第20話 邂逅

 俺の故郷である風の里に侵入しようとするグワーム帝国軍を退けるため、俺は風流の力を発動させた。

 巻き起こる暴風を間近で受け、多くの兵士たちが撤退を余儀なくされる中、それでも前進をしてくるものに対して、別の攻撃手段を用いる。


 それは――風の刃だ。


 風竜の魂によって生みだされた風は、俺の意思ひとつでその形状を刃のように鋭いものへと変化させることができる。だが、あくまでも風なので、これを視認することはできない。つまり、不可視の刃だ。


「な、なんて野郎だ……」


 最初に声をかけてきた兵士が、呆れたように言う。

 百人以上いた帝国兵はあっという間に二十人近くまで減っていた。


 凄い。

 自分で言うのもなんだが……この力は凄い。

 まるで無限に力が湧き上がってくるようだ。


「怯むな! ヤツを殺せ!」

「し、しかし、あの力は――」

「たったひとりに負けたとあっては、どのみち生き残っても待っているのは処刑だ! それが嫌なら死ぬ気でヤツを捕まえろ!」

「「「「「!?」」」」」


 残った者たちは、隊長と思われる男の叫び声で覚悟を決めた。


「無駄なことを……」


 それでも引き下がろうとしないのは……恐らく、忠義ではない。王のために命を張ろうというなら、あのように顔が恐怖でゆがんだりするものか。彼らが引き返せないのは、他に理由があるのだろう。何か、弱みを握られているのか?


 ――五十年前よりも勢力を伸ばしているようだが、帝国側の状況は悪化しているようだな。


「死ねぇ!」


 ヤケクソ気味に突っ込んでくる兵士たち。

 ……俺としても、なくなってしまったとはいえ、多くの仲間たちの魂が眠るこの地を好き放題に荒らされるわけにはいかない。向かってくる敵へ、俺は風竜の力をぶつけた。


 一瞬の出来事であった。


 残った兵は全滅。

 これで、ヤツらの戦力はだいぶ削ぐことができた。

 きっと……レイチェルやハリスさんたちも無事に逃げ切れるだろう。


「そこまでだ」


 これからどうしようかと悩んでいたら、解決策が向こうからやってきた。

 新たに増えた帝国兵。

 今度はさっきよりも多いな……ざっと見積もって倍の二百ってところか。


「同胞たちが……おのれぇ!」


 兵たちの先頭に立ち、他とは少し形状の異なる鎧を装着しているあの男が、恐らくこの隊のリーダーだろう。

 それにしても……一体、どれだけの数で攻めてきているんだ?

 まだまだ他にも兵はいそうだが、これでは埒が明かないな。


 とりあえず、この場にいる者は全員倒して――



「引っ込んでな」



 次の行動へ移ろうとした俺は、その声を聞いて思いとどまる。

 直後、多くの兵たちがザッと左右に分かれて一本の「道」が生まれた。


 その先には――地面を見つめるように項垂れる、ひとりの若い男の姿がある。


「おめぇら雑魚が何匹でかかろうが、そいつは捕まえられねぇよ」

 

 騎士団の正式な服装ではなく、上半身はボロボロのベストだけを着ており、ズボンもかなり傷んでいる。武器も手にしていないし、およそ兵士とは思えない格好だ。


 しかし、周りの反応は違う。

 兵士たちの表情には緊張感があった。


 まさか……こいつが……


「よぉ、風使い。俺とやろうや」


 下を向いたままこちらへと歩み寄る男。

 やがて、五メートルほど手前まで近づくと、ガバッと勢いよく顔をあげた。


「おめぇの風と俺の炎――どっちが強ぇのか比べてみようや!」


 そう告げた男の首回りには、俺の右腕にあるものとよく似たタトゥーがあった。

 やっぱり……ヤツが火喰いか!

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