Dia.3「アンバランス(ReArranged ver.)」

「“どうせ死ぬなら人様に迷惑かけずに死ね”ってさァ。

 そうは言うけど難しくね?」

「ここ屋上ですからね。そんなところに乗っかって、落ちても知りませんよ。

 ……で、何が難しいんですか」

「迷惑の定義」

「はあ」

「それを迷惑か判断すんのは単に、そいつの主観だろ」

「まあ、そうですね」

「応。で、例えば、誰にも迷惑なんてかけたくねー、っつって自室で首吊って死んだとして、でも管理人が死ぬほど迷惑被るかもしれねーだろ。

 逆に今ここから飛んでコンクリの上で潰れたとしても、そこに誰もいなきゃなんとも思われずに死ねるかも分からん」

「まあ、確かに」

「……なあ」

「今度はなんです」

「アンタ、オレが今ここで飛んだらどう思うよ」

「そりゃあ、迷惑に決まってます」

「はッはは、……へえ、そりゃ意外だ。

 私が死んだって気にも留めない、そんな冷血人間だと思ってたが。

 いやァ、意外」

「……馬鹿言わないでくださいよ。

 私だって、目の前で知己に死なれちゃあ夢見が悪いんです」

「結局自分の為じゃねェか」

「顰めっ面はやめてくださいよ。

 人間てのは例外なく皆そういうもんでしょう」

「あはは、アンタのそういうところほんとに最高だわ。

 ……っと」

「あ、煙草、落としましたよ。下に」

「えェ?落としたんじゃねえ、捨てたんだ」

「はぁ、全く。そんなだから喫煙者の肩身が狭くなるんですよ」

「うっせーなァ、テメエはオレの親か?」

「貴方みたいな人が娘なら、俺は今頃自殺してますよ」

「言ってくれるじゃねェか、ははッ。

 ……オイ、襟乱れてんぞ。良い男が台無しだ」

「はいはい。貴方にだけは言われたくないですがね」

「あーハイハイ、しわっしわのシャツ着た女で悪かったな」

「自覚症状があるならアイロンぐらい掛けましょうよ。

 ……あ。

 ……はァ。すんません、一本貰って良いですか」

「えェ?こっちも後一本しかないんだけど」

「そうですか、……じゃあ仕方ない」

「……オイ」

「はい?」

「ハイ?じゃねェよオイ。

 あるじゃねえか、サラの箱。なんであるのに貰おうとしたんだよ」

「いやー……。

 この銘柄知ってます?」

「知らねェが」

「クソ不味いんですよ、コレ」

「ぶはっ、はははははは。

 ……オイ、煙草に美味いも不味いもないだろバカが」

「俺は貴方と違って馬鹿舌じゃないんですよ」

「言うようになったなァ」

「…………。」

「…………。

 ……よし、ぼちぼち休みも終わりだ、行くぞ」

「……。」

「おぅい、聞・い・て・ん・の・か、オイ。

 ちッ、なんだァ、ボサっとしやがって。らしくねえな」

「……すいません。

 連勤明けで寝不足なんです」

「適当抜かしやがって、お前元々ショートスリーパーだろうが」

「人間なんだから限界もあるんですよ。

 ……すいません、先に行っててくれませんか」

「ん?応。

 さっさと来いよ、来なかったら知らねえからな」

「はいはい、分かってます。

 ……じゃあ、また後で」

「応よ」



「はァ……。

 全く、あの人は、人の気も知らないで。

 縁起でもねェ話は止してくれねえですかね、本当に……。」

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