第24話 考えることが多い
「ともかく、妖怪化を防ぐこと。そして、私たちが気づいている、この世界の気を呪術師たちの協力を得て戻すこと。その二つを同時に行っていくしかないわよね」
沈んでしまったサラの顔を見て、白虎がそういうことだろと他を見る。
「うん。でもそれ、どうやって呪術師に伝えればいいのかな。そもそも、呪術師の人たちは全然協力関係にないのよ。しかも、自分たちの立場が不安定だから、世界全体を見渡して考えるなんてやっていないみたい。それに、妖怪化した人たちがもともと呪力が高く、それによって変化しているっていう事実も見落とせないわよね」
サラはここに来て問題点がはっきりしたよと指摘する。そもそも、那岐自由と自分たちの目的が合致していないのだ。
そうだった、と四神の名を関する四人は固まってしまう。
「晴明が妖怪化するかもっていう爆弾のせいで忘れていた。そこを説得するところからか。しかも不安要素は、保憲の生まれ変わりが対立関係になるかもしれないってことだよな」
「うん」
頭を抱える青龍に、サラはどうしようと思いつつも頷く。
これ、思っている以上の大問題だ。
誰も気を収めればなんとかなると発想していないということは、そこに分け入るのは難しいか、もしくは危険だと判断しているかということになる。
「気の流れが二つあるってのは、霊場の破壊が原因だから当然として、妖怪化した連中は、妖気がなくなっても大丈夫なのか。それも問題か」
「うん。身体が完全に変わっていることを考えると、ただこの世界の気を鎮めるだけでは、難しい気がしてきたのよね。特に、呪術師まで妖怪化するとなると、この問題の根っこは、気の噴出だけにない気がする」
「サラ。どんどん問題点を指摘しないでくれ。俺たちは妖怪なんだ。お前と違って、複雑なことを考えるのは苦手なんだぞ」
朱雀も頭を掻き毟り、どうすればいいんだよと悶える。
「一気に考えることが増えちゃったわね」
サラもどうすればいいか解らず、盛大な溜め息を吐き出すことしか出来なかった。
賀茂保憲。
晴明の師匠として有名な人物であり、さらに陰陽師として初めて従四位上という高位になったことでも有名である。
というのも、陰陽師のトップである陰陽頭でも位は従五位下。陰陽師そのものの身分が低かったのだ。それを大きく改革した人物である。
「昔から只者ではない感があったけど、やっぱり凄いわね」
晴明が天文博士になる頃、保憲がその高位の身分となった。サラはやり手よねと、人型を取る練習をしながら納得したものだ。
ちなみに、この頃はまだ猫耳と尻尾を隠すまでには至らず、猫娘みたいになってしまっていた。気を抜くとヒゲも出てくる。
「只者なわけないだろ、あのお師匠様が。自らの父親さえ踏み台にする男だぞ」
「ははっ」
「あの人は、本当に敵に回しちゃ駄目だ」
「ははっ」
サラは晴明の文句に、笑って返すしかない。確かに敵に回すと面倒そうだ。
(なんか、あらゆる手段を使って潰される気がする)
普段はにこにこと穏やかに笑っている分、そういう闇の部分が大きい気がする。
サラは腕を組んで、うんうんと頷いた。
「さすがは元人間とあって、人型がとれるようになると、一気に人間らしくなるもんだな」
そんな仕草を見ていた晴明は、呆れたように言ってくれる。
「今まで信じてなかったの?」
「そんなわけないだろ。でも、今、実感した」
「むにゃあ」
サラは不満げに声を上げ、そこで猫型に戻ってしまった。
(やれやれ、完璧な人型にはほど遠い)
この頃はまだ自分のことに必死で、そして猫扱いされることも多かったので、晴明とはフラットな関係だった。
猫に戻ると、すぐに晴明は自分の元へと引き寄せて抱っこしてくる。
「にゃあ」
「無理に人型にならなくてもいいだろ。癒やしを提供しろ」
「むにゃあ」
猫の方が癒やされるってか。それはそうだろうけど、むっとしてしまう。
とはいえ、この頃には奥さんがいたから、女性に求める癒やしはそちらで何とかすべきだ。サラは大人しく猫として撫でられる。
「晴明の子どもたちも、いずれは陰陽寮に入るのよね」
でも、撫でられているだけもあれなので、そう質問した。
「まあな。保憲様が約束通り、賀茂家の独占とはしなかったから、ある程度の部分は引き継ぐ必要がある」
癒やしタイムに嫌なことを思い出させるな。そう言いたげな声音で答えてくれた。
「保憲の息子は暦道をやっているのよね」
「ああ。だから、安倍家は天文を極めることになるな」
「ふうん。どっちも、陰陽道を中心にはしないんだ」
「お前、何年陰陽師を見てきて、それを言うんだ?」
「あははっ」
すでに陰陽道は形骸化し、儀礼化している。それを知っているからこそ、あえて二人は手を加えず、それらを独自の色に染め変えるだけにしている。あとは誰がやっても同じというわけだ。
裏を返せばそれは、陰陽道は独占する必要がないものと判断しているということだ。
そこに何ら必要なものはないと、二人は判断している。
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