第10話 ワイバーンと魔法の射程

ピーーーピピーーーッ


その時、大きな笛の音が聞こえた。


「ワイバーン接近!ワイバーン接近!対空防御!対空防御!」


兵士の一人が叫んだ。


ササリアとリナは空を見上げる。遅れて総士郎が見上げると黒い大きな影が頭上を通り過ぎた。


「来ます!」


ササリアが叫ぶと同時に大きな影の持ち主、緑の巨大な鳥のような何かが急旋回し、もう一度、こちら側に向かってきた。


翼と腕が一体となった、体長15メートル、広げた翼は20メートルを越す大型の竜、ワイバーンだ。


バッ


そいつは急降下し通り抜けざまに総士郎が切り落とした海竜の頭の部分を掴んだ。そのまま総士郎達の目の前を高速で飛び抜けて行く。


「待て!ナートトナ ミ、ラン、ロキ、ルー、ルー、ミエ!」


総士郎はとっさに魔法を放った。


三日月型の刃が緑の巨体を捉えた!そう思った瞬間に三日月型の魔法の刃はかき消えてしまった。


「な?」


そのまま緑の巨体は飛び去っていく。そして、大きく2回羽ばたくと上昇し、そのまま小さくなっていった。


「魔法の射程外に逃げられてしまいました。魔法は術者の体から30から50メートルくらい離れると存在を維持できないんですよ」


構えていた盾を下げ、ササリアが言う。


30から50メートル。なるほど、カニにしろ、水竜にしろ、なぜもっと安全な遠距離から魔法を撃たないのかと思ったらそういう制約があるのか。


「でも、とっさに魔法を撃てるのは戦闘系の魔法使いに向いてるわね」


リナが言う。一応フォローしてくれているようだ。




「ワイバーンか、、、」


海竜の頭部を奪ったワイバーンの飛び去った方を見ながら呟く。


「ワイバーンを狩るのはかなり難しいわ。城壁に設置してあるバリスタでなら撃ち落とせるけど、城壁にはめったに近づいて来ないわね。そのくせ、城壁から離れた場所で農作業なんかしてる人をさらっていったりするのよ」


「首都シェンからの難民が道すがら半分に減ってしまったのは疫病のせいだけでなく、ワイバーンに襲われたからでもあるんです。シェンからテラクタまでの途中にある深緑の丘は別名ワイバーンの丘とも呼ばれるワイバーンの群生地なんです」


なるほど、速い上にある程度の知恵があり、上空に陣取るのでまともに相手ができない感じか。


「しかし、魔法の射程50メートルは短くないか?」


魔法の射程がもっと長ければ、少なくとも総士郎には、それ程の難敵ではないように思えた。


「そうですね。それも攻撃魔法の使い手の少ない一因かもしれません」


「伸ばす研究をした魔法使いもいたらしいけど成果は出なかったみたいね」


総士郎の言葉にササリアとリナが答えた。




「そういえば、二人共攻撃を受け止めた瞬間に光っていたように見えたけど、あれは?」


陸へと戻る道すがら先の戦闘の疑問を二人に向ける。


「あれは「気」、「闘気」です。身体能力を一瞬だけものすごく高めてくれるんです」


「戦士の奥の手ね。使うとかなり疲れるから連発はできないけど、攻撃にも防御にも使える優秀な技よ」


二人の答えに総士郎は少しワクワクする。「魔法」の次は「気」か。それも総士郎は使えたりするんだろうか?


「でも、「気」は3年以上訓練してやっと使えるようになる技術ですね。適性があれば短時間で習得できる魔法よりも習得に時間がかかる技術です。そして、適性も存在します」


そんな気配を察したのかササリアが説明を追加してくれた。


「それに「魔法」の適性が高いと「気」は使えない、なんて言われてるわね。ヨッ」


少し離れた位置に移動していたリナが白い何かを投げた。総士郎はそれを抱えたタライで受け止める。受け止めたそれは大きなアサリに似た二枚貝だった。見た目はアサリに似ているが大きさは総士郎の握りこぶしより大きい。


そして、タライの中はそろそろ満杯になりそうな程の白、黒、赤、茶色など色も形も様々な貝が入っていた。そのどれもがリナの投げた貝程の大きさがある。


海竜がいた場所の近くは危険なため一般人の立ち入りが制限されていた。そのせいで貝がたくさん残っていた。


魚もけっこう落ちていた、が、食べられないことはないが、時間が経ち生臭くなり始めているため貝だけを拾うことになった。


そうしながら歩いていると陸、海畑の端、の斜面までやって来た。斜面を登り最初にリナと合った場所の方に歩いていく。


見覚えのある、場違いな感じの白い椅子が見えた。


その近くにいた兵士にリナは何かを告げる。兵士は壁、城壁の側に置かれた箱まで走っていく。宝箱だ。それも、直方体にかまぼこを乗せたようなゲームなどでよく見る形だ。


そこから何かを取り出すとリナの方に戻っきて、取り出した何かをリナに渡した。


「報奨金と攻撃隊の参加報酬よ」


リナからササリアに1つ、ソウシロウに2つ小さな布の包みが渡される。


「わ、こんなにいいんですか!」


包みを早速解いたササリアが言う。


ササリアを見て、開けても失礼ではないようになので総士郎も布の包みの紐を解いた。


十枚の硬貨、この質感は銀だろうか?が、入っていた。それが2つある。


「今日の戦果を考えればこんなものよ。それに先行投資の意味もあるわ」


総士郎の方に視線を向けながら言う。


「むー」


そんなリナをササリアが変な唸りを上げながら見る。牽制みたいなものだろうか?


「そんなに不満なら、いつも言ってるように、あなたもウチに来ればいいじゃない。私が小隊長にねじ込んであげるわ。そして、早く中隊長になって私を楽させてちょうだい」


リナは少しおどけて言った。


「嬉しい申し出ですけど、私は一生を女神様に捧げると決めていますので辞退させていただきます」


その様子にササリアも笑って返した。


少し漫才のようなやり取りだ。リナも「いつも言ってるように」と言っているので二人の間で何度も交わされたやり取りなのだろう。




城壁の外周に沿って市が出ていた。ここで不要なものと必要なものとを調整するようだ。


適当な店でとりすぎた貝を2つを残して売り払う。カニがあるので大丈夫らしい。


そして、残った貝2つと肉の挟まったケバブのような食べ物2つを物々交換した。


城壁に沿って設置された背もたれのないベンチに並んで座り、いただく。


肉はクジラの塩漬けを焼いたものらしい。しょっぱい肉とトマトの酸味をマヨネーズが上手く取りまとめていて大変美味であった。

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