第3話 風の里の異変

「ど、どういうことだ……?」


 グワーム帝国の襲撃を受けて崩壊した風の里。

 なので、廃墟になっているだろうというのは想像できたし、実際、そこには廃墟が広がっていた。――が、驚くべき場所はそこではない。


 慣れ親しんだ故郷の風景が、無残な廃墟と化してしまったのは悲しいが……それにしては廃墟が進んでいる気がする。

 家屋には植物が生え、蔓が巻きついていたりするし、そもそも、襲われたというなら里の人たちの遺体が転がっていても何ら不思議ではないのにまったく見当たらない。


 おかしい。


 さっきまでの燃え盛っていた闘志が、急速に弱まっているのを感じる。

 それに代わって湧き上がってきたのは――違和感だ。

 

 具体的にこうと説明できるわけじゃないけど……例えるなら、何十年という長い時が経過しているような……

 

「きゃああああああ!」


 事態を把握しようと考えていたら、悲鳴が聞こえた。

 女の子の声だ。

 

 次の瞬間、俺は駆けだしていた。

 もしかしたら、俺以外に生き残りがいたのかもしれない。そして、その生き残りの女の子が俺を捜していた帝国の追っ手に見つかった――そういうシナリオが脳裏をよぎったからだ。


 声のした方向がどこなのか、ハッキリとした場所は分からない――はずが、俺は迷うことなく走っていた。

 ――頬を撫でる風が、目的地を教えてくれる。

 おまえが進むべき道はこっちだ、と示してくれているのだ。


 それに従って進むと、ついに叫び声の主を発見する。

 里の外れに立ち並ぶ風車のひとつ。

 そこに、ふたりの女性がいた。

 どちらもこの里の女性じゃないな。

 ……女性だけじゃない。

 彼女たちを取り囲むように、武装した男が合計で五人、下卑た笑みを浮かべている。


「お嬢ちゃんたち、追いかけっこはもうしまいにしようや」


 五人の男たちの中でもっとも大柄の男が一歩前に出てそう告げる。

 恐らく、ヤツがリーダーなのだろう。


「メイジー様……私が隙を作りますので、そのうちにお逃げください」

「ダメよ、レイチェル!」


 今度は女性ふたりが声をあげる。

 ひとりは俺とあまり年が変わらないように見える。十五、六歳といったところか。長い金髪に青い瞳が印象的な可愛らしい子だ。さっきの悲鳴は彼女のものだろう。

もうひとりの女性は剣を構え、迫り来る男たちを鋭い目つきで睨みつけている。年齢は金髪の子よりも少し上。二十歳くらいか。短い銀色の髪に少しだけ吊り上がった目。いかにも気が強そうって感じだ。


 ふたりの立ち位置的に、金髪の子がどこかのお嬢様で、赤い髪の女性は彼女を守る護衛騎士といったところか。


 しかし、その出で立ちはお嬢様と騎士とは程遠い。

 どちらも平民と見間違えるほどの地味な格好だ。

 もしかしたら、変装なのか?


 いずれにせよ、あれだけの数のよそ者が足を踏み入れているのに里の者が誰も来ないということは……やはり全滅したのか。


「悪いが……どちらも逃がすつもりはない。おまえたちは貴重な情報源であり――へへへ、応援が来るまでのお楽しみだ」


 なめ回すような視線でふたりを見つめる男たち。

 これは……よろしくない流れだな。

 相手の女性ふたりは里の者ではないが、このまま放っておくわけにはいかない。


 それに――さっきから、風が俺の背中を押している。

 早く助けにいけ、と急かしているようだ。


「……やるしかない」


 覚悟を決めた俺は、彼女たちのもとへと歩きだす。





※次は午後8時に投稿予定!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る