Dia.11「休日前夜祭」
「しんどい」
「いっつも疲れてないか? お前」
「仕方ないじゃん忙しいんだから。
ほら、いたわれ!」
「はいはい、お疲れさん。
しっかし毎度毎度懲りないな、ほんと。やめたい! とか思わないわけ?」
「ない。ほら、やりたいことやれてるし、なにより楽しいからさ」
「あ、そ。ならいいけど」
「あれ、心配されてる?」
「多少?」
「意外。そういうのしない方だと思ってたけど」
「おい、失礼だろ、それ。
人のこと鬼かなんかだと思ってないか?」
「おもってる」
「ハァ、素直でよろしい」
「おこってる?」
「怒ってない。……ほら、映画。ぼさっとしてたら間に合わないぞ」
「うわっ、ほんとじゃん!
すぐ用意するから待って!」
「早くしろー、置いてくぞ」
「いやマジで置いていかれそうだな」
「お先」
「冗談です」
「はよしろ」
「はい」
──────
「めっちゃくちゃに泣いたわ」
「目腫れまくってんじゃねえか。帰れんのか?」
「覚悟して見に来てるし大丈夫だ、うん」
「そうか? ならいいけど」
「しかし泣かないな、ほんと」
「オレがか?」
「そう、オレが」
「んー、まあ、ウルッとはきたよ。
……あのさぁ、人がそういうこと言う度にその微妙な顔すんのやめろよ」
「いや、イメージ湧かねーなー、と思って」
「何年一緒に住んでんだ」
「ほんとだよ」
「はは、他人事かよ。
……しかし腹減った。今八時か」
「作るには遅いかな」
「んじゃ、食べて帰るか。何がいい?」
「ラーメン」
「即答かよ」
「塩分が足りない」
「それはただの泣きすぎだろ」
「そうともいう」
──────
「ただいまー」
「ただいま」
「楽しかったわ、ありがとな」
「どういたしまして」
「明日も珍しく休みだし、酒でも開けるか!」
「お、いいねぇ、景気がいい。じゃ取ってくるわ。
……何がいいー?」
「何がある?」
「えーっとなぁ、まってくれよ……、うわ」
「どうしたー?」
「ワインしかない」
「え?」
「うわ、結構高いやつじゃんコレ」
「ああそれ、ボクがこないだ貰ったやつだわ。
……あ、開けていいよ、どうせ一人じゃ飲めないしな」
「開けちまったら取っとけないもんな。
……じゃ、貰うか。グラスどこだっけ?」
「右の棚 下から二段目」
「あ、コレか」
「そろそろ覚えてもいいんだぜ」
「いや、早々使わないだろ。逆になんでワイングラスがあるんだよ」
「貰い物」
「ワイングラスを?」
「ワイングラスを」
「ああそう……。」
……。
「ありがと!」
「おう」
「乾杯する?」
「するか。……何に?」
「うーん、……久々の休日に?」
「はは、なんだよそれ。ま、いいけどさ」
「じゃ、乾杯」
「ん、乾杯」
「……はー、お高い味がするぜ」
「あ、そういう言い方、頭悪く見えるからやめなよ」
「んー、実際頭は良くないしなぁ」
「そういうこと言うなよ。
たまには
いっつも頑張ってるんだからさ、たまには自分を甘やかしなよ」
「……。」
「何」
「もう一回言ってほしい」
「あ? だから、自分を低く見すぎだから……」
「いやそこじゃない」
「?」
「最後」
「? ……ああ、いつも頑張ってる、ってとこ?」
「そう、そこ。
……あー。あのさ」
「? 今度はなんだ?」
「『いつも頑張ってて偉い』って言ってくれないか。
……できればとびっきり可愛い声で」
「……お前なぁ……。」
「ダメか?」
「ダメに決まってんだろ、バカ。
はぁ、さてはもう酔ってんな?」
「シラフだけど」
「じゃあ尚更ダメだ」
「うぐ、せかいはぼくにやさしくなかったらしい」
「こんなのに可愛さを求めようとするのが間違いだっての……。
あ、つまみ持ってきたぞ」
「ありがと……」
「っふ、あからさまに凹んでら」
「笑ってくれるなよ……恨むぞ……」
「じゃあこのチーズは没収するか」
「愚かな
「プライドとかないわけ?」
「ない。」
「あ、そ」
「また笑われた?」
「笑ってねえから」
「本当かねぇ……?」
「本当だっての」
「うむむむ……。」
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