第14話 農業と農地

「はい、ソウシロウさん、これをどうぞ。今日、見つけられた魔法を書き写したものです」


教会の離れに帰り定位置の席に座ると、ササリアからA5サイズくらいの紙を受け取った。


「遠視、不浄の風、石の槍、命を見る」


最初にもらった紙と同じ形式で書き写してくれているらしい。


「魔法の「ミ」以降の文言についての本も見つけたんですけど難しいのと、量が多いので書き写すことはできませんでした。でも、「ミ」以降のことを「オプション」と呼ぶことはわかりました」


オプション?


・・・


もしかしてコマンドオプションのことだろうか?たしかに魔法の呪文はコンピュータの実行コマンドに形式が似ている気がする。


少し考える。そう考えていろいろ試せば呪文の構造やオプションの種類を解析できるかもしれない。


あとで、手持ちの魔法のオプションを見比べてみることにしよう。




「この街の事について教えてくれないか」


夕食の後、ササリアと話をする。


「はい、いいですけど何を知りたいんですか?」


「まずは、大まかな街の地理だな。今日、歩いてみたけど内周に商業施設が多くて、中央が公園。その先が大きな畑になっていることしかわからなかった。地図があれば一番いいんだが」


「地図ですか?難しいんじゃないでしょうか?ないわけではないですが細かい道まで正確に書いたり、書き写すのはとても大変ですからどうしても高価になってしまいます。その割に既に長く住んでいる住民はあまり必要としません。私は売っているのを見たことがないですね」


「そこまで細かくなくてはいいんだけどなぁ。大まかに大きな通り、商業施設街、住宅街、官庁、あとは農地なんかがわかればいいんだが」


「なら私が書きましょうか?」


「そうだな、できるならお願いしたい」


「では、用意しますね」


ササリアは自分の部屋から羊皮紙、羽ペン、インク壺を持ってくる。


「まず、この街は円形の城壁に囲まれています。その城壁のすぐ内側に外周通りがあります」


ササリアは大きな円をまず書く。地図を書きながら説明してくれるようだ。


「その内側に内周通り、更に内側に公園通りが同心円状にあり、まずこれがメインストリートになります。えーと公園通りの半径が約2キロメートル、内周通りの半径が約6キロメートル、外周通りの半径が約12キロメートルとなります。」


「次に、外壁の真北から円の中心に向かって公園通りまで大きな道が引かれています。同じように真東から、真南から、真西からも円の中心に向かって公園通りまで大きな道がひかれています」


「最後に4分割されている外周通りと内周通りの間の居住区をそれぞれ3等分するように円の中心に合わせて線を引いて、居住区全体をちょうど12等分します。これが、この街の全てのメインストリートになります」


「そして、12等分された居住区の東北東の地区を第1区画として右回りに番号を振っていって、1から12までの居住区としています」


「えーと、そして、1が官庁、役所の多い地域、2が富裕層の多い地域、3と4と5が普通の居住区、6が職人多い地域、7は、、、スラムに近い感じになってしまってます。8も半分は7と一緒で、9は畑で、10は警備隊・軍隊の施設や訓練場、11と12が普通の居住区という感じですかね」


「完全な計画都市だな」


「そうですね。でも、道も完全にこの通りではなく多少歪んでいたりします。居住区の特徴も大体で、居住区の中にもお店があったりもします。けど、概ねこのような感じになりますね」


「わかった、ありがとう」


総士郎は書かれた地図を受け取りお礼を言った。


なにか追加の情報があればこの地図に書き足していけばいいだろう。

「ササリアは農業には詳しいか?」


次の質問をササリアにする。


「農業ですか?小さな菜園のお世話とか、繁忙期の収穫のお手伝いならしたことありますけど、そういう話ではなさそうですね」


「そうだな」


「うーん?とりあえず質問してみてくれますか?わかることはお答えしますので」


ササリアは答える。まぁ、ダメもとで聞いてみるのもいいか。


「じゃあ、まず、大きな畑に春に小麦を植えたとして、秋に収穫で刈り取って、その次には何を植えるかわかるか?」


「小麦の後、ですか?小麦じゃないんですか?小麦畑ですから」


「連続して小麦を植えると収穫量がどんどん減っていくんだ」


総士郎はやっぱりハズレだったかと思い連作障害の説明を始める。


すると、


「聞いたことがありますね。「豊饒」の魔法を使わずに小麦を植え続けると土地が枯れていってしまうっていうお話ですね」


「「豊饒」の魔法?」


「はい、「豊饒」の魔法です。春と秋の小麦の種まきの前に「豊饒」の魔法を畑にかけるんです。すると小麦は問題なく穂をつけてくれます」


そういえば、そんな魔法がもらった紙にあった。


魔法チートかよ。


この世界には知識チートを使うまでもないチートが存在していた。


たぶん「豊饒」の魔法には現代日本で化学肥料を撒くような効果があるのだろう。


「それは魔法使いが足りるのか?」


「ぎりぎり足りてますね。治癒の属性の魔法使いをたくさん抱えている教会はその時期は忙しくなります。でも、教会の大事な収入源でもあります」


なるほど、土地が痩せる問題は魔法で解決できるようだ。


しかし、別の問題がある。


「なら家畜はどうするんだ?土地を放牧地にしなかったり、牧草を作らなかったら家畜の餌が足りなくなると思うのだが」


「家畜ですか?馬の餌なら小麦を育てていない畑や壁の外の土地の草で足りていると思います」


「それ以外は?」


「それ以外?」


「牛とか豚とか」


「牛や豚の数はすごく少ないので大丈夫だと思いますよ。」


・・・


少しの間考える。


「もしかして、牛とか豚って高級品?」


「そうですね。同じ重さのお肉ならカニの5倍以上の値段がするはずです」


・・・


そう言えば、この世界に来てから牛も豚も食べていない。ハンバーガーのパティもクジラ、海竜、魚しかなかった。


テラクタには海畑がある。海畑でとれる海産物は主にタンパク質でできている。そのため同じタンパク質の取得源である酪農は盛んではないようだ。


「なるほど」


それで本当に大丈夫なのだろうか?プリン体とか。と、いう気はするがとりあえずは納得した。




「今日、第9区画まで歩いたんだが、書いてもらった地図と同じで区画全体が小麦の畑になっているようなんだが理由を知っているか?」


次に今日、街を歩いて気になったことをたずねた。


「理由ですか?」


「城壁の内部なら畑よりも住居や商業施設を建てた方がいいと思うんだが」


「昔の第9区画は廃墟というかスラムというか、とにかくヒドイ状態だったみたいです。そこで、昔の代官様が整備を始めて、小麦畑にしたんです。今では第8区画の半分ほどまで小麦畑になってるはずです」


「それで土地は足りなくならないのか?」


「土地ですか?むしろ余って困っている場所の方が多いはずです。そのための小麦畑の整備でもあります」


「土地が余っている?」


「えーと、30年前に疫病が流行ったお話はしましたよね?」


「ああ」


「その時にたくさんの人が亡くなって、住む人のない家、持ち主のない家がテラクタ全体に増えたんです。その家が30年経っても誰も住まないまま老朽化してしまうことが、最近、テラクタで問題になってますね」


「町中にも所々に畑があるのも?」


「そうですね。土地が余っているからだと思います」


「えーと、ちょっとまってくれ」


・・・


・・・


・・・


その後、夜が遅くまでササリアから色々なことを聞き出した。


この問題が「銃」と関係あるのかはわからなかったが、かなり大きな問題がテラクタで、いや、この世界全体で起こっていることがわかった。

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