第27話 風の剣

 青い炎をまとうアイゼルの猛攻が続く。

 純粋に、「戦う」という行為を楽しんでいるヤツは、まったく疲れる様子がなく、むしろ戦うたびにまとう炎は勢いを増していった。


「ぐぅ……」


 このままではさばき切れなくなる。

 そうした焦りが出始めた頃、


「!?」


 右腕のタトゥーが、その輝きをさらに強める。

 かと思うと――なんと、タトゥーが増えていった。


 それはつまり、風竜の魂がより一層俺に馴染んできたという証。その証拠に、先ほどよりもさらに魔力の質や量が上昇していくのを感じる。


「!? まだ伸びるのか!?」

「そのよう――だ!」


 俺は再び風の刃を放つ。

 だが、先ほどとは比べ物にならない大きさと威力だ。


「むっ!?」


 それに気がついたアイゼルは咄嗟に回避行動へと移る。

 その判断は正解だった。

 恐らく、あのまま受け止めようとしていたら、ヤツの体は真っ二つだったろう。風の刃はアイゼルにあたらず突き進み、森の木々を切り刻む直前に消滅した。これもまた、里にあり続けた風竜の魂だからか……里の一部である森は傷つけないってことかな。


「攻撃がワンパターンだな!」


 アイゼルはそう言うと、こちらへ接近戦を仕掛けてきた。距離を詰めれば、飛び道具である風の刃は使えないと判断したのだろう。

 ――けど、当然、こっちの攻撃手段はそれだけじゃない。


「はあっ!」


 俺は向かってくるアイゼルに対して、まるで手に剣を持っているかのように構えて振り下ろした。

 この行動に対し、アイゼルは不審に感じたのか、すぐに身を退いた。

 直後、「ドォン!」という鈍い音とともに地面が削られる。


「なっ!? どうなっているんだ!?」


 何も手にしていないはずなのに、まるで剣で地面を抉ったような痕跡が浮かび上がったことで、戦いを見守っていたレイチェルから驚きの声が漏れる。アイゼルもまた同様に、声にこそ出さないが驚いているようだ。


「目には見えない剣……か」

「風の剣ってわけだ」


 何もないように見えて、俺は確かに剣を握っている。

 風によって生みだされた、姿なき剣。

 自分で作っておいて何だが……相当やりづらい武器だと思う。


「小賢しい! 見えていようが見えていまいが、どのみち燃やせばいいだけの話だ!」


 アイゼルは大きく息を吸い込んで吐き出す。

 口から出てくるのは酸素ではなく、青い火――まさに炎の吐息だ。


 俺はその炎へ向かって剣を振る。

 すると、炎は俺に当たることなく真っ二つとなった。


「!? 炎を斬れるのか!?」

「そうみたいだな」


 俺はそのままアイゼルへと風の剣を向ける。

 今度こそ仕留める!


 その想いは――しっかりと届いた。


「ぐおあっ!?」


 アイゼルの胸から鮮血が飛び散る。


「バ、バカな……」


 次の瞬間、ヤツの全身は炎に包まれた。

 そして、どういう感情からくるのか、高らかなアイゼルの笑いがこだます。

 やがて炎は消え去り、先ほどまでの戦闘が嘘であったかのように、辺りは静まり返った。


「か、勝ったのか?」

「とりあえずは、な」


 アイゼルの魔力は完全に消失している。

 近くにヤツの気配はない。


 つまり……レイチェルの言う通り、俺たちが勝ったってことだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る