Dia.4「昼と夜の隙間(ReArranged ver.)」

「もう終わりよ」

「早計だ」

「天国なんて無かった」

「ここはまだ現世だろう、何を言ってるんだ君は」

「私はもうおしまいよ」

「別にそう決まったわけじゃないだろ」

「だって、……だって、私は

 明確に、この手で、殺意を持って。

 人殺しはもう人じゃないの。

 ただのケダモノよ、ケダモノを皆は許さない」

「そんな顔をしないでくれよ」

「私はただ生きたかっただけなのに。

 生きる上で邪魔な連中を振り払っただけなのに、どうして?

 どうして私は幸せになれないの?

 全部全部全部あいつらが悪いのに、それなのにどうして私がこんな目に遭わなくちゃいけないの!?

 ……もう……、もう、分かんないわよ……ッ」

「別に人っ子一人殺したところで、君が死刑になる訳じゃない」

「……。」

「正当防衛だろう?

 第一!君は成人前だからッ」

「もう、いいの。ありがとう」

「でも……!」

「あなたの心遣いは私には有り余るわ。

 もっと他の子に、

 ……生きる気力のある子にこそ、その優しさは使うべきよ」

「待って」

「正直に言うとね。

 せいせいした気持ちが半分、後戻りのできない恐怖が半分。

 あのときやっと解放されたの。

 私の人生において目障りだったクズ共から。

 でもね。

 一生付いて残る黒い染みが、確かに心に出来ちゃったの。

 ……バカみたいよね、ほんと笑える。

 苦しみから解放された代わりに、また別の苦しみに襲われた。

 ほんと悲しいわ。はあ、もう笑うしかないわよそんなの」

「待って、そんな」

「あなたには感謝してる。

 長い間傍にいてくれたし、私の話をよく聞いてくれた。

 ……私の秘密も。

 もう私は人間なんかじゃないって、ヒトゴロシなんだって伝えたのに、きちんとヒトとして相手をしてくれた。それだけで充分だったのよ」

「やっと幸せを掴んだんじゃないか……?

 そんなふうに思い詰めなくてもッ……、いいじゃ、ないか……!」

「そうね、でも、もうこんなふうに苦しむのも懲り懲りなの。

 明日生きても、明後日抗っても、この苦しみは明日も明後日も明明後日も、その次の日も、人生最後の日にだってきっと、私の後を付いて回ってくる。

 ……そんなの、耐えられない。だから、飛ぶわ。」

「まだ、……まだ死なないでよ。

 僕はずっと待ってるよ、だから、だから生きてよ、お願いだからッ」

「……ふふ、優しいのね。

 ありがとう。その言葉で充分よ」

「待って、」

「本当に、今まで本当にありがとう。

 次はちゃんと、私より良い女を見つけてね」




 そこから先のことはあまりよく覚えていない。

 残っているのはその笑顔と、下から聞こえる悲鳴と、鳴り響くサイレンの音だけ。

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