第4話 真実は?

「あん? 誰だ、てめぇは」


 男たちに襲われそうになっているふたりの女性を救うため、俺はその現場へと立ち入っていった。

 すぐさま全員の視線が俺に集まる。

 ……うん?

 なんだか、みんな驚いているような?


 それにこの男たち――昨夜、俺を襲った連中とは違う。ヤツらなら、こうして対峙しているだけで震えてくるが……こいつらは違う。そういった、恐怖心というものがまったく湧き上がってこないのだ。鍛錬を積んだ刺客というより、ただのチンピラってだな。帝国とは関係ないのか?


「ここにいるってことは……おまえもこいつらの仲間か?」

「いや、違う」

「だったら引っ込んでろ。……痛い目に遭いたくはないだろう?」


 剣先をこちらへ向け、ニヤニヤと笑みを浮かべる男。

 こうして並ぶと……デカいな。

それでも、あの日、俺を襲った連中よりも迫力に欠ける。


「おら! いつまで突っ立ってんだ! とっとと失せろ!」


 こちらが動かないことにしびれを切らしたひとりの男が、乱暴に肩へ手をかけた時――右腕にある風竜のタトゥーが光った。


「えっ――」


 次の瞬間、男の体は突風に包まれ、宙を舞った。そのままグルグルと体を回転させながら落下し、腰から地面へと叩きつけられる。


「ぐぼっ!?」


 男はそれを最後に、動かなくなる。

 厳密にいえば、指先や目元などがピクピクとわずかに痙攣しているため、死んではいないようだ。――が、この結果は連中に大きな衝撃を与えた。


 中でも、


「い、今の風は……」


 激しく宙を舞うその直前に吹いた風。

 ヤツらはそれに気づいたようで、途端に顔が青ざめていた。


「そ、そんなはずがあるか!」


 突然、リーダー格の大男が叫ぶ。


「風の里の跡地に、風を操れる者……それではまるで、五十年前に行方をくらました、風竜の魂を持つ風使いじゃねぇか!」

「!?」


 なぜ、この男がそれを知っているんだ?

 風の里の存在は極秘。

 王族関係者の中にも知らない者がいるほどなのに……どういうことだ? もしかしたら、この里の異変と何か関係があるのか?


 ――いや、それよりも、


「五十年……前?」


 そこが引っかかった。

 五十年――ヤツは今、間違いなく五十年と言った。

 つまり、俺が風の聖窟に入ってから出てくるまでの間に、五十年もの月日が流れていることになる。


 ……あり得ない。


 俺が聖窟にいたのは……詳しくは分からないが、せいぜい一時間前後だ。その証拠に、俺はまったく年を取っていない。本当に五十年という時が経っているなら、俺の年齢はもう六十を超えているはず。


 だが、里の異常な荒れ方を見ると……あれは確かに、五十年くらいの時が経過している廃墟のように思えた。

 じゃあ、やっぱり――ここは《あの時》から五十年経った世界なのか?


「おう、こら! 聞いてんのか!」


 男の叫び声に、俺はハッと我に返る。


「あっ、悪い。聞いてなかった」

「て、てめぇ……もういい! そこの女とまとめて始末してやる!」


 無視されたことがよほど嫌だったのか、リーダー格の男は激高して襲いかかってくる。

咄嗟のことだったので少し出遅れたが――相手のスピードが思ったよりも遅く、反撃の体勢はすぐに整った。


 風竜の力と、この時代の真実。

 謎を解明するためにも、ここは負けられないな。




※次は明日の正午に投稿予定!

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