愚弟と愚母に振り回される姉の悩み・中編
「攻撃兵装を持たない戦闘機、ですか」
「我々も存在を知った時は頭を捻ったものだ。なぜ連邦の開発者はそのようなものに巨額の開発予算を投じたのか」
「ですよねー」単なる実験機としても費用かけすぎや。しかも世のオモチャ好き実験好きな野郎共ならいざ知らず、あたしは一応生物学的に人間のメスなので、男の浪費の臭いがする話にはネガティブ方向で生理的に反応してまう訳で。
「その前に、かつて英国に存在した、ある人物の名前について尋ねよう。アレイスター・クロウリーという名に心当たりはあるかね」
「ありません」きっぱり。
「19世紀末から1940年代にかけて活躍…といって良いものかは分からないが、彼はある種の人々には今なお畏敬の念で見られていてね、魔術や占術の研究で名を馳せたのだよ。彼は…黒魔術師とされているんだ」
「ま、ままま魔術師ですか。はあ」
「いや、君が呆れるのも無理はない。私だって、そうした方面への予備知識がなければ唖然としていたよ。だが、彼の業績は残っていてね」ワーズワース卿はそう言って、机の上にあったものを手に取られました。
ちな言い忘れてました!このワーズワース卿との会話、初めて黒船ってきた時から少し経過して、婚約式と称するウェディングドレスを着て教会に参列した集いの前の日くらいの時分のお話ですよ。
で、ワーズワース卿が見せたのはトランプめいたカードです。
そして、慣れた手つきで3セットのカードの束の上の方からそれぞれ1枚ずつ抜き出し、あたしの方を向けて机上に広げてくれます。
うん知ってる、これタロットカードだ。
「これはタロットカードといって、占いに使うものだが…ご存知のようだからかいつまんで説明しよう。まず、この古めかしい図柄がマルセイユ版と言われるものだ。そして君から見て左側がライダー版、あるいはウェイト版といって、1900年代初頭に英国本国で作られたものだ」
「で、この中央のは…」真ん中のカードだけがヨーロッパ風ではなくエジプト風の絵柄です。そしてオレンジを基調に青が使われた気色悪い色遣いになっている。
「この3枚は全て同じ、第二十番として描かれたものだが、違いがある。両脇2枚はThe Gadgementとあるだろう」
「はい、で、中央…The Aeon…あ!」
「うむ。連邦でのクロスの機種記号はM-IKLA20。機体名称はAEONだ。偶然の一致にしては出来過ぎていると思わないかね?」
「怖いくらい一致してますねー。で、真ん中のカードの絵を描いたのが…」
「そう、件のクロウリーだ。彼のような人物の名は甚だしく普遍的ではないだけに、魔術に傾倒したか、はたまた英国に所縁のある人物がエオン開発の主導を握っていた可能性すら考えられるだろう」
「ちょっとクロウリーという人の経歴、見させて頂いてよろしいですか?…うわ、何やこのおっさん」天の声は◯ー系の人物とゆえと言うてはりますが、ようわかります。写真見ただけで怪しさ全開です。ハリ◯タの悪役にしても濃すぎです。
「全くもって山師のような人物だが、私だって大学時代に本国の昔の文化風俗に関する論文を書かなければ、知らずに過ごしていただろう。このカードは、論文執筆にあたり資料として入手したが、かなり高くついてね。学生の時分から浪費は好ましくないと、クリスの祖父にあたる人物にはかなり叱られたよ」
ワーズワース卿はサラッと言っておりますが、これ、卿の大学時代でも充分に古典美術品扱いだったんじゃないでしょうか。やっぱ、ええとこのボンは違うわなーと、お金に困った事も一度や二度じゃないあたしとしては裏山でございます。
「さて、話をカードの名称に戻そう。何でも両脇の二十番では審判を意味するそうだが、真ん中はクロウリーが改変し、永遠や永劫という意味を持たせたという。私が聞いても、果たして同じカードとすべきかという位に意味合いが違う単語だね」
「ですよねー」
「加えてMIDIの母艦となっているア・バオ・ア・クウだ。これはスペインの研究者が、アラビアを経由してインドで収集した神話あるいは民話から取られていると聞かされたが、とある塔の下に住む不定形の生き物は行者が登って来るのを待ち構えており、行者とともに登頂する事に成功したならば、共に涅槃の境地に達するとされる」
「なんか、わかったようなわからないような」だが生き物については想像できました。いわゆる、スライムそのものではないでしょうか。
「実は、このア・バオ・ア・クゥを当時の西洋世界に紹介したのは我が祖国のリチャード・フランシス・バートンという人物でね。彼がアラビアン・ナイトを英訳した際に注釈で、このような架空の生物の存在に触れたのだよ。バートン卿が何を思ってこれを伝えたかは不明だが、これまた、そうそう簡単に思いつく名前でもないだろうね」
「つまり、ワーズワース卿は、MIDIやエオンが…本当はNBのために作られたとさえと考えておいでなんですか?」
「我々にそこまでの影響力はないよ。だが、少なくとも連邦を利すと見せかけて、何かを為そうとした可能性は高いと私は思っている」卿の推測が当たっていたら、これ汚職にしてもスケールでかすぎやん。めっちゃ背任やん。MIDIの推定開発費を教えてもらったけど、国家予算のレベルすら超えてたがな。
「そしてMIDIの略語だが、確かドイツ語だったか。複合領域航空戦闘機の意味だそうだ。もしかするとMIDIは元来、侵攻兵器ではなく防衛用として作られたのかも知れない。更にM-IKLAに至っては、ロシア語で自立型航空宇宙戦闘機を示すという。いくらNB独立後の連邦が各国に兵器開発を分担させたとしても、一致性に欠けすぎると言わざるを得ない。私はあくまで政治家で職業軍人ではないが、こんな非効率な開発分担は…KAIZENすべきじゃないかという感慨に至るしかないと思うが、ジーナ君はどうかね」はぁ、カイゼンですか。
「正直わかりません。ですが、何かをくらましたいから、こんなややこしい事してる予感はしますね」
「実は悩んでいるのはクロス自身でもある。MIDIは自立型兵器だが仮想人格めいたものを与えられており、13機がそれぞれ人類として役名と階級を付与されていたそうだが、自らの出自や、使われている脳の元来の持ち主の記憶は消されていると」
「なんか凶悪犯とか思想犯の脳みそですよね、使ってるの。わたしなら、そんなヤバい脳の記憶は思い出せないようにしますね。絶対に改造されたんを恨みに持つと思いますから」
「だが、クロスが知りたいのは七人分の過去じゃないんだ。彼は自分が製造された真の意味を知りたがっており、今や他のMIDIも同じ考えを持つに至っている。その中で浮上しているのが、異星生命体の密かな介入だ。現在彼らは銀河系探査の過程にあるが、これは人類が利用可能な惑星を調べると同時に、知的生命体探索を兼ねているんだよ」
「で、ルーツを探す旅に出ていると」
「無論彼らは、スティックス・ドライブレベルが1のままでも生身の脳活動を止められるから連続跳躍が可能で、有人船より遥かに高速度で探索して回れるし、現在は我々NBの主要艦艇同様にレベル2からレベル3が使用できるようになっている。だが、その速度をもってしても広大な宇宙の探索は容易ではないだろう」
ここで、ちょっとだけ補足しておくと、レベル1のスティックス・ドライブ時には通常または冷凍睡眠で脳の思考活動を止める必要があります。起きたままだと通常宇宙空間に戻るときに記憶障害が起きて寝たきり廃人まっしぐらです。
連邦サイドでの宇宙開発があまり進んでないのもですね、実は今の連邦で人を乗せた状態でレベル1以上の跳躍というか、中の人が起きたままでも瞬間移動ができる船が日本の2隻とイギリスの2隻…NBで造船して渡した艦だけやん!
で、あたしが宙兵隊で左遷を受けて獣帯級…英語だとSign of tropical zodiac Classと長ったらしい名前の駆逐艦搭載航空機乗務にされたり、やめてから短距離恒星間貨物船の雇われ船長やってた時にレベル1を経験しておりますが、レベル1でのスティックス・ドライブはめっちゃ面倒です。
単純に言うと全身麻酔めいた事してみんな寝てからタイマーで自動的に跳躍して自動的に戻ります。ですのでレベル1のスティックス・ドライブをやる時は飛ぶ場所と戻る場所の空間の安全を確保した場所でやれ、が民間船の決まりでした。
そりゃワーズワース卿が強気で行きもするわ。
こんな状況なら連邦、詰んでますがな。
起きたままほいほいワープ出来るということは、いまの連邦のようにアルファ・ケンタウリ基地でワンクッション置いたり、超短時間の跳躍を繰り返すか寝たきりワープしか手がない連邦側に比べて、格段に航宙が自由になりますがな。
「まぁ何というか、連邦に比べて色々お進みというか…」
「ただ、ジーナ君にはくれぐれも誤解して欲しくない事がある。我々NBはあくまで自国での宇宙進出を進めたいだけであって、連邦、特に地球圏の征服占領を目標とはしていないのだ。本国の救済支援の意図はあるが、それを推進する余りに地球そのものを支配しようとしたり、かつての実質的植民地としての遺恨を晴らす気は全くないのを念に置いて欲しい」
「されると…正直、クリスはまだしもわたしは辛いですねぇ」
「で、ジーナ君。君は、仮に弟君や母親への報復を望むかね」
「即答します。そんなんしてるより、クリスとの生活基盤を築く方を優先しますわ」つまり、あのおばはんがちょっかい出してきたら叩くよという意味でもあるけど、気づいてくれるかなー卿。
「模範的な解答で安心した。とりあえず、今日は私は離れにいるので、何かあったら侍女を介して呼んでくれたまえ。あと、クリスには夕食後に新妻を借りてすまないと伝えて欲しい」
「色々とお気遣いありがとうございます。では失礼いたします」
…とまぁ、結婚前にそんなやりとりがあった訳です。
いやはや衝撃的な話が多すぎて、クリスはまだしも当時のあたしは面食らうしかなかったなー、と。
「そして不妊治療に娘の誕生、か」
「どうしました、何か考え事でも?」
で、クリスは大学が冬休みに入ったので、領事館絡みの行事がなければ基本的におうちにいます。
フィールドワークに行こうにも大学所有の演習林…紀伊半島某所にある結構広い山林なんですが、ここはその演習林に近い高野山界隈同様に積雪地帯です。そして雪が積もってては粘菌、あんまし活動してないそうです。
「あーいやいや、弟と母親の件で前にワーズワース卿に言われた話を思い出してたんよ。あんまし恨みに思うのは生産的やないとかさ」
「父はまぁ、合理的に考えますから。ただ、オカルトの話は意外と好むようですが」…はっはっはっ、よう親見てはるわ。
「しかし、見事にあのお母ん、罠にハマりよったというか…我が不肖の母ながら情けねー」
「マグレガーさん、済みませんがお茶1つコーヒー1つお願いします…で、ジーナさん、マリアの件の進捗も気になりますが、ご父君の容態はどうなのですか?」
「恐らく、
「しかし、
「あの因業ババアがそんなん気にせーへんて。何かあったらお父さんに泣きつきよんねんもん。今もしみじみ言われて来たとこやで。ジーナ、血がつながってないお前の方が遥かに俺に娘らしい事してくれるなぁと。手ぇ握ってなぁ」もう、開放病棟にもかかわらず、いい年こいてあたしゃ泣きましたよ。
「とりあえず、いざという時の緊急融資を考えてもらえるようにしましょう。ペンウッド卿からは、高木お父様の企業を買収する方向でお母様の影響を排除する形が好ましいと助言されていますしね」
「最終的には母子で路頭に迷てもらわなしゃーないかなー。助けたら助けたで、心を入れ替えるどころかますます調子乗りよんねんから。今さらやけど、40年近い人生で、あいつらが恩という概念を理解する事を何度期待したかわからんで、ほんま」
「自己破産して頂いて、NBに亡命してもらう方法もありますよ?お母様は病院、貴洋さんは債務者労働施設へ行って頂ければ最低限の不幸は防げますし」そう、これ知った時のあたしはびっくり仰天したのだが、なんと債務者監獄があるんですよ、NBには。
もっとも話を聞くだに、日本の刑務所も驚きの作業報酬だったり、更には実態が帝◯地下帝国かよという内容なんですわ。
なんせ、木星衛星のエウロパに近い構造の星がNBの外惑星にあって、他の外惑星開発に必要な水資源を採掘生産してる現場で一日中氷を掘らされると聞いて、失礼ながらあたし、爆笑しましたがな。
「うちらの月の鉱石掘りもたいがい過酷やけど、あの手の星は宇宙服が凍りよんねん。針の穴程度一つ開いても命に関わるからなー」
で、月の事情を知る人ならご存知かも知れませんね。
あたしもこれは獣帯級駆逐艦乗り組みの宙兵陸戦隊の人に教えてもらった話なんですが、大気のない惑星や衛星表面で活動する場合、重力が弱いと歩いたり走るだけでそこらに漂う事になる微細粉塵がヤスリのように効くのがまず怖いそうです。
そして、氷が表面を覆うような星であれば、今度はTAPPSの機体表面に付着した氷の破片が熱で溶けて、関節部に入り込んだりまとわりついて再凍結した際にトラブる事が多いそうなのです。
そして関節部のアンチアイスを入れて氷結部を解凍しようとするとですね、戦闘行動の場合は赤外線輻射で位置バレしますよね。
で、予め上陸が分かってる場合はTAPPSの一部装甲板を外してコレを着せるんだよと、TAPPSサイズの雪上迷彩ツナギ服を見せられました。
その時はふーんうわーこんなんあるんやーと適当に流しておりましたがね、まさかあたしがのちに大型のTAPPS7という戦車みたいな使い方するやつを与えられてクリスの護衛役の人手不足を補うわ、挙句の果てに借金もないのに
間違っても決して自衛軍男性陣御用達の男のパラダイスに沈んだわけじゃないんですよ!
「奥様。港広域警察署からお電話ですが、如何しましょう?」
そこへ、領事館付きメイドとは世を忍ぶ仮の姿、しかして実態はNB地上軍特務作戦部所属陸戦特務伍長のマグレガーさんが入って来られました。手にNB領事館の電話を一手に扱うコントローラタイプの受話器をお持ちです。
「港…マグレガーさん、ちょっと黄さん呼んできてくれへん?それと、内線でわたしの携帯に飛ばしてください。とりあえず警察の話聞いときますわ」うわー、このタイミングで港署って、なんか凄い悪い予感するんですけど。
「はい、英国領事館付武官席ですが」
『こちら大阪府港広域警察署の、捜査1係の熊本と申します。高木ジーナさんでしょうか』
「あ、はい。小官が高木ですが」
『えっとですね、今お電話の方大丈夫でしょうか。実は弟さんの…貴洋さんの身元確認の件でお電話させて頂きましてですね』
「うちの弟がナニやらかしました?1の方でしたら傷害とか…ちょっとよろしくない事扱われてますよね?」
『申し上げて大丈夫ですか?』
「お願いします」
『実はですね、先ほどお宅のご近所の方から110番通報がありましてですね。高木さんのお母様のアレ…』
「高木アレサンドラでしたら、間違いなく私の母親ですわ」
『捜査員が急行しましたところ、アレサンドラさんが倒れておられまして、○○病院に緊急搬送させて頂きました。その場にいらした貴洋さんは重要参考人として、とりあえず身柄を保護させて頂いております』あっちゃあああああああ…あたしの目の前にいるクリスに、両手でバツサイン出してから目配せします。
そこへ黄さんが入ってきましたので、通話をオープンに切り替えて黄さんに事態を説明します。
「黄さん。こちら港警察署の熊本さん。うちの親の家であたしの母親が倒れていて病院に搬送されました。弟は重要参考人として港警察に送致。あたし、参考人親族やから多分これ以上は直接行かな詳細教えてくれへんと思う」
「熊本さんですね。連邦司法局・英国領事館駐在法務官の黄美娜と申します。領事館関係者の親族事件として対応しますので、事件性と状況を教えて頂けますか。内容によっては法務官扱い事件として只今より捜査に介入します」うわ、黄さんの本気スイッチ、入りましたね。
『は、はい…わたくしの一存では…とりあえず署長に連絡させて頂きますが…』
「緊急対応不備であなたを逮捕しますよ。早く教えなさい!」うおーこえー。
『は、はい。110番通報を受けて駆けつけた際に対象…高木貴洋参考人は血にまみれた状態で座り込んでおり、高木アレハンドラ氏が頭から血を流して倒れている状態でした。目下、参考人は当警察署の取調室にて状況聴取中です』
「了解しました。捜査続行ください。それと参考人の実姉に同行して、今から私が伺います。ジーナ、いいね?」
「OK。ちょっと2分待って。クリス、今からちょっと港署と病院行ってくるわ。オコーナー領事に状況教えたげて。あと可能なら唐木田先生に、港警察署に行った件伝えてな」
で、あたしの身体の内蔵品の生体インターフェイス経由でTAPPS7起動コマンドを出します。
「カリバーン、こちらジーナ・ワーズワース准将。緊急。TAPPS7始動、発進準備。オーバー」
『This is Caliburn. roger. TAPPS7 system bootup.Reactor startup Phase traced.』
「熊本さん、とりあえず今から…だいたい5分程度でそっち行きますわ。一旦電話切りますね」
んで、相手の返答を待たずに通話を終了します。
そして大急ぎで室内に用意していた自分のパイロットスーツに着替えて、ガレージ直通エレベータに黄さんを押し込み、簡易ヘルメットを手にしてあたしも乗らせて頂きます。
これ、せいぜい4人が乗れたらいい狭さなんですが、黄さんちょっと我慢してね。
「黄さん、これ確実に傷害事件か、それ以上行きますよねぇ」
「とりあえず報道管制は入れておくわ。…色々あるわねぇ」
「あって欲しくないんですけどね。それより、スカート気い付けてくださいよ」と言ってる間に地下4階相当の格納庫に到着しました。
ここ、実は「幅20mのドゥブルヴェなら3機入る」くらい広いのですが、今はカリバーンが1機いるだけです。
ちな直通エレベーターがある理由は「なんかあった時に逃げやすくするため」に他なりません。更に申しますと、その「なんかあった時」というのは連邦の反NB勢力に襲撃された場合を一番強く想定しています。
で、その格納庫の隅っこに白基調の訓練機色の大型TAPPSが正座状態で待っております。
既に前装甲ボンネットは跳ね上げられて後ろにスライドしておリマして、。複座構造の操縦区画に滑り込めるよう乗降状態になっています。この状態でも操縦区画の高さは地上2m以上はあるので、専用のローリングステアを使って…。
「黄さん先に後ろ乗ってくれません?」
「了解…
んで黄さんが中国人的に最低レベルの罵倒系毒づき科白を言われた理由ですけど、今の黄さんってタイトスカート履いてはる上に、TAPPS7の後ろ座席、端的に言うとバイクに跨るような感じで座るんですわ。
「まぁそう怒らんと。よいしょよいしょ」
んであたしも前席に体を滑り込ませ、メインスイッチを入れてからマスタースレーブアームに手を突っ込みます。足は足袋になってる所に差し込みます。
そしてマスタースレーブモードスタンバイスイッチを押しますと、血圧計に近い要領で左右計4箇所が締め付けられて、あたしの動作を反映するようになるんですよ。
「黄さーん、そっちの席の拘束アームセットしてくださーい。ハッチ閉めますよー」
つまり、後ろの席の人はシートベルトしろやという意味です。
で、装甲ボンネットが前の方に戻ってきて閉まります。真っ暗な中でセンターモニターだけが点灯した状態になりまして、マスターコーションライトが緑色に光ってから消灯。
核融合動力炉関係の表示で稼働出力発生を確認。アクチュエータ液温よし液圧よし。外部視界表示。正面に格納庫内の光景が映る。バイラテラル値確認、関節ロック解除。起立。腕部並びに脚部試験作動よし。ICDアシスト正常。
「カリバーン、ガレージハッチ開放。当機このまま垂直上昇。目標箇所に向けて飛翔移動する。使用高度約100から200。外部識別信号種別は宙兵隊作戦機並びに高木ジーナ少佐搭乗を明示。TAPPS稼働モードは1G1気圧下大気圏内地表戦闘。緊急行動を地域管制に通知。コードE、エコー。オーバー」
『This is Caliburn.roger,Code-E Echo』で、なんでカリバーンを呼び出してるかというとですね、TAPPSを直接制御するより手っ取り早いからなんです…。要するに横着カマしている訳なのですよ。
そしてNBの機材のはずのカリバーンが、連邦の軍用装備のTAPPSを制御できているとこに注目。
これがMIDIシリーズ、わけてもM-IKLAシリーズの恐ろしいところのようです。
そうこうしているうちに格納庫ハッチが解放されます。
ここに置いてる飛行機ですとトロリーパレットごと地表に持ち上げて発進させます。
しかし、そこまでせんでもいいTAPPSの場合はICD/Gでそのまま穴から出て行きます。
全高5m、この状態での機体重量8tのTAPPS7ですが、中であたくしが動くのに合わせてかるーく歩き出します。
穴の下までくると、右手でフライトスイッチを押してジャンプ。生体インターフェイス経由で直接、TAPPSを飛行制御させます。
「ちょっとジーナ!飛ぶなら飛ぶって言ってよ!」
「ごめん黄さん焦ってた!文句は着いてから聞くから今は我慢して!それか南京亭で好きなの一品!」
「聞いたわよ!馬から降りても言葉から降りさせないわよ!」
…はぁ頭いてぇ。今からの修羅場に頭痛を覚えながら、あたしは大阪の空に舞い上がります。
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