第22話 妖気と霊気
「派閥というか、それぞれが妖怪化に対抗すべく研究しているというのが現状だ。その研究方法の差が、対立を生んでいて派閥っぽくなっている。明確なのが、先ほども出てきた大江だ。奴のところと俺たちのやり方は真逆と言っていい。おかげで、妖怪化した人間への対処も大きく異なる」
「研究」
やっぱりそこは、理系らしいんだとサラは納得。
陰陽師って、大部分が理系っぽいんだよねえ。
と、これは平安時代、晴明の仕事を傍で見ていたから言えることだ。特に晴明は天文道を専門にしていたから、現代の天文学科に近い部分があった。
「研究ですか。それは自分たちが妖怪化する可能性があるから、ということですね」
青龍がすかさず、なぜ研究するのかという理由に気づいて訊ねる。
「そうだ。一般人か妖怪化か。普通、この濃い霊気や妖気の中では、そう分かれるはずなんだ。ところが、俺たちのように半端な存在が生まれてしまう。しかし、霊力が高いことは解りきっているから、いずれ妖気に飲まれれば妖怪化してしまう。ここまでは大丈夫か」
「はい」
サラがこくんと頷いた。
呪術師としての素養が、どういうわけか妖怪化を阻んでいる。しかし、清浄な気を保てなければ、いずれ妖怪化してしまうというわけだ。
「では、どうすれば妖怪化せずに済むのか。また、妖怪化とは何なのか。それを解明しようとするのは自然の流れだ。先ほど保護した子のように、今まで普通に生きていたのに、突如として妖怪化しそうになることもなる。出来る限り、そういう事例をなくしたいという気持ちもある。やっぱり、妖怪化は人間らしさを失う要因だからな」
「ああ」
妖怪化した人間は、獲得した能力によるが、凶暴化しやすい。これもまた、災害からの復興を阻んでいる要因だ。
上手くその凶暴化をコントロールし、人間側も妖怪化を肯定的に受け止められればいいのだろうが、噴火に地震と混乱した中で、凶暴で強い力を持つ人間が現われてしまったことで、対立が先にやって来てしまった。
「妖怪化せずに済む術は見出せているのですか?」
白虎が今後の対策はどうすべきかと訊ねる。すると、今はまだこれという方法がないとのことだった。
「だから、俺たちは妖怪化した人間に接触しようとしている。しかし、これまで、俺たちは一般人を守るために彼らを調伏してきた。そう簡単に協力は取り付けられない」
「うわっ。ここでも混乱期の状況が邪魔するのか」
朱雀はやだねえと顔を顰める。
富士山の噴火と相次ぐ地震。その間に現われた妖怪化した人間。この混乱を収めるため、呪術に目覚めた人たちが、一先ず凶悪な妖怪化した人間を排除した。
しかし、それが負の連鎖の始まりだった。妖怪化した人間たちが結託し、呪術師たちに対抗し始める。すると、今度は一般人たちが、呪術師と一緒にいると妖怪化した奴らに襲われると離れる。
こうして今、呪術師は不安定な立場に立たされているのだ。まさかそこに、自らが妖怪化する危険性があるからだとは知らなかったが、サラたちの認識は、この事実に基づいている。
「そう。この研究は、俺たちが危険だという認識を変えるためにも必要なものだ。対立さえ収めれば、そして妖怪化を阻止する事が出来れば、もっと住みやすい世界が手に入るはずなんだ」
自由はそこでぎゅっと拳を握り締める。
その姿で、ここまでどれだけ苦労があったのかが伝わってくる。
晴明と同じく、今の時代の彼もまた――
「おい、大丈夫か」
「へっ」
思わず俯いていたサラに、自由が声を掛けてくれる。おかげで、へにゃっと笑うしかなかった。
(今も昔も、この人は自分のことより誰かの心配をするんだから)
「大丈夫です。その、研究はどのくらい進んでいるんですか? ここの地下にある結界は、研究の成果ってことですよね」
気持ちを切り替えると、そう質問を投げかける。すると、自由は大きく頷いた。
「妖怪化に必要なのは妖気だ。それとは別に、俺たちが呪術師として術を使う場合の霊気が存在する。これを分離することは出来ている」
「凄い」
「お前たちがあの結界でも大丈夫だったことから、やはり、本物と妖怪化した人間は大きく異なる存在ということだろう。まあ、妖怪にも陰の気の強いものと精霊に近いものがあるから、お前たちは精霊寄りだということでもあるんだろうな」
「なるほど」
気を分離出来るだけで、見えてくることがある。これは大きな進歩だろう。
「ただいま戻りました」
と、そこに玄武が戻って来た。自由がいることを察知して、口調は改めたものになっている。
「どうだった?」
朱雀が報告することはあるかと、すぐに訊ねた。妖怪化に関する情報が、ここにきて重要になってきたのだ。何か掴めたのならば知りたい。
「何もなかったわ。あの妖怪の子たちが痕跡を消しちゃったみたいで、妖気ばかりが満ちていたわ。どうしてあの子どもの妖怪化が起こったのか、あそこから読み取れることはなし」
玄武は朱雀に向って言い終わると、
「もう少し調べましょうか?」
自由に指示を仰いだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます