愚弟と愚母に振り回される姉の悩み・後編

でぇ。

破れないように、ミニのタイトスカートをおもっきし腰の辺までまくり上げてTAPPSに乗り込んだら、降りる時にめっちゃ恥ずかしい姿になるのは分かり切ってた話なわけでぇ。

「だからジーナが焦り過ぎなのよ!せめてビジネスパンツに履き替えさせてから乗せてよ!」

「だから黄さんごめんって!あたしもウロ来ててそこまで頭回れへんかってんから!」ええ、港広域署の皆さんが呆れてますから、この辺で何とか勘弁してください。ジャケットにブラウスにミニスカで足元ピンヒール、しかも脚なっがいわチチはでけぇわの上級広東系中国人あるあるなお人と、ショートカットパツキン青目の見た目ガイジンでピチピチテカテカのツナギ姿。こんなのが二人でぎゃあぎゃあ言い合いしてたら目を引かない訳がないんだから、周り見て空気読んでください黄さん。


なお、ジーナさんがテカテカスーツなのは、このTAPPSは戦闘兵器運用してませんよーというアピールのためにですね、軍用装備兵器ショーでコンパニオンさんが着たりするようなデモンストレーション用スーツを入手していたからで、本来の作戦行動でしかるべき人がTAPPSに乗り込む場合、所属や運用場所に合った艶消し迷彩の専用パイロットスーツを着ますので、誤解がないようにお願いいたします。


で、とりあえず「親族の高木ジーナさん」だと接見禁止状態なのは百も承知ということで、NBの身分証で「Geena Henry Wordsworth」名義のを見せて、連邦司法局のお役人様のお付きの軍人さんですよーという感じで取り調べ室の隣のマジックミラーご、いやマジックミラーのお部屋に2名様ご案内となりました。

「マル対ですが、とりあえず黙秘を続けておりまして…。110番通報された方に捜査員が聞いた状況では、通報直前まで言い争う大きな声がした、何かを割るような音がして静かになったと」

「とりあえず国選(弁護士)つけるか、今うちの旦那が弁護士呼んでるはずなんで、着き次第接見させてもろて聞き出すっきゃないですかねぇ。あたしも隊内の問題行動を取り締まった経験あるんで、多少はこういう時の心得もあるんですけど、今のあたしが入っていったら大問題ですよねぇ」

「あら、ジーナ・ワーズワースさんなら別に構わないんじゃない?私が調べるのに同行してくれたらいいわよ?」

「あーでも口より先に手ぇ出そうっすわ。やっぱ、こういう時に頼れそうな人呼びますわ」で、念話発動。

(クレーゼさん、こっちの状況把握できた?)

(はい、お義姉様。要は弟様に何をしたか喋らせればよろしいのですよね?)

(いえーすいえーすいえーす。今あたしのおるとこに飛んでこれる?)

(あの…そちらの警務騎士様があたくしを見ても大丈夫でしょうか?)

(認識阻害呪入れたら問題なーい。後で記憶飛ばせば更に問題なーい)

(仕方ありませんわね、参りますわ)うん、もうこうなったら使えるものは何でも使うぞ。

「あ、刑事さん、ちょっと変な人来ますけど不問でお願いしますね」あたしが言うなり、がばっと部屋の一方の壁が矩形に光って、痴女が召喚されて来ました。

「な、ななななな何ですかこの方は」隣に聞こえるからしー。防音にはなってると思うけどしー。あんたらの方が大声出すのたしなめる立場でしょうが。

「連邦の国賓です。服装は不問で」

「あたしの義理の妹です」

「はい、警務騎士様、いきなりお邪魔して申し訳ございません。義姉より紹介に預かりましたクレーゼ・ワーズワースと申します」

「け、警務騎士?」

「まぁまぁ、ちょっとこの人、こう言う黙秘してる人間の口を割らせるプロですんで、ちょっと力を貸してもらおうかと。クレーゼさん、時間惜しいからやってもうて」

「承知」

言うなり、クレーゼさんの周囲の気温がぶわっと上がります。

そして、クレーゼさんが上げた手に操られるようにして、身長170cmくらいのデブ…いやもとい親父似のふとましい男が、それまでうつむいてふてくされていた態度を改めてボソボソしゃべり出しました。


…だから貴洋、操られてるとはいえ、もうちょっとまっすぐ姿勢正しくハキハキとやな。


そして、向こうの部屋を撮ってるカメラのマイクから流れてきた供述の内容を要約しますと…やはり予想通りというか…。いきなり跳ね上がった固定資産税の通知が来る少し前、貴洋が付き合っていた女から金の無心をされて、母親の会社の口座の金を流用したと。そしてその金額が結構洒落にならん理由が…ですねっ。

「あのどアホ、五年前の時に懲りてなかったんかいな…」

「ねぇジーナ…彼、本当に女性を見る目、あるの?」

「お恥ずかしい…あったら、今こんなんなってないと思いますわ」

「黄法務官、失礼ですが…マル対対象…いや、マル被被疑者の過去に何かあったんですか?」

「ええ。記録は残ってると思いますが、高校時代に同級生や先輩によって恐喝されていたんですの。その時の彼はほぼ完全な被害者ということで、恐喝犯は全て大阪府警の署員の手で身柄確保、こちらの港警察署に送致したとの報告を受けております」うん。そん時はあたしとクリスと黄さんと、NBの特務班員のコワモテ数名で校長室に殴り込んで生徒全員体育館に集めさせて人質に取って一時的に学校をNBが占領したと宣言、臨時の軍事法廷を開くフリをしたんですよ。

で、何も喋らない場合は死刑だって脅した恐喝側の生徒が美人局つつもたせやりましたとゲロらせた上で執行猶予にして一瞬安心させてから、黄さんの連絡で駆けつけた府警の警官数名に即引き渡したなんてことがありました。


ええ、その時の黄さんもクリスもNB軍人の皆様もノリノリでしたし…。


そして、親の代わりに貴洋の保護者代行で学校に何度か足を運んだ際にあたしと会って面識があった担任の先生が学年主任になっていて、アドリブで犯人生徒の弁護人を買って出てくれて逆に自白させるのに協力するわ、挙句往生際の悪い生徒にが携帯の通話記録や音声データを突きつけただの、更に時間遡行して悪だくみの真っ最中の映像撮って来て体育館で即興上映会と洒落込んだ時の連中の顔はもう語り草でしたわ。


「しかし、今回のマル被の女性関係の話を聞いていますと、どうも交際相手に騙されたというより、むしろ騙した方と言いますか…」

「そりゃ結婚エサに釣ってたのにいざ妊娠させてさぁ入籍しよか言う時に、いくら会社の経営が急転直下したから言うてですね、婚約破棄を匂わせるとか認知でけへん言い出したらそりゃ、女なら誰でも切れますわ。あたしが一応身内やなかったら、今すぐ中入ってぶん殴ってますよアレ」

ええ、女関係でやらかしてるらしいのは、親父の会社から転籍した事務員からそれっぽい情報提供を幾度となく聞いておりましてね。だが本人の口から本音だだ漏れで聞かされると怒り格別ですねぇ、やっぱり。

「まぁまぁ高木さん抑えて抑えて。で、会社のお金を使い込んだのがバレて、えー、マル被の実母のアレサンドラさんですか、高木さんのお母様でもある方ですね。そのアレサンドラさんと口論になってマル害被害者の頭部を花瓶で殴ったと」

「あとは供述の通りか、物証での判断ですね。日本国では尊属傷害や殺人の際の量刑は重加算されますの?」

「いや、重加算はとっくに廃止しております。あとは…ちょっと失礼します。おい大滝、マル害の容態連絡入ってるか?誰か病院に同行してるんやろ?」

「はい、西田が同行してます。ちょっと聞いてみますわ…えー、只今手術中だそうです」

「事件発生からどれくらい経過してるかな…」

要はおかん…不肖の悪母とは申せど一応は我が実母が死ぬか生きるか、後遺症が残るかの境目ですね。

「お義姉様。お義母様をお助けいたします? それとも…」

クレーゼさんが何を言いたいかは分かります。


…彼女、以前にあたしとアレサンドラさんの記憶を読んでるんですよ。


ですから、何があったのかとか、母娘間の確執の詳細を知っております。


「もしお助けするなら、躊躇する余裕…あまりございませんわよ。恐らく、このままですとお義母様…お亡くなりになりますわ」

「そ、そんな事が分かるんでっか?」

そりゃ刑事さんもいきなり現れた痴女がいきなり色々やり出すわ、唐突にこんなん言い出したらビビりますわな。

「ジーナお義姉様の肉親の方だから見えやすいのですわ。騎士様を先ほどから驚かせてばかりで申し訳ございませんが、お義姉様。よろしうございますわね?」

有無を言わさぬ口調で言うなり、クレーゼさんの手が動きます。


で、さっき出て来た時の要領で右手で円を作り、壁に「穴」を開けます。


途端、手術室の内部に菌付着を防ぐためなのでしょう…向こうの室内を吹き荒れる冷気が吹き込んできます。うわ、やっぱり滅菌手術室ですね…。


で、間髪を入れずにクレーゼさん、何事かと狼狽する手術着姿の中の人々の意識を一瞬だけ奪います。そして返す手で穴の手前から、手術台に寝てる患者の頭部に向けて手をかざすと…ああ、何をやってくれているかは解ります。脳細胞などを修復しているのでしょう。


そして、ものの2〜3秒でお仕事を終えたクレーゼさん、パンと手を叩いてオペ室の中の人々の意識を戻すと同時に即座に穴を閉じました。

うん、刑事さん、驚かないで。魔法にしか見えないけど、現代科学で説明つく事やってはるから。

要はクレーゼさん、スティックスドライブ・レベル3の要領で手術室の壁から1cmくらい手前の空間に穴状の接続部を生成してから患者以外の意識を操作、そしてお母んの損傷脳細胞を健常なものに入れ替えて、ついでに切開したところを繋ぎ直して止血して、空間接続を解除しただけですから。

「あとは容態回復待ちですわね。記憶喪失の場合、別の施しをすれば大丈夫ですわよ」

「は、はあ…」

「今させて頂きました事、くれぐれもご内密にお願いいたします。あと、わたくしでも流石に完全にお亡くなりになった方はどうしようもございません。この点もご承知置き下さいませ」

(ほんとーはできなくもないのでーすーがーやるとーご先祖様家族会審議で墓所出頭命令ものなのですよ…あたくしがぜってー行きたくないあの墓所に!…あと、精気をあほみたいに消費しますわね…)

「相変わらず、理屈知ってない人には魔法にしか見えん光景よねぇ」

「あとお義姉様。これを致しますと、お義姉様と同様にお義母様の身にもご負担となります。寿命が少々縮まります事は後でお伝え頂ければ」

で、この寿命が縮まる件って若返りしたり女官種になった際の寿命短縮と同じ理屈らしいのです。

そうです。施術対象の細胞の自己修復力を最大限に引き上げていますので、施術対象にめちゃくちゃ負担がかかるそうなのですよ。

ですから、あたしの若返りの時に全く同じことを行ってもらっていますので、延命処理を定期的にしておく必要があります。具体的には女官種同様の精気授受…つまり…まーその…のくたっとかむーんらいとっとかみっどないとっていう擬音が入りそうな行為を女官種とですね…。

「あー、かめへんかめへん。あのお母んに下手に説明したら話こじれるだけやで。手術する前に意識戻ったとか傷塞がってたとか適当につじつま合わせといたらええねん。寿命も少々縮んでもどうちゅう事あらへんあらへん。死ねへんかっただけめっけもんやて」

「ひどい扱いねぇ」

「いえいえ黄さん、ほんまに鬼娘でしたら放置してオペ失敗させてますて。本人の意識が回復してから色々喋ってもろた方が警察の方もはかどるでしょ?いろいろ」

「しかしお義姉様…弟様の過去の行状を覗かせて頂きましたが、本当にお義姉様の弟様ですの?あの方…」


ええ、父親は違いますが、出て来た穴は同じです。認めたくないものですが。


「あの…クレーゼさん、ですか、覗くとはいったい…」さっきから未知の現象が立て続けに起きた事で自我崩壊しかけている人がいたのを忘れていました。

「ああ、わたくし、人の考えていることや過去の記憶を拝見させて頂く事ができますの。例えば…なぜこの女性の首から下は霧がかかったようになってはっきりと見えないのだろうか、俺の目がおかしくなったのかなど」あー、やっぱり見てたのね。うん、刑事さんも男だからね、ちかたないね。

「まぁ仕方ありませんわ。うちの義妹、あまり詳細を明らかにすると色々なところから怒られますんで、納得いくご説明ができないのが本っ当に申し訳ないんですが、元々この地球の人間じゃないって事ですみません」

「ええ、何せ今のような事をいとも簡単にされるので、その行状の第三者流布を含めて法務局の保護対象ですの、彼女」

と、黄さんがメディアウォッチから出した身分証表示を改めて見せています。

要はこれ以上聞くと、あんたの遥か上の…府警の刑事部長どころか法務大臣から怒られるから警官の本能を発揮すんなよと牽制している訳です。

「まー、あんなの間近で見たら一見さんは誰でも驚くわなー、黄さんかてアイヤーしてたやん」

「失礼な。もう慣れました!」

「…あ、高木…さん。病院に詰めていた者から連絡がありまして、失礼、少しばかり電話応対させて頂きます。…はい。おお、容態が回復したと。麻酔からまだ覚めてないけど、回復室に移されたと。わかったありがとう。また進展あったら教えてくれ。あと、長丁場な場合は交代行かすからもう少し張り付いといてくれや。おうほな…いやすみません、お聞きの通り、手術が無事に終了して回復室に入られたそうですわ。回復室に入ったんならこれで一安心ですな」

「高木さんで構いませんよ。まぁ、正直なところ、これを知った人なら誰でも彼でも病気治せケガ治せ言うと思いますので、くれぐれも内密に頂いきたいんですわ」

で、ここでクレーゼさんと二人で刑事さんの手を取って懇願させて頂きます。

女の武器ってやつですね。ほほほ。

「いやいや、今みたいな事が起きたと話したとして、あっさり信じるような人はそうおりませんやろ。まぁ、目の前で見して頂いてたら、いくら私らが人を疑うのが商売や言うたかて、流石に信じますけどな。特に、私のとこで扱うような事件は信じられん事が起きてる時かて、ままありますさかいに」

「で、とりあえずアレどないしますん。流れから言うたら、流石に親どついて病院送りにしとるから、そちらかて、最低でも傷害で起訴せなあかんとこでしょ」と、あたしは隣の部屋の貴洋を指します。

そして「最低でも」の所に力を込めて発音しておきましょう。なるべくなら殺人未遂扱いは避けたいものです。ご近所様からの風評被害もありますし。

「え、ええ。まぁ…いくらマル害…お母様が治りはってたとしても、こちらも本人がやりました言うタレ取ってますからなぁ」どうでもいいけどこの人、桜田興業用語を部外者にバンバン言う癖ありまくりですねぇ。一応言うときますと、マル害は被害者でマル被は被疑者でマル対は対象者、んでタレは供述の事です。

「で、一応確認しときたいんですけどね。被害者が申し出たら起訴取り下げになりますのん?これ」

「そうですねー、ちょっと前例がない話になりそうですけど、アレサンドラさんの頭に外傷が残ってなくて後遺症も確認できないなら軽傷扱いにせざるを得ませんなぁ。あとは裁判でどない判断されるかなんで、私らはとりあえずマル害に殺意があったかどうか聞いた調書上げざるを得ませんわ」

「黄さんどないしよ。まぁ、そら警察や検察の人らは殺人未遂の方が手柄になってよろしいやろし、あたしもあのアホに反省さすエエ機会やから、拘留期間を限界まで延長して預かってもろても構いまへんでーと言いたいところですけどねぇ」

で、正直ですね、このまま拘留期間目一杯プラス拘置所送りプラス裁判コースに弟を乗せますと、私共もいろいろな出費が嵩むから殺人未遂扱いは避けたいところです。

そう、ただでもこの後、母親の会社を立て直す必要性があるのがわかっておりますから。実の弟ではありますけど、貴洋を助けんのにいらん金使いたない。これがあたしの本音でございます。

「何なら法務局で身柄預かっても構わないわよ。あの領事館に関わる話で事件起こしてるんでしょ?だったらN事案NBに絡む話扱いの事件として介入は可能…だけど…」

「ほれほれ、警察さんの面子もありますやん。とりあえずアレの調書上げてもろて、ある程度の捜査のお仕事して頂いた実績作ってから管轄移管した方が、刑事さんも有難いん違いますの」

えー…わたくしですね、実はこれに近いような処理ですね、例えば嘉手納基地の外で問題起こして捕まった奴の処置を巡って日本の警察とは色々やって来たことがございます。

正直なところ、あまりやりたくないし起きて欲しくないこの手の仕事の場数、結構踏んでたりするんですよね…。

「あとは刑事さんらが、司法局にトンビに油揚げさらわれたと遺恨を残すような事がないように花持たしたげたら、ねぇ?」そうです、警察さんの上には検察屋さんがいらっしゃいます。そして、それなりな事件ならそれなりに扱って検察に渡さないとですね、警察屋さん…怒られるんですよね…。

ただ、宇宙軍兵士や宙兵隊員が絡みますと話は全力で180度反転いたします。

今度は警察や検察に入って来られると、宙兵隊警務局や宇宙軍警備局と揉めます。更に連邦法務局が上位互換処理組織として出てくる場合もあります。

ただ、そこで揉めた場合は連邦側の担当者の性格が悪かったり虫の居所が悪いと連邦法上位互換条約締結国の場合、連邦UGH側のゴリ押しが有効になります。そして…連邦側と地元警察の間の確執の元になりまして、後々しょうもない事でギスギスした仲になるんですよ…。

ですので、沖縄ではあたしも苦労しましたが、落としどころが難しいのです…あんまりキツい…つまり、重罪となる事件扱いにアップグレードされてしまいますと、上官の監督責任ガーとかいう話になりましてね。ほほほほほ…。


「あとは…あー…けけけけ刑事さん!ちょっとアレに聞いて欲しい事あるんですわ…パンツとシャツのサイズと今の腹回り何センチか!」そうです、思い出しました。これ…必要になるんですよねぇ。

「はぁーはぁー、なるほど。それでしたら署の収監者用の預かりに幾らか入れて行かれます?」

「あー、そっか、それが出来るか。まぁ本当はものっすごくやりたくないんですけど、家からあいつの肌着とか何着か漁って差し入れさしてもろたらええんですけどね」

「ちょっと待って下さいね。マル被は時計していたと思いますので…おーい、悪いけどちょっとマル被に聞いてくれ。今なんぼ持ってるか」と、業務用メディアウォッチを使って取調室の中の方に聞いて頂いてます。

「あのお義姉様…今一体何をお話ですの?」と、あたしと刑事さんの話に興味を持ったクレーゼさんがご質問なさいます。

「えーとですね。つまりこのままやと、貴洋はここの留置所…そっちでいう警務の牢屋に入れられます。そして貴重品とか時計とか身の回りのものは一切合切を警察で預かる事になりますので、本人が着てる最低限の服だけになるわけですわ。んで、明日以降も取り調べが続くから、着替えとか日用品が必要になるわけですね」

「そのままで過ごさせておけばよろしいのに」

「いやいや、そういう訳にもいかんのよ。で、他にも歯磨きとか歯ブラシとかタオルとか、とりあえず身の周りのものを自分の金で買うか、私らが差し入れしたる必要があるわけよ。あと刑が決まってない間だけやけど、警察のごはんがまずい言う贅沢もんはですな、自分の金で出前とか弁当を代わりに買う事ができます。これはあたし、やらす気ないけどな」

ええ、ちょっとご飯まずいくらい我慢せぇ。それか飯や菓子はおのれの金で買えと。

「そして我々は金貨やお札といった現金そのものを毎日の暮らしで使わなくなって久しいので、大抵の人は財布の代わりになるこの時計を持ってますが、貴洋はこれから牢屋に入るから身の周りのもんは服以外ぜーんぶ取り上げられます。で、警察の人が牢屋にぶち込む奴に貸すおさいふの代わりの腕輪があるから、罪人自身の持ってる金や、罪人の親兄弟親類から差し入れられたお金をなんぼか移し替えて、牢屋に入ってる間にこまごましたものを買うおこづかいとして入れとく方法もあるわけよ」

「なるほど。でじたるまねーとかいうものですわね」

(そうそう。聖環にも確かその機能あったんとちゃうん)

(あるにはありますけど、あれ…両替処や出納処や下足処の扱いなんですわよねぇ、門前町に行く際にはまだまだ現金必須ですわね)そうそう、この聖環というものにデジタルマネー機能があるとか有効化される話も追って出てくると思いますよ。

「そそ、で、うちらは罪人の罪が決まるまでは奴隷として使われへんのよ。あと、自分の家でも、今の時点では勝手に入られんわけですわ」

「もしかして、罪の証拠をお義姉様が掃除して消すとかを疑われてますの?」

「うん。警察屋さんはあたしに限らずこうやねん。で、まぁ…これはあたしが弟の部屋に入りたくないのもあるんよ。何が出てくるかわからんから。ナニが」

そうです。考えてみてください…我が弟ではありますがね、もてない系の貴洋がですね、性癖こじらしてない訳がないだろうよと!ええ、変な趣味が推し量れるナニかを見たくない思いと、なるべく奴のためにいらん金を使いたくない節約精神が今、あたしの中でクリティカルなドッグファイトを繰り広げております。

「しかし高木さん、拘留者についてやけに慣れておられますが…」

「あー、あたしね、ちょっと前まで宙兵隊嘉手納基地で教官してましてん。で、言いたくないんですけど月イチくらいでですね、ニュースにならん程度の事をやらかす奴が出ましてですね。まぁ宙兵隊なんで自分の国を離れてるのんばっかしですから、その間の保護人代わりを隊でしますんで、詳しくなりたくないんですが手際がよくなりましてねぇ」

「あーなるほど、それで…ええ、直接のうちの署の所轄とちゃいますけど、大阪港に海上さんのお船が入りはって、乗り組んでる方が何かした時にはそういう対応をされますからわかりますわ」あ、そうか…海上自衛軍でも新入りの独身者は船に住民票置かせるな…。


後ですね、くだんのその嘉手納基地の教官ですけどね、何期かの候補生卒業記念の二次会席上で、例の店で調子こいて真っ裸一歩手前で踊ってたらですね…たまたま悪い事に警察屋さんがお客にいたらしいんですよ。

そしてですね…後で基地の警務にですね「時期が時期なのである程度は目をつぶるが、頼むから即検挙になる過激な事だけはやめてください、ただでさえ例の卒業の儀式とやらで小麦粉まみれになるバカを取り締まるので大変なんですから…」と苦情が入った前科持ちなのですがね、まぁバレなきゃいいんですバレなきゃ。

ちなみにあたし自身はお酒が入ってたのもあって、そのやらかした時は「ええやんちょっとくらい」と思ってました。

何をしておりましたかと申しますとですね…トップレスで穴開きTバック姿で大阪の店で働いてた経験者に習ったフラワーゲームはなでんしゃを披露しまして、隊内の成績優秀者に花電車のその紐を引かせたりですね、成績滑り込み寸前ブービーの奴に透明下敷き持たせて「吹き矢」を披露させて頂いたくらいです。昔々、桜川に存在した某銀色のビルでは毎晩毎晩の日常光景だったそうですが。

ええ、あたくしとしては隊員を舞台に上げて本番白黒ショーまでする気はありませんでした。ですのであたし的には別にこのくらいで…と思うのですが、他の人に話すと怒られます。そして人によっては汚物を見る目で見られます…売春よりマシだと思うんですがあっ!

(わたくしも歓待の宴席で酔って大概な事をした覚えがございますが…お義姉様には負けますわね…)

(あー。うちと張り合おうとせんといてね。よその国の偉いさん相手に無茶されたらクレーゼさんが良くてもですね、後々あたしとかマリアの苦労のタネなりますねんで…)

(はい…気をつけさせて頂きます…)…やってたんすか。

「あとですね司法官、マル被の話にありました交際女性ですね、とりあえず参考人招致はしておきますわ。あれも、事によったら別件の横領示唆いう話で引けるか分かりませんし、ガラ押さえといてよろしいですな?」

「早めにした方が良さそうね。話が本当なら今は仕事…ニシナカジマでしたっけ?」

「ああ、それは大丈夫です。今別班向かわせてますわ。もし妊娠が本当なら自宅にいるかも知れませんしね。ま、頭回る子やったら自宅で安静にしとるでしょ」

「もし対象が令状云々を言いだしたら私に連絡下さい。司法局介入事件として参考人招致指示を出しますわ」

「ありがとうございます。簡裁組と連絡取らせながら進めてますが、万一間に合わん場合、その手を使わせて頂きますわ」

(お義姉様お義姉様、あとは弟様に殺意があったか…ですか。それと、この事件がどのようになろうと弟様とお母様の破綻は免れないかと。先程心境を覗きましたところ、あー俺は終わりやもうおしまいやとしか頭にないようで…今はわたくしが大人しくさせておりますが、下手すると自害しかねませんわよ)

(やっぱりか…あの男はほんまにケ◯の穴が狭いから…とりあえずカッとなって後先考えんとやったと言い張らしといて。マザコンの証言はこっちが言うとくから)

(ジーナが直接言わないの?)

(あのアホがうちの言うことまともに取り合うとったら、今こんな苦労してまへんわ。とりあえず義妹の口八丁で態度軟化してくれたらよしで行きましょ)

「あ、刑事さん。あいつなんぼ持ってました?」

「とりあえず日本円で10万くらいですね。後で晩飯と服の話しときますわ」

「ほな、すみませんけど私から1万ばかり入れさして貰えますか? とりあえず今日の晩飯は自腹やろから何か買うてもらって無理やりにでも腹に流し込んどけ、んで弁護士呼んでるから面会に来たら今後何したらええかいう話聞いとくのと、渡した金で下着とか買うとけと言うといてもろたら、あたしが来たのは理解しよりますやろ」

「何だかんだで世話焼かれますなぁ。いや、ほんまにこんなん言うたらアレですけど、マル被には私らからも言うときますわ。お姉さんにこれ以上苦労かけさしなやと…おーい、マル被に渡す財布ワッパ持って来てくれ!」で、あたしの時計ペイウォッチから警察の端末に入金して、被疑者用のバンドに移して受領証を発行してもらいっと。

「うちの父には連絡入れてはります?」

「いや、なんか入院中言うことでしたんで、ウチからはちょっとストップかけてますねん。もし何やったらお姉さんの方からお伝え頂きたいのと、ご容態に差し支えなければ明日にでも警官が伺いますので面会の時間をとってもらえればと」ああ、これ塞翁が馬事案やわ。これ、親父が入院してなくていきなり警察から連絡行ってたらマジ卒倒してるわ…。ええ、うちの父が入院してくれてて、この場合は正解ですね。


…で、とりあえず警察署の食堂でコーヒー頼みながら「あっ手ぇ滑って勝手になんか注文してもうたんで、もったいないから飲んでください」などやったり、公務員が公務員に奢っても贈収賄になるんやろかとかしながら諸々の段取りをつけてるうちに、うちの顧問弁護士も到着したので、とりあえず今後の連絡先をクレーゼさん以外の関係者で交換し合います。

で、、母親のところには黄さんが向かってもらい、あたしとクレーゼさんがTAPPSで父親の病院に行く事にしました。ちょうど母の病院に詰めている刑事さんが交代するのでパトカーで送ってもらえる話になり、また股を開いて跨がるのかと、TAPPSに乗るのを嫌そうにしていた黄さんもこれで一安心です。

「じゃ、また何かありましたら港署までお願い致しますわ。私…熊本がいない時は代わりに出た者に高木さんの名前出して言うて頂いたら話が通じるようにしときますので」

「いえいえ、こちらこそ色々お騒がせ致しまして。ではまた進捗ありましたらよろしくお願いいたしますぅ」お辞儀をしてから、野戦乗降用の収納式ステアを伝ってTAPPSに収まったあたしとクレーゼさんは警察横の駐車場を離れます。


なお、いきなり空から舞い降りてここに停めたときですがね。実は…バックパック左右のラックにTAPPS用の携行兵器としてレールガンと大口径赤外線レーザーライフル、更に4連装小型SAM発射筒つけたままでした。これで陸上自衛軍迷彩とか宙兵隊の通常野戦迷彩色だったら絶対に囲まれるかSAT呼ばれてたと思います。ははははは…。

流石にTAPPSの色と、大阪府警本部経由で入った緊急作戦行動通知のおかげですわ殴り込みかと思われる事はありませんでしたが、この状態で兵装内容を調べられたらちょっと困った事になってたかも知れません。

ええ、殺傷能力のある武装の上にですね、搭載SAMが短距離可変速高機動ミサイルのVVHM-03レイピアなのは良いとしてですね、弾頭種別P1、つまりゼロGゼロ気圧絶対零度のトリプルゼロ環境対応の小型熱核反応弾頭だったのがバレたらまた騒ぎになってたワケで…。ちなみに日本の非核三原則、連邦加盟の際の上位互換条約締結で実質的に無効になっております。加盟国は固有軍事力を削減するか、GDPや人口に応じた兵力または武装提供を求められますけど、その際に宇宙軍や宙兵隊が宇宙空間で使用する核弾頭をなにがしかの起爆装置として使用する武装を保有せざるを得なくなりますので。


で、病院に向けて飛ぶTAPPSの機内でクレーゼさんから提案を受けます。

(お義姉様。弟様の今後について、あたくし一つ提案させて頂きたい事がございます)

(どんなご提案でっしゃろ)

(弟様、聖院で預かる訳に参りませんこと?何でしたら弟様のお付き合いしてる性悪女とやらですとか、お母様もまとめて更生させます事よ?)

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