第23話 ややこしい
「いや。大丈夫だ。松山天夏が動いているのならば、危険が大きい。これ以上は深入りしないのが無難だろう」
「解りました」
玄武は頷くと、そのままサラたちの傍に座る。それから、何の集まりだとこっそり訊ねてきた。
「そうそう。大変なのよ。保憲様の生まれ変わりが現われたの」
玄武に問われ、どうして根本的な問題を検証していたのかを思い出したサラたちだ。
保憲の生まれ変わりは確実に呪術師。ならば、どうにか協力体制を取りたい。しかし、彼は戦国時代に晴明を避けたという。この点が困ったところだ。
「私は保憲様を知らないからねえ。この時代の呪術師たちのことも、読めないことばかりだし」
玄武は頬に手を当て、困ったわねとサラを見て、それから自由を見て笑う。
「俺たちも解らないことだらけさ。ともかく、俺たちの目標は妖怪化の阻止。そのためには、強力な力を持つ妖怪化した人間の協力を取り付け、その妖気を研究したいんだ。特にあの鬼の気を持つ西条。あいつからはいいデータが取れると思う」
自由はそこで大江咲斗のことを思い出し、思わず舌打ちしてしまう。ただでさえ、天夏に狐だと言われて警戒されているというのに、西条礼暢にはますます警戒されてしまったことだろう。
「あの、その、狐というのは」
ずっと気になっていたことを、サラは名前が出たところでと質問する。すると、自由の目が鋭くなった。
「あの」
その鋭さに怯んでしまうと、自由はすぐに目を閉じて鋭さを封じた。それから大きく息を吐き出し
「俺の呪術には、昔から妖気が混ざりやすいんだ。さっきも言ったように、呪術師の使う気は霊気で、妖気とは異なるものだ。それなのに、妖気が混ざってしまう。つまり――俺は人間なのか、すでに妖怪化してしまっているのか、解らない存在ってことさ」
今までずっと秘めていたであろうことを口にした。
「で、でも」
「ああ。俺に凶暴性は表われていないし、何か妖怪らしい能力が顕現したわけでもない。だから呪術師であることは間違いないと思う。だが、それが化けているように見えると、あの女は自分と同じ狐だと言うんだ」
自由はそこで自嘲気味に笑った。
これが、今の晴明が抱える枷なのか。
大きな秘密を知り、サラはどう声を掛ければいいのか解らなかった。
「何だかややこしくなっちまったな」
「そうね」
自由と合流すれば、次に動くべきことが解るはず。そう思って気張ってきた式神たちは、揃って溜め息を吐いていた。
まさか自由にも、妖怪化の恐れがあるなんて。
それだけでなく、彼は純粋な呪術師とは少し違う存在だなんて。
「昔から妖怪疑惑のある奴だったけど、この時代では明確に影響が出てしまってるんだな」
朱雀がどうなんだよとサラを見てくる。
「別に平安時代は妖怪扱いされていないわよ。そりゃあ、不思議な力を使うし、私たちを使役しているし、他にも、裏では色んなことをやっていたから、危ない奴とは思われていたけど、妖怪じゃないから。晴明様はちゃんとした貴族よ」
それにサラはムキになって反論するが、朱雀が呆れた顔をする。
「な、なによ」
「さらっとディスってるぞ」
「にゃっ?」
「まあまあ」
すぐに言い合いになるんだからと、玄武が窘める。今はそういう言い合いをしている場合ではないはずだ。
「そうだった。ともかく、妖怪化を止めないことには晴明が危ない。そして、晴明を守れないことは、俺たちにとっては存在を脅かす事態になりかねない。契約の枷が外れた時、この世界で俺たちがどうなるのか、さっぱり解らないからな」
「ええ」
玄武は重々しく頷く。
そう、サラと違い戦って負けた結果、式神となった四神の名を持つ四人は、明確な契約が存在する。そして、それによって清浄な気を纏う存在となっているのだ。
もしもここで晴明の契約の術が無効化することになれば、妖気が身体の中に一気に流れ込み、凶暴な妖怪に変じてしまう可能性もある。
「わ、私は」
「ううん。サラは何もかもが例外だからなあ。そもそもお前、契約で動いているわけじゃないだろ。お前は純粋に、晴明と交わした約束で動いている。だから、大きな影響はないんじゃないか。まあ、心には大ダメージだろうけど」
「むにゃ」
そうだ。晴明を支えることを理由に生きてきたサラにとって、転生した彼に出会い、再び仕えることが総てだ。
もしも妖怪化して凶暴化し、調伏されるような事態になれば、二度と晴明は転生することもなく、サラは生きる目的を失ってしまう。
「そもそも私、妖怪じゃなかったからなあ」
ここまで生きただけでも凄いことだ。でも、二度と晴明に会えなくなるのは、自分の存在が妖怪になってしまったことより悲しい。それははっきりとしていた。
きっと、自分も死ぬことになるだろう。そう思うほどに。
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