第19話 決別

 火喰いの力は相当なものだ。

 同じ聖竜のひとつである風竜の力を宿す俺には、それがよく分かる。

 それに……互いの竜が出会いを求めているような気がしてならない。

 

 俺たちは導かれる運命にある。


 ハリスさんたちには俺の目的――火喰いへ会いに行くという意志を告げた。


「あ、会いに行くだって?」

「ダメだ! 危険すぎる!」


 真っ先に反対のしたのはレイチェルだった。

 

「ヤツは敵の最大戦力だ! 周りには配下の者も大勢いる! そんな中にひとりで突っ込んでいくなんて自殺行為だ!」

「どのみち本来なら失っていたはずの命だ。それに……これ以上、連中にこの里を壊されたくない」

「!? デュ、デューイ……」


 それは本心だ。

 本当ならあの時……俺は帝国の手練れたちに殺されていたはず。それがたまたま運よく生き残っただけだ。


 右腕に宿る風竜の力。

 この力を使って、風の里が破壊されるのを防ぐ。

 たとえもうその存在が消滅していたとしても、ここは俺にとって大切な場所だ。めちゃくちゃにされてたまるか。


「では、俺が時間を稼いでいる間に拠点へ戻ってください」

「ま、待て!」


 俺はハリスさんの制止を振り切って走りだす。

 そういえば、メイジーにはお別れの挨拶ができなかったな。

 シルヴァスト王家の血を引く彼女は、俺たちの時代の国王陛下の子孫――五十年前に守れなかった忠義を果たすためにも、俺が帝国の目を引いておかなくては。



 燃え盛る炎が、森の木々を焼いていく。

 連中は、風竜の魂が眠る場所を探し当てるために、随分と乱暴な手を打ってきた。


 それにしても……相手は炎使いか。

 こちらが水竜の力だったなら、圧倒的に優位だったかもしれないのに。


 そんなことを考えていると、帝国兵を発見。

 しかもかなりの数だ。


 どうやら、炎上する森の様子を離れた位置から見張っているらしい。


「むっ!? 貴様、何者だ!?」


 俺がヤツらの前に姿を見せると、ひと際体格の良い男がこちらを指さして叫ぶ。


「あんたたちが探し求めている存在だ」


 それだけ告げると、俺は風竜の力を解放させる。

 直後、暴風が巻き起こり、多くの帝国兵たちを吹き飛ばしていった。


「こ、こいつ!? まさか本当に――風竜の力を宿しているのか!?」

「このタトゥーが証明になるだろ?」


 俺は右腕に刻まれたタトゥーを兵士たちに見せる。

 すると、全員の顔色がガラリと変わった。


「バ、バカな……アイゼル様と同じタトゥーが……」


 アイゼル?

 ……そうか。

 それが火喰いの本当の名前か。


「あんたらのリーダーはどこにいる? この場にいないならすぐに伝えて呼んで来い。――風竜の魂を宿した者が来た、と」

「な、なめやがって!」


 かなりの数を吹き飛ばしたつもりでいたが、まだ帝国兵は少なく見積もっても百人以上はこの場にいる。数の勝負ではこちらが圧倒的に不利だ。


「いくら風竜の魂を宿そうとも、これだけの数を同時に相手できるか?」

「試してみるさ」


 右腕のタトゥーは、さらにその輝きを増していく。

 ここでより派手な騒動を起こせば――嫌でもヤツは顔を出すはず。


 俺と同じ聖竜の力を持つ男。

 火喰いのアイゼルが。

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