第8話 カニと戦斧
「どんな感じでしょうか?」
黒い岩の100メートル手前くらいに兵士が立っていた。先に見た門番とまったく同じ装備の兵士にササリアは声を掛けた。
「今日はカニが3匹もいるので少し集まりが悪いですね」
「攻撃隊に私達を加えて貰えますか?」
兵士は総士郎の方を見る。
「えっと、そちらのかたもですか?」
「はい、魔法使いなので武器はないんです。私が引率しますので遠距離の先制隊の方に入れてください」
「わかりました」
兵士は少しの間、困った顔をしたが、結局、ササリアの希望を通すようだ。
「行きましょう」
ササリアに先導されて兵士より先に進む。
そして、その先にはいかにもファンタジーな、冒険者っぽい格好をした人達が集まっていた。
「「風の戦斧」の呪文は覚えましたか?」
「覚えた」
「攻撃隊のリーダーが手を挙げたらすぐに魔法を使ってください。カニには弓も投槍も効果が薄いのですぐに近接部隊が突撃します。その前に魔法を使わないと味方に当たってしまいます」
「混戦になったら確かに使えないな」
「ですから、その前にやっちゃってください。大きい方のハサミを落とせればベストですね」
「大きいハサミ、了解」
「あと、撃ち終わったら下がってくださいね。もし、失敗しても他の人たちもいるので問題ないはずですので」
「終わったら下がる、ね、了解」
「では、行きましょう」
いわゆる冒険者達の集まってる集団の最前列に陣取る。
100メートルほど先に鎮座したカニがよく見える。
黒かと思ったが黒ではなく黒に近い深い緑色。
丸い胴体が幅2メートル、足が左右共に1メートルほど、そして、向かって右、ヤツにとっては左のハサミだけ異常にデカイ。カニの胴と同じくらいの長さだ。
「前進」
攻撃隊のリーダーらしき男の声で前進を始める。
カニは大きくは動かない。が、よく見ると右の小さい方のハサミには種類はよくわからないが魚が挟まれている。それを胴の中央の口に運んで食べてる最中のようだ。
攻撃隊は普通に歩く半分ほどの速度で前進し約30メートルの距離まで迫る。
サッ
リーダーが手を上げた。
「ナートトナ ミ、ラン、ロキ、ルー、ルー、ミエ」
シパッ
総士郎が呪文を唱えると三日月型の刃が右手の先から飛んだ。1メートル程の刃はカニの中央からやや左側、巨大カニのハサミの根本に命中した。
ボトッ
カニの大きいハサミが地に落ちた。ササリアに言われたベストの結果だ。
「すごいです!」
ササリアが喜びの声を上げた。
しかし、周りの冒険者たちはあ然としてこちらを見ていた。
「ミエ級の攻撃魔法、、、」
誰かが呟きが聞こえた。その時、
キシャーッ
カニが叫んだ!?
巨大なカニはハサミの落とされた腕と小さい方のハサミを振り上げている。
怒っているのか、威嚇しているのか、その両方か。日本では鳴き声など聞いたこともないカニが大声を上げている。
とにかくこちら側を敵認定したようだ。
「来ます。下がってください」
ササリアはバックラーを構える。
カニがその巨体で突っ込んでくる。けっこう速い。
「行きます!ハー!!」
ガスンッ
止めた。ササリアは突っ込んできた巨大カニの体当たりをバックラーで受け止めた。受け止めた瞬間、ササリアの体が僅かに発光したように見えた。
「もっと下がってください」
カニの体当たりを受け止めたがその勢いに1メートルほど後退させられたササリアが言う。
「ハーッ!ハッ!」
今度はメイスを振るう。
ガスッ
メイスがカニの足の一本を叩き折った。
「怯むな!かかれー!」
攻撃隊のリーダーだろうか?大きな声が響くと周りの冒険者達は我に返り、巨大カニに一斉に飛びかかった。
怯んだのはカニにじゃなくて、総士郎の使った魔法に対してだったような気もするが、とにかく乱戦が始まる。
総士郎はササリアに言われたように後ろに下がり、20メートルほど離れた位置でその様子を見守る。
盾を構えた冒険者がカニの動きを封じる。そこに両手剣や戦斧の者が斬りかかる。最初の体当たり以降、巨大ガニはほとんど何もできずに四方八方からタコ殴りにされていた。
最後はその背の上にも冒険者に取りつかれ最上段からの打ち下ろしを一方的に受けている。
そして、カニはついに力尽きたのか動かなくなり、その胴体を地につけた。
「やりました!カニですー。」
30分程続いた一方的な戦闘を眺めていた総士郎の元に、総士郎が落とした大きなハサミ、2メートル程を肩に担いだササリアがやってきた。
「ソウシロウさんが始めにハサミを落としてくれたので楽に狩れましたー」
先程の戦いぶりといい、朝からササリアの評価が変な方向へと急速に移動していってる気がする。
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