第37話 九州
一方。強い妖怪の力を持つ礼暢たちは、その身体能力を生かして九州を訪れていた。まずは九州の中心地になっている福岡へと降り立ったが、博多を出たところで呆然としてしまった。
「地方に行けば行くほど復興していないって言うが、これは凄いな」
瓦礫だらけで人が住める状態ではない場所が多い。礼暢はこれは大変だと溜め息を吐いていた。
「壊滅って感じだよね。いくら地震が多かったとはいえ、ここまで手つかずで放置されるなんて」
一緒に来ていた月乃も、これは酷いと周囲を見渡して顔を顰める。
「ここを直すより、どっか壊れていないところを探した方が早いってなっちまったんだろうな」
さらにもう一人、助手としてやって来ていた犬神の力を持つ
そう、自分たちが住む関東地方、さらに東京は富士山の噴火と直後の地震を除けば、意外と被害が少ない地域に含まれる。そのおかげか、元から人口が多かったおかげか、ある程度の周辺を含めての復興が行われている。しかし、地方となると、街を捨てるという選択をせざるを得なかったようだ。
「確かにそうだな」
ここはもう無人になって久しいのかと、礼暢は不思議な気持ちになる。地震がたくさんあったと知識では知っているが、今まで実感を持っていなかったのだと痛感する。東京に多い廃ビルなんて、ここに比べれば可愛いものだ。
「ともかく、霊場を探しましょうよ」
妖怪の力を持っているとはいえ、捨てられた街に長く滞在したいとは思わない。月乃はもう少し移動しようと提案する。
「そうだな」
「ああ」
二人もそれがいいと頷いた時だった。
「えっ」
「なんだ?」
「急激に妖気が増えたぞ!」
どんっと圧力を受けたかのような、濃密な気が身体を押した。よろめきながらも周囲を見渡すが、近くに妖怪化した人間がいる気配はない。
「スサノオか」
「どうだろう」
「おい。探すぞ」
ともかく気が一番濃い場所を目指そう。礼暢の提案に、二人は大きく頷いた。気が発せられる方向へと素早く走り始める。
「くっ」
たまに瓦礫に足を取られそうになるが、一般人よりも優れた身体能力がある。ちょっとした上り坂を駆け上がっているくらいの労力だ。
「開けた場所に出たな」
「でも、まだ先だぜ」
路蘭はまだまだ向こう側から感じると、気の大きさに顔を引き攣らせた。
打ち捨てられた街の端からも感じられるほど莫大な妖気だ。それが、街を抜けても変わらない濃さで漂っている。この発生源ではとんでもない量の妖気が溢れているのではないか。
「ちっ。次から次へと面倒なことになるな。月乃、大丈夫か」
「ええ。それと、スサノオとは違う気配を感じるわ」
「マジかよ」
これがあのスサノオだったら、あっさり納得できる。しかし、他となると心当たりがないうえに、あれほど強力な妖怪が他にもいることになる。礼暢は思わず顔を顰めていた。
「なんだか有り難くねえ展開だな」
路蘭も、マジでどうなっているんだと走りながらぼやく。妖怪化した人間たちは、自分たちの力が異様に強くなっていることを実感していたが、それにしたって、スサノオやこの気配の持ち主は規模が違う。周囲にまで大きな影響を及ぼす妖気の塊だ。
「あっちだ」
と、礼暢がそんな中でも、気配の濃淡を見分けた。鬼の力を持つ礼暢は、妖気の濃さを知ることが出来た。だから、微々たる差であろうと、その差を見分けることが出来る。
「あっちに何があるんだ?」
「さあ」
霊場について詳しく知るわけではない。それでも礼暢たちが調査しているのは、こうやって妖怪の特徴を使えば調べるべき場所が解るからだ。
「あっ」
「神社か」
辿り着いたのは、大きな神社だった。鳥居は崩れてしまっているが、大きな石柱は間違いない。一歩足を踏み入れると広大な敷地を持つことが解る。一体どこだと周囲を探ると
「
月乃が呟いた。そしてすっと前方を指差す。
そこには、大地震をものともせず、変わらずに立ち続ける梅の木があった。飛梅伝説で有名なあの木だ。
「神社か。確かに霊場と言えば霊場なんだろけど、ちょっと意外だな」
路蘭はもっといわくつきの場所から気が発せられているんだと思ったと不満そうだ。しかし、それに月乃が何を言っているのよとツッコミを入れる。
「菅原道真よ。雷神様よ。何かあるに決まってるでしょ」
「ああ、まあ」
「現実問題、安倍晴明の生まれ変わりが身近にいるしな」
礼暢は他の歴史上の人物が出てきてもおかしくないかと思うも、どうも引っ掛かるなと顔を顰めてしまう。
スサノオの登場から、何かがおかしい。
ちらっと過るのは、猫又の少女だ。
彼女は元人間で、平安時代に飛ばされ、妖怪になった。
特殊な存在だ。
「まさか。晴明たちや式神が揃ったことで、時空に歪みが出ている」
礼暢がそう呟いた時、大地が大きく揺れた。
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