第38話 鍵
「なっ!?」
「きゃああ」
突然の地震に、自由と式神たちは驚いた。日本各地で相次いだ地震の後、ここ十年ほどは全く地震がなかったから、余計にびっくりしてしまう。
さらにごごごごっと地響きが轟き、耳を塞いで蹲るよりほかない。
「あっ、あれ?」
「えっ」
驚いた白虎が指さす方を見てみると、そこでは驚愕の出来事が起こっていた。
ごごごっと音を立てながら、富士山が盛り上がっているではないか!
「ええっ!?」
「な、なんだ?」
呆然とする六人を取り残したまま、轟音と巨大な揺れを起こしながら富士山が元の姿へと戻って行く。周辺は火山灰が舞い上がり、さらには大風が吹いて灰をどこかへと飛ばしていく。
「――」
もう、何の言葉も出なかった。
地響きも揺れも風も止んだ時、目の前にあったのは雄大な姿を誇る富士山だった。
「えっ?」
まるで白昼夢を見ているかのようだ。思わず自由は自分の頬を抓ってしまうが、普通に痛かった。
「えっと」
サラもどう反応すればいいのか解らず、獣耳と尻尾が飛び出したまま、久々に見る稜線美をぼんやりと眺めることしか出来ない。
「スサノオの気配がする!」
しかし、ぼんやりとしているのはそこまでだった。サラは山の方から巨大なあのスサノオの少女の気配をキャッチし、山頂付近にいるはずだと報告する。
「ともかく、行くしかないな」
「はいっ」
自由は自らの足に霊力を纏わせると、ひとっ跳びに山頂を目指す。他の式神たちもそれに続いた。
「あっ」
山頂では、少女が火口だった付近を独特の舞をしながら歩いていた。そうするうちに、富士山がまた、元の形へと戻っていくのだ。
「彼女が封印を施しているのか」
一体何がどうなっていると、自由は前髪を掻き上げる。
これはもう前代未聞どころの騒ぎではない。時間を巻き戻したかのようだ。いつの間にか登山客のためにあったと思われる道しるべや、下の方には山小屋の姿も復活していた。
「あの」
悩む自由に、サラは躊躇いつつも声を掛けた。自分の感覚が正しい保証はないが、伝えることで彼の考えの役に立つかもしれない。
「何か解ったのか?」
自由は何でもいいから言ってみろと、サラの直感を信じる。彼女はいわば、この世界のどれにも当てはまらない存在なのだ。目の前の超常現象に関して何か解ったとしても不思議ではない。
「は、はい。あの、あの子が鍵となって、霊場の気が鎮まった感じを受けます」
「鍵」
「はい。どう表現すればいいのか解らないですけど、あの子がいることによって、ずれてしまった何かが元に戻ろうとするみたいです。私とはまた違う存在。私の場合、いわばトンネル効果で奇妙な時空の旅をして、晴明様に出会うことが役目だった。そして彼女は、富士山の噴火のせいで気が歪み、捻じ曲がってしまった時空を正す存在みたいです」
言いつつ、これで正しいのかなと不安になるサラだ。自由はというと、また晴明がポイントかと顔を顰めている。
「やはり三人いる本物の呪術師というのが、世界を変えるきっかけってことか。戦国時代にも現れたというし、何か大きな気の変動があり、そこで、今回のような大災害が起きてしまった場合に必要となるってことか」
しかし、しっかりサラの言葉を検証していた。そして、戦国時代ではどうにか回避できたことが、現代では出来なかったんだなと納得している。
「それはあれじゃないですか。保憲。彼が晴明様を避けたことの理由では」
それに対し、玄武がわざわざ避けた理由こそ、大災害を抑えるためだったのではと考察した。というのも、今回も一人だけ動きが速いからだ。
「それは十分にあり得るだろうな。だが、今回も避けていたらしいし、単純に重責を担うのが嫌だっただけかもしれない。ともかく、俺たちにはこの世界を元に戻すことを見届ける役目があるようだ」
富士山が元に戻ったことに納得したスサノオが、自分たちのことをじっと見つめている。それこそ、この時代に自分たちが集結することこそ必要だったという証のような気がする。
その少女は自由が理解したことに満足したように頷くと、ついて来いとばかりに手招きする。そして、次の瞬間には空に飛びあがっていた。
「移動するみたいだな」
「晴明様。俺に捕まってください。今、下手に霊力を使うのは得策ではないかと」
青龍が元の姿、龍の姿になって自由に乗るよう促す。先に猫姿に戻ったサラが飛び乗り、大丈夫だよとアピールする。
「はあ。ますます凄いことになっているけど、仕方ないか」
(龍に乗る。ますます普通から遠ざかるなあ)
そんな現状を高校生らしく嘆きつつも、自由は諦めて青龍の背に跨ったのだった。
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