃねえか。彼女にしちゃえよ」
そんな声も出て、本当に昔から友達だったかのようなノリだ。
まだ戸惑いが残る沙羅も、くすくすと笑ってしまう。
「ともかくお前ら、全員追試を受ける事態になるなよ。二か月弱あるとはいえ、かなりハードな旅になる。しかも、いつ噴火するか解らないんだ。仕事を増やすなよ」
自由のその言葉に、からかっていたメンバーははっとなる。そして
「前期試験間近だったあ」
路蘭の切ない声が響いたのだった。
そして八月。
「なんか、不思議な感じだね」
「まったくだ」
富士山の麓まで電車で移動する中、沙羅はこうやって並んで座っているのが不思議だった。そして、それを自由も感じていることが、こそばゆい。でも、とても嬉しかった。
「あっ。そのチョコ頂戴」
「じゃあ、そっちのポテチ寄越しなさいよ」
横では式神だった四人が、呑気に駄菓子の交換をしている。青龍だった旅人が沙羅の視線に気づき
「これ、やるよ。自由もどうぞ」
なんて言いながら、一口サイズのチョコを配るのも、なんだか嬉しい。
「きっと私、こんな未来を望んでいたのかも。だから、こうやって、新しい旅が始まったのかもしれないな」
チョコの包みを開けながら、ぽつりと呟く。それに自由が溜め息を吐くのが解る。
「えっと」
自由にとっては、まだまだ晴明としての宿命を背負うってことで嫌だったか。沙羅が心配して自由の方を向くと
「俺もだ。俺も、沙羅と対等な関係で旅をしたかった」
そう告白し、ふっと微笑む。
「うっ、ず、ずるい」
出会った時からずっと、沙羅は自由の笑顔に弱い。それを自覚し、顔が真っ赤になる。それに自由はさらに笑うと
「旅はずっと続くかもしれない。それでも、俺に付き合ってくれるか」
そう言って右手を差し出してくる。
「もちろんです」
それを、沙羅が拒絶するはずはない。しっかりと右手を握り返すと、改めて、この人と一緒に生きていこう。そう心に誓うのだった。
時空を旅する黒猫 渋川宙 @sora-sibukawa
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