第28話 戦いの終わり

 アイゼルが退いたことで、帝国側の指揮系統は大いに乱れた。

 その結果、続々と風の里から引き揚げていく。


 周りから殺気が完全に消え去ると、ようやく心落ち着けるようになった。


「まさか……ここでも生き残れるなんてな……」


 正直、俺は死を覚悟して帝国軍に向かっていった。

 五十年前と同じだ。

 あの時も、半ばヤケクソ気味だったが……どういう因果か、こうして生き残っている。不思議なこともあるものだ。


「やったな、ヒューゴ」

「ああ……一時はどうなることかと思ったが」

「まったくだ。これからはあんな勝手な行動は慎めよ」

「えっ?」

「ひとりで突っ走るなという意味だ。――私たちはもう仲間だろう?」

「仲間……」


 レイチェルがさりげなく発したその言葉に、俺はハッとなる。

 失ったと思っていた仲間が、この五十年後の世界で再びできた。同じ志を持ち、強大な敵にも必死で立ち向かおうとする強い心を持った仲間が。


「? どうかしたのか?」

「いや、なんでもないよ」


 思わず感情が高ぶって、涙が出そうになった。

 ――五十年前には果たせなかったこと。

 この世界でなら、できるかもしれない。


 その時だった。


「デューイ! レイチェル!」


 俺たちの名前を叫びながら近づいてくるのは――この場にいるはずのない人物だった。


「!? メイジー!?」


 かつて仕えた、シルヴァスト王国王家の血を引き、反乱軍の象徴的な存在となっているメイジーであった。彼女は俺たちが風の里へ侵攻する帝国軍を食い止めるため出撃した際、拠点に残っていたはずだが。


「どうしてここに……?」

「実は、みなさんが風の里に向かった後……なんだかとても嫌な予感がしたので拠点にいたみんなと一緒にこちらへ移動して来ていたんです」

「えっ?」


 い、嫌な予感って……いくらなんでも、そんな根拠のないこと――


「そんな根拠のないことで大規模な動きを見せるのはおかしい――とでも思っているのだろう?」

「うっ……」


 あっさりとレイチェルに思考を読まれた。……でも、今の流れならそう思わない方がおかしいよなぁ。


「デューイの気持ちは分かる。私がおまえの立場でも、そのような話を聞かされたらそう思うのが自然の流れだ。――しかし、メイジー様の予感は違う。それはもう未来予知と言っても過言ではない力だ」

「そ、そんな力が……」

「あの時はまだあなたに力のことを告げるのは時期尚早と思って黙っていたんです」


 それは賢明な判断だし、俺がそちら側にいたとしてもきっと同じことをさせただろう。指示を出したのはハリスさんあたりかな。


「――って、そうだ。ハリスさんたちは?」

「無事ですよ。まもなくこちらに合流するはずです」


 よかった。

 彼らも無事なようだ。

 

 とりあえず、最悪の事態を回避できたが……これからのことを考えると、反乱軍にはもっとちゃんとした拠点地が必要になるだろう。

 そこで、俺はみんなと合流出来たらある提案をしようと考えている。

 

 この先、俺が彼らの「仲間」で居続けるための大事な提案だ。

 その準備が整うまでは……束の間の穏やかな時間を満喫するとしよう。


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