第2話

家の裏には、昔この辺の地主さんだった、娘さんが住んでいて、白くて大きな、そう、狼のような犬を放し飼いで飼っていた。

よく、小さい時私の家に遊びに来ていた。

私は一緒に戯れたが母は動物嫌いで、とても嫌がり怖がって家に入っていた。

その白い犬が帰るまで外に出てこなかった。私はシロと呼んでいた。シロは、とても優しかった。

そこの地区の意外と大きな家には犬が必ずいた。

そのシロは別だが、ほかの犬は誰が近づいてもキチガイのように吠えてていた。

思い出せば、声が枯れても泣いていた。

とてもうるさいし、怖かった。

考えれば考えるほど、変わったことばかりだったような気がする。

ある日、母が新聞の集金をしていたのでその、地主のおばあさんのところに行く時ついて行ったのだ。

私は新聞配達をしてるから、入口までは行ったことがある、中に入るのは初めてだった。私の家の100倍以上ある土地の中に入り口から入って白い壁の塀が壊れていて、その横を100メートル位進んだ所に古い茅葺き屋根のお宅がある。

とても古くて、草が生い茂る誰も近づかない地主さんの家だったが、どうしても私には凄く興味を引いてやまなかった。その入口にやっと入った。

「こんにちは。」母が言うと…太い声の「はい。」とおばあさんの返事が返ってきた。

新聞配達の時、時々庭を掃除したり、通りにある畑を、おじさんと耕している所を見た事がある。

母は、ゆっくり木の扉を横に開けた。

中にも古い見たことも無いものがぎっしりあった。

農家の道具や見たことも無い引き出し(今思い出すと仙台タンス)囲炉裏、火鉢…。

私は、キョロキョロしてばかりだった。

母は玄関を入った石の上に靴を脱いで入っていった。私も慌ててついていった。

おばあさんの向かいの囲炉裏の着物の生地みたいな丸座布団に座った。

「こんにちは。」時々は見かけるが遠くから畑で見るだけで、初めて目を合わせた。

「お茶を入れるから。」

おばあさんは、灰色の髪の毛で顔の色は白くて、いつも家に来るシロにとっても似ていた。

すぐ、横の丸いテーブルにおばあさんの湯呑みがあった。湯呑みには漢字みたいな、英語みたいな文字が書いてあった。

その奥から、小さなチョコレートで出来た様な湯呑みに、丸い大きな金色のやかんを火鉢から取って、深い緑色の急須に注いだ。

コポコポととても良い音が聞こえた。

大きいやかんを、火鉢に戻して急須からそのチョコレートの湯呑みに注いでから、おばあさんは。

「はいよ。」と母に一つずつ渡した。

最初は、私がもらったけど熱かったから、膝の前の囲炉裏の木の淵に湯呑みを置いた。

昼でも薄暗いおばあさんの家は、電気も付いているのに、部屋の中はぼんやりとしか見えなかった。

おばあさんは、キセルに葉っぱを詰めてスーッとゆっくり火鉢に近づけて吸ってから、横を向いて口を開けた。煙が口から白蛇のように暗い台所に吸い込まれて行った。

私は、何故だかぶるぶるっとなって急におしっこがしたくなった。

お母さんと、おばあさんは、話をしていたから、私は我慢できなくてお母さんの腕をトントンとして、小さく「おしっこ」といった。

お母さんは、「えっ、なんで今?」と少し怒ったが、「すいません、トイレお仮り出来ますか?」と聞いてくれた。

おばあさんは、「あぁ、ちょっと遠いんだけど、どうぞ。」

「すいません。」私もペコっと頭を下げた。

おばあさんが、杖を着いて立ち上がり障子の戸を開けて、この廊下の突き当たりだよと教えてくれた。「電気は右手にあるから」

私はその障子の戸を出て廊下に立った。

トイレのドアは見えなかった、遠くて暗くて洞窟みたいに見えた。

お母さんは、トイレまで着いて行ってくれたけど電気はなくて本当に真っ暗だった。

お母さんが電気を付けた。それでも暗い。

トイレの戸を開けた。少しオレンジで小さい裸豆電球がトイレの穴だけを照らしていた。

お母さん…「行ってるよ」って歩き出していた。

私は、怖いより漏れそうだったから戸を閉めた。紙は、4角のちり紙が紙の箱に入って置いてあった。これまでにないくらい急いで用を足した。そのちり紙を、トイレの穴に入れる時も怖いから真正面を向いて、パンツを上げて。

一番大事なのはここ、ぼっとん便所は穴が大きいタイプと中が見えない囲ってあるタイプがあるんだけど、ここのは母の実家と同じ穴が大きい丸見えタイプ。

私なんか、下手すれば、すっぽり落ちちゃってうんが悪かったら死んでしまうから。下を見ないようにしながら、大股の大股で、扉側に身体を引き寄せた。

古い吊り下げ式手洗いは水の出が悪く何回もカチャカチャさせたが、手が湿るくらいだった。怖くて、早く戻りたかったから、戸を開けてだ〜っと走った。

はっと思った。

電気消してない…

私は、勢いで戻って電気を消した。

ふっと、暗くなり足が止まった。

ゆっくり、回れ右をして帰ろうとした時、

その横の障子戸がちょっと開いていた。凄く怖かったが、何か灯りが見えたような…

私は覗いてみた。見た事もない広さの何もないへやが(体育館の半分はある畳の部屋が)

そのまた奥に障子の戸がある、どうしても見てみたくて、中にそーっと入ってその、障子の戸を開けて見た。

そこは、同じまた見たことも無い広い畳の部屋があった。その奥にも障子の戸があったが、あんまり遅くなると、他の部屋に入ったのがバレるからと思い。

もう、行こうかと後ろを振り向いた時、向こう側から畳を何かがずずず〜っと擦りながら向かって来る音が聞こえてきた。

怖くて走って、玄関の部屋の入口まで行っておばあさんに、「誰かいたかも」と言ってしまった。

おばあさんは、「誰もいないよ。」とニヤっとしてた。

部屋に入ったのがバレてるかもと思って、顔を見られないように、湯呑みを取ってちょっとずつ飲んだ。それは、それは苦い何かわからない初めて飲むお茶だった。私は苦くて何度も舌で唇を舐めたりしていたら。

私を見ていたおばあさんが「私が煎じたどくだみ茶だよ」とまた笑っていた。

私は、早く帰りたくて仕方なかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る