第3話 呪いをかけた先生

 高校1年の副担任の話。

 家庭科を教えてくれていた女の先生だったのですが、当時の家庭科の先生にありがちな厚めの化粧、派手目の服装。私たちと同じく高校生の娘がいるらしく、「うちの○○ちゃんもね~」と、よく子どもの名前が出てくる先生でした。


 そんな先生が春休みのさなかに亡くなったというのです。

「え?病気やったん?」「元気やったよな?」

 疑問いっぱいの私達、実感がまったくわきません。

 とにかく参列はしようと、山の手のご自宅まで行くと、たくさんの人が集まっていて、クラス委員以外はお焼香をせず、出棺を待つことになりました。


 出棺までの長い間、生徒たちの間ではひそひそ話が広がっていました。

「先生の家庭は崩壊していて、娘からの暴力がひどかったって」

「先生、自殺したらしい。」

「さっき、娘が笑ってたのを見たで」

「そういえば、顔に大きな青あざ付けてきたことあったよね」

「「階段から転んだのよ~」とか言っていたけど。」


 強い風が吹いていて、悲しみと好奇心の入り混じった、置き場のない気持ちを抱え、私たちは、髪もスカートも心もバサバサに乱れました。

 先生なのに、たった一人の娘を教育することができないことだってあるんだ。

 先生が乗せられた車を遠くで見送りながら、知ってはいけないことを知ってしまったような気がしました。


 帰宅後、塩を持って待ち構えていたばあちゃんに言われて気づきました。

「どうしたん、その黄色いの」

 黒い制服の生地がうっすらと黄色に…。

 山から飛ばされてきたスギの花粉にまみれていたのです。

 やがて襲い来るくしゃみと鼻水、そして涙、涙、涙。

 私はこの日をきっかけに、花粉症になってしまったのでした。


 そして今でも、花粉症の時期になると、先生のことを思い出す体です。

 まるで呪いのようだよ、先生。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る