Dia.8「こんな世界を愛した君と、愛すべき君と」

「おかえりーっ」

「ただいま。お留守番はできましたか?」

「できたーっ!」

「えらいですね、ははは。

 そんなみっちゃんには、……じゃん。プリンのごほうびです」

「えっ!? いいの!?」

「おばあちゃんにも手伝ってもらって、しっかりおひるごはんも作ったんでしょ?

 頑張ったんだし、一緒に食べません?」

「きょうえつしごく」

「待ってください、どこで覚えたんですかそれ」


─────

 

「ん」

「ん?」

「んっ。」

「……ああ。はい、開けますね 」

「ん。」

「どうも。……えっこっち固ッ……、ふ……ッ……ンぐぐッ……、お。

 ……ふぅ。はい、どうぞ」

「ありがとー」

「どういたしまして」

「いただきます!」

「はい、いただきます」

「んぐ、ん、んっ!

 おいひいね!」

「ふふっ、うん、美味しいですね」

「なんでわらったの?」

「え? いや」

「かくしごとよくないっておばあちゃんがいってたよ! もう!」

「え、ああ、すいません。

 いやぁ、みっちゃんがすごくいい顔をするなと思って」

「いいかおってどんなのだ!」

「え゛っ。

 ……良い顔っていうのは、うーん。

 それを見た人が幸せになる顔のことかな」

「じゃあれいはいましあわせか!」

「うん。玲は今すごく幸せです」

「ふん」

「ふふふ」

「またわらった! なんでだ! かおになにかついてるか!」

「なんでもないですよ。

 人は幸せなら笑うんです。

 ……まあ、お鼻の先にカラメルは付いてますけど。 いや、どうやって食べたらそんなことになるんですか?」

「わからん!」

「だよね」



─────



『人は幸せなら笑うの。だから私は今笑ってるのよ? 分かる?』

 ……貴方はそう言っていて、その意味を理解したのは貴方がとうにいなくなってからでした。

 やんちゃな君の下に生まれた子供は、五歳にして君の朗らかさとアイツの強かさを兼ね備えているような気がします。生まれてまもなく不慮の事故に巻き込まれて独りになった美月を成り行きで引き取った俺は、「おとなりのとさのれいさん」として、突如一児の(事実上の)義父となりました。かれこれ五年。父親を名乗るのは烏滸がましい(というかアイツに申し訳ない)ので、あくまでも俺は「おとなりさん」として彼女に接している、というわけです。やたら察しのよい(気がする)五歳の女児は、こちらの心を知ってか知らずか「れい」と呼び捨てで俺を呼びます。気が楽です。……まあ、そこらへんはどうでもいいわけです。


 ただ、成り行きではあるけれど、父性みたいなのが芽生えるのはすぐでした。

 幸せの中にいた君とアイツをゴミみたいに土に埋めた世界を呪ったけれど、けれど今はただ、ここにいる子供が健やかに育つまでは、というか俺が生きている間は、……、……君が『まだはやい』と遺した彼女を、二人がそうするはずだったように愛そうと思っている、という感じですね。誰に説明してるんだろ俺。はは。


「あ、またむずかしいかおしてる」

「え?」

「れい、すぐそのかおするね」

「そんなにしてます? 俺……。」

「してる」

「マジですか?」

「まじです」

「そっかぁ……」

「そのかおきらい」

「え」

「れいはわらってなよ。そのほうがかわいいんだから」

「今日おばあちゃんと映画見た?」

「? みたよ?」

「……なんで五歳と五十歳で恋愛映画見てんだ……」

「どうしたれい?」

「はいはい、なんでもないですよー」

「かくしごとよくない」

「ごめんなさーい」

「ちゃんとあやまりなさい!」

「すいませんでした」

「よろしい」

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