戦闘訓練①
結局あの後、寮食堂まで駆け付けたハルルカ先生にブチ切れられたり、罰掃除を言い渡されたりして散々だったエンド達。
その甲斐もあったというべきか……シェラレラとリィレンは少し交友を深めたらしく、休み時間や食事を共にすることが多くなった。
たまにエンドもそれに混ざったりしているが、リィレンとの関係はむしろ悪化しているかも知れない。(とはいえ食堂で争う事は流石にもうしないが)
そんなこんなで数日が過ぎ、学校にも少しだけ馴染み始めた頃。
黒い運動着に各々が着替えて外に出た生徒達が体をほぐしている。
ここは《
養成校では休日以外毎日、基礎体力の向上を兼ねた屋外での訓練が午前午後に別れて行われる。むき出しの赤い地面の上でハルルカの指導の元、まず地味な運動能力向上の基礎訓練から始まり、最終的に一対一の近接格闘訓練が行われる事になった。
入校して数日なのに随分スパルタな事だとは思うが、特薦クラスは在校期間が一年しかとられていない為、詰め込み前提でスケジュールを組まないと仕方無いのである。ちなみに養成校入校の条件にも最低限の戦闘技術の習得は必須とされているので、不満を漏らす者はいても驚いている者はいない。
「――はい、それでは五分間休止! その間に防具を付け三人一組でグループを仮組して下さい。戦闘訓練を開始しますので……時間以内に決まらなければ、罰として筋トレ各百回×三セットですのでちゃちゃっと決めちゃって下さいね~♪ 本日はシェラレラさんはお家の事情でお休みですので、空いた一枠には先生が埋めます。本試験用の
パチンと手の平を打つ軽快な音と共にそれぞれが動き始めた。
今期の特薦クラスは丁度十二人なので四グループできるが、ハルルカの言う通り、シェラレラがいないので二人余る……二人。
何となく背筋に悪寒を感じ、エンドはとっとと決めようと手っ取り早く近くにいた男子生徒に声を掛ける。
「お~い、そこの……え~と、コールだっけ? 強そうじゃん、俺と組まねえ?」
金髪のちょっとヤンチャそうな少年。髪を細いヘアバンドで上げ、耳やら鼻やら至る所にシルバーピアスをくっつけている。
なるべく友好的に話しかけたつもりだが、彼はエンドを見るとフイと顔を背けた。
「あ~悪い、やめとく。他当たってくれ」
「ちょ、即答かよ! なんでだよ!」
「なんでってさぁ、お前……日頃の素行考えて見ろよ。《危険物、爆発します!》って顔に描いてあんじゃん? んなヤベー奴と誰が組むか」
「描いてねぇよ! オイ、ちょっと待てって!」
彼はそのまま無視して行ってしまうが、この位でメゲている暇はない。次は緑色のロングヘア―を片側だけ編んで垂らしたの快活そうな少女がターゲット。名前は確かルーシーだった……はず。
「ヘ、ヘイそこのあんた、俺と組まねえ? 結構強いんだぜ、俺……」
顎に手を当て気取って見るものの、反応は芳しく無い。
「え……ご、ごめ~ん、私協調性の無い人はちょっとな~……さよなら~」
目線すら合わしてくれずにすげなくフラれ、エンドは大分へこむ。やはり入学から一週間程経つ今でもリィレンとの喧嘩が絶えないのが尾を引いている。
「くっそ、ヤベェなこれは……俺だけハブられてんのか!? あいつはどうなんだ……」
いけすかない狼女と同期だという事実を呪い、ついつい気になって周りを見渡してしたエンドは握りこぶしを作った。
(セェ――フ!)
ポツ~ン……と、煤けた感じで立つ赤髪の少女を見て彼の顔に安堵が浮かぶのと同時、向こうの彼女も振り向いて同じような表情を浮かべる。
だがそれは瞬く間に互いを嘲笑う笑みに変わる。
「……ぷっ。あんたやっぱり誰とも組んで貰えてないじゃないの。誰だってあんたみたいな何するかわかんない非・常識人は抱え込みたく無いもんねぇ? ご愁傷様サマ」
「はっ……この期に置いてブーメラン製造中とは中々の余裕じゃんか。そんな変人だから誰にも相手されねえんだよ、そろそろ周りをちゃんと見た方がいいんじゃねぇかな? 年齢的に」
どうやら、この二人に和解は有り得ないらしい。
二人ともわかっているのだ……もう組む相手がお互いしか残っていない事には。そしてこのままではギャップの化身とも言えるスパルタ教師ハルルカに、どんなペナルティを受けるか分かったものでは無い事も。
――けれど絶対こいつに頭を下げて組んで下さいなんて言いたくない!!
内心冷や汗で水たまりができそうになっていたが、明確な強い意志が互いを決して受け入れようとしない。
「チビ栗の上にボッチだなんて本当救いようがないわね……。ま、仕方ないから一億歩譲ってこの心の広い私が組んであげてもいいわよ? あんたが頭さえ下げればね。ごめんなさいって言葉知ってるかな~五歳児でもそれ位言えると思うんだけど?」
「んじゃもっと心の広い俺は一兆歩譲ってやらなきゃなぁ……取り合えず、見下ろすのは止めてぐっと頭を下げて見たらどうかなぁ? お願いします、私と組んで下さいって騙されたと思って言ってみ?」
時間がじりじりと行き過ぎ、ハルルカの瞳がゆっくりと細められてゆく。それに段々余裕を失くした二人は思考能力が退化してゆく。
「あれ~良く聞こえなかったなぁ……こうしてあげる。どこまで伸びるかなー。ほらそろそろ降参しなさい、ちょっと後ろがヤバいから、ヤバいんだって!!」
「へめぇ、なにすんら……ほはへひはほほひゃおー(テメェ、なにすんだ……お返しだこのヤロ―)。あ~、マジでヤバイな、ちょっとだけ譲歩しねえ? お、お互いせーので謝ろう、なっ! あっ……」
ぎゅうぎゅう頬を引っ張り合いながら、二人は後ろから伝わって来る殺意の波動を感じて身を強張らせ、矜持を飲み込んで和解を提案したが……もう遅い。
(あ、そろそろやばそう……)
(退避~。皆退避するぞ~)
もちろん成り行きを眺めて既に四散していたクラスメイト達が慣れた様子でそれを見守る中、ほどなく後ろからゆらりと現れた影が間に割り込み、二人が絶句する。
なんせその瞳は海の底より夜の空よりも暗~い……。
「真面目にやれって……言いましたよね? 私……」
「「あ……。す……」」
シュビビビビビビ!!!!!!
「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛――!!!!!!」」
弁解も許されないまま運動場の中心を染めた雷光の中で、二人の生徒は激しく踊り狂う。
そのどこか楽し気な姿に眩しそうに目を細め、残りの生徒達はこう思った。
(むしろ仲いいんだよね。あの二人……)
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