第39話 本質を捉えた
「うおっ!?」
「きゃあ」
突然大きな気にぶつかり、保憲と天夏は驚いた。先を走っていた保憲は、思い切り気に押し返されて転んでしまう。
「ちょっと、しっかりしてよ」
そんな保憲に手を貸してやりながら、天夏は一体何なのと前方を確認するのを忘れない。
「あっ」
「まさか、ここの主がお出ましか」
立ち上がった保憲は、そこにいる人物を確認して苦笑いをしてしまう。
大きな気に包まれて立つ僧形の老人。その気配は間違いなく、この寛永寺を江戸の
「それにしても、神仏以外もありなのか」
スサノオが現れたことから、神代の神々が登場するだろうと予想していた保憲は意外だと思ってしまう。
「主は陰陽師だな」
そんな戸惑う保憲に、天海はにやりと笑って断定する。
「ええ」
陰陽師、この時代では呪術師が必要だろうことは予想していたので、保憲は頷く。すると天海は満足そうに頷くと
「早う封印を完成させよ。まったく、叩き起こされてしまったぞ。しかも儂では手に負えんとは面倒なことよな」
そう言ってからからと笑ってくれる。
「あのお坊様では駄目なの?」
よく解らないと、天夏は素直に保憲に訊ねる。すると保憲は頭痛を堪えるように額を押さえていた。
(あれか。坊主だから
輪廻転生の不思議に則って考えるより他がない、天海の言い分だ。世俗に塗れた陰陽師とは違うってことかと、少し腹が立つが、それだけ自分たち三人は性質が違うということだろう。
なんせ、他にも陰陽師や呪術師がいたはずなのに、自分たちだけが輪廻転生を繰り返している。
「なんか、面白いわね」
複雑だと隠そうとしない保憲と、早くしろよと笑っている天海を見比べて、呪術師と一括りに出来ないのねと天夏は笑ってしまう。
「陰陽師よ。現状の理解が済んだのならば行くぞ。江戸だけでどれだけの霊場があると思っておるのだ」
天海はもういいだろうと、そう言って保憲を促した。それに保憲はぎょっとしてしまう。
まさか、ここ以外の江戸時代から続く霊場を封じなければならないのか。
「何をぼさっとしておる。江戸が此度の災害で被害が少なかったのは、それだけ儂が、都の封じとは差をつけたからぞ」
ちゃんと理解していないのかと、天海が呆れ顔で説明してくれる。それに、保憲はなるほどねと思い切り舌打ちしていた。
つまり、関東以北に被害が少ないのと同じ理屈だ。この霊場から吹き出し、人々を妖怪化させて翻弄させる気の流れは、神代の封印に関係している。
ついに、この異常事態の本質を捉えた。
妖怪。
それはすなわち、朝廷に従わない者たちのことだった。
今、この世界に朝廷は存在しない。そのことが、妖怪という区分を曖昧にし、天夏のような、陰の気に親和性のある人間を差別される他のモノへと堕とすように働いた。
やはり、多くの場所の伝承や祭りが途絶えたことこそ、今回の出来事を複雑化しているのだ。富士山の噴火を単純に科学的な説明だけで終わらせるべきではなかった。
「解りましたよ。やればいいんでしょう」
全部理解した。
保憲は腹を括ると、自由と咲斗、さらに礼暢に向けて式神を飛ばし、やってやろうじゃないかと腕まくりしていた。
一方、その頃の咲斗はというと――
「おい、なんでこんなことになったんだ?」
「さあ」
「解らん」
咲斗の文句に、今は助手席に移動した瑠璃も、運転を続ける亜連も説明できないと首を横に振ってくれる。それに、無責任すぎるだろと咲斗は叫びたいが
「京の都はまだかのう?」
「馬より便利な乗り物があってもなかなかだなあ」
横に座る奴らが喋り出し、文句が言えなくなる。
(ああ。なんで)
後部座席、咲斗の横には今、どういうわけか
明らかに、明らかにここだけ何かがおかしい!
「京の封印には人数がいるんだろ」
咲斗が悶えていると、屋根の上から信長がそう言ってくる。
(いや、知らんがな!)
というツッコミを飲み込むのに、苦労させられる。
「なんでこうなった」
結果、同じセリフしか出て来ない咲斗だ。
「ははっ」
亜連はそれに乾いた笑いを返すしかない。
「でも、いいんじゃない? 勇者のパーティみたいで」
肩を落とす咲斗に、まあまあと瑠璃が慰めてくれるが、微妙におかしい気がする。
「誰が勇者だよ。その場合、明らかに晴明の、那岐の役割だろ」
「ううん。でも、三人必要なんだから、咲斗くんにも勇者ポジあるって」
「ちっ」
舌打ちして、たとえ勇者だとしても、怨霊と魔王と、なぜここにいるのかよく解らない歌人という時点で、パーティとして間違っている。
いや、明らかに敵方の組み合わせじゃないか。
「その場合、ボスはこの屋根にいる魔王なんじゃ」
思わず信長が座っている辺りを見るが
「ひゃっほう!」
信長が明らかに楽しんでいる声が聞こえて脱力する。
「このポジション、誰か代わってくれ!」
やっぱり諦められず、思わずそう叫んでしまうのだった。
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