祭りのあと…【北京五輪】

 カーリング、イギリス代表スキップ、イブ・ミュアヘッドのラストストーンが、大きなカーブを描いてハウス内に留まる。


 イギリス2得点……


 ロコ・ソラーレの面々は、薄っすらと笑みを浮かべて、顔を見合わせる。

 そして申し合わせたように、うん、とひとつ頷くと、イギリスチームに握手を求めた。


 コンシード……

 相手の勝利を認め、試合は終わった。

 北京五輪女子カーリング決勝戦、ロコ・ソラーレの挑戦は銀メダル獲得という輝かしい成績を残し、終焉を迎えた。イギリスチームとハグし合う姿が涙を誘う。


 まさかの決勝トーナメント進出、準決勝でのスイス撃破!

 このチームは何か持っている! 

 そんな期待を胸に決勝のイギリス戦を観ていた。

 だけど、イギリスの執念は凄まじかった。


 前回のピョンチャン五輪で銅メダルを逃したイギリスは、国内のスペシャリストを集結させ、オリンピック代表チームを編成した。

 カーリング発祥国の意地を魅せつけられた気がした。

 ロコ・ソラーレがチームワークで戦うならば、イギリスは個の能力で戦う。

 その個の能力の高さがいかんなく発揮された試合だったように思う。


 日本にも勝つチャンスが無かった訳ではない。

 第1エンド、先攻日本のラストストーンが僅かに割れてしまったが、きっちりとフリーズできていたなら、イギリスの得点を1点に抑えられた。

 第5エンド、中心の僅か左を狙ったショットが、逆に僅かに右に逸れた。誤差は数センチ、それでも中心の右と左の数センチは、弾かれる方向が変わるため、大きく局面を悪化させてしまう。

 第6エンド、またしても中心の逆に行ってしまったショットで複数得点のチャンスを逃した。

 この時点での点差は2点、しかし大勢は決していたように思う。

 

 私は、生中継を観戦したあと、録画していた映像を見直し、当たる瞬間を静止して確認してみた。どれも本当に惜しいショットだった。

 このレベルになると投げミスなんて殆ど無い。投げ手の読みよりも、速くなっていた氷の状態(曲がらない氷の状態)を読みきれなかったのだろう。


 40メートル先の僅か数センチ……

 曲がる筈なのに曲がらなかった氷……


 もうそれは神の領域とさえ思えてくる。

 だけど、それをコントロールするのがカーリング……

 相手の僅かなミスを誘い、そのミスに付け込む。

 イギリスはそれが出来た。そして日本はミスに付け込まれた。

 本当に僅かな差だった。

 

 金よりも良いと書いて銀、だけど頭にひとつ点が足りない……

 本当にあとひとつだった。


 でも、銀メダルで悔しいと言える彼女たちが、これまで以上に逞しく見えた。

 常呂町と言う小さな町のヒロインが世界中の注目を浴びている様子が、このうえなく嬉しい。


 私は、毎年6月になると、常呂町を訪れている。サロマ湖100kmウルトラマラソンに出場する為だが、彼女たちが生まれ育った町の空気を感じられると言う楽しみもある。(常呂町に私の足型も残しているし… 詳細は「常呂町って?」をご参照)


 今年もするつもりだ。

 昨年、訪れた際は、ロコ・ソラーレの本拠地、アドヴィックス常呂カーリングホールで、偶然、彼女たちの練習風景に出くわした。

 常呂高校の男子チームと試合形式の練習をしていて、30分ほど滞在してその様子を眺めた。ブルーのユニフォームを着ている彼女たちがすぐ傍に居るのに、なんだかやけに遠く感じた。それだけ、高いところへ昇っているという事なのかもしれない。


 もしかしたら、今年も会えるかも???

 会えるかどうかは分からないが、出来る事ならもう一度カーリングの難しさを体験してみたい。そして彼女たちの凄さを再確認したい。

 今は、その日が来るのを楽しみにしている。


 女子カーリング決勝戦をもって、チームジャパンの戦いは終わった。

 日本チームの選手数、約120名……

 国内の選考会を勝ち抜いた勝者が集まる場所、オリンピック!

 だけど、殆どの勝者が敗者になって会場を去ってゆく。

 メダルを獲得出来るのは、ほんの一握りの選手だけ。

 

 でも、帰国する時は、胸を張って欲しい。

 どんな結果であろうとも、母国に帰れば、間違いなく勝者なのだから……


 心をたくさん揺さぶられ、たくさんの涙を流したオリンピックが終わってしまった。今は、祭りのあとの寂しさを痛感している。 


 だけど、スポーツはまだまだ続く。

 昨日は新日本プロレスのIWGP世界ヘビー級タイトルマッチが行われ、手に汗握る大熱戦が繰り広げられた。

 球春到来も待ち遠しい。その先にはマスターズも……

 その前に大相撲もあるし、マラソンだってシーズン真っ只中だ。

 沙羅ちゃんはW杯で元気な姿を魅せてくれるだろうか???

 オリンピックとはまた一味違うアスリート達の躍動を、今後も追い掛けていこうと思う。

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