うちう空母のおはなしと年上妻の悩み
という訳で早速にも旦那と連絡を取りたい事情が発生したわけですが、ここでHMS Ark Royal 901ことアークロイヤルという軍用航宙艦について説明しておきましょう。
つーても、あたしもアンチョコ片手に思い出し思い出しなんです。
なんせこの船、元来はあたくしジーナ・ワーズワース・高木が所属しております連邦宙兵隊からすると敵性国家の航宙艦なんです。
とりあえず、この船に関する知識を持って頂きますと、なんかの役には立つと思うのです。
立てて。立てて。
で、アークロイヤルと言えば昔は煙草の銘柄だったとか、四代くらい名前が続くイギリス海軍の軍艦だったとかいう話を提督就任にあたってNBにあるニューポーツマスって港の軍学校で習わされたのですよ。
そしてそういう歴史のある船名に恥じない活躍を期待すると、クリスのお父様から懇願されている訳で。
そもそもNB宇宙艦隊には旗艦として戦闘艦母艦のHMS アヴァロンが既に存在しているのですが、この船は移動艦隊司令部という役割を果たす為に、かなりの巨体になってしまい小回りが利かないのが悩みの種だったようなんです。
そしてその現物ですが…そもそもクリスとの馴れ初めに関わる船だったので「どこの豪華旅客船か宇宙移民船ですか」と言わんばかりに充実した居住環境を備えてるのもよう存じております。
いや、船内は臭いどころかですね、どこに行っても爽やかな空気に包まれてお風呂入り放題だのトイレは日本人なら大喜びなウォッシュレットだの、水は実質使い放題に近いとか、大概の場所の重力は1G、気圧も1気圧に保たれていて「厨房では本場の中国料理も作れるほどの火力が使える」とまで豪語されてはお口あんぐりですわ。
しかしこのアヴァロンですけど、小型貨物船とか
あたしがまだ連邦宙兵隊に籍を置いてる関係で色々とは教えてもらっておりませんが、全長30kmです。
そして直径6km程度の円筒状シリンダー船体が基本構造体、そのうち前方1/3が艦隊戦列艦ドック区画で中間1/3が
そして他ならぬNB宇宙軍のマッジルベリー大将閣下から直接言われた話がですね「このアヴァロンはあくまで戦闘艦隊を率いる移動基地として考えておいて欲しい。こういうもので直接戦争するとかいう発想はだね。排熱孔に爆弾を落とされたら爆発したり、はたまた強い割に何度も両陣営で鹵獲し合うような人工惑星が何の疑問もなく出てくるご都合主義的な過去の映像作品だけにしてくれ。ジーナ准将は連邦のアウズフムラ級戦闘母艦改造艦を知っていると思うが、あれのような砲艦的用兵は全く想定していない事をくれぐれも連邦側に念押ししておいて欲しい」としつこくダメ押しされていたりする訳です。要はこのアヴァロン、自艦戦闘装備をほぼ持たない代わりに、戦闘艦隊の中核補給基地兼指揮基地として使う船であり、連邦で持ってる「でっかい珍珍みたいな収束エネルギー砲艦ちゃいまっせ」って事ですね。
とにかく連邦側の認識と違ってNBサイドでは「相手が死に絶えるまでの殲滅戦は仕掛けられたら受けて立つけど、こっちは必要もないのに37564族滅作戦に使う船を作る気はないから安心してくれ。ほーらこわくない怖くないよー」と訴えたいようなのです。
…で、こんな巨大な移動要塞めいた艦では国運を賭けた大いくさ以外のナニに使えというのだ、連邦を不用意に刺激しないためにも、もっと小回りの効く船が欲しいという意見はNB内部でも頻繁に出ていたそうなのですよ。
そこへ降って湧いたのが、たまさか地球にNBの実質的な大使館を無理やり置いて英国本国と、そしてNBの間で無理やりに堂々たる密輸入貿易をする必要が生じた件です。…これ、聖院世界との貿易も絡んでるんですけどね…。
そして「今般は主にコンテナ貨物を運ぶ任務に使うのだから、なにも地球や太陽系の連邦各都市を族滅殲滅するほどの懸念を与える大艦隊を組まずとも、任務を遂行可能な使い勝手のよい武装商船まがいの艦をひとつ建造しようではないか、ついては仮装航宙戦闘艦めいた使い方以外にも様々な用途に投入できるよう、艦内の兵装や設備を着脱可能なモジュール構造にすればよいのでは？」と設計陣が何とか面に囚われた結果、出てきたのが五代目アークロイヤルだと思ってください。
なお複葉構造の対艦雷撃機を搭載しているとかロボット形態に変形するとか、はたまたストーカー趣味や幼女趣味のある人工知能を搭載している事はないので、その方面には期待するなという天の声が聞こえた気がしますが、何のこっちゃようわかりません。
とりあえずそんな意図で建造されたアークロイヤルです。
そのコンテナ船を兼ねたモジュール着脱機能についてはハナから連邦側の法規や規約条約違反前提で建造されていたりします。そして連邦サイドにこの船についての説明をした際「お前がいながら何故止めなかった」と連邦宇宙軍高官のお歴々から嫌味をたっぷり聞かせられたりしたのです…。
その違反前提の構造機能とは何か。
他ならぬ大気圏再突入や離脱能力でして、宇宙戦艦や宇宙空母なんとかに近い見た目まんまの事ができてしまうわけです。で、なんでまた大気圏突入や離脱がやっちゃダメ行為なのかと申しますと、建前は大気圏上層部のオゾン層破壊予防といういかにも理由なのですが、実際には軌道エレベーターを介さない旅客や貨物の移動に厳しい規制をかけるためです。
ただ、あたしは連邦側では宙兵隊の人なので、宙兵隊幹部からは「我々も許されるならあんな船が欲しい。こうなったら宇宙軍なんぞ無視して独自に建艦計画を立てようと思うから、可能な範囲で詳細を教えてくれ」とか頼み込まれていたのもいい思い出ですねぇ。
そしていずれ話す事なのですが、あたしがそもそも宙兵隊に「入らされた」理由たるや、まさにこの規制を回避して再突入貨物機の操縦免許持ちを会社で囲いたいからって話を父親に頼まれたせいだったのです。
ジーナ頼むお前だけが頼りなんやと泣きつかれるわ、
うん。
アークロイヤルについて話を戻しましょう。
とりあえずこの船、当初の目的通りに運用できるのをNB本星表面の海洋上での試験航海で実証した後、NBでも有用性が再確認されたという事で密輸艦隊拡充の為に増備されております。
とりあえず最低でも六隻は突貫工事で建造して、うち二隻を交代で地球便に充当するとは聞きました。
ですが、レパルスという名前が建造リストにあるのを知って「ええんですかコレ」と聞いたところ「そもそも初代アークロイヤル自体が沈んでいるからあまり気にしてない」という唖然とする答えが返ってきたりしました。
日本の軍事に詳しい人なら驚くと思いますが、なんか妙なところで縁起を担がないとか細かいことを気にしないのが英国流のようですね。
そして密輸に威力を発揮するのが、700mを超す船体の上面目一杯使って設けられた全通式航空機離着陸甲板の下に通っている三層構造の汎用貨物室兼格納区画です。
つまり、このアークロイヤル、見た目はアングルドデッキを持たない…だいたい第二次世界大戦中の航空母艦のような外観なのです。
そして航空母艦なら飛行甲板の下の区画を艦載機格納庫にしているだろう部分、全てコンテナ輸送に使うと2万TEUを超す海洋コンテナを積めるそうです。
コンテナ二万個ですよ、にまんこ。
に・ま・ん・こ。
かつてあたしが腰掛け雇われせんちょさんで乗ってた貨物船なんかせいぜい100TEUですよ。外装式のエクストララック使っても千個が関の山ですよ。にまんことち、いやせんこの差はでかすぎますよ。
で、にまんこぶんの水上航行用大型コンテナは最大級海洋コンテナ貨物船2隻分の積載量になると自慢げに解説されました。
そして、この区画に艦載航空機を積んだり、上下の区画の床を畳めばディフェンダー級無人砲戦艦やヴァンパイア級航宙フリゲート艦を合計6隻まで積んだり、はたまたドック型揚陸艦のような使い方もできるそうです。他にも医療区画モジュールや旅客輸送モジュールをここに積み込んでいろいろな用途に用いる事が出来ると鼻高々な説明を頂きました。
…が、その説明をされた担当技官には内緒ですよ。
そんなややこしい作りにせんでも、ある程度は専用艦艇用意した方がコスト的に有利な項目もあるんちゃうんという突っ込みを我慢するのに必死でした。なんでそんなややこしい船、わざわざ作りはったんですかと。
で、連邦も最初はものごっつい苦情を言おうとしました。
しましたが。
ええ、こんな大気圏に突入して兵力を上陸させる船を建造したが最後、連邦側が怒り狂って苦情を申し立ててくるのは火を見るよりも明らかだろうとNB関係者は予測していました。
で、何で連邦が黙っているかというに「ウチの船がうらやましいなら、試しに作ったもんがあるから買いまへんか。出血大サービスでおまけさしてもらいまっせ」というアピールを兼ねて、ちっさくして機能も限定した船をですね、大英帝国王立宇宙軍に2隻と日本国の航空自衛軍と海上自衛軍に各1隻ずつ出血大サービス大赤字で押し付けたいやもとい売りつけたからに他ならないのです。それも、英国が窓口ですが、一種のリース方式を取っていて巨額の建造費用を一括請求するような事はしておりません。
で、言うまでもなく日本もイギリスも今や汎銀河連邦傘下国なので加盟批准約定に従っています。そして保有している軍隊の装備や兵力、自国防衛の範囲内にしてねという縛りを受けております。
が、その一方で連邦軍に兵力を出向させる制度の関係で、加盟国の規模に応じて若干の宇宙兵力保有を強制されておるわけです。
この枠を適用して、アークロイヤルのちょうど半分くらいのサイズの船をお渡しして「その用途に使うのはどないですか」と日本には提案しました。英国はハナっからこの話に乗り気でしたし、NBにとってイギリスは実質本国なので貢ぎ物の意味が多分に含まれてもいたわけです。んで当の英国本国は2隻をもらうや否や速攻でクイーン・エリザベスとプリンス・オブ・ウェールズって名前をつけて王立宇宙軍を編成したおまけ話ががががが。
更に、こんなモンもろて何に使いますのんという顔の日本政府側とは別に、自衛軍では既に使い道決めてましたありがたく活用しますわとばかりに「こんごう」「かが」と名付けるわ、第三次世界大戦での核攻撃跡地再開発事業で神戸と呉に作った大型船建造ドックで「きりしま」「あかぎ」のライセンス製造に取り掛かるわという動きを見せております。
そして、この裏には「連邦さんもウチらが羨ましいなら同じモン持ちはったらどないですか。何ならコレ参考にしてもろてかましまへんで。ライセンス生産の許諾料も勉強さしてもらいまっせ」という意図がございます。
という訳でのっけから何のこっちゃという話をさせて頂きましたが、こういう船が堂々と敵地の領空領海侵犯していられるわ、あたくしが敵対する相手の国のやんごとないお子様とロミオとジュリェットしていられる理由に疑問を呈する人の方が多いと思うのですよ。
そしてもう少し深く考える人なら「NBは連邦に対して無理難題を突きつけたり、思惑があからさますぎる二枚舌かつ恫喝強要が通せる砲艦外交の根拠になるだけの強大な軍事力や国力を持っているのではないか？」という風に考えるかも知れませんね。ええ、持ってるから強気なのです。
…まぁ、あと2年くらいは下手に国交樹立とか外交交流貿易の制度が整わない方が、あたしとクリスにはありがたいのですよ。ありがたい理由は他でもなくてですね、二人が知り合った時の年齢がですね、あたくしは良くてもクリスの方に問題ありまくりましてね。
当時のジーナさん、数え方の方法で違いはあります…なんせ恒星間航行しますからね…が、数えで後厄でした。
そしてクリス。汎用人型決戦兵器に乗れる年でしたと言えとの天の声。
…うん、あと2年くらい待たないとね。今、下手に国交開いて法律整備が進んだりすると、あたしら不法婚姻とか多重国籍とか以前に淫行でヤバいんです。
ちなみに、NBでは「早くに母親を亡くし悲嘆に暮れている首相長男が、奮起して才色兼備の年上女房捕まえてきたのでめでたい。相手が連邦市民だからNBの未成年規定に問えないのでは仕方ないから【婚約式】を大々的に執り行い祝福しようではないか」と、自分らがビール飲んで騒ぎたいだけで決めたような話に世論が動いた結果、気がついたらNBの国民登録もなされてワーズワース家への入籍まで無理やりされていました。
で、NBだとあたし、未成年淫行略取現行犯扱いなんですが、あたくしの国家貢献を鑑みた本国王室より、クリスの大学卒業と同時に発効する特赦嘆願が既に出ていて向こうの法律を実質クリアする屁理屈技を適用されました。
なもんで前科者の犯罪者の将軍様です。
実のところ嫁をいっそNBに亡命させてしまえ、という話がNBの円卓会議でも議題に出たそうです。
しかし、この時代にもいるパパラッチ…特に娯楽が少ないNBではこいつらの活動は割と盛んらしいのですが、その対策のためにも今しばらく嫁には二足のワラジを履かせておけ。なまじカメラ映えするから絶対に撮られるという反対意見多数でして。
そう、旦那は少々チビさんですが、魔法使いの映画に出てくるとか、あるいは性転換一歩手前な美少年なんですよ。そしてクレーゼさんによる不妊治療に名を借りた若返りもとい肉体年齢差調整治療を受けたおかげで、見た目だけならババア無理すんな状態回避できましてん。ふふふ。
まぁクリスは身長162なんで、あたしから20センチ近く低い位置に頭があるとか体重の問題がとか見た目の釣り合いはありますが、若いツバメ捕まえて玉の輿なら少々のことは我慢しますわ。
というわけで、これから犯罪行為…
ああ、娘の教育問題が先ですね。あの学究の徒で粘菌バカで隙あらば
溜息をついて、あたしは出迎えの支度をする事にしました。
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ジーナ「アークロイヤル級って、今から思い返しても変態な船やな」
クリス「その表現には異論をさしはさみたいところもありますが、変な船には間違いありませんね」
ジーナ「なお、全てのアークロイヤル級航宙艦がそうじゃないんですけど、提督室の仕様がなかなかふざけています。お楽しみに（涙）」
クリス「そのせいで色々と今後、この部屋に絡む出来事が起きます。起きるのです（泣）」
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