第3話 オワリとハジマリ
次の日、愛奈は学校には来なかった。
クラス内は騒然としている。
あの美少女が学校を休んだ、という信じ難い事実を俺たちには突きつけられている。
そして、その内容を知っているのは俺と先生方のみ。
休み時間に愛奈に連絡を取ってみた。
「……っと、もしもーし。大丈夫かー?(小声)」
「あぁ、大丈夫だよ。なんとか…。」
「そうか、それやったらよかったぜ。ちょっと今俺さ、トイレで電話しとるから小声になってまうけどよ…。まぁ頑張ってくれい。」
「わかった…」
そこから俺たちはチャイムが鳴る寸前まで通話した。
その日は毎休み時間トイレに篭り、愛奈と通話した。
__________
次の日も、その次の日も、そのまた次の日も…。俺たちは通話をした。
愛菜は学校には来なかった。色々と親戚に引き取られるとかなんやら親権やらややこしいんやろう。俺が首突っ込めるとこじゃねぇ。
がしかし、日が経つにつれ、愛奈の元気がより一層なくなっていってるような気がしていた。
不穏な雰囲気が俺を纏う。
_________
1週間と少しが経った。愛菜はまだ来ない。少し遅くねぇか?っと思っているんだが。
だから意を決して先生に話を伺ってみる。
「先生、ちょっと話いいですか?」
「おぉ、どうした。」
「いやちょっと、愛奈の件で…。」
「そうだ、実はな…。」
先生が黙り込む。怖いなにかあったんか?まさか…!いやそれはないやろ。
「愛奈のところに連絡がつかないんだよ。」
衝撃が走った。
まさかほんまに…!嘘やろ…!いや待て冷静になれ。
「え…それはどういう…?」
「愛奈のこと、知ってるか?お前には話すよ。実は母親が小さい頃に他界して、男手一つで愛奈を育て上げたと、親族の方が仰っていた。」
「それで最後の砦、父親が亡くなられたからそのダメージはデカいんか…。」
「いや、まぁそうなんだが…実はその父親っていうのがかなりの暴君だそうで。暴力に酒に虐待と、かなりヤバめな方だったそうだ。」
「え…あ、やから腕に青い斑点があったのか!先生ありがとうございます!俺ちょっと…!」
「お、おい新田、おい待て!」
先生の声に振り向かず、一直線に保健室の先生のところへと。
走っている途中に愛奈に連絡してみたが繋がらない…まさかほんまに…!
いや待ってくれ!持ち堪えろ!あかん自殺だけはするな!
「先生…!ゼェハァ…ゼェ…ハ…。」
「どうしたの…!」
「先生、俺を学校の外に出ることを許可してください!愛奈が…愛奈が危ないんです!」
「…わかった。こっちはこっちでうまいことやっとく。先生方全員にそのことを伝えておくから。我々も諸々しておく、行きな、少年。」
「ありがとうございます!あとは頼みました。」
本気で愛奈の家へ走る。
あの時の言葉がホンマやとしたら…もう遅いか…?いやまだ間に合う!間に合わせる!
あかん意識朦朧としてきた。瞬発力出しすぎてくらっとしてきた…!
違う!!もっといける!!俺ならいける!
メロスになれ!俺はメロスや!
友、"アイナンティウス"を…彼女を…!窮地にたたされたところから救い出すんや!
太陽の10倍の速さで広大な大地を駆け巡れる、そんな男なんや!
自己暗示し、もつれる足に言いきかせながら…乱れた呼吸を整える暇もないくらいに。
無我夢中に走った。信号なんざ気にしてられねぇ。すまねぇ法律。
________
「ついた…!」
愛する人を今から救うのなら、俺の命なんざくれてやるっていう勢いでここまできた。
ドアは開いていない。どこから入ればええんや…。わかんねぇ…。
あかん、なんか考えろ俺…!!!
あ…もしかして…!
_______過去の記憶が…
「ここが愛奈の家なんか…!」
「うぉーすげぇ!デカいな!」
「愛奈ちゃん、すご!」
「ありがと!あ、ちなみにさあんま大きい声で言えないけど、いつも庭のとこ鍵開けっぱなしだからね。」
「なんでや、入られっぞ。」
「いやそうなんだけど、いろんな角度からそこ監視できるから別に開けっぱでもいいんだよね〜。そんですぐにこのフワフワ芝生の上に寝転べるからねぇ〜。フワァ~。」
「おおすげぇ!めっちゃきもちぇぇ!」
_________
そうか!あの時のフワフワ芝生のとこや!
って、もう正面のそこやん。よしそこから入ってアイツを救出する!
ガラガラガラ
するとそこにいたのは、
やつれ顔に生気のない目をした愛奈だった。
上から垂れる輪っかの紐に首をかける寸前のところであった。
「愛奈!あかん待て!クソ野郎!死ぬんじゃねぇボケェがァァァァァアア!」
「ハッ…!」
俺の足はもう動いていた。
愛奈に抱きつきにいくと同時に床に落ちる衝撃をくらった。
「愛奈…!おい愛奈…!」
「グスッ…グスッ…うぅわあぁぁぁあん!」
小さい子供みたいな泣き方をしてる。
本気で愛奈を抱いて、頭を撫でながら宥めることしかできなかった。
小刻みに震えるその体にはいくつもの古傷らしいものがあった。そして自分で首を絞めたであろう赤い痕が首にあった。
よかったそこで死ななくて。絶対そこで死にきれなかったから確実に逝ける方法を今からしようとしてたのだろう。
「よかった…生きててよかった…まだ、間に合って…よかった…!」
優しくもしっかり抱擁してやることしかできなかった。
とりあえず本気で宥めて、少し落ち着いたところで。
「愛奈…なんでや。なんで言うてくれへんかったんや…!俺と電話してるとき、俺は全部ぶつけてくれ言うたのに…!」
「迷惑…かけたくなかったから…。」
「迷惑…?んなもん一緒に背負ってなんぼやろ!不幸とか災難は人と分け合って、そして助け合ってなんぼやろ!まぁでもこうして生きててくれたことは感謝する。」
そして、愛奈は口を開いた。
「どこにも…引き取ってくれなかったの…。」
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