第48話 大集合
「さて、役者は揃ったわけだが、俺たちもまだまだ混乱している」
王牙はそうだなと自由を見た。そして、これからしっかり情報を共有しようと全員の顔を見渡す。
「そうだな。どうやらあの儀式の最中で記憶が飛び、俺たちはこの世界に飛ばされた。記憶が戻るまでに成長し、全員が運命に導かれるままにこの大学に入ったってわけだ」
自由がこういう経緯だと沙羅に聞かせる。つまり、ここにいる誰もが、あの荒んだ世界の記憶を取り戻したのは、つい最近ということになる。
「ええっと、つまりこれも示し合わされたことだってことですか」
沙羅がそう確認するように全員を見ると、うんと頷かれる。そして
「なんでお前が最後なんだよ。めっちゃハラハラしたよな。あの時はキーパーソンだったのに、ここでは違うのかって、それとなく友達になりながらも、どうなるんだろうって不安だったよ」
朱雀だった創作がぼやくように言ってくれる。
「まあまあ。主役は遅れて現れるものよ」
そんな朱雀に、天夏がくすりと笑ってくれる。全員が仲間の状態だからか、人間関係はあの頃から変化し、みんな気さくだ。
「で、主役が目覚めたからには何かあるんだろうな」
咲斗が、わざわざ集まった理由はこれだろと、頬杖ついて言う。手にはいつの間に買ったのか、アイスコーヒーがあった。
「あると考えるのが妥当だろう。あの件に関わった全員がこの場にいるんだ。何かないと考えるのが不自然だよ」
王牙がアホかと咲斗にツッコミを入れたかと思ったら、その手からコーヒーを奪って勝手に飲み干してしまう。
「ああっ」
「こっちは寝てないんだよ。もしも論文が間に合わないような事態になったら、どうしてくれる?」
「いや、その前に世界が破滅するような案件だったらどうするわけ? その論文、無駄になるだけだろ」
二人はすっかり仲良くなっているようで、そんなことを言い合っている。あれだけ反発し合っていたというのに、普通の先輩後輩関係になれるとは驚きだ。
普通の大学の生活に紛れ込む異質。ううむ、変な感覚だ。まだまだ記憶が戻ったばかりの沙羅にはハードな状況である。
「はいはい。それで、何があるって思ってるの?」
二人の言い合いを止めた瑠璃が、自由に期待の目を向ける。ここでも中心的な役割は自由ということのようだ。
「それはもちろん、富士山に関係することだろうな」
そして自由は、すでに考察を終えていたようで、そう答えた。
「富士山」
「この世界ではまだ噴火していないけど」
「あの時のように噴火したら大変だもんな」
まるで不気味な単語を聞いたというように集まったメンバーが顔を顰めてしまうのも無理はない。噴火すれば、また妖気が噴出する。どうにか鎮めることが出来たらしいというのに、全員が人間になっているというのに、また妙な種族分けが始まってしまう。
「だが、俺たちは万が一に噴火した場合にも、その先の連鎖反応を止める方法を知っている」
「あっ」
続けて放たれた言葉に、沙羅はそうかと声を上げていた。
富士山の噴火そのものは、科学的にも不可避なものだったはずだ。ということは、永遠に噴火しないようにすることは出来ない。しかし、その後の群発地震とそれによる妖気の噴出は止める手立てがある。
「そういうことだ。おそらくその役目を背負わされて、俺たちはまだ何もない世界に飛ばされたんだと思う」
「なるほど」
頷く沙羅に、自由は困った顔をして納得している場合かという目を向ける。
「まだ、旅は終わっていなかったってことだな」
そして、そう付け加えた。
「それを言うならば、俺たちの旅はここから始まるんじゃないか」
だが、横から保憲、王牙がにやりと笑ってそう言いかえた。
ここにいるのは人間ばかり。陰陽師でも呪術師でも妖怪でも式神でもない。そんな奴らが、昔の記憶を持ったまま集まっている。これは、今までとは違う旅だ。
「そうですね」
沙羅は今までとは違うアプローチが必要なんだと気づく。しかし、すぐにそれは変ではと首を傾げた。
「あれ? でも、保憲様も晴明様も記憶を持ったままだから、陰陽師の力はあるんですよね」
「知識程度だ。この世界では呪術は無意味に近い」
「えっ」
保憲の、王牙の否定に沙羅は目を丸くしてしまう。そして自由を見ると
「だからこそ、俺たちはこの世界に飛ばされたんだろう。物理学的な言い方をすると、ここは以前まで俺たちのいた地球ではなく、別の確率によって成り立つ、マルチユニバースの地球の一つなんだ。つまり宇宙空間が丸ごと違うから、前の地球で使えた力は無意味になる。式神たちまで人間になっているのは、そういうことなんだよ」
「えっと、あれか。多世界解釈」
「そう、それ。本来は量子力学の中の解釈だが、お前が妖怪として平安時代に飛ばされたことをトンネル効果で言い表していたのを思い出してな。これがしっくりくる考え方だと思う」
自由はここには陰陽師の力を発動するだけの条件がないんだよと、最後に付け加えた。
「えっ、じゃあ、どうやって」
富士山が噴火する前に、富士山を含めた各地の霊場を鎮めるというのか。それに、王牙がだから新たな旅だと言っているんだと身を乗り出す。
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