Dia.12「探偵の休息」

「おかえりなさい」

『ああ、只今ただいま。』

「やはりハードでしたか」

『ああ、君の見通し通りだった』

「ともあれ、お疲れ様です」

『ああ』


 ……。


「ところで、なのですが」

『なんだ』

「法律知識による交渉から暴動の制圧まで全てそつなくこなす、この優秀な右腕のいない現場はいかがでしたか。ここから先は敏腕秘書たる私の単なる予測になってしまいますが、先生もまあ高い確率で相当な苦労をなさったのではないかと」

『……単に、仕事が三倍だったからな。謙遜して右腕などと言わず、両手両足、五臓六腑ごぞうろっぷに至るまで私です、ぐらい言ったっていいと思うが』

「あらま」

『おかげさまでというか、……君がいないだけで相手方のガードが下がっていてある意味助かったよ』

「それは何よりです。私も束の間の休日を楽しむことが出来ましたので」

『結局何をしていたんだ、君は』

「プライベートジェットの下見に行っていました」

『敏腕秘書ジョークか、それは』

「敏腕秘書ジョークです」

『そうか。

 いくらだったんだ、ちなみに』

「この土地を買い切ってまだお釣りが出ます」

『本当に見に行ったのか……』

「あら、私を信じていなかったのですか?」

『いや……、今日の君、実は途中まで後ろで仕事を見ていましたとか、大方はそんなところだろう?』

「ぎく」

『……はあ。探偵に対するアリバイの部分開示は、場合によってはかえって全ての行動を把握されかねないと知っているだろう。……今回はそうではなくて、ただ君の習性を読んだだけの、単なる予測ではあるがね』

「てへ」

『君というやつは本当に』


 ……。


『しかし……、眠いな……』

「相当な心労ですね。……先生は、シャツのままソファに転がらないでください」

『それはすまない。

 ……肉体的疲労も確実にあるがな』

「なにか致しましょうか? 今なら何でも頼まれますが」

『……そうでなくても、君は何を言っても、やってくれるだろう。

 ……そうだな、……じゃあ、珈琲が欲しい。

 ……甘党連中が顔をしかめるぐらいに、砂糖まみれのヤツを、……。」

「……。

 ……あら。寝てしまいましたか。

 敏腕秘書たる私が帰宅よりも前に先生のその言葉を見越して、既に豆をくところまで終わらせておいたのですが。

 ……ま、いいでしょう。起こすのも野暮ですし。

 改めてお疲れ様。良い夢を、マイ・マスター」

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