美しい自殺なんて
横淀
美しい自殺なんて
私と小さな親友は自殺したくて仕方なくなった。もうそれしか救いがなくなってしまったのだ。
私は小さな親友を車に乗せて海岸まで走る。途中車線変更の間違いで警察に追われたりもしたけれど、車のモードを最大限にしてアクセルを全力で踏んで逃げ切った。
海岸に着いた。私は私への手向けとして小さな花束を作って海へ投げた。その後海へと飛び込んだ。海の中は冷たくて身体がゆっくりと重くて苦しかった。気が付いたら私は海岸線へと戻っていた。あまりの苦しさに自分で上がってきてしまったらしい。全身がびしょ濡れで重かった。
次に私の小さな親友が飛び込む。そこで人に気付かれてしまった。小さな親友は不幸にも大勢の人によって陸へ戻されてしまった。
私たちはフランスの美術学校に招待された。何でも、私の投げた花束が美しかったからだそうだ。単に花が美しいとか形が美しいとかではない。海に投げ入れられたというストーリーを含め美しかったらしい。
フランスに行く前私は一人の青年に出会った。この青年こそ花束を見つけた張本人だった。眼鏡をかけた穏和そうな青年だった。本人は明言しなかったが、私にはわかった。彼もまた入水自殺をしようとして花束を見つけたのだと。彼も不幸にも生き延びてしまった一人なのだと。私達は大人を一人つけられて会話をした。なぜこの花束が美しいか、フランスの画家のとある作品に似ているからフランスに招待されたのだろうなどと話した。彼の目はいつもどこか悲しそうだった。
フランスに着いた私達は入水自殺を図り、それが絵となった少女に出会った。青年と話した、フランスの画家のとある作品、それは彼女の絵のことであった。彼女もこの美術学校に現在は通っている。通訳をつけようと思ったが、私達はお互いに英語が話せたので会話が出来た。いかに人生が苦しかったか、入水自殺をした時の一種の酩酊感などを話し合った。同じ境遇の彼女と話しているととても心が休まった。最後に私たちの話を聞いていた彼女の友人が貴方たちは助かって幸運ね、と言った。幸運なわけあるかと思った。私達は死にたかったのに死ねなかった不幸な女の子たちなのだから。
フランスの美術学校に着いた私と小さな親友は早速高い塀に登り、飛び降り自殺を図った。下に人が集まってくる。早く飛べよと揶揄する少年たち。心配そうに見守る人たち。その中に先ほど話をした彼女もいた。
人が増えてきたのでこのまま死ぬのは無理だろうと思い、私は諦めた。小さな親友はどうするのかと横を見ると首から血を流していた。刃物を首に巻きつけているようだった。それでも小さな親友も諦めたようだった。
私達はまた自殺に失敗してしまった。でも入水自殺も飛び降り自殺もどちらも美しかった。私達は美しいことをしているのだ。きっと私達は自殺を止められない。現世は辛く苦しく醜いからだ。
私達はこれからも美しく死ぬ。
美しい自殺なんて 横淀 @yokoyodo
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