愚弟と愚母に振り回される姉の悩み・前編
みなさま。
「過ちは二度と繰り返しません」という言葉をご存知ですか。
あの、世界で初めて原子爆弾を実戦使用された街の復興後、そこかしこで目にする文言だそうですが。
ところがですね。
あたくしのいる時間軸の日本では、三度目の正直どころか「五回目の過ちは繰り返しません」という事態が起きました。
つまり、二発、落とされました。
うち一発が瀬戸内海に落ちて呉市の沖で不発状態で発見されましたが、もう一発がね、大阪市内にね。
天の声に言わせると、堺筋本町と谷六の間が爆心地だったらしいんです。
そして弾頭出力は「ちゃんと爆発してたら推定100kt」。
つまり、ダーティボム化しました。
そして、大陸の方から発射されて「美麗な島に関係した」施設を狙ったみたいですが、初期起爆用に内蔵した原爆部分の炸裂だけでもですね、当時の大阪市の中心部を完膚なきまでに破壊するには充分すぎたようで、爆心地から南の坂の中腹から上にかけて存在したお寺や神社や学校や墓地や動物園が根こそぎ消えてなくなったそうです。
一説によると、大陸間弾道弾迎撃ミサイルがあの辺りだけ何故か手薄だったとか、はたまた正当防衛を主張するためにわざと撃ち漏らしたとか、果ては昔からの住民や反社会的勢力が跳梁跋扈していて政治的経済的に色々あったのをリセットするにはちょうどよいという話がささやかれたとか聞きましたが、全ては陰毛論、いや陰謀論というものなんでしょう。知らんけど。
で、そんないわくつきの一帯だったので、長らく再開発が進みませんでした。なんでも工事を始める度に原因不明の事故が起きて「とりあえず草木が生えてくるまでほっとけ。
更に悪いことに、大阪の北側、特に川の向こうは被害が少なかったのもあり、とりあえず応急的に川向こうの北側を中心にして市の機能を取り戻そうという流れになったと資料にもありました。
具体的な例を一つ言いますと、
で、その天王寺の空白地帯、他の大阪市の中心部爆心地と同様に長く国有地でしたが、大阪市の機能復帰に伴って市に返還される直前まで行きました
。一説によると、吹き飛んだお墓の持ち主探しや生存遺族への補償問題がややこしくなる前に市に押し付けたとか、はたまた復興を早めるために財源として売りに出そうともくろむ市側が国に働きかけて譲渡返還をしつこくおねだりしたとか色々あったようです。
しかし、除染作業が遅々として進まない中では民間分譲も進まず、おまけにいわくつきの呪われてるかも知れない由来に満ち満ちた場所です。
昔の天皇家の皇子様で、豪族の謀略にあって不慮の死を遂げた方の祟りを鎮めるために建てたとされるお寺も見事に吹き飛びましたので、万札の顔だった事もある
(かーねるおじさんは発見されたと言う話もあるそうですわよ…)見つけなかった方が良かったんじゃないかな。
ま、そんな買い手つかずの呪われた土地。
昔は高級住宅街でもあり、閑静な緑溢れる中に分譲高層住宅や学校やお寺が並ぶ上品そうな場所だったようですが、草木生い茂りチェルノブイリ跡地かよという光景が防護壁の中に広がる荒れ果てた状態だったのは、他ならぬあたくしも知っておりました。
その荒れ果てた土地の所有者なんですが、ある時からジーナ・ワーズワース名義にされてしまったのを知りました。そしてグレートブリテン及び北部アイルランド連合王国に租借され、建前上は同国の領事館敷地となっていると聞いて。
…誰や、こんな場所を斡旋したアホは!そしてなんで知らん間にあたし名義になってんねん!
ちょっと前にうちの旦那の
で、第三次世界大戦後の知的・物的資源損失を恐れた人類社会は、プロキシマ・ケンタウリの更に百光年くらい先に見つかった有大気惑星が「使える」と見るや開拓団を送り、工場類やデータセンターや知的財産保存施設を移転させて地球社会のバックアップ環境を構築しようとしました。そしてその中には惑星改造に使えるナノマシンや微生物地衣類の研究開発設備もありました。
宙兵隊の戦闘機に
ですが、その星は…すったもんだの末に、アングロサクソン系民族を中核とした独立運動によって
そしてNBのナノマシン技術パテント企業を経営していた一族はワーズワース家でして、クリスの祖父くらいの人でした。
この企業の発展で財を為し現地政界に打って出たクリス父、つまりワーズワース子爵(当時)を首相と担ぐ有力者集団によってニューブリテンまたはネオブリティッシュ略してNBを建国し、英国本国と密かに連絡を取り爵位叙爵や円卓騎士と称する閣僚制度を黙認させ、時至れば本国の麾下に帰化帰順して連邦国家を形成する方向でガンガン突っ走ってたというのが直近の歴史だそうです(要約)。
ちなみにこの会社の持つ技術特許の大半はクリスの発明または開発とされており、パテントを握る関係で次代社長はクリスで確定だそうです。うちの旦那が未成年であるにも関わらず大金持ちって言った理由が、これなのですよ。
で。
惑星上人類殲滅決戦兵器の攻撃をあわやというところでかわし、更にはナノマシン技術の奪取事件にかこつけて難癖つけて地球に艦隊を送り強制的に居座ったNB、連邦を無視して傘下国家をアメムチで懐柔して駐留可能な出島を確保しようと考えました。
そしてNBと連邦が和解して国交樹立すれば堂々と美味しい思いができるし、現状でも出島さえ確保すれば美味しい思いが出来る斜陽の大帝国は、当然のごとく裏で暗躍します。
ええ、あたし、歴史の授業、もう少し真面目に聞いておけばと真剣に思いました。
なぜあの国が。
なぜ飯がまずいと言われるあの国が。
かつての世界の紛争の原因を辿ると最低五割はあそこに行き着くと言われたあの国が。
なぜ、二枚舌の帝国と陰口を言われていたのかと。
そして、それを知った時には既に、あたしが旧・あの辺の行政区区域の半分の土地所有者にされてまして。
更に現地では放射能吸収除染仕様のナノマシンをばんばん撒き倒してる傍らで、あちこち無慈悲に掘り返されて貨物ヤードとか航宙船浮遊係留設備とか領事館ビル基礎や、はたまた地下の貨物倉庫だの戦闘機格納庫だの(おい)の建設作業の為にバイオコンクリートがどばどば型枠に流し込まれている最中でした。
後から聞けば、アヴァロンに積んで来たその手の装備を連邦が止める間も無く近距離揚陸艇でドカドカ降ろして、墨俣一夜城レベルで建設してしまったそうです。更に「この土地をかかる人物の所有として、我々が賃借すればそこからの税収入は得られるであろう。更に除染作業も進んでおり、租借期間が終われば土地としての価値は十分に取り戻せるのでは?」と悪魔のささやきを駐日大使にやらせた国がありましてね。
しかし、こんな広い土地だけでも固定資産税なんぼになんねん、あたしに維持は無理と泣きついた嫁に対して、聡明な旦那が言うにはですね。
「ジーナさん。それならあなたのお父上の会社の土地にしてしまいませんか?何でしたら売却の正式契約はまだ済んでいないそうなので、いくらでも変更は効きますよ?」
そうして円卓騎士団麾下の文官集団によって作成された業務提携提案書が親父の会社に行きましてね。真っ先にアレハンドラ・イワノブナ・タカギこと高木アレサンドラというおばはんがそれを見ましてね。
おお神よ、バーバ・ヤガーのように執念深く欲深き我が母を赦したまえ。
そうです、おばはん、食いつきましたよ。巧妙に仕掛けられた毒餌に。
M -IKLA20の兵装機能「連邦全てのコンピュータ類の頂点として機能する」にかかれば、うちの親父の会社の財務資料はもとより裏帳簿やら、おばはんの隠し資産に至るまで徹底的に洗い出すなど朝飯前でしてね。ま、この作業の結果で困った事になる奴は、MIDI暴走対策として上位互換で作られた特殊戦闘兵器にそんな無茶なロジック実装したバカを呪えと。
しかも連邦内では軍と犬猿の仲たる法務局シンパ経由で財務局の協力も密かに得ることが出来ましてですね。
財務局の後押しで連邦直営の産業開発銀行の直接融資事案にもなりましてね。
で、カラクリというか所有者移転の流れだけどね。
・まず高木母が資産管理・持株会社を設立する
・高木父の運送会社から資産移動
・その資産を原資にして産業開発銀行から融資を受ける
・件の土地をジーナ・ワーズワースより買収
・土地に既に「入居していた」領事館より賃借契約を貸主変更で再締結
・更に領事館敷地以外は英国法人が物流センターとして使用する前提の契約で入居契約済み
・この物流センターも借主と貸主変更で契約再締結&高木父の会社に入ってもらう
・高木父企業は英国企業からNB貨物の物流業務の全面委託を受けて物流センター運営を代行する
・英国領事館並びに物流センター稼働開始→今ココ
つまーり、母親としてはあたしを会社の資産から遠ざけた上で美味しい土地をせしめて、ついでに輸送の仕事も頂けてがっぽがっぽという心算な絵図を描けてしまえたわけなのですよっ。
更に、おばはんが速攻で半ニート状態な弟を持ち株会社の社長にして自分は会長職に収まったのも知っております。もっとも、きっちり代表権を握ってはいるようですが。
…で、ちょっと契約に聡い人なら、なぜかあたしの名前が英国名になってるのに気付いたと思います。これがミソなのですよ。
そして、英国領事館を作ったり、放射能除染他で土地の価値がはね上がった結果ですね、欲深いおばはんが「領事館に出て行ってもらって土地売ったら儲かるんじゃね?」と考えたとしてもですね、上記契約を無視して土地を転売すれば在英の物流企業は、高木父企業との貨物輸送専属委託契約を即時破棄し、違約金を請求する内容で「英国の本社と」契約させたそうです。ふふ。
さて、ここでアレサンドラさんがあまり知らなかった事実をお教えしましょう。
あそこ、元々の路線価格、かなり高い部類です。
…せやから昔は宗教法人だの学校法人だの図書館だの分譲住宅だのばっかり建ってたんですよ…。
そして周辺道路含めて再整備が為された暁には、購入当初の資産評価額から大幅に固定資産税が上がる予定なんです。
連邦財務局に怒られた日本国財政省が固定資産税評価額を上げるのは確定しているし。
つまり、近い将来、現状で想定されている二倍以上の固定資産税額上昇により弟と母はアタマ抱えるのが確定しております。そして領事館と輸送センターの貸借契約は「無料同然の放射能まみれの土地」を基準にして弾き出された「固定家賃」です。
はっはっはっはっはっ、賃上げしたきゃ英国で裁判やで。
この為に雀の涙に等しい…といっても億はある金額であの土地を母親に渡した訳なのですが、その不自然な売却価格の時点でなんか気付けよとしか言いようがありません。
で、ここで注意。
今の連邦は傘下国の最高司法機関で匙を投げた事件について処理する機関を設けており、日本の最高裁で結審しない場合連邦法務局下の連邦裁判所で各国の司法機関の完全上位審議を行うようになっていますと言えとの天の声。
そして、領事館ビルのワンフロア丸ごと占領しているNB領事室内には、連邦法務局法務官が「国交樹立の下準備要員としての法的オブザーバー」として詰めていますが、この法務官でもと香港人の黄さんというおねーちゃんは、ジーナとクリスのなれそめに関わっており、NBから奪われた惑星改造用人造生命体サンプルの密輸捜査を当時、担当してたとも説明せぇと。
そしてあたしの名前が英国名なのは、はっきし言って偽造国籍です。それも英国本国とNBが発行した本物の。
本物の偽物ってどういう事ですかと聞いたところ、ワーズワース卿の説明は明快で「NBではクリスの籍に入ってもらうから用意させた。君は現状だと未成年者のクリスと違法な結婚をしている事になるが、我々は国王陛下のサイン入り赦免嘆願状をこの通り頂いているから、君は最終的には無罪となるのだ。そして我々は本国に対して、ジーナ・ワーズワースを我がNBからの国籍編入者として英国本国でも自由に活動させたい、ついては日本国籍の存在をこの際は無視して、NBからの転籍英国人として処理願いたいとしたのだよ。どうかね」とにこやかに説明されました。
うん、国家レベルのワルってこんなんなのね。
更にワーズワース卿いわく「確かにNBでも、君とクリスの結婚に反対する者は多少は存在するし、NB本土に足を踏み入れれば捕縛して結婚をなかった事にする可能性もなくはない。ま、クロスと私でそんな企みは潰してしまうがね。だが現状では君もクリスも、我がNBを遠く離れて国交のない連邦の圏内に居住しているではないか。仮にジーナ・ワーズワースなる人物が未成年略取や金融犯罪を犯したとしても、その人物と高木ジーナとの関係性を連邦当局が我がNBに問うなら、犯罪人引き渡し条約を含めて国交樹立の話からまず始めさせて頂こうと思っているよ、私は」
そうです、この国籍に関わるグッダグダを利用して、万一の不当土地収受や売却金利益詐取とかいう話になっても「そんな人間は戸籍上存在しまへんで」となんぼでも揉み消すとか、はたまた高飛びも楽に出来るように国籍ロンダリングされてたんです。完全事後承諾で。
しかし、いくらあたしの利益になる上に、弟や母への復讐すら叶いそうなこの筋書き、果たして素直に喜んでよいものやら。
「ジーナ君。誠に申し訳ないがクリスとの結婚にあたって、君の過去のうち弟君や御母堂から受けた仕打ちについて、クロスが調べてくれた結果を私は拝見したが、有り体に言おう。君の忍耐力は大したものだ。かかる不幸に対し精一杯の努力をする人間を、我が子の妻として受け入れるべきだと助言をくれたのは他ならぬクロスなのだ。君からは単なる無人戦闘兵器にしか見えないかも知れないが、彼は人類を遥かに凌駕する叡智と能力を備えている。神の力を備えた機械と言っていいだろう」
「ワーズワース伯爵、お聞きしたい事があります。そんなすごいモンがなぜNBに肩入れをしているんですか?」
「彼がNB領内に不時着した際の第一発見者が、実はクリスなのだ。彼はたまたま野生動物に襲われていたクリスを助けて意思疎通を図り、自分の身の上を我々に明かし保護を願い出た。そして彼はクリスと協調して様々な知識を補完し、高潔な人格を備えるに至ったのだ。彼はもはや我々にとって、かけがえのない友人なのだよ」
「クリスの母親の死を悲しんだ彼は、クリスの精神の安定を図る為にも早婚を私に提案し、全人類のデータを検索して有力な候補を提案する事までやってのけたのだ。その時はM-IKLA20の機体に置き換わっていた彼は既に、外装式多重空間コア保持機機構とやらを使えていた。私もクロスから説明されて唖然としたのだが、彼の本体は幾多の次元に接続する亜空間…我々が恒星間航行で利用するスティックス・スペースの更に高いレベルの空間にある。もはや彼の本体は人が知覚可能な姿ではなく、我々が見る彼の姿は単なる端末機であり、いくらでも再生や複製が効くそうだ。当然、演算機能は元来の機体の比ではないのだという」
「え?え?ちょっと待ってくださいよ伯爵。それをわたしら連邦側で作ってたんですか?そんな高い技術があったら、もっと早くNBとの戦争を終わらせたり、或いはNB以外に使えそうな星を見つけたり出来たんじゃないんでしょうか…」
「君の疑問は私も同じく持っていたよ。しかし、連邦がどういう目的でM-IKLAを製造したのかは不明なんだ。だがこれだけは言える。まず、連邦はMIDIシステムの更に上位になる無人航宙機を開発しようとしていたのだ。そして、もしかするとMIDI開発者は、戦闘機械の形態をとった人工の救世主を産み出そうとしたのかも知れない。MIDIと違い、エオンの元来の機体には超光速粒子銃以外の固定武装が施されておらず、直接的な物理破壊を行えない不思議な構造だったのだよ」
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