第22話 突破口
火喰いのアイゼルは俺の攻撃を避けるつもりがないらしく、堂々と構えたまま動こうとしない。
やがて、俺の放った風の刃がアイゼルの体を両断する。
「えっ!?」
あまりにもあっさりと決着がついた――そう思ったのは一瞬で、すぐに気を引き締める。この程度で終わるはずがないと分かっていたからだ。
切断されたヤツの体。
何もなければいいと願ってはいたが、やはりそういうわけにもいかない。突如、切り口から炎が噴きあがった。
「……やっぱり、そう簡単にはいかないか」
想定していたことではあるが……本音を言うとこのまま終わってほしかったので、少し落胆する。
切断されたヤツの体は、赤い炎に包まれると、やがてひとつに合わさった。そして、ひと際強く燃え上がったかと思うと、
「いい切れ味だぁ。申し分ない」
アイゼルは、斬られる前と変わらない健康体に戻った。
ここで、俺はヤツとの差を痛感する。
斬られたと思ったら、全身が炎に包まれて完全復活――これもまた、炎竜の魂の力が成せるものだろう。
俺と風竜の魂は、まだその領域に達していない。
仮に、風竜の魂にも同じようなことができる力があったとしても、どのようにすれば発動するのか分からない。
なんとなくだけど……アイゼルには、まだ隠していることがある。五十年という長い時間を過ごしてきたが、風竜の力に目覚めてからはまだほんの一日とちょっと。
つまり、手数ではこちらが圧倒的に不利。
そもそも、聖竜の知識についてはあちらの方が豊富だろう。
そんな俺が、ヤツに勝てる確率は……限りなくゼロに近い。
――最初から分かりきっていたことだ。
俺ひとりの力で、五十年前よりもさらに強大となった帝国を倒せるとは思わない。だが、少しでもヤツらの戦力を減らしておきたいとは思った。
ハリスさんやレイチェルといった、反乱軍の存在を知れたことが大きい。
彼らにあとを託す。
今は、その想いが強かった。
「本当なら、俺の方が五十歳年上なんだ……後輩の役に立たないとな」
もう一度、命を懸ける覚悟を決めて火喰いのアイゼルと対峙する。
「おっ? 雰囲気が変わったなぁ。――腹をくくったか?」
余裕の表情でこちらを見つめるアイゼル。俺が手詰まりになったことに勘づいているようだな。そうなれば、心理的にも向こうが優位に立てる。
それがなくても、ヤツは同じ聖竜の力を宿した者として一歩も二歩も先を進んでいる。
さて……これからどうするか。
「どうした? 変わったのは雰囲気だけで策はないか?」
「まあ、いろいろと試してみるさ」
実を言うと図星なんだが……少しでも向こうにダメージを与えるためにも、まずは牽制して相手の出方を探る。
――その時だった。
強烈な爆音と横揺れが俺たちを襲う。
「な、なんだ!?」
「ちぃっ!?」
俺だけじゃなく、アイゼルや帝国兵たちも動揺している。
となると、これは向こうの攻撃じゃないってことか。
一体……何が起きているんだ?
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