不甲斐ない二人
――第一試合が始まって数分後。
「「ごめんなさいでしたぁ~……」」
「アンタら……本当勘弁してよぉ……」
決着は
がくりと肩を落とすメンバーの前で、べた~んと地面に這って謝る
「そりゃ、全部すんなり勝てるほど甘くは無いと思ってたけどさ~……もうちょっとやりようがあったんじゃない?」
「違うのよぅ、この子がさぁ……挑発に乗るからぁ」
「うぅ~……すまん」
「ギャハハハハハ……ヒヒヒヒ、アホだな~お前ら! ちゃんと集中してろよ~!」
「「うっさいよ!? 道に迷って失格しかけた君に言われたくないんですけど!?」」
二人はこう反論するが……笑われても仕方が無い位あまりにあまりな内容だった。
至極単純に言えば、勢いよく突っ込んで返り討たれたという……ただそれだけ。
――もう少し詳しく経緯を説明するとこうなる。
第一試合、二人の対戦相手はファディス姉妹と言う双子の生徒達。
鏡写しのような彼女達が連携して戦うことは誰にも予想が付いたことだろう。
ならばこちらも連携するか、相手を分断するかして臨むべきところを……エルという少女が考えなしに暴走してしまったのだ。
開始直後向かい合った双子はそっくりな容姿と声で微笑みかけてきた。身に纏う制服は改造しているのか、まるで人形のドレスのようあちこちが飾り立てられ、独特の雰囲気を醸し出している。区別できるのは、髪型と瞳の色位だ。
『『あら、あなた達が今回の対戦相手なのですか?』』
『そうだけど、何か』
試合は既に始まっている。
喋りに付き合う必要は無いのだが、相手の口ぶりがなんとなく癇に障りルーシーは言葉を返してしまった。ほぼ同じなのに、耳で感じるわずかなずれがなんとも不快さを増大させる嫌な声。
『『フフ……なんとも残念な気がいたしまして』』
『……?』
『私達じゃ力不足とでも言いたいの?』
相手の言葉の意味が分からず固まるエルの隣で、ルーシーが厳しい顔で問い返す。
そして姉妹は嬉しそうに笑った。
『理解が早くて結構でございますわ。せっかくの半年に一度の晴れ舞台、お相手があちらのシェラレラ様方や、大将のあの少年達ならいざ知らず、こんな凡庸な小娘達では……ねぇ?』『力不足もいいところですわ』
『なにーっ!?』
『待て待て待てっ!』
ルーシーは鼻息を荒くするエルを引き止めるのが精一杯。
しかも、その上から更にこき下ろすように双子は冷たい言葉を降りかけた。
『特に小さい方のあなた、全く立ち居振る舞いまで下品』『教養が足りないのよ』『華が無いわ、肌と髪の艶が足りてないわね』『お金が無いのよ』『男の子みたい』『きっと着飾っても誰にも振り向いてもらえないわ……』『そのくせ、力でも私達には叶わないなんて』『何の為に生まれたのかしらぁ? くすくす……』
片手を取り合いクルクルとダンスする双子。
冷笑混じりの陰口は続き、そして止めに二人は息を合わせて言った。
『『本当、お気の毒ね』』
『ざけんな――ッ!』
『ちょっと待て馬鹿ーっ!!』
眼に涙を溜めて全力で飛び出すエルをルーシーは止められなかった。
その瞬間双子がニタリと笑い、散開する。
『『――釣れましたわ!』』
左右から闘気を込めた挟撃を喰らい、ルーシーが追いつく前にエルはあっという間に三枚のシールドを全損する。
そうなると、残ったルーシーに逆転の目は無い。逃げ回りながら隙を伺ったものの、双子の息の合ったコンビネーションにすぐに追い詰められ、そのまま勝負は決したという――。
「……うぇぇん、あたし、お気の毒じゃ無いもん……」
「あ~はいはい、あんたは男でも無いし、ちゃんと可愛いから安心なさい」
開始からわずか数分……さして見どころの無い電撃的決着に会場からもブーイングが飛んでおり、待機場に引っ込んだ後もエルはひんひんと泣いた。そんな傷心のエルの背中をリィレンは仕方なくあやしてやる。
「にしてもせめて闘刃位出しなさいよ……見せ場なしじゃない」
「や~私のは防御専用だからさ、どうしようもなかったって言うか……集中してる暇もなかったし。相手の作戦価値ってやつですね、はは……。ほんと、ごめんね? ちくしょ~300万Fの賞金消えちゃったぁ……」
ルーシーもがっくりと肩を落とす。
リィレンの言った通り、彼女達にも奥の手というか切り札的なものはあったのだが……それを見せる前に勝負が決まってしまったのが残念でならない。
《闘刃》……正式には《闘気刃化》というこれは、闘気を凝縮し自分唯一の武器を作成する手段である。養成校入学試験の条件としても取り入れられており、これを極めた末に辿り着くのがかつてエンドの見せた《闘神化》であるのだが、至るまでの道は果てしなく険しいのだ。
闘刃の生成にすら、闘気の凝縮と極度の集中が必要となり、いわずもがな精神状態が成否に左右する。よってファディス姉妹の行動は卑怯にも思えるが、こちら側の拙い連携を見越して揺さぶるという戦術は、エルには実に有効に作用した。
相手が悪かったと諦めるしかない。
落ち込む彼女達にエンドは未だ声を震わせながら追い打ちをかける。
「あ~笑った笑った。いや、ある意味良い仕事したぜ! 次戦のハードルが大分下がったもんな! もはや何やっても観客は盛り上がってくれんだろ!」
「うぇ~ん、リィレンあたしアイツキライ~!」
「はいはいアタシもよ……」
「あ、あの……その……緊張して来ました」
「「今更!?」」
しっちゃかめっちゃかな特薦クラス側のメンバー達……そこへ一人静かにしていたケイジの低い声が掛かる。
「おい、いい加減にしたらどうだ。そこのチビは余裕ぶっているが……後は無くなった。こうなった以上、お前らがどうにかしろ。負けは許さん」
次負ければ、最終戦に勝利してもこのクラスの降格が決まってしまう。それだけにこの二人としては大きい重圧がかかる。
リィレンはシェラレラと再度意思を確認する。
「……わ、わかってる……わかってるわよ。シェラ、アタシ達でどうにか繋げよう、絶対に!」
「は、はい。足を引っ張ってしまわないか心配ですが」
「委縮しないの! とかく最初っから全力で……闘刃で一気にカタを付けるからね! 大丈夫、アンタもちゃんと強いんだから自信持ちなさい!」
「ハ、ハイ!」
それでも緊張で固い二人に、エンドは背中をバンバン叩く。
「今更ビビッてんなって! あいつに啖呵きったんだろ? 大丈夫、お前らなら絶対やれる! 俺が保証しといてやるよ!」
「根拠は……?」
「勘さ」
「勘って、あんたねぇ……」
「勘は大事だぞ、うむ」
リィレンはがっくりと肩を落とすが、エンドはわりと真剣だった。
勘というのは無意識下で経験から編み出した予測なのだと思っている為、彼からすれば、絶対ではないけれど充分当てにできるものさしの一つなのだ。
相手は未知数……とはいえ、見た限りではしっかりと実力を出し切れば、問題無く勝てる。
そんな思いを込めてエンドは二人を鼓舞する。
「ロスフェルドとかいう奴に、俺達が実力でここにいるってこと分からせてやろうぜ……まずは一勝。そしたら後は俺がバッチリ決めてやるからさ。頼んだぜ、二人とも」
「……フン、お前の出番は無い。とっとと場外で寝てろ」
「あんだと、この」
意地の張り合いを始めた二人に毒気を抜かれ、リィレンとシェラレラは微笑み合う。
『そろそろ第二試合が始まりますので、出場者は場内へ移動して下さい』
そんなところに運営委員が試合開始を伝えに来て、リィレンはシェラレラに拳を差し出し、今度はシェラレラもちゃんとそれに応えた。
拳がコツンと合わさる。
「よしっ! 不甲斐ない二人の分まで快勝して絶対に勝負を持ち越させるからそこで安心して見てなさい! シェラ、行こう!」
「が、頑張って来ます!」
天幕が開く。
目を刺す光や観客のざわめき、奥に陣取った対戦相手や観客からの重圧も今は忘れ、二人は胸を張って場内へと歩きだした。
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