第21話 風と炎の戦い

 ついに姿を現した炎竜の魂を宿した男――火喰い。

 まるでその能力を示唆しているかのように真っ赤な髪をしており、淀んだ瞳がジッとこちらを睨みつけている。

 

「あんたが……火喰いか?」

「そう呼ばれることもあるが、本名はアイゼルってんだ。よろしくなぁ」


 火喰いことアイゼルは名前を告げた後、またカクンと頭を垂れる。


「でもまあ、おまえの名前は別に教えてくれなくてもいいぜぇ――すぐに名乗る必要もなくなるからなぁ!」


 アイゼルは勢いよく顔をあげると、大きく息を吸い込んだ。

 頬が膨らむと同時に、首周りのタトゥーが赤く輝く。


 まさか――そう思った次の瞬間、


 ボォッ!


 勢いよく口から飛び出す吐息。

 だが、それはただの息ではない。

 強烈な熱気を含み、真っ赤に燃える炎となって俺を襲う。


「ぐっ!?」


 かわすことも防ぐこともできない。

 そう判断した俺は、咄嗟に風竜の力を借りて上空へと舞い上がる。


「ほぉ、そんなこともできるのか」


 一見すると、空中浮遊しているようだが、実際はそこまで自由度があるわけじゃない。というより、俺が慣れていないだけで、何度か練習していればうまくできそうだ。

 とはいえ、今はそんなことをしている場合じゃない。

 なんとか機転を利かせてかわすことができたが、次はそうはいかないだろう。


 俺は地上へと戻る前に、上空から風の刃を飛ばす。

 目には見えないはずだが、火喰いのアイゼルは感覚的に自分へ害を及ぼす「何か」が向かってきていると察知したらしく、再び口から炎を吐いてかき消した。


「今のはなんだ? 目には見えなかったが……まるで刃物みたいだったぞ」


 口の端っこから黒い煙を吐き出しながら、ニタニタと楽しそうに笑うアイゼル。


 そう。

 まだ戦闘が始まって五分と経過していないが、俺はひとつの事実に気づく。

 

 火喰いのアイゼルは――戦いを楽しんでいる。


 さっきの回避行動や反撃を目の当たりにした時、ヤツは冷静に対処していると判断していたのだが、どうやらそれは間違いのようだ。


 生まれ持っての戦闘狂。

 戦うことで己の存在意義を認識するタイプだ。


 ……炎竜の魂は、最悪の人間に受け継がれたようだ。


「もう一丁!」


 考える間もなく、アイゼルは次の攻撃に打って出る――とはいうものの、相変わらず口から炎を吐き出すというモンスターじみた攻撃だ。タトゥーが首周りについているからなのか?


「そう何度も同じ手を食うか!」


 俺は突風を巻き起こし、炎をかき消す。


 アイゼルは口から炎。

そして俺は右腕から風。

どっちも人間離れしているのは一緒か。


「マジかよ! ここまでとはなぁ!」


 こちらが反撃すればするほど、相手のテンションは高くなっていく。本当に、心から戦闘を楽しんでいるようだ。あれでは無邪気な子どもと変わらないぞ。


 ちなみに、周りの兵士たちはみんな俺たちの戦いぶりに唖然としていた。

 魔力を消費しているとはいえ、お互い、普通の属性魔法とはまったく違う戦い方だからな。このような戦闘を見るのは初めてなのだろう。


 やられっぱなしというのも癪なので、今度はこちらから仕掛ける。


「くらえっ!」


 牽制の意味も込めて、再び風の刃を飛ばす。

 ――と、ここでアイゼルに予想外の変化が起きた。

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