Mon.1「対価」

「少し話をするが、君なら聞いてくれるね。

 この世で生きる私達は、常に何かを対価として差し出しながら生きている。地球で生きる為に重力場からの解放を諦め、世界を理解する為に全ての情報を理解することを諦めた。重力に囚われなければ地に足を付けられないし、目に映る全ての連続量的情報アナログ・データを知覚してしまえば、忽ち脳は焼き切れてしまうだろう。全て見えるということは、即ち何も見えていないことを意味するからね。まあ、君にとってはあまり必要のない話かもしれないが。

 兎も角、だね。何度だって言うが、全ての関係はトレード・オフだ。君がそう言うからには、それ相応の言質というやつを取らせて頂こう、そう思うわけだ。……ええ?ああ、あはは、そんなふうに思い悩まなくても良いさ。君の思う丈を存分に吐き出せばいい。

 ……いいや。足りないね。

 ……うーむ。いい線は言っているが、もう一息欲しい。

 ……そうだな、まだ────

 

 ……ほう、い、意外だ。キミがそんなふうに大胆な手を取れるとは。こほん、ああ、気に入った。実に。……うん。気に入った。良いね。それでは契約は成立ということにしよう。言ったからには、相応の対価をしっかり支払っていってもらおうじゃあないか。キミ……ううむ、キミ、じゃあ締りが悪い、か。む、少し怒ってる……のか? ぐ、仕方ない、キミが……あああ、煩いな、もう。分かった。私だって君に求めることは沢山ある、甘んじて受け入れよう、じゃあないか。ふう。

 

 

 ……改めてよろしく、ダーリン。

 

 

 

 

 ……え、ダメ? 馬鹿言うな、ワタシだって頑張ったんだぞ、それをキミってやつは! もう!」

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